栽培植物の起源神話:Myths about the origin of cultivated plants

世界に存在する栽培植物の数は、花卉類を除いて1500種以上と言われている。イネ、コムギ、オオムギなど、栽培の歴史が長い作物では、品種の数が1万以上あり、栽培植物の品種の総数は、数十万におよぶ。また、植物だけでなく、イヌ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ニワトリなどの家畜やミツバチ、カイコなどの飼育昆虫も存在する。

野生の植物から、栽培種を作り出すのは、簡単なことではない。もっとも基本的な育種の方法は、植物の中から、目的にあった性質の個体を選択し、その種を播いて選択を繰り返す方法である。目的の性質とは、食用の栽培植物の場合では、食用部位が大きい、美味、子実が脱落しない(非脱粒性)、毒性がないなど、多岐にわたる。偶然に起きるこれらの突然変異を長期間にわたって積み重ねることで、栽培種が成立する。野生のムギやイネが、栽培種に置き換わるには、数千年もの時間がかかったことがわかっている。

ハイヌヴォレ型神話

作物などの栽培植物は、人類の生存に不可欠な存在であり、古来より重要視されてきた。世界中の神話のなかに、多くの作物の起源神話が残されている。

『古事記』では、五穀の起源として以下のように書かれている。

また食物 (をしもの) 大氣津比賣 (おおげつひめの)神に乞いき。ここに大氣都比賣、鼻口また尻より、種種 (くさぐさ)味物(ためつもの)を取り出して、種種作り(そな)へて(たてまつ)る時に、速須佐之男命(すさのおのみこと)、その(しわざ)を立ち伺ひて、穢汚(けが)して奉進(たてまつ)るとおもひて、すなわちその大宜津比賣神を殺しき。(かれ)、殺さえし神の身に()れる物は、頭に(かひこ)()り、二つの目に稻種(いなだね)()り、二つの耳に(あわ)()り、鼻に小豆(あずき)()り、(ほと)(むぎ)()り、尻に大豆(まめ)()りき。(かれ)ここに神產巢日(かみむすひ)御祖(みおやの)命、これを取らしめて、(たね)()しき。(文献1)

これとよく似た神話は、東南アジア、ポリネシア、メラネシア、アメリカ大陸まで、広く存在することが知られており、ドイツの民俗学者のアードルフ・イェンゼン(1899-1965)は、これらを「ハイヌヴォレ型」神話と名づけた。「ハイヌヴォレ」は、インドネシアのセラム島のヴェマーレ族に伝わる神話に登場する女性の名前である。

アメタという男が、狩りの最中に、イノシシの牙の間にある珍しいヤシの実を見つけた。アメタは、バナナから現われた西セラムの9つの部族の一人であった。彼は、ヤシの実を家に持ち帰った。その夜、夢の中に何者かが現れ、彼にヤシの実を植えるように言った。アメタがヤシを植えると、数日後には大木に生長して花を咲かせた。アメタは、花の蜜を採るために樹に登ったが、そのとき指を傷つけて血が花に落ちた。9日後、アメタはその花の場所でハイヌヴォレという名前の女の子を見つけた。彼は衣で彼女を包んで家に連れて帰った。彼女はまたたくに成長した。ハイヌヴォレはすばらしい才能を持っており、彼女が排便すると宝物を排泄した。おかげで、アメタは裕福になった。
ハイヌヴォレは、9日間続けられる踊りに参加した。この踊りでは、女性がアレカナッツを男性に配ることが伝統であった。男たちがハイヌヴォレにナッツを頼むと、彼女はナッツの代わりに排泄した宝物を与えた。彼女は毎日、金のイヤリング、サンゴ、磁器の皿、ブッシュナイフ、銅の箱、銅鑼など、高価なものを与えた。男たちは、最初は喜んでいたが、徐々に彼らはハイヌヴォレに対して驚いて怪しみ、次には嫉妬に駆られて、9日目の夜に彼女を殺すことに決めた。
9日目の夜に、男たちは踊り場の真ん中に穴を掘り、ハイヌヴォレを穴の中に押し込んだ。男たちは、彼女の叫びを彼らの歌でかき消し、穴の上に土を盛り上げた。ハイヌヴォレは生き埋めにされ、男たちは、「穢れ」を踏みつけながら踊った。アメタは、ハイヌヴォレを探しに行った。彼は何が起こったのかを知り、ハイヌヴォレの遺体を掘り出して、それを細かく切断して村の周囲に埋めた。すると、その断片から、芋などの様々な種類の作物の品種が生まれた。(文献2)

北アメリカのミシシッピ下流域のナチェズ族の神話は、次のように伝える。

一人の女が、二人の少女と暮らしていた。食物がなくなると彼女は、両手に一つずつ籠を持って、ある建物のなかへ入り、じきに籠を両方ともいっぱいにして出て来た。そしてその中身でおいしい料理を作って少女たちに食べさせていた。ところがあるとき少女たちが建物のなかを見てみると、からっぽで食物などどこにもなかった。少女たちは相談して、次に女が籠を持って建物のなかに入ったとき、なかで何をするか覗き見した。すると彼女は、まず籠の一つを床に置き、その上に股を開いて立って、体を擦ったり震わせた。たちまちがさごそと何かが落ちる音がして、籠はトウモロコシでいっぱいになった。次にもう一つの籠の上で同じことをすると、同じようにしてその籠が豆でいっぱいになった。
少女たちは顔を見合わせて、「彼女は大便をして、それを私たちに食べさせていたのだから、あんな汚いものを食べるのはよしましょう」と言い合った。料理を与えても、少女たちが食べないので、覗き見されたことを知った女の人は、こう言った。
「これが汚く思えて食べられないのなら、私を殺して死体を燃やしなさい。そうすると夏にその場所からいろいろなものが生えてくるから、それを畑に植えなさい。実が熟すと美味しい食物になって、おまえたちはこれからは、私がこれまで与えてきた食物の代わりに、それを食べて生きていけるでしょう」。
言われたとおりにすると、女の死体を焼いた場所から、夏にトウモロコシと豆とカボチャが生えた。(文献3)

プロメテウス型神話

イェゼンが、「プロメテウス型」と名づけたもうひとつの神話群がある。プロメテウスは、ギリシャ神話に登場するティーターンの一族である。ティーターンは、ウーラノス(天)とガイアから生まれ、オリュンポス神に先行する古い神々とされている。

プロメテウスは大地の土を取って、それを水で練りかためて、神々と同じ形に人間を造り上げました。プロメテウスは人間に直立の姿勢をあたえましたから、他の動物はみな顔を伏せて地上を見ているのに、人間だけは初めから天を仰ぎ、星を眺めました。
プロメテウスは、人間創造以前からこの地上に住んでいた巨神族の一人でありました。彼とその弟のエピメテウスが、人間製造の役目と、その人間や他の動物に、生存に必要な能力をあたえてやることを神から委任されました。直接の担任者はエピメテウスで、兄のプロメテウスはそのでき上りを監督する役目でありました。エピメテウスはすべての動物に、勇気や、力や、早さや、智慧などの賜物をさずけました。ある者は翼を、ある者は蹄を、ある者は身を隠すための殼をもらい出しました。ところが万物の霊長たるべき人間の番になると、他の動物に何もかもあたえつくしてしまった後で、これというほどの物が一つもなくなっていました。エピメテウスは困って兄のプロメテウスに相談しました。プロメテウスは女神アテナの助けを借りて、天へ昇って太陽の二輪車の火を自分の炬火に移し取り、その火を人間のところへ持って下りました。この賜物によって、人間は初めて他の動物以上のものとなりました。すなわち、その火のおかげで、人間はすべての動物を征服すべき武器をも作り、土地を開拓する道具をも作り、また住み家を暖めて寒さをしのぐ方法をも知ったのであります。最後に技術や、貨幣鋳造や、商売や、取引きの方法までも彼らが習得したのも、すべてこの火の賜物でありました。(文献4)

イェゼンは、「プロメテウス型」神話の代表的なものとして、西アフリカのドゴン族の創世神話をあげている。ドゴン族はマリのニジェール川流域に暮らす農耕民で、トウジンビエ、モロコシ、イネ、タマネギ、タバコ、野菜などを栽培している。また、ヒツジ、ヤギ、ニワトリを飼育する。ドゴン族は、その独特の宗教、神話、儀式、舞踏などで民族学者たちに注目されてきた。ドゴン族の神話は、口述で伝えられており、多種多様な神話が存在する。

太初に神(アンマ)は天空に土くれを拗って星辰を創造した。それから神は二つの白い壺を造り、そのうち一つには赤い螺旋状の銅を捲いて太陽とし、他の一つには白い銅を螺旋状に捲きつけて月とした。黒人は太陽の許に生まれ、白人は月夜に生まれた。
粘土の他の塊を使ってアンマは女性である大地をつくった。大地は北から南へと身体を延ばしており、蟻塚はそのセクスであり、白蟻の巣はそのクリトリスである。神(アンマ)はクリトリスを切り落した(成女式の陰核切除のはじまり)のち大地と結婚して金狼(ジャッカル)を生ませた。
次に、眼は赤く、身体は緑、柔軟な肢体を持った精霊ノンモたちが生まれた。ノンモたちは、その母なる大地が裸身なのを見て、金銀の総―水を意味する―のついた繊維を持ってきた。ところが金狼は、蟻塚に分け入って近親相姦を犯し、このとき流れ出た月経の血が繊維を赤く染めた。この原罪によって大地は不浄なものとなった。
その後、ただちに神は粘土から人間を創造した。これらの人間はそれぞれ男女両性の要素を兼ねそなえていたが、割礼と切除が教えられてから性の識別が可能になった。
始源期には八人の始祖がいたが、これがドゴン族を分ける八家族の起源である。ノンモの一人は「言葉」を与えられ、それを織機とともに蟻に教え、蟻がさらに人間に教えたのである。また八種の異なった穀物が八家族に分けられたが、それが食べ尽されてしまうと、二人の始祖は分与されていなかったフォニオまでも食べてしまった。そんなことの果てに彼らは天から逃げ出したが、これが最初の祖先たちが世界を構築するきっかけとなった。
世界はドゴンが用いる笊の形をしている。この笊は正方形で、ロは丸く大きいが、世界の笊は粘土でできており、逆さに伏せてあって、底が露台になっている。底は太陽を表象し、台は天を表わす。おのおのの側には十段の階段がある。北側の階段は人間と魚を、南の階段は家畜、東側の階段は鳥、西は野獣、野菜、昆虫をそれぞれこの世界にもたらす。祖先は火を盗み、露台の上に最初の鍛冶炉を据えつけた。ノンモたちは祖先を砲撃し、その肢体を毀損したため、それまでは柔軟であった肢体は関節から成るに至った。その後、彼らは露台から降りて最初の原野を造った。
彼につづいて他の始祖たちも降りてきたが、八番目の始祖の方が七番目の始祖より早く降りたので、後者は怒って蛇に変身してしまった。人間たちはこの蛇を殺して食べた。彼は人間たちを救うために自らすすんで犠牲になったのであるともいわれる。八番目の始祖、「言葉」の主レベが死ぬと、七番目の祖先である蛇は、これを石に変えて嚥み込んでしまった。このようにしてレベは九番目の始祖として再生した。(文献5)

このような、栽培種などの農耕文明が天からもたらされたという神話は、世界中に数多く存在している。

『日本書紀』では、天津彦火瓊瓊杵尊(アマツヒコホノニニギ)が、鏡と稲の穂を持って、高天原から高千穂の峰に降臨したと記されている。

是の時に、天照大神(あまてらすおほみかみ)、手に宝鏡(たからのかがみ)を持ちたまひて、天忍穂耳尊(あまのおしほみみのみこと)に授けて、()きて(のたま)はく、「()()、此の宝鏡を視まさむこと、当に吾を視るが如くすべし。(とも)(ゆか)を同じくし殿(おほとの)(ひとつ)にして、斎鏡(いはひのかがみ)とすべし」とのたまふ。(また)天児屋命(あまのこやねのみこと)太玉命(ふとたまのみこと)(みことのり)すらく、「惟爾二柱(これいましふたはしら)の神、亦(とも)殿(おほとの)の内に(さぶら)いて、善く防護(ほそきまもること)()せ」とのたまう。又勅して(のたま)はく、「吾が高天原(たまのはら)所御(きこしめ)斎庭(ゆにわ)(いなほ)を以て、亦吾が(みこ)(まか)せまつるべし」とのたまふ。(文献6)

アイヌ神話では、「オキクルミが天上界で、下界には魚や動物はたくさんいるが、穀物はないだろうと考えた。そこで一掴みの稗(ヒエ)の種を盗み、自分の脛を裂きそのなかに隠して、天上界から抜け出した」と伝えている。(文献3)

ギリシャ神話でも、農業の女神デメテルについて次のような伝承がある。デメテルは、ゼウスと仲直りして天界に戻るときに、アッティカのエレウシスの王子のトリプトレモスに、ムギの種と、翼の生えた竜が引く車を与えた。その車にトリプトレモスを乗せて、空から地上にムギの栽培を広めて回らせた。(文献3)

古代中国の西魏、北周の歴史を記録した『周書』(636年)では、「神農の時代に天から穀物が雨のように降ってきた。神農は大地を耕して、穀物の種子を播いた」と伝えている。(文献7)

1)倉野憲司校注、古事記、岩波文庫、1963
2)Jensen, Adolf E. and Herman Niggemeyer, Hainuwele ; Völkserzählungen von der Molukken-Insel Ceram, 1939
3)大林太良、吉田敦彦、伊藤清司、松村一男編、世界神話辞典、角川選書、2005
4)ブルフィンチ、ギリシャ・ローマ神話、岩波文庫、1978
5)阿部年晴、アフリカの創世神話、紀伊国屋書店、1965
6)日本書紀(1)、岩波文庫、1994
7)伊藤清司、中国の神話伝説、東方書店、1996

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オーカー、ヒトの成立、アトピー:Ocher, Human establishment, Atopic dermatitis

オーカー

オーカーのおもな原料は赤鉄鉱や褐鉄鉱である。赤鉄鉱の主成分は酸化鉄(III)で、その組成式はFe2O3である。ヘマタイト、酸化第二鉄、三酸化二鉄、赤鉄鉱、弁柄、赤錆など多くの呼び名がある。Fe2O3の結晶は光沢のある黒色だが、通常は赤褐色の岩石で、製鉄や赤色顔料に利用されてきた。

褐鉄鉱の別名はリモナイトで、化学組成はFeO(OH)・nH2Oである。鉄を多く含む鉱物の風化によって生成され、温泉(鉄泉)や湖沼の沈殿物としても産出する。形状によって鳴石、壷石、豆鉄鉱、鬼板、武石などと呼ばれる。高師小僧は褐鉄鉱が植物の根に集積したものである。褐鉄鉱も、製鉄や黄土色の顔料として利用されてきた。

鉄Feは地球でもっとも存在量が多い元素であり、2番目が酸素Oなので、赤鉄鉱や褐鉄鉱はごくありふれた物質である。ただし、海洋生物にとって、鉄はもっとも「高価」な元素であることは、以前のブログで書いた。

ヒトがオーカー(顔料)を使うようになった歴史はきわめて古く、アフリカでは28万年前の出土例がある(文献1)。

なかでも、よく例としてあげられるのは、ブロンボス洞窟である。ブロンボス洞窟は、南アフリカ南部のケープ海岸に位置する洞窟遺跡で、10万~7万年前の遺物が保存されている。模様が刻まれたオーカー(赤鉄鉱)、彫刻された骨、オーカー(顔料)の製造道具、貝殻のビーズなどが出土しており、当時、すでに「象徴的思考能力」が存在した証拠と考えられている。

2008年の調査では、10万年前の地層から、2枚のアワビの貝殻に、オーカー(顔料)の残存物が見つかった。同じ層からは、多数のオーカー(赤鉄鉱)、動物骨、木炭、珪岩の磨石、ハンマー石などが出土しており、ここで顔料が製造されていたことを示している。磨石上で、ハンマー石を使ってオーカー(赤鉄鉱)や木炭を粉末にし、アザラシの油脂と混ぜて顔料を製造していたらしい。(文献2、3)

オーカー(顔料)は、古代エジプトでも広く利用されていた。壁画には、女性は黄色のオーカー、男性は茶色のオーカー、口紅には赤色のオーカーを使用する様子が描かれており、パピルスにもオーカーについての記述がある。

現代でも、アフリカの狩猟採集民や牧畜民、オーストラリアのアボリジニ、南米大陸の熱帯雨林に住む狩猟採集民などが、オーカーを使用している。なかでも、ナミビアのヒンバ族は、動物の油脂やバターを混ぜたオーカーで、全身を赤色にすることで有名である。

オーカーとヒトの成立

ヒト(Homo sapiens)という種が登場したのは、30~25万年前と考えられているので(文献4)、ヒトは、種の成立とほぼ同じ時期にオーカー(顔料)を使い始め、以来、20万年以上もオーカーを身体に塗っていたことになる。

種の成立からこれほど長期にわたって身体に装着していたのであれば、ヒトにとって、オーカーはもはや身体の一部であり、「延長された表現型」であったにちがいない。すなわち、オーカー(顔料)はヒトの種の成立と何らかの関係があったことが予想される。

皮膚を紫外線や寄生生物から守るだけなら、他の哺乳動物と同じように、泥を皮膚に塗ればよいはずで、わざわざ硬い赤鉄鉱を磨石とハンマー石で粉末状にする必要がない。すなわち、オーカーの赤い色には、何らかの機能があったはずである。

ヒトにもっとも近いチンパンジーでは、メスには月経周期があり、その長さは32日ほどである。排卵が近づくと、メスの性皮はピンク色になって大きく膨張する(写真)。チンパンジーの発情期間は12日ほどで、その期間中に交尾する。また、妊娠・出産したあと、子供が乳離れするまでの5~6年間はまったく発情せず交尾しない。


http://thesymbiont.blogspot.jp/2010_12_01_archive.html


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一方、ヒトの場合、女性と男性はいつでも性交可能であり、しかも生殖目的ではない性行動を頻繁に行う。ヒトの女性は、チンパンジーのメスと異なり、排卵の時期を外見では判断できず、他者からわからないように隠している。排卵を隠すのは、性交を避けるためではなく、その逆である。

ヒトの女性は、その大きな臀部が特徴である。身体や臀部に赤いオーカーを塗ることで、膨張した性皮のような姿になり、常に男性の関心を惹きつけたと考えられる。

サン族とコイコイ族はアフリカ南部の乾燥地帯に住む狩猟採集民で、かつてはホッテントットと呼ばれていた。遺伝子解析では人類の祖先の形質をもっとも保存している部族とされている。サン族とコイコイ族の女性は臀部が際立って突出しており、小陰唇(性皮)の伸長がみられる。

超協力タカ派戦略では、バンド内での資源分配は平等が原則だが、サン族の射手が優先的に動物の腱を獲得するように、私的所有が完全に禁止されているわけではない。発情した姿の女性は、常に男性を惹きつけることで、より多くの資源を獲得できたのであろう。

体毛が少ないほうが、膨張した性皮の形に近いため、体毛が少ない女性ほど男性を惹きつけることができるので有利である。このため、次第に体毛を無くす方向に変異したと考えられる。

ヒトは、ヒト科(ヒト属、チンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン亜科)の生物種の中ではもっとも多産であり、自己複製の速度が大きい。これは、ヒトの女性が常に男性を惹きつけることで、資源の獲得量を増やすことができたからであろう。

10万~7万年前に、ヒトの一部は、アフリカを出て世界中に拡散した(文献5)。冷涼な温帯への進出に伴って、衣類を着用するようになったため、次第にオーカーの全身塗装を止めたと考えられる。

オーカーとアトピー

ヒトは20万年以上も前からオーカーを身体に塗装してきた。オーカーがヒトにとって「延長された表現型」ならば、オーカーが常に皮膚に付着していることを前提とした形質が、遺伝子プール内に広がっているはずである。

ここで、思い浮かぶのは、アトピー性皮膚炎のことである。アトピー性皮膚炎の根本には皮膚の生理学的異常(皮膚の乾燥とバリアー機能異常)があり、そこへ様々な刺激やアレルギー反応が加わって生じると考えられている。(文献6、7)

最近、アトピー性皮膚炎の原因となる遺伝子の存在が報告されている。アトピー性皮膚炎のマウスでは、JAK1というたんぱく質遺伝子の一部が変化し、異常に活性化しているという。その結果、皮膚の角質に働く酵素が活性化し、角質がはがれて刺激を受けやすくなっているらしい。(文献8)

遺伝的な形質によって皮膚の角質が剥がれやすくなることがアトピー性皮膚炎の原因ならば、このような形質が、オーカーが常に皮膚に塗着していることを前提とした形質ではないだろうか。

オーカーとアトピーの因果関係については、ただの科学的な推論、あるいは仮説であるが、この仮説が正しいかどうかは、赤鉄鉱の粉末とオイルを混ぜて全身に塗り、アトピーの症状が改善するかどうかを診れば、証明できるはずだ。

文献
1)Henshilwood CS. et al.(2011): A 100,000-Year-Old Ochre-Processing Workshop at Blombos Cave, South Africa. Science, 334, 6053, 219-222.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1211535
2)Henshilwood CS. et al.(2011): A 100,000-Year-Old Ochre-Processing Workshop at Blombos Cave, South Africa. Science, 334, 6053, 219-222.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1211535
3)TRACSYMBOLS
https://web.archive.org/web/20130622200613/http://tracsymbols.eu/
4)On the origin of our species
https://www.nature.com/nature/journal/v546/n7657/full/546212a.html
5)Evidence mounts for interbreeding bonanza in ancient human species
http://www.nature.com/news/evidence-mounts-for-interbreeding-bonanza-in-ancient-human-species-1.19394
6)日本皮膚科学会、アトピー性皮膚炎
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa1/q02.html
7)日本アレルギー協会、よくわかるアトピー性皮膚炎
http://www.jaanet.org/pdf/atopi_tein.pdf
8)アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子を解明
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160426_3/

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貨幣の供給:Money supply

ストックされた貨幣は徐々に増大し、フロートは徐々に減少する。

貨幣の蓄積と欠乏に対し、歴史的には次のようなことが行われてきた。

・王が蓄積したお金でピラミッドや城を建造する
・兵隊を増やして一揆や戦争に備える
・税を徴収して軍備を増強し戦争する
・鉱山を開発したり、信用貨幣や名目貨幣を発行して貨幣量を増やす
・アメリカ独立戦争、フランス革命、ロシア革命、中国革命など、王に対して革命を起こす
・投資する
・税を徴収して財政政策を行う

現代では、ピラミッドを建設できるような強大な私権を保有する王は存在しない。また、武器の殺傷力の向上によって、戦争や暴力革命を起こすことは、不確実性が大きすぎる。

投資には、ストックを減らして、フロートとフローを増やす効果がある。しかし、投資家は、貨幣を増やすために投資するのであって、他人に無償で貨幣を与えるわけではない。投資家は、貨幣を獲得できる確率が高い場合に投資し、確率が低い場合は投資しない。投資は短期的には、フロートとフローを増やすが、長期的にはストックは減少しない。なお、資源(エネルギーと物質)が十分に存在する場合は小さな不確実性を選択したほうが有利であり、資源が不足する場合は大きな不確実性を選択したほうが有利である。

工業製品の価格を左右するのは生産コストであり、生産コストは、原材料費、エネルギー費、人件費、技術水準(情報)などに左右される。原材料、エネルギー、技術は国境を越えて移転できるが、人間(労働者)は自由に国境を越えられないので、短期的な商品の価格(競争力)を左右するのは賃金である。すなわち、投資は賃金の低い国に対して行われ、貨幣は労働者に支払われるのでインフレになる。

現代の国家では、税を徴収して、財政政策を行うのが一般的である。2013年に、フランスの左派経済学者のトマ・ピケティが『21世紀の資本』を発表して、話題になった。ピケティは、資本主義制度では、資本収益率が経済成長率よりも大きいために、富は資本家へ蓄積されると主張する。そして、タックスヘイブンなど税回避によって、富が再配分されていないことを指摘した。

上の図を見ると、アメリカの富裕層の所得の占有率は、世界恐慌、第2次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争までは低下している。米ソの全面戦争の可能性が遠のいた1970年代末からは、占有率が増加に転じている。

現代では、税の徴収によってストックを減らすことは困難である。ピケティは、各国が協力して富裕層の税逃れを取り締まることを主張しているが、実現性は薄い。たとえば、産油国の王族たちが保有するストックから徴税することは不可能である。

残された方法は、貨幣の供給である。じっさいに、世界中の国で、通貨量(マネーサプライ)を増大させている。

現代の貨幣は電気的な信号なので、貨幣量が大きくなっても、発行や流通のコストが小さい。貨幣を供給し、インフレにすることが、貨幣の蓄積と欠乏に対するもっとも効率的な方法である。

貨幣の供給によって、何らかの不安定な状態に社会が陥ると感じるかもしれないが、おそらく何も起こらない。なぜなら、人間の歴史をたどると、貨幣の蓄積と欠乏のために社会が不安定になるのであって、その逆ではない。

生物の世界では、何億年ものあいだ、貨幣を介しない生物間の資源(エネルギーと物質)の移行が行われており、それが長期的に安定な状態である。

文献
Thomas Piketty, Capital in the Twenty-First Century, 2013(邦訳:21世紀の資本)

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恒常所得と貨幣量:Permanent income and quantity of money

ミルトン・フリードマンは、1957年に刊行した著書の中で、恒常所得仮説を提示した(文献)。これは、アーヴィング・フィッシャーの消費者理論とフランコ・モディリアーニのライフサイクル仮説をもとにして、消費と所得の関係を理論化したものである。

恒常所得仮説では、現在所得yは、恒常所得ypと変動所得ytに分けられる。

y=yp+yt
y:現在所得
yp:恒常所得。将来にわたって継続すると予測する所得
yt:変動所得。継続的でないと予測する所得

フリードマンは、消費者は、恒常所得ypを消費し、変動所得ytのほとんどを貯蓄するので、消費は恒常所得ypに比例すると指摘した。

c=αyp
c:消費
α:定数

前回のブログで、貨幣を次のように分けた。

mt=mfw+mft+ms
mt:n年の期首に保有しているお金
mfw:1年間に使うお金(flow)
mft:使い道が決まっておらず自由にできるお金(float)
ms:貯蓄するお金(stock)
Mt=Σmt
Mfw=Σmfw
Mft=Σmft
Ms=Σms
Mt=Mfw+Mft+Ms
Mt:領内の貨幣の総量
Mfw:財と交換され流通している貨幣量(flow)
Mft:自由に使えるが流通していない貨幣量(float)
Ms:ストックされた貨幣量(stock)

フローmfwは年間の生活費mcと営業経費meの合計である。

mfw=mc+me
mc:生活費
me:営業経費

保有金額は毎年ほぼ一定とすると、mtは年間の収入金額のことなので、

y=mt-me
=mc+mft+ms

y=yp+ytで、恒常所得仮説では、ytは貯蓄になるので、yt=msである。すなわち、

yp=mc+mft

生活費mcは急には変化せずほぼ一定なので、消費cはおもにフロートmftに比例する。

c∝mft

C=Σc、Mft=Σmftなので、

C∝Mft

需要Dは民間消費や投資などすべての消費の合計なので、D∝Cであり、需要DとフロートMftは以下の関係になる。

D∝Mft

自由に使えるお金Mftが増えると、需要Dが増えて、好ましいインフレになる。

需要Dが増えてインフレになると、供給Sが増えて、価格pは元に戻る。しかし、pは同じでも財の消費量自体は増大するので、フローMfwは大きくなる。

Mfw∝D

すなわち、フロートMftが増えるとフローMfwが増える。

Mfw∝Mft

あたりまえだが、自由に使えるお金の増大は、実際に使われるお金の増大をもたらす。

恒常所得仮説では、恒常所得Ypが増大しないと、消費Cは増大しない。消費が増えることは、MftとMfwとが大きくなることである。

Mt=Mc+Me+Mft+Msであり、営業経費Meを急激に引き下げるのは難しいので、恒常所得Yp=Mc+Mftを大きくするには、Msを小さくする、または、Mtを大きくするしかないことは、論理的に必然である。(つづく)

文献
Milton Friedman, The permanent income hypothesis, 1957
http://www.nber.org/chapters/c4405.pdf

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ストックされた貨幣の増大:Increase of stocked money

超協力タカ派戦略における資源分配を整理すると、次のようになる。

近縁親族内 バンド内 部族内 部族間
部族社会 資源充足 無償贈与・平等分配 等価交換・平等分配 等価交換 等価交換
資源不足 無償贈与・平等分配 等価交換・平等分配 等価交換 略奪・被略奪
近縁親族内 民族、国家内 民族、国家間
民族、国家 資源充足 無償贈与・平等分配 等価交換・社会保障 等価交換
資源不足 無償贈与・平等分配 等価交換・社会保障 略奪・被略奪

部族社会であっても、民族や国家であっても、平和時における資源の分配は、近縁親族を除いて、等価交換である。また、バンド内を除いて、平等に分配しない。ただ、近代以降の国家では、社会保障制度の導入によって、一部の資源の再分配が行われるようになった。

なお、現代の「民族」あるいは「国家」という集団は、遺伝子とは関係がない。それは、多くの場合、言語、学習、神話、信仰、教育、地域共同性、文明化、イデオロギー、政治闘争などによって創造され、形成される(文献)。ドーキンスは、「この地上で、唯一われわれだけが、利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのである」、あるいは、「私たちの脳は、遺伝子に対して反逆できるほどには十分に、遺伝子から分離独立した存在なのである」と明言している(文献)。

人は、財を交換する際には、財と財を直接交換するわけでなく、貨幣を介して交換する。財とは、人が生存するための資源のことであるが、資源の根源はエネルギーである。人は無からエネルギーを作りだすことはできず、自然から「獲得」することができるだけである。そして、他よりも多くの資源を獲得できるのは、次のような主体である。

・生産手段(獲得手段)を所有または占有する個人または集団:領主、地主、資本家、株主など。なお、低賃金国の労働力は生産手段である

・情報の変異速度が大きな集団:先進国の企業など

・有利な情報の変異が起きた個人または集団

・資源(エネルギー)そのものを所有または占有する個人または集団:産油国の王族など

上記の「低賃金国の労働力は生産手段である」というのは、次のような意味である。たとえば、奴隷には移動の自由が無く、労働と報酬についても自由な意思による契約ではない。労働と報酬は等価交換でないので、奴隷は使用者に搾取あるいは収奪されている。使用者から見ると、奴隷は自由な主体(自分と同じ人格)ではなく、生産手段(所有物)である。

労働者に移動と契約の自由があれば、賃労働の労働と報酬は等価交換である。しかし、現在のほとんどの国は、自由に国境を移動して就業することを認めていないので、低賃金国の賃労働者の労働と報酬は等価交換でない。すなわち、低賃金国の労働力は生産手段であり、彼らは労働力の一部を収奪されている。ただし、現代の工業社会では、低賃金国への投資が、その国の経済成長と豊かさにつながるもっとも有効な方法である。

ここで、大きな領地を所有する領主と、その領地で暮らす領民たちがいる社会を考える。広大な農地(生産手段)を領主1人では耕作できないので、領主は、農地を領民たちに貸している。領民は、毎年、借りた農地の生産量に応じた地代を支払っている。領民は奴隷ではなく、自由に他所に移動できるので、領主と領民の耕作権契約は自由契約であり、耕作権と地代は等価交換である。すなわち、領民は、領主に搾取されたり収奪されたりしているわけではない。


c:農産物の生産量
n:年
ck:年間の生産量

1年間に領内で生産される農産物の生産量ckは、一定とする。農産物の平均販売価格をpとすると、1年間に領地から得られる農産物の総生産額mkは、次の式で与えられる。

mk=p・ck

農地の地代をrとすると、領主が1年間に得る地代金額mrは、以下の式になる。

mr=r・mk
=r p ck

また、領主がn年間で得る地代Mr(n)は次式で与えられる。

Mr=Σmr
=mr・n
=r p ck n


m:貨幣量
Mr:地代のn年の累計

領内では、手形や紙幣は使用されておらず、貨幣はすべて金や銀などの実物貨幣とする。また、領内の貨幣の量は一定とする。

ある領民が、n年の期首に保有している貨幣量をmtとする。そして、生活費や必要経費などその年に使うお金(flow)をmfw、使い道が決まっておらず自由にできるお金(float)をmft、老後資金、教育資金、住宅資金として貯蓄するお金(stock)をmsとする。


mt:n年の期首に保有しているお金
mfw:1年間に使うお金(flow)
mft:使い道が決まっておらず自由にできるお金(float)
ms:貯蓄するお金(stock)
mt=mfw+mft+ms

領内に存在する貨幣量の合計は、次のようにあらわせる。

Mt=Σmt
Mfw=Σmfw
Mft=Σmft
Ms=Σms
Mt=Mfw+Mft+Ms

領民が貯蓄している老後資金、教育資金、住宅資金などは、どこかの時点で使われるので、領民が保有するmsは増大し続けるわけではない。

一方、領主は自分の農場を経営しており、生活費や経費を十分にまかなえるので、徴収した地代の多くは貯蓄される。地代の累計Mrは、年々増大し続けるので、やがて領内の貯蓄の合計であるMsとほぼ等しくなるであろう。

Ms≒Mr=r p ck n

上式より、Msはnに比例して増大する。


Mt:領内の貨幣の総量
Mfw:財と交換され流通している貨幣量(flow)
Mft:自由に使えるが流通していない貨幣量(float)
Ms:ストックされた貨幣量(stock)

なお、ここでの「ストックされた貨幣量」とは、経済学の「マネーストック」あるいは「マネーサプライ」とは異なる。

領内の人口は一定で、生活水準も一定とすると、Mfwは一定なので、MSが増大するにつれて、Mftが減少する。領民は自由に使えるお金mftが無くなると、次は貯蓄msや生活費mfwを減らさなければならなくなる。すなわち、お金が不足して消費が減り、貧困化する。

領内の消費が減少すると、市場では農産物価格が下落して、領民はますます窮乏化する。窮乏した領民が流浪民になれば、社会は不安定になり、一揆、打ち壊し、戦争、革命に至る。

所有権、移動の自由、自由契約、貨幣、市場、等価交換にもとづくシステムは公平で効率的であり、短期的には安定であるが、長期的には貨幣の蓄積と欠乏によって不安定になってしまう。

領民の流民化を防いで社会の安定を維持するには、領主がそのほとんどを保有するMsを減らして、MfwおよびMft を増やすしかない。しかし、超協力タカ派戦略の資源分配では、領民にお金を無償で配る領主はおらず、歴史的に行われてきたのは、領地や財産を守るために兵士を雇ったり巨大な城を建造したりすることだ。兵士の賃金や城の建設費として、Msの一部が領内に供給されることで、結果的に領民の窮乏化を遅らせることにつながる。

従来、古代エジプトのピラミッドは、奴隷の強制労働によって建造されたとされてきた。近年、建設に従事していた人々の住居跡や墓が発掘され、また、建設作業員への給与の支払いを示すパピルスの発見によって、ピラミッドは専従の技術者や賃労働者によって建造されたと考えられている(文献)。このため、ピラミッド建設の目的は失業者対策や公共事業であったいう説さえあるが、じっさいには、ピラミッド建設のために大量の貨幣が供給されたことで、結果的に、領民の窮乏化が先送りされ、長期にわたる王権の維持が可能になったのであろう。

なお、初めて手形が使われたのは唐(618-907)とされており、最古の紙幣は北宋代(960-1127)に四川地方で発行された交子といわれている。金や銀などの実物貨幣は、鉱山が枯渇すると貨幣不足に陥るので、手形など信用貨幣や紙幣など名目貨幣を発行することで、通貨量を自由に増大させることができるようになった。(つづく)

文献
ルイ・アルチュセール、アルチュセールの<イデオロギー>論、1970、三交社、1993
ミシェル・フーコー、監獄の誕生、1975、新潮社、1977
ベネディクト・アンダーソン、想像の共同体、1983、リブロポート、1987
リチャード・ドーキンス、利己的な遺伝子、1976、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
クフ王ピラミッド近くに労働者の墓
http://www.afpbb.com/articles/-/2681358
The diary of a pyramid builder
http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3692283/The-diary-pyramid-builder-Oldest-papyrus-existence-details-workers-shifted-stones-sheep-ate-reveal-secrets-inside-Great-Pyramid-Giza.html

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ヒトの寿命:Human life span

よく知られていることであるが、サケやベニザケなどサケ科サケ属の魚は、産卵を終えると、数日で死んでしまう。その遺体は川の栄養分を豊富にして、水生昆虫などが増殖し、昆虫は孵化した稚魚のエサとなる。遺伝子を効率よく存続させるためには、産卵後に親サケが死ぬことは、きわめて合理的な方法である。

また、カマキリのオスは、その25%が交尾後にメスに食べられて死ぬという。メスは、オスを食べることで、交尾期の栄養分の60%以上を得られ、オスを食べたメスは、食べなかったメスに比べて2倍以上の卵を産む(文献)。オスが食べられて卵の栄養になることは、遺伝子からみれば、もっとも無駄が無い資源利用だ。

一方、ヒトでは、生殖期をすぎてから30年以上も生存する。生殖期をすぎたあとの期間を後生殖期というが、ヒトにもっとも近い生物種であるチンパンジーの後生殖期は数年しかなく、ヒトは極端に後生殖期が長い生物である。

生殖能力がなく、自己複製できないのに、何十年も生存するのは、サケやカマキリの例から考えると、資源の無駄である。「利己的な遺伝子」からすれば、生殖期をすぎた個体は早く死んで、子孫が資源をすべて利用したほうが、遺伝子の存続に有利なはずだ。

前回のブログで書いたように、ヒトの集団は、情報の変異速度が大きいほうが、ライバル集団との生存闘争に有利である。


I:情報プール
bm:情報プール内の個体
yn:弓矢
kn:ynの製法(知識)
f:kn→yn
tcn:製法の変異(kn-1→kn)が起きる時間
tsn:情報プール内に製法knが伝播する時間
n:情報プール内で生じる有利な情報の変異の回数
vI:情報プールの情報の変異速度
vI=dn/dt

このモデルでは、情報プールIが大きいほど、情報の変異速度vIが大きくなる。情報プールは、脳に蓄えられた情報が多いほど大きくなるので、豊富な知識を有する人が多いほど、情報プールが大きくなるはずだ。

すなわち、ヒトの後生殖期が長いのは、長命なヒトが情報の貯蔵庫の役割を果たしてきたためと考えられる。言い換えると、たとえ資源の利用効率が悪くても、長命で脳に情報を多く貯蔵できる遺伝子をもった集団のほうが、ライバルに勝って生き残ることができた。

なお、現代では、情報は書物やデータベースに貯蔵されるので、ヒトの情報の貯蔵庫としての役割は小さくなっている。(つづく)

文献
Sexual cannibalism increases male material investment in offspring: quantifying terminal reproductive effort in a praying mantis
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/283/1833/20160656

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情報(知識)の変異速度:Mutation speed of information / knowledge

武器と道具

1816年に、デンマークの考古学者のクリスチャン・トムセン(1788-1865)は、国立博物館のコレクションを、石器時代、青銅器時代、鉄器時代の3つに区分して展示した。これが、最初の人類学的な時代区分であった。

その後、イギリスのジョン・ラボック(1834-1913)、フランスのG・ド・モルティエ(1821-1898)らによって、石器時代は、旧石器時代と新石器時代に分けられた。さらに、モルティエは、ヨーロッパの旧石器時代をムスティエ、ソリュートレ、オーリニャック、マドレーヌの4期に区分した。

現在のヨーロッパでは、石器時代は、おおよそ以下のように区分されている。なお、日本では、旧石器時代は、中期旧石器時代、後期旧石器時代、縄文時代に区分される。

オルドワン:Oldowanオルドワン石器は、最古の石器群で、おもに、礫を打撃して造る片刃のチョッパーと両刃のチョッピングトゥールからなる。多くはアフリカで製作されたが、ヨーロッパ、アジアからも見つかっている。

 

アシューリアン:Acheuleanアシューリアン石器は、ハンドアックスに代表される長さ15~20cmの打製石器で、石器の両面が加工されている。ホモ・エレクトスが登場した170~180万年前に出現した。アフリカ、西アジア、南アジア、ヨーロッパの多くの地域で製作された。

 

ムステリアン:Mousterianルヴァロワ型石核を用いた剥片剥離が特徴で、16万〜4万年前のネアンデルタール人(ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス)が活動していた時期に多く製作された。ヨーロッパ、中東、北アフリカで出土している。

オーリニャック:Aurignacian片刃の石刃など縦長剥片が、ブレード技法と呼ばれる剥離技術で製作されている。4万~3万年前のオーリニャック文化期には、ショーヴェやラスコーの洞窟壁画や動物彫刻も製作された。ヨーロッパ、中東、シベリアで出土している。

細石器:Microlith細石器は長さ1~3cmの小型の石刃で、槍の刃部や弓矢のヤジリとして製作された。木や骨の溝にはめ込んで、替え刃として使用された。ヨーロッパ、北アフリカ、アジア、 オーストラリアで製作された。

 

新石器:Neolithic研磨された磨製石器が特徴で、農耕が始まった時代(15,000BC~)に製作された。ただし、日本やオーストラリアでは、4~2万年前に局部磨製石斧が出現していた。

フランスの先史学者のアンドレ・ルロワ=グーラン(1911-1986)は、原石1kg当たりから製作できる石器の刃の長さを試算している。オルドワンでは40cm、ムステリアンでは4m、オーリニャックでは10m、中石器時代の細石器では100m以上の刃が製作できたという。石器の製作技術は、古い時代ほどゆっくり、新しい時代ほど急速に向上している。

武器や道具は、石器時代を経て、銅器、青銅器、鉄器へと変遷したが、その製作技術は、段階的に向上している。製作技術が向上することは、武器や道具の性能が向上することを意味する。武器や狩猟道具の性能が向上することは、ライバルや獲物を殺傷する能力が大きくなることであり、高性能の武器や狩猟道具を製作する技術を有する個体や集団は、生存闘争において有利になる。

また、製作技術が段階的に向上したということは、材料の物性や製作物の構造についての知識が段階的に蓄積し、保存され、増大したということである。

知識は情報の一部なので、情報の段階的な蓄積、保存、増大は、武器や道具の性能を向上させ、情報を保有する個体や集団の生存を有利にすることを意味している。

情報、記号、知識

日本語の「情報」というのは、最初はフランス語のrenseignementの訳語として使われたらしいが、現在では英語のinformationの意味で使われるのがほとんどである。情報には多くの意味が存在するが、ここでは、情報を次のように定義する。

情報:任意の個体がその記号を認識したとき、同じ物質あるいは同じ行動(運動)につながる記号の集合(f:A→B)

「記号」はsignあるいはcode(符号)のことだが、人が情報を伝達・交換に利用する記号には、表情、叫び声、泣き声、怒声、身振り、言葉の記号など様々なものがある。もっとも多く使用されるのは、言葉の記号である語音と文字なので、ここでは、記号を以下のように定義する。

記号:同じ性質を持ち、並べ替え可能で、個体がそれらを区別可能な物理的実体

「知識」(knowledge)という言葉は、情報とほぼ同じ意味で使われることが多いが、ここでは以下のように定義する。

知識:多くの個体に、有用な情報として選択された情報

情報と知識の関係は次のようになる。

日常では、さまざまな情報が伝達され交換されている。人々が交わす会話やニュースなどは、流れる情報(flow)であるが、これらは、ほとんどが消滅してしまう。また、朝食の内容や考え事などの情報も、その人の脳の中でしばらくは漂っている(float)が、やはり消滅してしまう。

情報のなかで重要なものは、記憶されたり、記録されたりして、一時的に保存される。一時的に保存された情報は、時間がたつにつれて消滅していく情報と、長期にわたって蓄積され、保存される情報(stock)がある。そして、長期に保存される情報の中で、多くの人にとって有用な情報として選択された情報が「知識」(knowledge)である。知識は長期にわたって蓄積され、保存される。

これらの情報の形態(flow、float、memory、record、stock、knowledge)はきわめて流動的であり、固体が液体になったり、液体が固体になったり、あるいは気体になって雲散霧消してしまうように、常に、ゆらいでいる。

情報プール

 ヒトは、集団内の個体同士で情報を伝達したり、交換したりすることが可能である。このような、情報の伝達・交換が可能な集団に存在する情報の総体を、「情報プール」と呼ぶことにする。集団の個体数mが大きいほど、あるいは、蓄積された情報が多いほど、情報プールIは大きくなる。

情報プール内のそれぞれの個体を、b1、b2、・・bmとする(brain)。はじめ、この情報プールでは、弓矢y0の製法(情報・知識)k0を、全員が保有しているとする(f:k→y)。ただし、弓矢y0は原始的な弓矢で、その矢には、矢羽やヤジリが無く、飛距離は短く命中精度は高くない。


I:情報プール
bm:情報プール内の個体
yn:弓矢
kn:ynの製法(知識)
f:k→y
tcn:製法の変異(kn-1→kn)が起きる時間
tsn:情報プール内に製法knが伝播する時間

時間tc1後に、集団の中の器用な人b1が、矢柄に矢羽を装着すると、飛距離と精度が向上することを発見した。この矢羽のある弓矢をy1とし、y1の製法をk1とする。弓矢y1は、他の人が持つ弓矢y0よりも性能が高いので、戦闘や狩猟において有利である。

b1はy1の製法k1を自分の子供や兄弟などに伝授するので、k1は徐々に情報プール内に伝播していく。製法k1が情報プール全体に伝播する時間をts1とする。

製法k1がb1から他の個体へと伝播することは、製法k1が何回も複製(コピー)されることである。ただし、言語による情報の複製は、完全ではないので、情報の一部が欠落したり間違いが生じたりする。この情報の欠落や間違いも、「情報の変異」であるが、欠落や間違った情報をもとに製作された弓矢は、一般には性能が劣る。性能が劣る弓矢は、戦闘や狩猟において勝ち残ることができないので、その製法(情報)は、捨てられてしまう。(ただし、間違って伝わった製法で作られた弓矢が、すべて劣るとは限らない)

複製ミスや間違いなどで性能が劣るような情報の変異を、「不利な情報の変異」とすると、「不利な情報の変異」は生き残ることができず、情報プール内から消滅してしまう。すなわち、「不利な情報の変異」は、情報プールにほとんど影響を与えないので、無視できるはずだ。

弓矢y1の製法k1は、集団全体に広がり、やがて他の集団にも伝播する。すべての集団にk1が伝播すれば、戦闘や狩猟において、y1の有利性はもはや存在しなくなる。

個体は、他者よりも有利性が存在しければ、生存するのが難しくなるので、なんとかして性能の高い弓矢を作ろうとするであろう。逆に言うと、そのような工夫をした個体とその個体が属する集団が、生き残ることができた。

性能の高い弓矢を作ろうと試行錯誤を繰り返すうちに、時間tc2後に、ある人が、矢の先端にフリント(チャート)のヤジリを装着すると、飛距離が長くなり、破壊力も大きくなることを発見した。この弓矢をy2とし、y2の製法をk2とする。y2は戦闘や狩猟において有利なので、k2は情報プール内に伝播していく・・・。

生存に「不利な情報の変異」は消滅するので、情報プール内の情報の変異速度を左右するのは、生存に「有利な情報の変異」である。そこで、情報プール内で、時間当たりに生じる「有利な情報の変異」の回数を、「情報プールの情報の変異速度」vIとすると、vIは以下のようにあらわされる。

vI=dn/dt
n:情報プール内で生じる有利な情報の変異の回数
vI:情報プールの情報の変異速度

vIの値が大きいほど、ライバル集団との生存闘争において有利である。また、以下の関係が存在する。

・情報プールIが大きいほど、vIが大きい。
・情報プール内の情報の伝播速度が大きい(tsnが小さい)ほど、vIが大きい。
・有利な情報の変異が生じる時間tcnが小さいほど、vIが大きい。

ルロワ=グーランは、ヒト科の種の脳が大きくなるにつれて、石器の製作技術が飛躍的に向上したことを指摘している(先述の図)。古い時代のヒト科ほどvIが小さい理由のひとつは、Iが小さく、tsnが大きいためである。時代が下るほど、情報が蓄積し、言語による情報の伝達能力が向上するので、Iが大きく、tsnが小さくなって、vIが加速度的に大きくなる。

集団内の協力と結束が高いほど、情報の伝達と交換が活発に行われるので、tsnが小さくなる。すなわち、情報プール内の個体の同一性が高いほど、vIが大きくなる。

一方、それぞれの個体が、試行錯誤に専念できる時間が長いほどtcnが小さくなるので、分業化と専門化が進むほどvIが大きくなる。また、個体の試行錯誤の自由度が大きいほど、情報の変異が生じる確率が大きくなる。すなわち、情報プール内の個体間の差異が大きいほど、tcnが小さくなってvIが大きくなる。

これらのことから、情報プール内では、個体の同一化と差異化が拮抗する関係にある。有利な情報の変異が起きた直後は、変異による有利性が大きく資源を多く獲得できるので、同一化して小さな不確実性を選択したほうが有利である。しかし、時間が経過して変異が種内に伝播すると、変異の有利性が失われて資源獲得が困難になるので、差異化して大きな不確実性を選択したほうが有利になる。(つづく)

文献
大貫良夫ほか、世界の歴史1、中央公論社、1998
ホルクハイマー、アドルノ、1947、啓蒙の弁証法、岩波書店、1990
トーマス・クーン、科学革命の構造、1962、みすず書房、1971

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