社会脳による共倒れ抑止:Deterrence of internecine by social brains

草食動物の超タカ派戦略

肉食動物など食物連鎖の頂点にいる動物が、タカ派戦略をとりやすいことを述べたが、タカ派戦略は、肉食動物でも草食動物でも関係がない。たとえば、アフリカゾウは、子供のゾウがライオンに襲われることがあるが、成長したゾウはライオンにほとんど捕食されない。草食動物であっても、捕食者がいない種では、食物連鎖の頂点にいる種と同じ状態になる。

アフリカゾウは、メスと子供からなる数頭~十数頭の群れを形成する。オスは10歳くらいになると、群れを出され、単独または集団で放浪する。成年オスは、単独で行動し、群れの周辺にいる。メスが発情すると、通常は優位のオスが交尾するが、その座をめぐってオス同士が激しく闘争する。ゾウのオスでは、身体が大型化して、長大な牙を有するタカ派戦略が有利になる(なお、現在では牙の長いゾウを密漁する人間のために、牙が短いハト派戦略が有利になっている)。

このような、草食動物のタカ派戦略の例は、ゾウの他にも、サイの大型化と角の巨大化、ヘラジカの大型化と巨大な角などに見られる。絶滅した超タカ派の動物では、マンモス、マストドン、オオツノジカ、デイノテリウム、パラケラテリウムなどが知られている。デイノテリウムは中新世中期~100万年前に生息したゾウの仲間で、ゾウ目では最大の種とされる。体長は約5mに達し、下顎には巨大で凶暴な牙が生えている。この姿から、オス同士の生死をかけた壮絶な闘いが想像できる。

%e3%83%87%e3%82%a4%e3%83%8e

パラケラテリウムは、サイの仲間で3,400万~2,200万年前に生息していた。史上最大の陸生哺乳類とされ、体長8m、体重15~20tに達したと考えられている。上顎と下顎の先端に鋭い牙が生えており、これでオス同士が激しく闘争していたと思われる。

%e3%83%91%e3%83%a9%e3%82%b1

%e3%83%91%e3%83%a9%e3%82%b12

20世紀の初頭の古生物学者たちは、このような角や牙の巨大化を、「定向進化」(Orthogenesis)と呼んでいた。しかし、生物には進化が「定向」にならない事例が多くあり、その理由を説明できなかったために、この説は消えてしまった。

共倒れ抑止遺伝子

捕食者がいない種は、タカ派戦略をとりやすく、進化的に不安定になりやすい。しかし、それでは、つねに共倒れと絶滅の危機に瀕していることになる。そこで、闘争コストが大きくなる方向に変異することを抑制する、何らかの構造があることが予想されると書いた(2017.1.18ブログ)。

ひとつは、クマやニホンザルの例で示したような、「共倒れ抑止遺伝子」の存在だ(2016.11.11ブログ)。ネズミやクマなどの哺乳動物には、受精卵がすぐに着床しない、着床遅延がある。もともと着床遅延は、交配可能な期間を増やし、子育てに適した時期に出産するための仕組みと考えられている。ところが、クマは、着床遅延の期間中に母体の栄養状態が悪いと、着床せずに流産してしまうことが知られている。ニホンザルも、秋に食物が少ない年には、発情せず、妊娠しても栄養状態が悪いと流産する。また、ライオンのメスは、獲物が少ないときは、子供のライオンに肉を与えないという。これらは、食べ物をめぐって、自分の子供(自分のコピー)との闘争コストを下げる結果をもたらす。闘争コストが高まると、共倒れしてしまうからだ。

社会脳による共倒れ抑止

もうひとつは、「社会性」である。社会性の高い生物としては、アリ、ハチ、シロアリが代表的だが、これらの社会性昆虫は、遺伝子のシステムできわめて高度な社会性を構築しており、構造が複雑だ。そこで、まず哺乳動物で考えてみる。

哺乳動物は、遺伝子システムでなく、脳の情報処理システムを高度化することで、社会性を獲得した。たとえば、ネコ科のライオンには、同じ遺伝子を共有する兄弟のライオンが協力する独特の習性がある。ライオンは、1~3頭の成年オスと、5~6頭のメスからなる、定住性の群れ(プライド)を形成する。20~30頭からなる大きな群れを作ることもある。プライドの成年オスは兄弟2頭が多く、まれに4頭の場合もある。オスたちは、プライドの外側を巡回して、縄張りを他のオスから防衛している。

子供のオスは、2~3歳になると、プライドから追い出されて草原を放浪するが、このとき、兄弟が一緒に行動する。オスが遊動するのは、遺伝子プールを大きくする(多様性を担保する)仕組みであろう。成長した兄弟オスは、プライドのオスに挑戦して、プライドのオスの座を奪う。

%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%82%aa%e3%83%b3

兄弟オスが「協力して闘う」という方法は、超タカ派の遺伝子の出現を抑制する効果がある。1頭では戦闘力が小さいタカ派遺伝子であっても、2~3頭で協力すれば、単独の超タカ派遺伝子に対抗できる。2~3頭の協力タカ派のほうが、単独超タカ派より有利なので、協力タカ派遺伝子は、単独超タカ派遺伝子を駆逐してしまうであろう。超タカ派遺伝子の変異がおきても、これが存続できる可能性は小さい。

集団が協力タカ派だけになると、オスの闘いはつねに複数vs複数になる。複数vs複数の闘いでは、共倒れで全てのオスが死滅する確率が小さくなる。生き残るオスが必ずいるので、協力タカ派は進化的に安定する。「社会脳による共倒れ抑止」(Deterrence of internecine by social brains)である。

ただし、協力タカ派だけの状態で、「協力超タカ派」があらわれる可能性はある。協力超タカ派同士の闘いでも、複数vs複数となり、全滅せずに生き残るオスがいる可能性が高いので、進化的に安定になる可能性はある。しかし、そのような種の事例を自然界で思い浮かべることが難しい(人間を除く)。

ここで、さらに記憶力や意思疎通能力が高く、社会性が高い遺伝子があらわれて、兄弟だけでなくイトコのオスも協力するようになったとする。この「超協力タカ派」遺伝子は、多数のオスからなる共同戦線を構築して、他の兄弟オスを圧倒できるはずだ。

しかし、じっさいのライオンのプライドではそうなっていない。多数のオスがいるプライドは、広大な縄張りが必要になる。草食動物などの資源量は、雨季と乾季で大きく変動するので、大量の資源が必要な大きな群れを維持できない。また、多数の成年オスを有するプライドでは、今度は、プライドの内部での遺伝的な違いが大きくなるので、リーダーやメスをめぐって争いがおきる。兄弟の遺伝的近縁度は1/2で親子と同じだが、イトコの遺伝的近縁度は1/8にすぎない。ライオンの場合は、イトコを殺して自分の子供を産んだほうが有利なのであろう。

社会脳による協力度は、系の範囲の大きさ、資源の種類、資源の量などの条件に応じて決まると考えられる。ユーラシアと北米に分布するオオカミは、雌雄を中心にした、数頭の群れで行動する。ユーラシアの森に棲むトラは、群れを作らず単独で行動する。トラのオスは、ライオンのオスよりも、2~3割も身体(体重)が大きく、超タカ派の遺伝子があらわれる確率が高い。

なお、多数のオス同士が縄張りを巡って闘う事例は、類人猿の一部に見られる。(つづく)

文献
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
George B. Schaller, The Serengeti Lion: A Study of Predator-Prey Relations, 1976

自然農法とは何か: ゆらぎとエントロピー
電子園芸BOOK社 (2016-12-11)
売り上げランキング: 21,984

闘争コストの遺伝子プール閾値:Threshold of gene pool in struggle cost

食物連鎖の頂点にいて、捕食者がいない生物の進化的安定をみる前に、「闘争コストの共倒れ閾値」を越えない場合での進化的に安定について考えてみる。なお、ここで「進化的」というのは、形質の変異のことを意味している。

ESS理論における、タカ派とハト派のモデルの不十分な点は、系の範囲(空間、物資、エネルギー)を無視していることである。そこで、カキ、カメノテ、フジツボのような、特定の場所に定着して、移動しない生物のモデルを作る。

%e3%82%ab%e3%83%a1%e3%83%8e%e3%83%86

カメノテは、岩の割れ目に着生して、波の中にいるプランクトンを、ホウキのような蔓脚(まんきゃく)を広げて捕食している。雌雄同体とされているが、他個体と交尾するという(有性生殖)。定着できる場所は岩の割れ目に限られており、割れ目に沿って群落を形成する。

図のような岩の割れ目に、n個のカメノテAが着生している。定着する場所は、物質とエネルギーは出入りするが、他の生物は入り込めない開放系である。カメノテが定着できる空間の大きさはsである。海水から系に供給される時間当たりのプランクトンの量(物質・エネルギー流速度e)は、時間的・季節的な変動はあるが、長期的には一定である。

%e9%96%8b%e6%94%be

あるとき、ある個体で突然変異がおこり、蔓脚を2本保有する個体A1が発生した。A1は、他のカメノテの2倍のプランクトンを捕食できる。これはタカ派戦略ではあるが、AとA1の両者が共倒れするほど闘争コストは大きくない。しかし、隣のAは、エサが十分に得られないので競争に敗れて衰弱していく。A1遺伝子は生存に有利なので、どんどん自己複製して、空間sはすべてA1で占められる。変異はランダムに起きるので、もし、逆に、蔓脚の小さな突然変異(ハト派)が起きたとしても、ハト派はエサを十分に捕食できないので、生存できない。

A1は、時間当たりの資源の獲得量が多いので、成長が速く身体が大きくなるはずである。波の中のプランクトンの量は一定なので、集団全体が得られる時間当たりのプランクトン量は変わらない。すなわち、A1は、n/2個の個体数しか生息できない。この状態でしばらく安定している。

ここで、さらにタカ派のA2が出現したとする。これは、A1の2倍の4本の蔓脚を有している。しかし、両者が共倒れするほど闘争コストは大きくない。有力なA2遺伝子は、自己複製を繰り返して、系はA2だけになるが、さらに少ない個体数しか生存できない。

こうして、時間がたつほど、タカ派の方向へ変異が進み、岩の割れ目sに生息する個体数は、次第に少なくなる。個体数が少なくなるほど、全体の、突然変異が起きる確率は小さくなる。遺伝的多様性が小さくなるので、寄生生物に対抗することや、環境変動に対応することができなくなる(後述)。すなわち、系で生存する個体数(血縁集団・遺伝子プール)が、ある閾値以下になると、タカ派遺伝子は伝染病や気象変動で死滅して衰退する確率が高くなる。そして、突然変異で生まれた、蔓脚の小さなハト派遺伝子のほうが有利になる。

カメノテは、闘争コストが、それ以上、遺伝子プールを小さくしない値(闘争コストの遺伝子プール閾値:threshold of gene pool in struggle cost)を越えないところで、進化的な安定になる。

カメノテ、フジツボ、カキ、サンゴなど、系の範囲が大きくない定着型の生物は、群生して群落を形成し、進化的に安定しやすいことが予想される。それは、固定した場所から移動できないために、自分のコピーからのしっぺ返し(報復)を免れることができないからである。カキは、ペルム紀(3億~2.5億年前)に登場して以来、きわめて長期にわたって形質(遺伝子)を維持している。また、サンゴでは、出芽を繰り返してクローンが多数群生する、群体サンゴが発達している。

定着型生物でも、時間がたつと、地球上の生息可能な地域全体に遺伝子が広がる。系の範囲が広大になると、血縁集団がエリアごとにできて、集団間の遺伝的な距離が次第に大きくなる。そして、地域ごとに変種が生じやすくなる。つまり、定着型生物は、血縁集団(遺伝子プール)を維持できる系の範囲が小さく、進化的な安定になりやすい。しかし、遺伝子が地球上に広く拡散すると、全体から見ると進化的に不安定になってエリアごとに変種が生じ、エリアごとに進化的な安定になる。

一方、鳥、魚、哺乳動物のような非定着型の生物は、広いエリアを大きく移動するため、しっぺ返しを免れやすい。タカ派戦略をとりやすく、進化的に安定しにくいはずだ。しかし、サケ科の魚は、硬骨魚類の魚の中では原始的な外観を持ち、長い間、その形質(外見)を変化させていないことが知られている。サケは広い海洋を動き回るのだから、進化的に安定しくいはずだ。サケが、強いタカ派戦略をとらず進化的な安定になるのは、産卵の際に同じ河川に集まるからだ。遺伝子を残すためにもっとも重要な産卵時に、しっぺ返しを受けるため、強いタカ派戦略をとれない。

すなわち、非定着型生物は、進化的に安定しにくいように思えるが、じっさいは、血縁集団(遺伝子プール)を維持できる系の範囲が大きいだけで、最終的には進化的な安定になる。魚類や鳥類のうち、とくに運動性が高い生物は、群れで行動したり、繁殖の際に、一か所に集合することが多く(理由は後述)、進化的に安定しやすい状態になる。

ガラパゴス諸島やタンガニーカ湖のように、新しく生じて孤立したニッチでは、変種が多いことが知られている。新しく生じたニッチでは、自分のコピーからのしっぺ返しを免れやすいために、タカ派戦略をとりやすく、進化的に安定しにくい。そのために、多くの変種が生じる。

形質の変異は、地球環境が安定している期間には、その環境に適応した状態で安定する。そして、大隕石の衝突などで環境の大変動が生じると、大絶滅して大きなニッチが生じる。進化的に不安定になって、次の安定期の初期には、多くの変種や新種があらわれる。そして、次第に進化的な安定に向かう。

最後に、ESSとゲーム理論についてだが、ESSは、利得をめぐる戦略が、ゲームに似ているために、ゲーム理論のナッシュ均衡と関係していると論じられることが多い。しかし、ESSが、いつもナッシュ均衡になるとは限らない。なぜなら、ゲーム理論では、ゲームの相手を殺さないし、殺しあうこともない。一方、ESSでは、ライバルを殺したり殺しあうことがしばしばある。相手を殺せば、もちろんナッシュ均衡は成立しない。また、ゲーム理論では、共倒れで両者が死ぬことを想定していない。

さらに、ゲーム理論では、プレーヤーPは戦略を自由に変えることはできるが、あくまでも、P1≠P2≠Pkが前提である。しかし、遺伝子では、最終的に闘う相手は自分のコピー(自分自身)なので、P1=P2=Pk(厳密にはP1≒P2≒Pk)の状態になる。自他の区別がつかないので、ゲームが成立しない。ESSのモデルとしてタカ・ハトモデルを使うと、ナッシュ均衡は存在するが、それだけでは、進化的な安定のすべてについてうまく説明できない。(つづく)

文献
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
Maynard Smith, J.; Price, G.R. (1973). “The logic of animal conflict”. Nature. 246.

自然農法とは何か: ゆらぎとエントロピー
電子園芸BOOK社 (2016-12-11)
売り上げランキング: 33,170

ESSの再検討―闘争コストの共倒れ閾値:Threshold of internecine in struggle cost

アメリカの生物学者のリン・マーギュリスは、真核生物は、アーキアが好気性のバクテリアを取りこんこんだことで成立したという説を唱えた(Margulis,1967)。これは一般に、「細胞内共生説」と呼ばれている。この「共生」という言葉は、そこらじゅうで見られる言葉だが、その根源的な意味や構造を、論理的に説明している文献を読んだことがない。仕方がないので、最初から考えてみる。

ダーウィンは、生存闘争について、以下のように書いている。
「死をもたらす原因は、天敵であることもあれば、同じ場所や食物を争う競争相手だったりもする。」
「一般に最も厳しい競争相手となるのは、きわめて近縁な種類、すなわち同じ種の変種どうし、同じ属あるいは近縁な属の種どうしである。」
「いちばん厳しい競争が演じられるのは、ほぼ決まって同種の個体間においてである。同じ場所にいて、同じ食物を必要とし、同じ危険にさらされているものどうしだからだ。同種の変種間においても、一般にほぼ同じくらい厳しい闘争が演じられる。」

一方、ドーキンスは、こう表現する。
「ESSとは自分自身のコピーに対してうまく対抗できる戦略のことである」

「進化的に安定な戦略」(ESS:evolutionarily stable strategy)は、J・メイナード=スミス、G・R・プライス、G・A・パーカーの共同研究による理論だ。進化的に安定な戦略とは、集団の大部分のメンバーがそれを採用すれば、別の代替戦略によって、とってかわられることのない戦略とされている。(文献参照)

後述するように、ESSの結論自体は正しく、生物は進化的に安定になる構造がある。しかし、メイナード=スミスが示した、タカ派とハト派の戦略のモデルでは、進化的に安定になることを、うまく説明できない。

ハト派・タカ派戦略のモデルでは、次のように説明される。タカ派とハト派は、同種の個体である。お互いに、相手がタカ派なのかハト派なのかをあらかじめ知ることはできない。タカ派は縄張りを巡って激しく闘い、ハト派は闘いをさけて逃げる性質がある。両者が闘争すると、タカ派があきらかに有利なので、集団内にはタカ派の遺伝子が広がる。タカ派遺伝子が広がり、集団がタカ派ばかりになると、闘争でお互いに大ケガを負うようになる。そこで、今度はケガをしないハト派が有利になり、ある比率で安定状態の混合集団に収斂するという。これを数学的に証明するために、いくつものシミュレーションのモデルが提案されている。

しかし、少し考えれば、そんなことがおきるはずはない。集団内がタカ派ばかりになると、タカ派同士で激しく争う状態になるが、仮にここにハト派の突然変異が生じても、ハト派は周囲のタカ派につねに負けるので、縄張りを確保できない。ハト派は存続できず、集団内に広がらない。

タカ派ばかりの集団の中で、勝ち残る可能性があるのは、突然変異で生まれた「超タカ派」だ。超タカ派は、一撃で相手に致命傷を与えることができる。簡単に相手を殺せて、自分は傷を負わない。そして、集団内には、超タカ派遺伝子が広がり、集団は超タカ派だけで占められる。

超タカ派同士の闘いでは、強力な武器のために相打ちになって、共倒れする。一般に動物では、縄張りとメスをめぐって争うのはオスだ。オス同士が出会うたびに共倒れになると、子供が生まれないので、オスもメスも少なくなる。少ないメスをめぐってさらに激しく闘って共倒れするので、次第に集団の個体数が少なくなる。論理的には、最後の2匹のオスが、最後に残ったメスをめぐって共倒れするまで闘うであろう。こうして、集団(種)が占有していた資源(空間、物質、エネルギー)を、他のライバル種にとって代わられてしまう。

これは、以前、メガロドンの例でも述べた(2016.11.11ブログ)。同じような例に、スミロドンがある。スミロドンは、サーベルタイガーの一種で、250万年~1万年前のアメリカ大陸に生息していた。サーベルタイガーの中では、もっとも遅く登場した属とされる。食物連鎖の頂点に君臨していたが、1万年前に絶滅してしまった。スミロドンを凌駕するような強力なライバル種は確認されておらず、絶滅の理由はいくつかの説はあるが、はっきりしていない。

%e3%83%a1%e3%82%ac%e3%83%ad1

%e3%82%b9%e3%83%9f%e3%83%ad%e3%83%89%e3%83%b3

同じネコ科のライオンの例を見れば、狩りするのは、おもにメスライオンだ。オスはあまり狩りをしない。オスライオンの武器は、巨大な身体、爪、牙などだが、その武器は、縄張りとメスを獲得するために、他のオスに向けて使われる。

トラの場合は、オスは非常に大きな縄張りをもち、その中に、いくつかのメスの縄張りが存在する。オスは、縄張りをつねに巡回して、縄張りを防衛する。オスのトラの最大のライバルは、オスのトラである。

スミロドンのサーベルも、狩りにも使われるが、もっとも重要なのは、オス同士の闘いであろう。長大なサーベル(遺伝子)をもった個体が登場し、遺伝子が集団の中に広がると、牙の小さな遺伝子は駆逐されてしまう。その後は、オス同士の闘いで共倒れし、衰退したと思われる。生物は、遺伝子プール(血縁集団)が小さくなると、ウイルスやバクテリアなどの寄生生物からの攻撃や、気象変動に対応できなくなる(後述)。病原菌に対抗できなくなり、絶滅してしまう。そして、別の肉食動物が、スミロドンが独占していた資源(空間、物質、エネルギー)を獲得したのであろう。

スミロドンとよく似た動物に、ティラコスミルスがいる。ティラコスミルスは、700万年~300万年前の南米大陸の肉食動物(有袋類)で、長い牙を持っていた。食物連鎖の頂点にいたにもかかわらず、やはり絶滅してしまった。このような長い牙を持った動物は、進化の歴史の過程で、繰り返し出現していたことが知られている。(文献参照)

%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%a9%e3%82%b3%e3%82%b9%e3%83%9f%e3%83%ab%e3%82%b9

メガロドンやスミロドンの例から予想されるのは、以下のことである。生物の遺伝子は、一般には、タカ派(高い闘争コスト)の方向に変異したほうが有利である。変異はランダムにおこるので、闘争コストが大きな超タカ派遺伝子が登場することが、たまにある。闘争コストが、ライバル(自分のコピー)同士が共倒れする大きさ(闘争コストの共倒れ閾値: threshold of internecine in struggle cost)を越えると、共倒れして衰退し、絶滅してしまう。

ただ、この推論では、食物連鎖の頂点にいる(捕食者がいない)生物は、つねに進化的に不安定な状態にあることになる。しかし、メガロドンやスミロドンは、たまにしか地球上に登場していない。つまり、闘争コストが大きくなる方向に変異することを抑制する、何らかの構造があることが予想される(つづく)。

文献
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
Maynard Smith, J.; Price, G.R. (1973). “The logic of animal conflict”. Nature. 246.
サーベルタイガー、アゴの力は弱かった
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8133/

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 40,921

RNAワールド → アーキア・ワールド → バクテリア・ワールド

RNA worldから、古細菌(アーキア)が生まれるには、遺伝子を包む膜構造ができなければならない。最初の膜は、脂肪酸エステルではないかと考えられているが、遺伝子がどのように、膜を獲得したのかは、よくわかっていない。

%e8%84%82%e8%82%aa%e9%85%b8

膜を獲得する有利性は、地球上の環境へ広く進出できることと考えるのが普通であろうが、ダーウィン進化論から考えると、別の理由ではないか。最初の生物が熱水噴出孔で誕生したとすると、そこは、地球上ではかなり特殊な環境だ。その特殊な場所で何億年も生きていたのであるから、別の環境に進出する以前に、熱水噴出孔の周辺で、すでに多くの種類の遺伝子が出現しているはずだ。すなわち、遺伝子が膜構造を持つようになったのは、別の遺伝子のリボザイムの攻撃から、膜で防御することができたからであろう。

膜をもった遺伝子が登場すると、他の遺伝子からの攻撃を防御できるが、逆に他の遺伝子を攻撃できなくなる。そこで、膜の外に、タンパク質の酵素を放出して、他の遺伝子を攻撃し、分解・利用する種が誕生したと考えるのが合理的だ。また、RNAは熱水中では構造が壊れやすいために、より強固なDNAをもつ種が生き残ったのであろう。膜構造、タンパク質のコード、安定したDNA、自己複製能力を獲得したとことで、古細菌(アーキア)が登場した。

%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%82%ad%e3%82%a2

アーキアは、熱水噴出孔をはなれて、さまざまな環境に進出することが可能になった。膜やタンパク質を持たないRNA worldは終焉し、アーキア・ワールド(Archaea world)に移ったと考えられる。

古細菌を独立させて、生物界を3つに分類したのは、微生物学者のカール・ウーズである。ウーズは、16S rRNAの解析によって、3ドメイン説(Three-domain system)を唱えた(Woese ,1977,1990)。またウーズは、始原生物がRNAから生じた可能性があることも指摘している(1967)。この3ドメイン説が登場したときは、衝撃的であった。

%e3%83%89%e3%83%a1%e3%82%a4%e3%83%b3

アーキア・ワールドが成立すると、次は、アーキアの膜の中に侵入して寄生するウイルスやウイロイドがあらわれたであろう。なぜなら、核酸塩基やリボースなどの資源物質を得るには、アーキアに寄生、利用するのがもっとも効率がよい。アーキアが、ウイルスやウイロイドの攻撃に対抗する方法は3つが考えられる。

1つは、同種の個体間で接合することである。接合して壊れたDNAを修復したり、抗ウイルス遺伝子を交換する。

2つめは、細胞膜を強固にして、ウイルスやウイロイドの侵入を防ぐことである。これが、ペプチドグルカンの硬い殻であり、硬い殻を有した種は、真正細菌(バクテリア)の起源となったのであろう。

%e3%83%90%e3%82%af%e3%83%86%e3%83%aa%e3%82%a2

バクテリアは、硬い殻を獲得したことで、地球の環境中に広く進出することが可能になった。さらに、バクテリアのある個体が、クロロフィルとミトコンドリアを獲得して、太陽エネルギーを獲得・利用できるようになった。これは、生物にとって、革命的な出来事であった。バクテリア・ワールド(Bacteria world)の成立である。

バクテリアは通常は無性生殖である。広い環境に進出したので、単独で分裂・増殖したほうが効率がよい。しかし、生存のための環境条件が厳しくなったとき、接合(有性生殖)して個体間で遺伝子を交換する(図)。

%e6%8e%a5%e5%90%88

3つめは、CRISPR(クリスパー:Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)である。CRISPRは、アーキアとバクテリアで発見された獲得免疫のシステムで、遺伝子治療、ウイルス治療、ゲノム編集の方法として、近年、猛烈な勢いで研究が進んでいる。ただ、これについては、まだよくわからないことが多く、後述。

次に、真核生物の成立についてみてみる。真核生物は、アーキアが好気性のバクテリアを取りこんこんだことで、成立したと考えられている(Margulis,1967)。現在では、ミトコンドリアはαプロテオバクテリアに由来し、クロロフィルは、シアノバクテリアが起源と考えられている。マーギュリスは、これを「共生」と呼んでいるが、これについてはややこしいので後述。

シアノバクテリアとαプロテオバクテリアが登場すると、地球上にはそれまでとは比較にならないくらい大量の有機物が生成するようになったはずである。そこで、アーキアの中で、豊富なバクテリアを捕食する個体があらわれたと思われる。

%e7%9c%9f%e6%a0%b8%e7%94%9f%e7%89%a9

アメーバのように、バクテリアを捕食して細胞膜の中に取り込むと、バクテリアの遺伝子に自分の遺伝子が攻撃されたり、混じったりしてしまうので、「核」の中にDNAを入れて、隔離した。これが真核生物の起源と考えられる。真核生物のなかで、ミトコンドリアを吸収・利用するようになったのが動物と菌類で、ミトコンドリアとクロロフィルを取り込んだのが植物だ。(つづく)

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 12,453

生命の定義と起源 RNA world

個体間の遺伝子の交換は、真核生物、真正細菌、古細菌のすべてで行われているのであるから、有性生殖の起源は、生物が誕生してから間もなく始まったころまでさかのぼると思われる。そこで、生命の定義と起源について、一瞥する。

生命の起源は、誰も見たことがないし、実証が困難なので、ほとんどわかっていない。生命の定義についても、一般には、①自己複製、②内と外の境界、③代謝の存在などがあるが、これも定説というわけではない。

光合成を行わない生物(従属生物)の単純なモデルを作る。たとえば、大腸菌や納豆菌などの真正細菌(バクテリア)は、有機物を摂取してエネルギーと物質を利用し、自分の組織を合成する。真正細菌の場合は、ペプチドグリカンの硬い細胞壁をもっており、殻の外に酵素などの物質を放出して有機物を分解する。さらに、フェロモン様の物質を放出していることも知られている。つまり、実質的な系の範囲は、殻の外側に大きく広がっており、他の生物の系の範囲と重なっている。自分の身体に、生存に必要な量の2倍まで物質とエネルギーを蓄積したら、分裂して2個に増える。

%e7%b4%b0%e8%8f%8c

次に、もっとも単純(分子数が少ない)な生物を考えてみる。もっとも単純な生物をモデル化するには、生物の定義を決めなければならない。ここでは、もっともシンプルにして、「生物は、記録された情報をもとに不完全な自己複製をする化合物」とする。鉱物結晶などでも「自己組織化」はおきるが、生物は複製が不完全なことで、進化(変異)を可能にしている。ウイルスは単独では自己複製できないので、生物ではないという意見があるが、単独でなくても、周辺の環境を利用して自己複製していることには違いないので、ウイルスも生物に入れる。

もっとも単純な生物のモデルを作ってみると、図のようになる。記録された情報とエネルギーを利用して、取り込んだ物質から、自分と同じ化合物を合成(自己複製)することができる。細胞膜や殻はないが、クーロン力(荷電粒子間にはたらく力)など、力の作用がおよぶ範囲が系の範囲である。「記録された情報」というのが意味するのは、生物は歴史的存在であるということだ。

%e5%ae%9a%e7%be%a9

細菌よりも構造が単純なウイルスは、核酸とタンパク質の「殻」でできている。ウイルス核酸は、DNAとRNAの場合があり、それぞれ、DNAウイルス、RNAウイルスと呼ばれている。後者のほうがより原始的と考えられており、レトロウイルスともいう。ウイルスのDNA やRNAには、逆転写酵素、構造タンパク質、プロテアーゼなどがコードされている。

%e7%84%a1%e9%a1%8c

ウイルスよりも単純な「不完全な自己複製をする化合物」は、「ウイロイド」である。ウイロイドは、あまり知られていないが、農業では重要である。ウイロイドが初めて発見されたのは1971年で、植物病理学者のセオドール・ディーナーらによって、「ジャガイモやせいもウイロイド」が確認された。これは、トマトなどナス科の植物に感染して、株の矮化や着果不良の症状をおこす。ほかにも、キク矮化ウイロイド、リンゴさび果ウイロイド、リンゴゆず果ウイロイド、カンキツエキソコーティスウイロイドなどが知られている。ウイロイドは、塩基数がわずか200~400しかなく、環状の一本鎖RNAでできている。

%e3%82%a6%e3%82%a4%e3%83%ad%e3%82%a4%e3%83%89

ウイロイドのRNAはタンパク質のコードをもたない。すなわち、ウイルスのような「殻」や、自己複製ための逆転写酵素などを生産できない。ウイロイドが自己複製に利用するのは、宿主植物のRNAポリメラーゼⅡなどで、ローリングサークルによって自己複製すると考えられている。また、ウイロイドの中には、リボザイムを有するものがある。リボザイムは、触媒作用の能力があるRNAで、RNAを切断したり連結することができる。

%e3%83%aa%e3%83%9c%e3%82%b6%e3%82%a4%e3%83%a0

タンパク質の合成や自己複製が、DNAもしくはRNA上の情報によって行われていることが明らかになったことで、地球上にあらわれた最初の生命体はRNAであるという仮説が唱えられている。これは、のちに「RNA world」と呼ばれるようになった(Gilbert, 1986)。ウイロイドとリボザイムの発見は、RNAワールド仮説を補強するものである。

ここでは、RNAワールド仮説をもとに考察してみる。RNAワールドが存在したとすると、どのようにして最初のRNAは生まれたのであろうか。

RNAは、ヌクレオチド(リボ核酸)が、リン酸を介して強く共有結合(エステル結合)している。ヌクレオチドは、核酸塩基、リボース、リン酸で構成される。核酸塩基には、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)、ウラシル(U)がある。リボースは糖である。

アデニンC5H5N5
グアニンC5H5N5O
シトシンC4H5N3O
チミンC5H6N2O2
ウラシルC4H4N2O2
リボースC5H10O5
リン酸H3PO4

RNAの生成には、上記の材料が必須であるが、核酸塩基、リボース、アミノ酸などは、原始地球で、海への隕石の衝突、雷の放電、紫外線、熱水噴出孔などによって、無機物から生成することが可能とされている。また、リン酸は地殻に存在する。

rna

材料を合成するには、エネルギーが不可欠で、RNAのような大きな分子が生成するには、連続的なエネルギー供給が必要である。地球上の連続的なエネルギーとしては太陽があるが、RNAやDNAは、活性酸素で簡単に壊れるので、酸素と太陽光線のあるところでは存在するのが難しい。太陽以外で化合に使えそうなエネルギーとしては、雷、隕石、地熱があるが、連続的にエネルギーを得られるのは、温泉(熱水)である。

真正細菌の系統樹の中心付近には、好熱菌が多く見られるため、最初の生命体は好熱菌であろうという説は以前からあった。最近、熱水噴出孔によって形成されるチムニー(煙突)で、最初の生命が誕生したのではないかというモデルが提出されている(下図、文献参照)。

%e3%83%81%e3%83%a0%e3%83%8b%e3%83%bc

このモデルはすばらしいアイデアではあるが、図のように高分子化が進むとはあまり考えられない。自己複製する性質を持つ化合物ができるには、化合、分解、縮合を、気が遠くなるほど、繰り返さなければならないはずだ。5種類の核酸塩基を50個並べる場合の数は、550/2通りある。物資とエネルギーが一方向に流れるような系では、不可能である。

熱水のエネルギーを利用するには、絶え間ない「流れ」がないと、エネルギーを利用できないが、流れがあると、化合物は海水中に拡散してしまって、大きな化合物ができない。「物質の流れがあって、物質が流れない」ような、環境が必要である。

さらに、物質は高温になるほど化合あるいは分離しやすく、低温ほど縮合しやすい。物質が化合、分離、縮合を繰り返すには、周期的な温度の変動が必要である。以上の条件を満たすような環境を考えると、図のようモデルが考えられる。

rnaworld

熱水の噴出によってチムニー(煙突)が形成されるが、チムニーの内側は、流速が速いので水圧が低くなる。チムニーは、熱水に溶けていた金属元素などが、海水で冷やされて沈殿したものなので、隙間だらけであろう。この隙間を通って、外側から冷たい海水が流れ込んでくる。隙間の中には、無数の小さな空間が存在していて、そこを海水が流れると、空間の中で小さな「渦」ができる。この渦こそが、「物質の流れがあって、物質が流れない」場所である。渦の中心には物質が集まってとどまるので、繰り返し、化合、分離、縮合する条件ができる。さらに、化合物はランダムに外に流れ出る。

この微小な「熱水渦」は、場所によって温度や含有元素が異なるため、さまざまな種類の化合物が生成することが可能になる。熱水渦の複合構造が無数に存在し、何十万年ものあいだ、化合、分離、縮合を繰り返すことで、「不完全な自己複製をする化合物」である始原RNAが誕生したのではないだろうか。始原RNAは、「渦の高温域」で化合が行われ、低温~中温域では縮合し、「流れる高温域」で分離して、自己複製を完成させる。

海水中にRNAが増えてくると、リボザイムによって周辺のRNAを切断して、自己複製のための材料を調達する「種」があらわれる。ダーウィン進化論では、伝播(自己複製)、変異、生存闘争、自然淘汰によって進化が進む。「自然淘汰」という言葉は、自然という言葉が入っているために、自然環境に適応できずに淘汰されるというイメージがあるが、正確には、そういうことではない。生物種は、ライバル種との生存闘争に敗れて絶滅する。そして、「一番厳しい闘争が演じられるのは、ほぼ決まって同種の個体間においてである」(ダーウィン)。最大のライバルは「自分自身のコピー」(ドーキンス)である。自然淘汰の本質的な意味は、自分自身のコピーとの生存闘争によって淘汰されるということだ。

遺伝子がもつ情報は「歴史的存在」なのであるから、生物進化の本質は、生物が誕生して以来、とぎれることなく「伝播」しているはずだ。すなわち、RNAがリボザイムを有するようになったのは、他のRNAを切断して、自己の複製に利用できたためと考えられる。(つづく)

文献
Early bioenergetic evolution
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/royptb/368/1622/20130088.full.pdf
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
シュレーディンガー、1944、生命とは何か、岩波書店、1951

自然農法とは何か: ゆらぎとエントロピー
電子園芸BOOK社 (2016-12-11)
売り上げランキング: 37,399

有性生殖が存在する理由を考える

共倒れからの考察のつづき。

植物の本などを読んでいると、「栄養生長」や「生殖生長」という言葉がよく出てくる。作物を育てる場合、コマツナ、ルッコラ、京菜のように、栄養生長の初期で収穫するものもあるし、キャベツやハクサイのように、ある程度まで生長させるが、生殖生長が始まって抽苔すると商品にならないものある。逆にブロッコリーや菜花は、抽苔させないと花蕾ができないし、菜種油は種子を収穫する。これららすべて、同じアブラナ科に属する植物だ。もちろん、穀物や果樹では、子実や果実を稔らせる。

植物の繁殖では、挿し木、根茎、根塊などで栄養繁殖させる方法があるが、多くは株同士を交配させる種子繁殖だ。植物の種子繁殖は有性生殖であり、減数分裂によって2倍体の生殖細胞から、1倍体の配偶子が生じる。その際、相同染色体の一部を交換する「組換え」が起きる。植物は、自家交配を防ぐために、雌雄異花、雌雄異熟、自家不和合、雌雄異株など、様々な機構を有している(2016年2月25日ブログ参照)。

%e6%b8%9b%e6%95%b0%e5%88%86%e8%a3%82

どうして、植物や動物は、こんなに面倒な有性生殖を行うのであろうか?性がオスとメスに分かれていると、交配する相手を探さないといけないので、無性生殖にくらべてコストが高くつく。とくに、雌雄異株(ブドウ科、イチョウなど)の雄木や、動物のオスは、種子や子供を産まないので、2倍以上のコストがかかる(Maynard Smith,1978)。さらに、動物のオスは、メスをめぐる闘いで敗れると遺伝子を存続できないし、ときには命を落とすこともある。自分の遺伝子を残すのなら、無性生殖のほうが断然コストが低いはずだ。

有性生殖の理由については、いくつかの説が唱えられている。

有性生殖では、交配と組換えによって、種の内部の遺伝的多様性が大きくなることで、環境の変化に対応できるという説がある。たとえば、「寒さに耐える遺伝子」や、「乾燥に強い遺伝子」が突然変異でできたとする。これらの遺伝子が、種の中に存在すれば、寒い年や乾燥の年がやってきても、全滅しないので、遺伝的多様性は、個体と種の存続に有利であることは間違いないであろう。ただし、遺伝子の多様性は無性生殖でも同じなので、変異(情報)の交換というところが、有性生殖の有利性である。

有害遺伝子蓄積説もよく知られた説だ。これは、無性生殖では、有害遺伝子が生じても、遺伝子の組換えが起こらないので、有害遺伝子を排除することができないというものだ。しかし、「有害」というのは、生存に有害という意味なのだから、有害遺伝子は自然淘汰によって死滅してしまうはずだ。ダーウィン進化論の基本であり、無性生殖でも有性生殖でも同じことである。

有性生殖の方が、遺伝子の攪拌が行われるので、環境に適応するスピードが速いという説もある。しかし、突然変異は自己複製の際のコピーミスのことなので、突然変異がおこる確率は無性生殖の生物も有性生殖の生物も変わらないはずだ。すなわち、適応スピードは、増殖スピードに左右される。無性生殖の細菌と有性生殖の動物では、細菌のほうがはるかに増殖スピードが速い。なので、これは逆であろう。

真核生物は、ミトコンドリアを獲得したことで、細胞内の活性酸素が増加した。活性酸素によってDNAが傷つきやすくなったため、有性生殖によってこれを修復しているという説もある。しかし、もともとミトコンドリアは好気性細菌のある種が、真核細胞に共生することによって獲得されたと考えられているので、真正細菌が一般に無性生殖であることを説明できない。

もっとも、真正細菌の大腸菌にはオスとメスの性が存在し、オス細菌とメス細菌が接合して、遺伝子を交換していることがわかってきた。ただし大腸菌の組換えが行われるのは、きわめてまれらしい。さらに、古細菌の好熱性菌では、生存条件が悪くなると、細菌同士が融合して、遺伝子の増幅や交換が行われることが知られている。

すなわち、個体間の遺伝子情報の交換は、真核生物、真正細菌、古細菌のすべてで行われていることになる。

有性生殖の理由として、有力なのは、「赤の女王仮説」(Van Valen,1973)だ。生物は、宿主とその寄生者とのあいだで絶え間ない軍拡競争を行っている。一般には、ウイルスや細菌などの寄生者のほうが、宿主よりも適応スピードが速い。そこで、植物や動物などの宿主生物は、有性生殖によって、生存に有利な遺伝子を、集団内で交換して共有したほうが、生存確率が高まる。集団遺伝学でいうところの「遺伝子プール」だ。

ただし、赤の女王仮説だけでは、どうして雌雄異株の雄木や動物のオスが、種子や子供を産まないのかの理由の説明が十分とはいえない。(つづく)

自然農法とは何か: ゆらぎとエントロピー
電子園芸BOOK社 (2016-12-11)
売り上げランキング: 16,448

自然農法とは何か ゆらぎとエントロピー

目次

序、自然農法を書く理由

自然農法について調べ始めたのは、20年くらい前のことだ。一番の理由は、福岡さんが存命のうちに、会って話を聞いておかないと、二度と聞けなくなると思っていたからだ。農業のことを多少でも知っている人なら、福岡さんの主著である『無』を読めば、その先駆的な内容にびっくりするであろう。福岡さんが自然農法に取り組み始めたのは1937~38年であり、『無』が最初に発表されたのは、終戦直後の1947年だ。ハワードの『農業聖典』の発表が1940年なので、ほぼ同時期である。

有機農業や自然農法についての本は山ほど出版されているが、読んでみて、「なるほど」と思える本はほとんど無い。有機農業の理論については、『農業聖典』を超えるテキストはないし、自然農法では『無』以上の本は存在しない。両方とも70年も前の本だ。

福岡さんや川口さんに会って話を聞いたあと、2003年に自然農法の稲作について、短い文章を書いた。しかし、それ以上、自然農法について書く熱意を無くしてしまった。有機農業についても同様で、何十人もの有機農家に会ってきたし、同じころにアメリカの有機農場を何軒も尋ねて短い文章を書いたりした。しかし、やはり有機農業についても、それ以上書く熱意を無くしてしまった(2016年にようやくまとめた)。

有機農業も自然農法もちゃんと理解しようとすれば、大量の歴史書や技術書に目を通さないといけなし、膨大な数の現実の農家に会って、目で見て、きれいごとではない本音を聞き出さないと、文献の信頼性や有用性を見抜けない。それを他の人に伝えるには、さらに何倍ものエネルギーがいる。そんな時間もないし、意味もないのではないだろうか・・・。いつの間にか、十数年もの月日がすぎ、福岡さんも亡くなってしまった。

農業や農家のことを知れば知るほど、根源的なところでは、みなそれほど違わない。アメリカの世界最大の有機農場も、数千ヘクタールの慣行農家も、日本の小さな直売農家でも、まったく同じ農業の言葉が通じる。同じ人間である以上、生きることや生き方には大きな違いがあるわけではないし、ましてや農家は同じ仕事に従事している。

もちろん、農家の生き方には、それぞれの個性がある。個性は農業技術や経営方法にあらわれるが、作物がじっさいに収穫できているということは、そこには科学的な合理性がかならず存在するし、経営が成り立っているということは、かならず経済的な有利性が存在する。

逆に、理論や思想がどんなに立派でも、作物が収穫できなかったり、経営が成り立たなければ何の意味もない。最新の植物工場のように、どんなに最先端の科学技術を駆使して、経営的なノウハウを持った大企業が投資しても、合理性と有利性がなければたちまち潰れてしまう。

その意味では、有機農業だからとか、自然農法だからとか、ことさら取り上げることは、論理的には意味が無い。どのような農法であろうが、どのような経営方法であろうが、法や倫理に反しなければ、すべて自由であり平等だ。ただ、未来の人類のために、環境や資源を残しておくことは、現代に生きる我々の義務であり、我々自身のためでもある。そのことを無視することはできない。

有機農業や自然農法には、宗教の問題もある。おもなところでは、ルドルフ・シュタイナーの人智主義思想や、岡田茂吉を教祖とする世界救世教の農法などが存在する。私は、無神論者なので、宗教的な教義やそれに基づく農法にはまったく関心がない。もっとも宗教や信仰の自由は、世界中で認められており、宗教自体を否定したり批判したりはしないが、肯定することもない・・・・・

1、有機農業の黎明
ルドルフ・シュタイナー
アルバート・ハワード
01%e3%83%8f%e3%83%af%e3%83%bc%e3%83%89
F・H・キング
イブ・バルフォア
J・I・ロデイル
ハンス・ミュラーとマリア・ビグラー

2、環境問題とオーガニック市場の成長
レイチェル・カーソン『沈黙の春』の衝撃
03%e3%82%ab%e3%83%bc%e3%82%bd%e3%83%b3
IPM(総合的病害虫管理)の始まり
生物多様性
オーガニック市場の急成長

3、リン資源の枯渇
リン獲得のコスト
リン施用の歴史
リン資源の枯渇

4、福岡正信
自然農法のはじまり
懐疑=「知」のゆらぎ
05%e7%a6%8f%e5%b2%a1
宗教
自然農法の四大原則=結果の可能性と可用性
耕耘
肥料
雑草
病害虫

5、クローバー草生米麦連続不耕起直播
作業手順
品種
雑草対策
粘土団子
肥料

6、農業技術者、農業指導者としての福岡正信
現代の農業に与えた影響
二人しかいない福岡さんの弟子
浅野祐一さん
付記

7、川口由一
自然農を開始するまで
自然農の稲作り
草が土を肥沃にする
16%e5%b7%9d%e5%8f%a3
赤目自然農塾
付記

8、木村秋則
リンゴの自然栽培
草生栽培と病害虫
草生栽培と栄養素(養分)

9、エネルギーとエントロピー
ハワードの自然観
福岡正信の自然観
現代人が生きる世界

10、補、腐植栄養説と無機栄養説
アルブレヒト・テーア
カール・シュプレンゲル
ユストゥス・フォン・リービヒ
有機態窒素を吸収する作物

11、補、窒素を固定する生物
マメ科作物の利用の歴史
窒素固定菌の種類
根粒菌

12、補、難溶リンを吸収する植物
土壌中のリンの形態
難溶リンを吸収できる植物

あとがき
文献

Kindle Unlimitedのサービスなら、30日間は無料で無制限で読めます。

https://www.amazon.co.jp/gp/kindle/ku/sign-up?ref=snpl_3_1_347975289&qid=1474415220&pf_rd_p=347975289&pf_rd_m=A1VC38T7YXB528&pf_rd_t=301&pf_rd_s=desktop-signpost&pf_rd_r=17EPT2H81ZKRNF720CRX&pf_rd_i=Kindle+Unlimited