被子植物とリンの循環 Angiosperms and the phosphorus cycle

SHINICHIRO HONDA

種子植物は,裸子植物と被子植物からなる。種子植物は,シダ植物から分化した。

シダ植物は,2nの胞子体が減数分裂して胞子(n)となり,胞子は配偶体(前葉体)に成長する。配偶体には,造卵器と造精器ができて,卵(n)と精子(n)が形成される。精子は水の中を泳いで卵と受精し,受精卵(2n)になる。受精卵は配偶体に付いた状態で成長し,胞子体となる。

大部分のシダ植物の配偶体は雌雄同体であるが,雌雄異体の種もある。雌雄異体では,雌と雄の一方だけの配偶子が形成される。

シダ植物の配偶子の交配,胞子体や配偶体の成長には,水が必要であり,シダ植物は,雨が多く降る場所でしか生存できない。


シダ植物の繁殖


シダ植物,Fern plants at Muir Woods, California(Author:Sanjay ach)

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種子植物は,古生代の後半(3.19億年前頃)に出現し,中生代にはシダ植物を凌駕して繁栄した。種子植物が繁栄したのは,種子形成によって,水が常時存在しない環境に進出できたからである。

最初に繁栄したのは,裸子植物であり,裸子植物には,ソテツ,イチョウ,マオウ,ウェルウィッチア,グネツム,球果植物がある。裸子植物は,恐竜と共に栄えたので,裸子植物と恐竜はお互いに「延長された表現型」の関係にあったと考えられる。


(*1)


ソテツ,Cycads

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イチョウ,Ginkgo biloba(Author:H. Zell)


マオウ,Ephedra(Author:Dcrjsr)


ウェルウィッチア,Welwitschia(Author:Muriel Gottrop)


グネツム,Gnetum(Author:Psumuseum)

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被子植物が,中生代(1.4億年前頃)に出現すると,裸子植物は次第に衰退し,被子植物にとって代わられた。現在,地球上に多く生息する裸子植物は,球果植物(マツ門)である。マツ門の植物は,寒冷地や火山岩地帯で優占している。

被子植物には,花粉や種子の拡散を,昆虫や鳥類に依存する種が多いのに対して,裸子植物は風などによって花粉や種子を拡散する種がほとんどである。このことから,被子植物は,花粉や種子を拡散する動物との共生によって多様性を生み出したことで,裸子植物を凌駕して優勢になったという説がある。

鳥類は,中世代の中期(1.6億年前頃)に獣脚類恐竜から進化したとされており,被子植物の出現の少し前に登場した。哺乳類の祖先は,中生代初期(2.25億年)に登場したが,哺乳類が繁栄するのは,白亜紀の大絶滅(6,600万年前)の後である。

昆虫,鳥類,哺乳類などの動物は,被子植物の蜜,花粉,果実,茎葉などを食べる代わりに,植物の花粉と種子を拡散する。動物と被子植物は,お互いに「延長された表現型」の関係にある。

花粉や種子の拡散は,鳥類や哺乳類だけでなく,風,恐竜でも可能である。クロマツやアカマツは風で花粉を拡散し,種子には羽根が付いており,風に乗って種子を拡散する。鳥類が登場する前の恐竜の時代に,裸子植物は繁栄していたし,マツ門は,現在でも,寒冷地や火山岩地帯では優占している。なお,マツ科植物のなかには,種子に羽根が無く,リス,ネズミ,カケスなどに種子を拡散してもらう種が存在する。

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クロマツ,Pinus thunbergii

つまり,寒冷地や火山岩地帯以外の温暖地で,被子植物が裸子植物よりも優勢である理由には,「花粉や種子を拡散する動物との共生によって多様性を生み出したこと」とは異なる要因が存在すると考えられる。

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イネ科植物は,活性アルミニウムが多い火山岩地帯で優占する。イネ科植物は,難溶性のリンを溶解吸収することができ,窒素固定細菌と共生することで,大気中の窒素を利用することも可能だ。また,イネ科植物は,ゾウ,ウシ,シカなどの大型草食動物とお互いに「延長された表現型」の関係にあり,大型草食動物によって,樹木の草原への侵入が抑止されている。

雨が比較的多く降る地帯の火山草原では,草食動物が何らかの理由で少なくなったり,時間が経過すると,マツの森に遷移する。イネ科植物は,根が地中に深くに伸びず(ひげ根),地中深くに存在するリンを吸収することができない。土の上層のリンは,イネ科植物に溶解されて,次第に流亡していくので,火山灰などの新鮮な土が供給されなければ,土の中のリンは少なくなっていく。


P-Ca:Ca型リン、P-non occluded:非結合型リン、P-o:有機態リン、P-occluded:結合態リン
土壌形成期におけるリンの形態と量の経時変化モデル(Walker and Syers, 1976)

マツは,菌根菌と共生することで,難溶性のリンを溶解吸収することができる。マツの根は,イネ科植物よりも地中深くまで伸びるので,地中深くに存在するリンを吸収することができる。マツ門の植物は,葉を地面に大量に落とす。落ちた葉の糖類(エネルギー)を分解利用する微生物は,大気中の窒素を固定するので,土壌中に窒素が供給され,マツは窒素を吸収利用できる(*2)。このため,周年で雨が降る火山岩地帯では,マツが優占するようになる。

しかし,火山岩土壌や火山灰土であっても,時間とともに活性Al・Feの量が変化することが知られている。ハワイ諸島では,降灰より数十万年後までは,アロフェン,イモゴライト,Al-腐植複合体が生成して,活性Al・Feの含量が増加する。その後,活性Al・Feは,反応性の低い結晶性の鉱物へと変化して減少し,噴火から410万年後には,強風化土壌であるオキシソルになるという。このような変化は,火山砕屑物のサイズが小さいほど,Siが少ないほど早くなる。また,温度が高いほど,結晶性の鉱物が早く出現するという。(*3)


ハワイ諸島における時間経過が土壌中の非結晶鉱物(活性Al・Feを主とする鉱物)の量に及ぼす影響(Harsh, et al.)(*3)

すなわち,土の風化が進んでリンが少なくなってしまえば,マツであっても生育できなくなる。現在の地球上では,寒冷地や火山岩地帯ではマツが優勢であるが,それ以外の温暖地では被子植物が優勢である。

寒冷地や火山岩地帯以外の温暖地で,被子植物が優勢なのは,被子植物と「延長された表現型」の関係にある昆虫,鳥類,哺乳類などの動物が,リンを循環させる働きがあるためと考えられる。

陸地のリンは,雨によって川に流れ,湖や海に流れ込む。リンは重い元素なので,湖底や海底に沈殿する。沈殿したリンは,湖底や海底の微生物,貝類,甲殻類などに摂取される。リンは,海水1tの中には、わずか0.062gしか存在しておらず(地殻の土1tには1.2kg),生物にとっては,常にリンが不足する状態である。

微生物や甲殻類が体内に蓄積したリンは,食物連鎖を通じて,魚類に蓄積され,鳥類やクジラなど上位の動物に蓄積される。

鳥類は,陸地で営巣するので,糞や遺体によって陸地にリンが還流する。また,サケ,マス,キュウリウオなど,海から川に遡上して産卵する魚類は,鳥類や哺乳動物に捕食され,陸地にリンが戻される。産卵後の遺体も,微生物,昆虫,甲殻類などに摂取され,陸地に還流する。

被子植物は,果実や茎葉を,昆虫,鳥類,哺乳類,爬虫類などの動物に食べられることで,エネルギー(糖類)を供与する。動物は,糞や遺体を陸地に供給するので,糞や遺体に含まれるリンを,植物が吸収利用する。

すなわち,寒冷地以外のリンが少ない陸地では,動物にエネルギーを供与して,リンを循環利用できる被子植物が,裸子植物(マツ門)よりも有利と考えられる。

References
*1) Angiosperm Phylogeny Group (2016), “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV”, Botanical Journal of the Linnean Society, 181 (1): 1–20.
*2) 深澤 遊. 木材腐朽菌による材の腐朽型が枯死木に生息する生物群集に与える影響. 日本生態学会誌 63(3), 311-325, 2013.
*3) 渡邉哲弘. (2016) 火山灰土壌の分布と特殊性. 地球環境 21(1), 11-20.

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