カッコウとスズメ目の変異の共振による進化的な安定

Evolutionary stability with mutation resonance of Cuckoo and Passeriformes

片利片害の代表的な例として、カッコウの托卵がある。托卵は英語では、brood parasitism(抱卵寄生)なので、寄生の形態のひとつと考えられている。

カッコウ目にはカッコウ科しかなく、カッコウ科は、5亜科に分けられている。托卵行動が顕著なのはカッコウ亜科である。カッコウ亜科には、カッコウ属、ジュウイチ属、アメリカカッコウ属などが存在する。カッコウやホトトギスはカッコウ属である。カッコウ属のヒナは、宿主の卵やヒナを巣から落としてしまうが、他の属では、宿主のヒナと一緒に育つとされている。

カッコウは、広域に移動する渡り鳥であり、夏はヨーロッパやアジアですごし、冬はアフリカで暮らす。体長は30cmほどで、その姿はタカに似ている。カッコウの食べ物は昆虫であり、おもにチョウやガなどの幼虫を食べる。

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カッコウのメスは、宿主が巣から離れたスキに、宿主の卵を一つ取り出し、自分の卵を産み付ける。日本での、カッコウのおもな宿主はオオヨシキリ、モズなどで、20種以上におよぶとされる。世界では100種類以上の宿主が報告されている。

近年の調査で、カッコウはそれぞれが縄張りを形成し、複数の異性と交尾する乱婚であると報告されている(中村、1990、文献参照)。また、どの宿主に托卵するかは、メスの系統ごとに決まっており、同じ系統のメスは同じ種の宿主に托卵する。1930年ころまでは日本の主要宿主はホオジロであったが、現在はホオジロにはほとんど托卵されない。これは、ホオジロの卵識別能力が高く、カッコウの卵を捨てしまうためである。また、ホオジロは、カッコウを見つけると攻撃する。1970年代から、本州中部では、カッコウはオナガを宿主にするようになり、現在ではオナガへの托卵がもっとも多いという。オナガは、自分の卵と似ていないカッコウの卵を、ホオジロほど強く拒否しない。

同じことは、ヨーロッパでも観察されている。イギリスでは、カッコウはヨーロッパヨシキリ、マキバタヒバリ、ハクセキレイ、ヨーロッパカヤクグリなどに托卵するが、マキバタヒバリやハクセキレイは、自分の卵に似ていない卵を捨てる(文献参照)。一方、ヨーロッパカヤクグリは、自分の卵に似ていない卵でも捨てない。また、オオジュリン、ズグロムシクイ、ヨーロッパビンズイ、ズアオアトリは、卵識別能力が高く、カッコウの卵に強い拒否反応を示す。

これらのことから、宿主が托卵を拒否するようになると、カッコウは次々と宿主を乗り換ると考えられている(宿主乗り換え説)。ヨーロッパでは近年はカッコウの数が減っており、日本ではオナガの数が急減しているという。

なお、カッコウの卵の模様の遺伝には、メスの遺伝子のみが関係しているという説と、オスは自分を育てた宿主の生息場所でメスと交尾するため、異なる遺伝子の交雑があまり生じないという説がある。

ここまでに登場した宿主を並べてみる。
オオヨシキリ:スズメ目ヨシキリ科、ヨシ原などに生息する。ヨシ原や森林で、昆虫類を捕食する。
モズ:スズメ目モズ科モズ属、森林、林縁、農耕地などに生息する。昆虫、節足動物、甲殻類、両生類、小型爬虫類、小型鳥類、小型哺乳類などを捕食する。
ホオジロ:スズメ目ホオジロ科ホオジロ属、森林、農地、草原、果樹園などに生息する。春夏の繁殖期は昆虫類を捕食し、秋冬には植物の種子も食べる。
オナガ:スズメ目カラス科、森林、竹林、市街地でも見られる。雑食で、昆虫、果実、種子などを常食する。
ヨーロッパヨシキリ:スズメ目ヨシキリ科、ヨシ原に生息する。昆虫を捕食するが、ベリーなど果実も食べる。
マキバタヒバリ:スズメ目セキレイ科、草地、農地に生息する。昆虫、節足動物を捕食する。
ハクセキレイ:スズメ目セキレイ科、水辺に生息し、昆虫、クモ、ミミズなどを捕食する。
ヨーロッパカヤクグリ:スズメ目イワヒバリ科、疎林、低木地に生息する。夏は昆虫、冬は植物の種子を食べる。
オオジュリン:スズメ目ホオジロ科ホオジロ属、河川や湖沼の周辺、草原、湿原に生息する。雑食で、昆虫類、植物種子を食べる。
ズグロムシクイ:スズメ目ズグロムシクイ科、落葉樹林に生息し、繁殖期は昆虫、冬季は果実を食べる。
ヨーロッパビンズイ:スズメ目セキレイ科、林地、低木地帯に生息する。昆虫、植物種子を食べる。
ズアオアトリ:スズメ目アトリ科、林地、草地、農地に生息する。繁殖期は昆虫を捕食し、繁殖期以外は、植物種子を食べる。

宿主の共通点は、昆虫類を捕食することである。これは、カッコウが昆虫食なので当然である。もう一つは、登場した宿主は、すべてスズメ目であることである。

スズメ目とカッコウの関係を図にすると下のようになる。カッコウと宿主の個体数は、変動することが観察されているが、カッコウもホオジロなどのスズメ目も絶滅していないので、長期的には、個体数(遺伝子量g)は安定していると考えられる。

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「托卵」という現象のみに注目すれば、片利片害とか寄生と言えるかもしれないが、本質的には、カッコウとスズメ目は、昆虫資源をめぐって「競争」の関係にある。さらに、相手の遺伝子(卵やヒナ)を直接に殺しあう行動からすれば、競争というよりも、ライバル種を死滅させるような激しい生存闘争である。

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図のように、カッコウ目(Cuculiformes)は鳥類の中でも、分岐が古いグループのひとつである。一方、スズメ目(Passeriformes)の分岐は、もっとも最近の出来事である。カッコウ目はカッコウ科しかないのに対して、スズメ目は110科5000種以上も存在する。鳥類は約1万種とされているので、スズメ目はもっとも遅く登場して、またたく間に、半分以上の種を占領してしまったことになる。スズメ目の種の数は、鳥類のみならず、陸上の脊椎動物の中でもっとも多く、2番目のネズミ目(2000~3000種)をはるかに凌駕する。南極を除くすべての陸地に生息し、陸上の脊椎動物の最高位に独占的に君臨している。

スズメ目のほとんどの種は小鳥で、中型はカラス科やオーストラリア固有種のコトドリ科しかいない。スズメ目は、小型で敏捷であり、昆虫を捕獲する能力がきわめて高い。さらに、繁殖期は栄養価の高い昆虫を捕食するが、昆虫が少ない時期は、植物の果実や種子を食べて生き延びる種も多い。カッコウが、チョウやガの幼虫など、じっとしていて捕獲しやすい昆虫を多く食べるのに対し、スズメ目は、成虫、幼虫を問わず、あらゆる昆虫の捕獲が可能である。

カッコウがタカに擬態しているのは、宿主からの攻撃を避けるためといわれることがあるが、これは、タカに似た形質によって、昆虫食のライバル種を縄張りから排除することができたからであろう。小鳥の中には、カッコウの模型を恐れて近づかない種と、ヨーロッパヨシキリのように、カッコウの模型に対して激しく攻撃する種がいる。宿主に対して効果がないということは、タカ擬態は宿主からの攻撃を避けるためではないことを示している(後述)。

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もともとは、昆虫資源を獲得する地位の大きな部分をカッコウ目が占めていたが、スズメ目の登場によって、多くのカッコウ目の種が絶滅に追いやられたのであろう。勢力を拡大するスズメ目に対する、カッコウの防衛戦略が、タカへの擬態であり托卵である。托卵という武器(遺伝子)を獲得することで、ライバルの遺伝子を殺し、自分の遺伝子を存続させることができた。

托卵のなぞに一つに、なぜ宿主は、姿がまったく異なるカッコウのヒナに餌を与えつづけるのかということがある。ただし、近年、オーストラリアのテリカッコウ類では、宿主がカッコウのヒナを排除し、さらにカッコウが宿主のヒナに擬態する例が見つかっている。

カッコウが托卵を開始した最初から、カッコウのヒナが宿主の卵やヒナを捨てるはずはなく、もともとは、カッコウのヒナと宿主のヒナは一緒に成長していたと思われる。やがて、カッコウのヒナを排除する宿主があらわれたため、宿主の卵やヒナを捨てる変異が出現し存続した。宿主の卵やヒナを捨ててしまえば、カッコウのヒナを拒否する宿主があらわれたとしても、自分の子供でないとわかったときは、すでに繁殖期をすぎているので、カッコウのヒナを拒否する遺伝子を存続できない。すなわち、カッコウのヒナが宿主の卵やヒナを落とす形質は、餌の独占のみならず、カッコウのヒナを排除する宿主の出現を抑止する効果がある。

テリカッコウの場合は、おもに熱帯地方に生息するので、繁殖期間が長い。宿主は、カッコウのヒナを排除したあとに、もう一度卵を産んで育てることができたため、ヒナを排除する形質が存続し、遺伝子プールに広がったと思われる。

カッコウと宿主の「共進化」は、arms race(軍拡競争)と呼ばれる。arms raceとは、リー・ヴァン・ヴェーレンの赤の女王仮説(Valen,1973)によるものだ。ヴェーレンは、古生物の絶滅の法則を研究するなかで、種は絶え間なく進化しつづけなないと、生存しつづけることができないと考えた。よくあげられる例は、キツネとウサギの捕食・被食の関係で、キツネはウサギより速く走らないとウサギを捕食できず、ウサギはキツネより速く走らないと生存できないというものである。これを、国家間戦争などにおけるarms race(軍拡競争)にたとえた。

赤の女王仮説は、生物は絶えず変異しつづけないと、絶滅してしまうということであり、それ自体は確からしい。ただ、それだけでは、どうして種が絶滅せずに共存できたり、進化的に安定になるのかを説明できない。ウサギとキツネが両方とも絶滅しないためには、両者は無限に速く走らなければならなくなる。

カッコウは、宿主と「共進化」しながら、次々と宿主を乗り換えて種を存続させていると考えられている。この場合でも、カッコウと宿主の共存と進化的な安定を説明できない。なぜなら、乗り換えは無限にできるわけではないからである。

カッコウのように、宿主の子供をすべて殺す托卵鳥が、特定の宿主種に長期にわたって托卵すると、その宿主種は絶滅してしまうはずだ。托卵鳥が、次の宿主種に乗り換えるまでの期間を1000年とし、托卵可能な鳥類の種数を5000種とする。托卵鳥の同時代のメスの系統数を10として、托卵鳥の種数を10とする(カッコウ属は11種)。すなわち、1000年×5000種/10系統/10種=5万年たてば、5000種のすべてが托卵を拒否するようになる。スズメ目が登場してから、すでに3000万年もたっているのであるから、すべての宿主が托卵を拒否する形質を獲得して、カッコウ属はとっくに絶滅しているはずだ。

カッコウが絶滅せずに生存できる条件は、次々と新しい宿主の種があらわれるか、あるいは獲得した托卵を拒否する形質を、宿主が喪失してしまうかのどちらかである。

6500万年前の白亜紀末に、恐竜が大絶滅して以来、大絶滅はおきていない(現在をのぞく)。生物の種は、大きなニッチが生じると、一気に種が分岐し、それぞれの種の個体数が増えるにしたがって種数が減る(競争排除則)ので、鳥類の新しい種がどんどん生まれるとは考えにくい。すなわち、宿主は、獲得した托卵を拒否する形質を、時間がたつにつれて喪失してしまうと思われる。

カッコウの卵が托卵可能に変異する時間当たりの回数(変異速度)を、rcとする。宿主が托卵を拒否する形質があらわれる時間当たりの回数(変異速度)を、rhとする。宿主の個体数は長期的には一定であるが、カッコウが卵を産む数は複数なので、卵の個数が10個ならば、rcはrhの10倍になるはずだ。しかし、カッコウのメスは、複数の宿主の巣に1個ずつ卵を産むので、托卵拒否の変異速度も10倍になって同じ速度になる。スズメ目の宿主はオスとメスが共同で子育てすることが多く、オスかメスのどちらかが托卵を拒否すればよいので、托卵拒否変異速度rhは、托卵可能変異速度rcの2倍になると考えられる。

rh=2rc

変異速度が2倍なので、宿主は、比較的短時間で、托卵を拒否できるようになる。これが、カッコウが次々と宿主を乗り換えなければならない理由であろう。

次に、托卵拒否遺伝子を獲得した宿主は、大きさや模様が違う卵を捨てるので、カッコウが次の宿主に乗り換えたあとには、模様が少し違う自分の卵を捨ててしまう可能性が高くなる。さらに、托卵拒否遺伝子は、カッコウの姿を見ると果敢に攻撃するので、本物のタカに対しても攻撃を仕掛け、死んでしまう確率が高くなる。

下図のモデルように、宿主の托卵拒否遺伝子は、カッコウが托卵しなくなると、托卵を拒否しない遺伝子より不利になるために、少しずつ遺伝子プールから減っていくと考えられる。

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cn:カッコウの遺伝子プール内における、宿主種nに対する托卵可能遺伝子の量
hn:宿主種nの遺伝子プール内における、托卵拒否遺伝子の量
tc:カッコウが宿主の種を乗り換える平均時間
th:宿主種の遺伝子プール内に、托卵拒否遺伝子が存在する平均時間
h=∫cdt+kt   (t1≦t≦t2

図のように、

n・tc>th

のとき、カッコウは永続的に乗り換え可能になる。tcが短いほど、多くの種類の宿主が必要となり、thが長いほど宿主が不足するリスクが高くなる。托卵可能な宿主の種の数が十分に大きくないと、乗り換える宿主が不足して、カッコウは絶滅してしまう。長い時間がたてば、上記の不等式は平衡になるので、以下の関係になる。(nh:宿主の種数)

nh・tc=th

カッコウが自分で子育てせずに托卵するようになったのは、スズメ目が繁栄してその種数が十分に大きくなり、逆にカッコウ目が衰退して種数が減ってからと考えられる。

カッコウのタカ擬態は、昆虫食の鳥類が縄張りへ侵入することを防ぐと同時に、宿主の托卵拒否遺伝子をタカに殺させる効果がある。しかし、カッコウがあまりにタカそっくりになると、同種の異性が自分から逃げてしまったり、逆に同種の異性と間違えてタカに近づいて襲われるリスクが高くなる。小鳥や宿主が間違えるほどタカに近く、カッコウが間違えないほどにタカと違う姿で、進化的に安定になる。

宿主は、托卵される期間には、異質な卵やヒナを排除したりカッコウを攻撃する形質(タカ派)が存続しやすく、非托卵期には、同種の異質形質を排除せず、カッコウやタカから逃げる形質(ハト派)が生き残りやすい。また、一羽で子育てするより、つがいで育てる宿主のほうが有利になる。

カッコウと宿主の形質は絶えず変異しているが、それは、一方向に発散せず、ある幅の範囲で周期的に変動している。もし、変異が発散するようであれば、カッコウと宿主は共存できすにどちらかが絶滅するであろう。両者の絶え間ない変異は、定振幅周期変動であり、長期的には進化的に安定している。このために、殺しあうような激しい生存闘争をしながらも、3000万年以上も共存してこられたのであろう。

モデルでは、両者の変異が闘争し合って周期的に変異が振動し、振動そのものが、進化的に安定になるので、「変異の共振による進化的な安定」ではないだろうか。(つづく)

文献
日本におけるカッコウの托卵状況と新しい宿主オナガへの托卵開始
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo1986/39/1/39_1_1/_article/-char/ja/
Nick Davies, Cuckoo: Cheating by Nature, Bloomsbury Publishing, 2015
Whole-genome analyses resolve early branches in the tree of life of modern birds
http://science.sciencemag.org/content/346/6215/1320.full
Leigh Van Valen, 1973, A new evolutionary law
https://dl.dropboxusercontent.com/u/18310184/about-leigh-van-valen/Piglet%20Papers/1973%20new%20evol%20law.pdf

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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