多細胞生物の「構造的な選択」:“Structural selection” of multicellular organism

安定した遺伝子プールにおける表現型変異の速度は、以下の式であらわされると述べた。

rm=p0m/tg
rm:遺伝子プールの表現型変異の速度
p0:個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率
m:遺伝子プールの個体数
tg:世代時間

この式から、生物種がライバル種などに勝って生き残るためには、mを大きくするか、tgを小さくして、表現型変異の速度を大きくしなければならない。mを大きくするには、群れで行動したり、1か所に集まって集団で繁殖したりする方法がある。昆虫、魚類、鳥類、魚類、哺乳類では、群れや集団繁殖の行動がしばしば見られる。また、それぞれの群れの間を、オスまたはメスが移動して、遺伝子プール全体を大きくする習性も見られる。

ただし、上の式は、単細胞生物と多細胞生物では、数の意味が異なる。単細胞生物ではDNAの複製そのものが、個体の複製であるが、多くの多細胞生物では、DNA複製は生殖細胞の分裂時に行われ、異性の配偶子が接合することで個体の複製が完成する。

そこで、世代時間tgを詳しく見ると、以下のような時間が存在する。

tg1:単細胞生物の複製間隔
tg2:多細胞生物の生殖細胞の複製間隔
tg3:多細胞生物の個体の複製間隔

tg1とtg2は、1個の細胞が2個に分裂する時間の間隔なので、それほど大きな差がなく、以下の関係になる。

tg1≒tg2

tg3は、多細胞生物の個体の世代時間なので、きわめて大きな値になる。

tg1≒tg2≪tg3

このことから、世代時間でみると、多細胞生物の個体の変異速度は、単細胞生物にくらべてきわめて小さくなり、生存闘争において不利である。

一方、変異確率p0は、以下のような確率が存在する。

p01:単細胞生物の個体の1回の複製時の変異確率
p02:多細胞生物の生殖細胞の1回の複製時の変異確率
p03:多細胞生物の個体の1回の複製時の変異確率

不完全な複製によって変異が生じるのは、遺伝子が複製して細胞が分裂するときなので、変異確率は次の関係になる。

p01=p02

多細胞生物の個体の複製時の変異確率p03は、生殖細胞の分裂回数が多いほど、大きくなるので、以下のようにあらわされる。

p01=p02≪p03

すなわち、変異確率でみると、多細胞生物の個体の変異速度は、単細胞生物にくらべて大きくなり、有利である。

以前のブログで、「生存に有利な変異の速度が「適応速度」であるが、変異は中立であり、変異が生存に非有利か有利かはアプリオリには決まらない。すなわち、適応速度は、アプリオリには決まらず、自然選択の「結果」としてしかわからない。種の適応速度を、構造的に左右しているのは、おもに表現型変異の速度である。」と書いた。

しかし、魚類、哺乳類、植物などの多細胞生物は、大量の配偶子を放出し、配偶子の一部が選択されて接合し、個体の複製が完成する。すなわち、多細胞生物の個体の複製では、すでに、「選択」の「結果」が含まれている。

魚類は、生殖細胞を大量に複製することで、遺伝子の変異速度を大きくし、複製した大量の配偶子を水中に放出して、有害な変異を排除し、正常あるいは有利な変異が選択されて受精する。これは、自然まかせの選択(natural selection)というより、コントロールされた「構造的な選択」(structural selection)である。その「構造選択」によって、適応速度を大きくしている。また、受精卵を大量に生産することでも変異速度を大きくし、構造選択とその後の自然選択によって、適応速度を大きくしている。

鳥類や哺乳類では、卵管を長くすることで、配偶子を構造的に選択して適応速度を増大させ、さらに、受精卵の着床に時間をかけることで構造的に選択している。

■単細胞生物:中立変異→自然選択→適応

■多細胞生物:中立変異(大)→構造選択→自然選択→適応
・生殖細胞の大量複製によって、変異速度を大きくする
・配偶子を大量放出して、構造選択によって、適応速度を大きくする
・受精卵を大量生産して変異速度を大きくし、構造選択と自然選択によって、適応速度を大きくする
・配偶子や受精卵の成長初期に、構造選択と自然選択で選別することで、複製コスト(利用資源)を小さくする

論理的には、遺伝子プールが小さな生物種ほど、大量の配偶子と受精卵を放出しなければならない。マンボウが3億個もの卵を産むのは、遺伝子プールの個体数が小さいためと考えられる。大きな群れを作るヌーやトムソンガゼルが1頭しか子供を産まないのに対して、ライオンは複数の子供を産む。これは、草食動物は出生後すぐに立ち上がって天敵から逃れなければならず、肉食動物のほうは草食動物に比べて遺伝子プールが小さいためであろう。(つづく)

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遺伝子の交換と組換え(有性生殖)の有利性:Advantage of gene exchange and recombination (sexual reproduction)

生物のDNA(化合物のコード)が生成するのは、DNAが自己複製するときである。有性生殖の遺伝子の交換と組換えでは、新たなDNA(化合物)が生成するわけではないが、新たな機能(情報)を持った遺伝子が生成する可能性はある。

もし、自然選択の要素、すなわち、競争者、捕食者、寄生者や環境変化への対抗に必要な変異が、1か所だけでよいのであれば、無性生殖のほうが、有性生殖より有利である。個体(細胞)の1回の複製時に表現型変異が起きる確率は無性生殖も有性生殖も同じであり、有性生殖では、異性との遺伝子の交換に大きなコストがかかるからである。

複数の形質の獲得

しかし、自然界では、競争者や寄生者は複数存在するのが普通であるし、環境要素も、温度、水分量、酸素量、光線量など多くの選択要素が存在する。たとえば、ウイルスの寄生と、気象変動による低温という2つの新たな脅威に直面した場合、1つの形質だけでは生き残ることができず、2つの形質を獲得しないと生存確率は低くなる。複数の形質を獲得しないと生き残れないような環境では、有性生殖のほうが無性生殖よりも生存確率が高くなる。

交換組換え

1次構造の組み合わせによる高次構造

ヘモグロビンは、脊椎動物などの赤血球の中に存在し、酸素と結合したり遊離したりして、全身に酸素を運搬するタンパク質である。

ヘモグロビン

ヘモグロビンの構造は、Max Perutz(1914-2002)によって、30年かけて解明された。ヘモグロビンは、αとβのサブユニットとから成る4次構造の4量体タンパクである。αサブユニットは141個、βサブユニットは146個のアミノ酸から成り、全体の分子量は64,500に達する。このような、巨大で高次の分子構造を作り出す遺伝子が、生命が誕生してから現在までの間に、単系統(無性生殖)で獲得されることは不可能であろう。

自動車などの工業製品は、多数の1次部品を組み合わせて高次構造が作られるように、異なる系統間で、遺伝子の交換と組換えを行わなければ、このような高次の進化は実現しない。1次構造の遺伝子を組み合わせて、高次構造の遺伝子を生成するには、有性生殖が必須である。

1次機能の連続的な組み合わせによる高次機能

生物では、多数の生化学反応を連続して進めることで、高次の生化学反応を行う機構が多く存在する。たとえば、代謝反応では、解糖、TCAサイクル、電子伝達、光合成、アミノ酸代謝などがあり、DNA複製も連続した生化学反応から成り立っている。化学工場で製造ラインに製品を流しながら様々な工程で連続的に化学反応を進めるように、複数の遺伝子の機能を組み合わせることで、高次の機能を実現している。

tca

これらのことから、遺伝子の交換と組換え(有性生殖)の仕組みが無ければ、身体の構造と機能が複雑な高次の生物は、地球上に登場しなかったと考えられる。それが、「高等生物」が有性生殖である理由だ。

変異速度1

安定している遺伝子プールで、個体の1回の複製時に、表現型変異が起きる確率をp0とする。単系統で時間tの間に表現型変異が起きる確率pi(t)は、以下の式で与えられる。

pi=1-(1-p0n
n=t/tg
tg:世代時間

また、個体数(系統数)mの遺伝子プールでは、1回の複製時に表現型変異が起きる確率pm1は、次式になる。

pm1=1-(1-p0m

この遺伝子プールで、時間tの間に表現型変異が起きる確率pm(t)は次式になる。

pm=1-(1-pm1n
=1-(1-(1-(1-p0m))n
=1-(1-p0mn
pm:遺伝子プールで表現型変異が起きる確率

1-p0<1なので、p0とmが大きいほど、tgが小さい(n=t/tg)ほど、pmが大きくなる。ただし、p0の値には上限が存在する(前回ブログ参照)。

次に、遺伝子プールで、個体の1回の複製時に、表現型変異が起きて遺伝子aが生成する確率をpa、別の遺伝子bが生成する確率をpbとする(ただし、変異が生存に非有利か有利かはアプリオリには決まらない)。単系統でaが生成する確率をpai、bが生成する確率をpbi、単系統でaとbの両方が生成する確率をpabiとすると、以下の式になる。(n=t/tg

pai=1-(1-pan
pbi=1-(1-pbn
pai∪pbi =(1-pa-pbn

pabi=pai∩pbi
=pai+pbipai∪pbi -1
=1-(1-pan-(1-pbn+(1-pa-pbn

個体数(系統数)mの遺伝子プールで、遺伝子aが生成する確率をpam、遺伝子bが生成する確率をpbm、遺伝子プールの単系統(無性生殖)でaとbの両方が生成する確率をpabimとすると、以下の関係になる。

pam=1-(1-pamn
pbm=1-(1-pbmn
pabim=1-(1-pabim
=1-((1-pan+(1-pbn-(1-pa-pbnm

確率

もし、ある環境条件で生存するためには遺伝子aとbの両方が必要であった場合、無性生殖の単系統でaとbの両方の遺伝子を獲得する確率よりも、異なる系統で生成した遺伝子を有性生殖で交換したほうが、両方を得られる確率が大きい。(つづく)

文献
Donald Voet、Charlotte Pratt、ヴォート基礎生化学、東京化学同人

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表現型変異の速度:Phenotypic mutation speed

生物の自己複製を、以下のように分類する。

複製 非変異
変異 非表現型
表現型 非生存
生存 非有利
有利

複製には非変異と変異があり、変異には非表現型と表現型がある。表現型変異には有害な非生存の変異と生存可能な変異がある。表現型の生存可能な変異には、生存に非有利な変異と有利な変異がある。ただし、変異が非有利か有利かは、競争者、捕食者、寄生者、環境条件などによる自然選択の結果によって決まる。

生存条件が良好なときは、表現型変異の非生存以外はすべて生存できるので、個体数が増えて、かつさまざまな変種や新種が分化する。強力なライバル種が現れたり生存条件が悪くなったりすると、非変異や非表現型変異の個体でも生存できなくなり、表現型変異のうち、生存に有利な変異だけが生き残る可能性がある。

生存に有利な変異の速度が「適応速度」であるが、変異は中立であり、変異が生存に非有利か有利かはアプリオリには決まらない。すなわち、適応速度は、アプリオリには決まらず、自然選択の「結果」としてしかわからない。種の適応速度を、構造的に左右しているのは、おもに表現型変異の速度である。

種の個体数は、季節の変動や地球環境の変動によって、増加したり減少したりする。競争排除則と赤の女王仮説によれば、競争力の弱い種は、次第に個体数を減らして絶滅してしまう(文献)。逆に競争力がきわめて高く、個体数が増加しつづける種が存在すれば、利用資源を大量に消尽して、ライバル種や被捕食種を絶滅させてしまうはずだ。ただし、その場合でも、マルサスとロジスチック方程式によって、環境収容力を超えて増加することはできない。超タカ派に変異して、絶滅する確率も高くなる。

現存している生物種は、絶滅しておらず、他の生物を絶滅させてもいないので、現存する生物種の個体数は、長期的には安定していると考えられる(人間をのぞく)。

変異速度1

生物種の個体数が長期的には安定のとき、種の1つの個体が自己複製を繰り返して、長期的に生存している場合(単系統)を考える。複製から次の複製までの時間をtg、時間t後の個体数は1のままとすると、時間tの間の複製回数はt/tgである。個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率をp0とすると、時間tの間に、単系統で表現型変異が起きる回数ci(t)は、以下の式で与えられる。

ci=p0t/tg
p0:個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率
tg:世代時間

単系統の表現型変異回数の時間あたりの変化量をriとすると、riは単系統の表現型変異の速度を意味している。

ri=dci/dt
=p0/tg
ri:単系統の表現型変異の速度

次に、個体数mの遺伝子プールでは、時間tの間に表現型変異が起きる回数cm(t)、遺伝子プールの表現型変異の速度rmは、以下の式で与えられる。

cm=p0mt/tg
rm=dcm/dt
=p0m/tg
rm:遺伝子プールの表現型変異の速度
m:遺伝子プールの個体数

上記の式から、生物種の個体数が長期的に安定である場合、p0、mが大きいほど、あるいはtgが小さいほど、rmが大きくなることがわかる。

p0が大きいほどrmが大きくなり、競争者や寄生者への対抗に有利であるが、p0には閾値が存在する。p0が大きくなるほど、非変異と表現型の非変異の確率が小さくなり、また変異は中立なので、非生存の確率が大きく(生存確率が小さく)なってしまうからである。

変異確率1
p0:個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率
rm:遺伝子プールの表現型変異の速度
s:変異後の生存確率

また、有性生殖では、p0の値にはさらなる限界がある。有性生殖での遺伝子の交換と組換えは、同種の異性の個体間で行われる。表現型の変異が生存可能な変異の範囲内であったとしても、異性の個体間の遺伝的な距離(差異)が大きくなって、遺伝子の交換ができなくなってしまえば(大型犬と小型犬など)、遺伝子プールの個体数mの大きさを維持することができない。

すなわち、p0が大きくなるとrmは大きくなるが、p0がさらに大きくなると、mは大きな値をとれなくなって、rmも大きくならない。

変異確率2
m:遺伝子プールの個体数

このように、p0の値には限界があるので、rmを大きくしてライバル種に対抗するには、mを大きくするか、tgを小さくするしかない。

なお、環境中に大きなニッチが生じたり、生存条件が良好になったりして、mが増加しているときは、

dm/dt>0
drm/dt>0

となるので、rm→大となって、変種や新種が生じやすくなる。

逆に、生存条件が悪化したり、個体数が環境収容力に近づいて生存競争が激化すると、mは増加しなくなるので、

dm/dt<0
drm/dt<0

となり、rm→小になる。

地球環境の大変動がおきて、急激にm→小になると、生物種は環境変化に対応することが難しくなり、大量絶滅につながる可能性が高まるが、その一方では、ライバルがいなくなった世界で、生存に有利な変異だけが生き残って、次の大進化と大増殖の条件ができる。(つづく)

文献
マルサス、1798、人口論、光文社、2011
Leigh Van Valen, 1973, A new evolutionary law
https://dl.dropboxusercontent.com/u/18310184/about-leigh-van-valen/Piglet%20Papers/1973%20new%20evol%20law.pdf

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有性生殖だから遺伝的多様性が大きいというわけではない:It is not that genetic diversity increases by sexual reproduction

ウイルスは、RNAまたはDNAと、それを包むタンパク質の殻(カプシド)から成る。その大きさは、数十nm~数百nmとされる。n(ナノ)は10−9倍である。ウイルスは細胞膜をもたず、ATPやタンパク質合成もできない。ウイルスは単独では自己複製できず、宿主生物に寄生したときだけ増殖できる。ウイルスは自己複製の際に遺伝子が変異するだけでなく、異なる株のウイルス間で、断片化された遺伝子を組換えて(viral sex)、両方の性質をもった子孫ウイルスが生まれることがあるとされる(文献参照)。

ウイルスセックス

アーキア(古細菌)の大きさは、0.5µm~数µmで、最大のものは10数µmである。µ(マイクロ)は、10−6倍である。ほとんどは球菌または桿菌であるが、アメーバのような種や、複数の細胞が集合する種も存在する。アーキアは、同種の個体間で接合し、壊れたDNAを修復したり、遺伝子を交換して組換えることがある。

バクテリア(真正細菌)は、古細菌とほぼ同じ大きさで、0.5µm~5µmである。最大では、750µmに達する種が知られている。一般には無性生殖で増殖するが、生存条件が厳しくなったとき、接合(有性生殖)して遺伝子を交換する。

真核生物で最小といわれるプラシノ藻は、アーケプラスチダ、緑藻植物門の単細胞生物で、大きさは1µm~数µmしかない。葉緑体は1個しかないが、光合成によって水とCO2から糖を生産できる。おもに、無性生殖で増殖するが、接合して有性生殖する種も報告されている。

プラシノ

ゾウリムシは、アルベオラータ、繊毛虫門の単細胞生物で、長さ90µm~150µm、幅40µmほどの大きさである。細胞表面の繊毛で運動し、細菌や酵母などを捕食する。無性生殖のときは、2つに分裂する。有性生殖では接合して遺伝子を交換するが、細胞そのものは融合しない。

ゾウリムシ

酵母は、真核生物で、菌界子嚢菌門の単細胞生物である。糖を分解してアルコールとCO2を生じる(アルコール発酵)。「酵母」とは、生物学上の分類ではなく、多くの異なる種が含まれる。大きさは直径 3〜4µmであるが、40µmまで成長するものもある。

代表的な酵母に、サッカロミケスがある。サッカロミケスは、醸造、パン発酵などに広く用いられ、人間にとってきわめて重要な種である。カビなどと同じ子嚢菌門であるが、菌糸はない。栄養分が豊富にあると、2時間ごとに出芽して分裂・増殖するが、これを出芽酵母と呼ぶ。出芽酵母は、母細胞が成長して大きくなると、細胞に出芽が生じて娘細胞となり、娘細胞は成長して大きくなる。両者が同じ大きさ(もとの2倍)になったときに、2つに分裂する。これは、無性生殖であり、自己複製してクローン分裂する。

出芽酵母

サッカロミケスには、aとαの2つの性が存在する。これらは染色体数が1本しかない1倍体(n)である。aとαは、栄養分が枯渇すると、フェロモンによって相手を区別し、接合する(有性生殖)。このとき、フェロモンをより多く出している異性を選ぶ。異性と接合すると、細胞が融合して、2倍体(2n)の分裂酵母になる。2倍体の分裂酵母は、栄養条件が良いときは、出芽して増殖するが、栄養条件が悪くなると遺伝子の組換えと減数分裂が起きる。4つに分裂して、それぞれ1倍体の細胞になる(図)。

酵母サイクル

分裂酵母では、aとαがそれぞれ成長して2倍の大きさになったとき、aとαは接合して減数分裂し、4つの子供細胞ができる。これは、大きさ(蓄積資源量)でみれば、2つの細胞の大きさが2倍になったとき、4個(2倍)になるので、出芽酵母(無性生殖)と同じ比率である。

分裂酵母

酵母は、生育条件が良好な環境では無性生殖で増殖し、条件が悪くなると異性と接合して生き延びようとする。つまり、生存条件が良いときは、無性生殖が有利で、生存条件が悪いときは、有性生殖のほうが有利ということを示している。

また、有性生殖の本質は、「同種の個体間の遺伝子の交換と組換え」であると考えると、ウイルスを含むすべての生物で、遺伝子の交換と組換えが起きる。

減数分裂

有性生殖の減数分裂では、まず生殖細胞でDNA複製が行われ、元の染色体と同じ配列の2本の染色体が生成される(姉妹染色分体)。次に、姉妹染色分体同士が対合して2価染色体を形成し、組換えが行われる。その後、それぞれの相同染色体が分離して、減数第1分裂が終了する。つづいて、減数第2分裂が始まり、2の姉妹染色分体が別れ、配列の異なる4つの配偶子ができる。

このような有性生殖の遺伝子の交換と組換えは、一般には、遺伝子の多様性を大きくする仕組みと考えられている。しかし、遺伝子の変異が起きるのは、複製によってDNAが合成されるときである。また、変異というのは、「不完全な自己複製」のことであり、中立説では、突然変異は偶然に、中立に起きる。

遺伝子の交換と組換え時にも、何らかの「不完全さ」が生じる可能性はあるが、組換え時にはDNA合成が行われるわけではないので、1次的な機能をもった遺伝子が新たに生成する可能性は小さい(後述)。すなわち、複製の不完全さ(変異確率)そのものは、無性生殖も有性生殖も同じと考えられる。

遺伝子の多様性というのは、種の遺伝子プール内の個体の遺伝子の差異のことである。遺伝子プール内で生じる時間当たりの変異の数が、無性生殖も有性生殖も同じならば、時間当たりに生じる遺伝子の多様性は、無性生殖も有性生殖も同じであるはずだ。

一般に、生物が有性生殖を行うのは、遺伝子の多様性を増すためと解釈される。しかし、遺伝子プール内で生じる時間当たりの遺伝子の差異は、無性生殖も有性生殖もほぼ同じと考えられ、遺伝子の多様性という理由では、コストが高い有性生殖の有利性を説明できない。(つづく)

文献
Umene K. Mechanism and application of genetic recombination in herpesviruses. Reviews in Medical Virology. 1999
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10479778?dopt=Abstract
Ascospore Formation in the Yeast Saccharomyces cerevisiae
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1306807/
減数分裂時に起こる遺伝的組換え機構
https://www.nig.ac.jp/museum/genetic/07_b.html

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寿命はなぜ存在するのか:Why does life span exist?

地球の大きさと、太陽から地球に注ぐ、時間当たりのエネルギーの量(エネルギー流速度)には、限界がある。そのため、「必然性、すなわち厳然と全体を支配する自然の法則が、生命の数をあらかじめ定められた範囲内に制限するのである。植物も動物も、この偉大なる制限の法則のもとで縮こまる。」(Malthus、1798)。すなわち、古い個体(遺伝子)が死なないと、次の世代の個体(遺伝子)は生存することができない。次の世代が生まれないと、自己複製とそれに伴う複製ミス(変異)が起きないので、生物は進化(変異)しなくなる。

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古生物の考古学的な絶滅の証拠と、赤の女王仮説(Valen,1973)によれば、種は絶え間なく進化(変異)しつづけなないと、生存しつづけることができない。種の遺伝子プールが、古い個体(遺伝子)ばかりで占められて、新たな変異(遺伝子)があらわれなければ、その種は、捕食者、寄生者、競争者に敗れ、あるいは環境変化に対応できず、絶滅してしまう。

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上の2つの理論から、生物の個体には、寿命が存在することが、論理的に必然である。生物種の寿命は、種にとっての環境収容力K(利用資源、空間など)が大きいほど、あるいは、競争者、寄生者、捕食者が少ないほど、長くなると考えられる。

なお、ドーキンスの定義によれば、個々の生物は、「遺伝子の乗り物、すなわち遺伝子機械」とされる。別の言い方では、「生存機械」、「遺伝子の受動的な避難所」、「ライバルとの化学的な戦いや偶然の分子の衝撃の被害から身をまもる壁」などと述べられている。また、「遺伝子」(gene)は、「十分に存続しうるほどには短く、自然淘汰の意味のある単位としてはたらきうるほど十分に長い染色体の一片」と定義されている。あるいは、「自然淘汰の単位として役立つだけの長い世代にわたって続きうる染色体物質の一部」とか「複製忠実度のすぐれた自己複製子」などとされる。有性生殖を行う生物では、「性と交叉によって遺伝子プールはよくかきまぜられ、遺伝子は部分的にまぜられる」状態にあり、「遺伝子は、死ぬべき運命にある生存機械を次々につくっていくために、遺伝子プールから相ついでひきだされてくる仲間の集団と協力して、生活をたてている」。(Dawkins,1976)

文献
マルサス、1798、人口論、光文社、2011
Leigh Van Valen, 1973, A new evolutionary law
https://dl.dropboxusercontent.com/u/18310184/about-leigh-van-valen/Piglet%20Papers/1973%20new%20evol%20law.pdf
リチャード・ドーキンス、1976、『利己的な遺伝子』、紀伊國屋書店、増補新装版、2006

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カッコウとスズメ目の変異の共振による進化的な安定

Evolutionary stability with mutation resonance of Cuckoo and Passeriformes

片利片害の代表的な例として、カッコウの托卵がある。托卵は英語では、brood parasitism(抱卵寄生)なので、寄生の形態のひとつと考えられている。

カッコウ目にはカッコウ科しかなく、カッコウ科は、5亜科に分けられている。托卵行動が顕著なのはカッコウ亜科である。カッコウ亜科には、カッコウ属、ジュウイチ属、アメリカカッコウ属などが存在する。カッコウやホトトギスはカッコウ属である。カッコウ属のヒナは、宿主の卵やヒナを巣から落としてしまうが、他の属では、宿主のヒナと一緒に育つとされている。

カッコウは、広域に移動する渡り鳥であり、夏はヨーロッパやアジアですごし、冬はアフリカで暮らす。体長は30cmほどで、その姿はタカに似ている。カッコウの食べ物は昆虫であり、おもにチョウやガなどの幼虫を食べる。

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カッコウのメスは、宿主が巣から離れたスキに、宿主の卵を一つ取り出し、自分の卵を産み付ける。日本での、カッコウのおもな宿主はオオヨシキリ、モズなどで、20種以上におよぶとされる。世界では100種類以上の宿主が報告されている。

近年の調査で、カッコウはそれぞれが縄張りを形成し、複数の異性と交尾する乱婚であると報告されている(中村、1990、文献参照)。また、どの宿主に托卵するかは、メスの系統ごとに決まっており、同じ系統のメスは同じ種の宿主に托卵する。1930年ころまでは日本の主要宿主はホオジロであったが、現在はホオジロにはほとんど托卵されない。これは、ホオジロの卵識別能力が高く、カッコウの卵を捨てしまうためである。また、ホオジロは、カッコウを見つけると攻撃する。1970年代から、本州中部では、カッコウはオナガを宿主にするようになり、現在ではオナガへの托卵がもっとも多いという。オナガは、自分の卵と似ていないカッコウの卵を、ホオジロほど強く拒否しない。

同じことは、ヨーロッパでも観察されている。イギリスでは、カッコウはヨーロッパヨシキリ、マキバタヒバリ、ハクセキレイ、ヨーロッパカヤクグリなどに托卵するが、マキバタヒバリやハクセキレイは、自分の卵に似ていない卵を捨てる(文献参照)。一方、ヨーロッパカヤクグリは、自分の卵に似ていない卵でも捨てない。また、オオジュリン、ズグロムシクイ、ヨーロッパビンズイ、ズアオアトリは、卵識別能力が高く、カッコウの卵に強い拒否反応を示す。

これらのことから、宿主が托卵を拒否するようになると、カッコウは次々と宿主を乗り換ると考えられている(宿主乗り換え説)。ヨーロッパでは近年はカッコウの数が減っており、日本ではオナガの数が急減しているという。

なお、カッコウの卵の模様の遺伝には、メスの遺伝子のみが関係しているという説と、オスは自分を育てた宿主の生息場所でメスと交尾するため、異なる遺伝子の交雑があまり生じないという説がある。

ここまでに登場した宿主を並べてみる。
オオヨシキリ:スズメ目ヨシキリ科、ヨシ原などに生息する。ヨシ原や森林で、昆虫類を捕食する。
モズ:スズメ目モズ科モズ属、森林、林縁、農耕地などに生息する。昆虫、節足動物、甲殻類、両生類、小型爬虫類、小型鳥類、小型哺乳類などを捕食する。
ホオジロ:スズメ目ホオジロ科ホオジロ属、森林、農地、草原、果樹園などに生息する。春夏の繁殖期は昆虫類を捕食し、秋冬には植物の種子も食べる。
オナガ:スズメ目カラス科、森林、竹林、市街地でも見られる。雑食で、昆虫、果実、種子などを常食する。
ヨーロッパヨシキリ:スズメ目ヨシキリ科、ヨシ原に生息する。昆虫を捕食するが、ベリーなど果実も食べる。
マキバタヒバリ:スズメ目セキレイ科、草地、農地に生息する。昆虫、節足動物を捕食する。
ハクセキレイ:スズメ目セキレイ科、水辺に生息し、昆虫、クモ、ミミズなどを捕食する。
ヨーロッパカヤクグリ:スズメ目イワヒバリ科、疎林、低木地に生息する。夏は昆虫、冬は植物の種子を食べる。
オオジュリン:スズメ目ホオジロ科ホオジロ属、河川や湖沼の周辺、草原、湿原に生息する。雑食で、昆虫類、植物種子を食べる。
ズグロムシクイ:スズメ目ズグロムシクイ科、落葉樹林に生息し、繁殖期は昆虫、冬季は果実を食べる。
ヨーロッパビンズイ:スズメ目セキレイ科、林地、低木地帯に生息する。昆虫、植物種子を食べる。
ズアオアトリ:スズメ目アトリ科、林地、草地、農地に生息する。繁殖期は昆虫を捕食し、繁殖期以外は、植物種子を食べる。

宿主の共通点は、昆虫類を捕食することである。これは、カッコウが昆虫食なので当然である。もう一つは、登場した宿主は、すべてスズメ目であることである。

スズメ目とカッコウの関係を図にすると下のようになる。カッコウと宿主の個体数は、変動することが観察されているが、カッコウもホオジロなどのスズメ目も絶滅していないので、長期的には、個体数(遺伝子量g)は安定していると考えられる。

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「托卵」という現象のみに注目すれば、片利片害とか寄生と言えるかもしれないが、本質的には、カッコウとスズメ目は、昆虫資源をめぐって「競争」の関係にある。さらに、相手の遺伝子(卵やヒナ)を直接に殺しあう行動からすれば、競争というよりも、ライバル種を死滅させるような激しい生存闘争である。

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図のように、カッコウ目(Cuculiformes)は鳥類の中でも、分岐が古いグループのひとつである。一方、スズメ目(Passeriformes)の分岐は、もっとも最近の出来事である。カッコウ目はカッコウ科しかないのに対して、スズメ目は110科5000種以上も存在する。鳥類は約1万種とされているので、スズメ目はもっとも遅く登場して、またたく間に、半分以上の種を占領してしまったことになる。スズメ目の種の数は、鳥類のみならず、陸上の脊椎動物の中でもっとも多く、2番目のネズミ目(2000~3000種)をはるかに凌駕する。南極を除くすべての陸地に生息し、陸上の脊椎動物の最高位に独占的に君臨している。

スズメ目のほとんどの種は小鳥で、中型はカラス科やオーストラリア固有種のコトドリ科しかいない。スズメ目は、小型で敏捷であり、昆虫を捕獲する能力がきわめて高い。さらに、繁殖期は栄養価の高い昆虫を捕食するが、昆虫が少ない時期は、植物の果実や種子を食べて生き延びる種も多い。カッコウが、チョウやガの幼虫など、じっとしていて捕獲しやすい昆虫を多く食べるのに対し、スズメ目は、成虫、幼虫を問わず、あらゆる昆虫の捕獲が可能である。

カッコウがタカに擬態しているのは、宿主からの攻撃を避けるためといわれることがあるが、これは、タカに似た形質によって、昆虫食のライバル種を縄張りから排除することができたからであろう。小鳥の中には、カッコウの模型を恐れて近づかない種と、ヨーロッパヨシキリのように、カッコウの模型に対して激しく攻撃する種がいる。宿主に対して効果がないということは、タカ擬態は宿主からの攻撃を避けるためではないことを示している(後述)。

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もともとは、昆虫資源を獲得する地位の大きな部分をカッコウ目が占めていたが、スズメ目の登場によって、多くのカッコウ目の種が絶滅に追いやられたのであろう。勢力を拡大するスズメ目に対する、カッコウの防衛戦略が、タカへの擬態であり托卵である。托卵という武器(遺伝子)を獲得することで、ライバルの遺伝子を殺し、自分の遺伝子を存続させることができた。

托卵のなぞに一つに、なぜ宿主は、姿がまったく異なるカッコウのヒナに餌を与えつづけるのかということがある。ただし、近年、オーストラリアのテリカッコウ類では、宿主がカッコウのヒナを排除し、さらにカッコウが宿主のヒナに擬態する例が見つかっている。

カッコウが托卵を開始した最初から、カッコウのヒナが宿主の卵やヒナを捨てるはずはなく、もともとは、カッコウのヒナと宿主のヒナは一緒に成長していたと思われる。やがて、カッコウのヒナを排除する宿主があらわれたため、宿主の卵やヒナを捨てる変異が出現し存続した。宿主の卵やヒナを捨ててしまえば、カッコウのヒナを拒否する宿主があらわれたとしても、自分の子供でないとわかったときは、すでに繁殖期をすぎているので、カッコウのヒナを拒否する遺伝子を存続できない。すなわち、カッコウのヒナが宿主の卵やヒナを落とす形質は、餌の独占のみならず、カッコウのヒナを排除する宿主の出現を抑止する効果がある。

テリカッコウの場合は、おもに熱帯地方に生息するので、繁殖期間が長い。宿主は、カッコウのヒナを排除したあとに、もう一度卵を産んで育てることができたため、ヒナを排除する形質が存続し、遺伝子プールに広がったと思われる。

カッコウと宿主の「共進化」は、arms race(軍拡競争)と呼ばれる。arms raceとは、リー・ヴァン・ヴェーレンの赤の女王仮説(Valen,1973)によるものだ。ヴェーレンは、古生物の絶滅の法則を研究するなかで、種は絶え間なく進化しつづけなないと、生存しつづけることができないと考えた。よくあげられる例は、キツネとウサギの捕食・被食の関係で、キツネはウサギより速く走らないとウサギを捕食できず、ウサギはキツネより速く走らないと生存できないというものである。これを、国家間戦争などにおけるarms race(軍拡競争)にたとえた。

赤の女王仮説は、生物は絶えず変異しつづけないと、絶滅してしまうということであり、それ自体は確からしい。ただ、それだけでは、どうして種が絶滅せずに共存できたり、進化的に安定になるのかを説明できない。ウサギとキツネが両方とも絶滅しないためには、両者は無限に速く走らなければならなくなる。

カッコウは、宿主と「共進化」しながら、次々と宿主を乗り換えて種を存続させていると考えられている。この場合でも、カッコウと宿主の共存と進化的な安定を説明できない。なぜなら、乗り換えは無限にできるわけではないからである。

カッコウのように、宿主の子供をすべて殺す托卵鳥が、特定の宿主種に長期にわたって托卵すると、その宿主種は絶滅してしまうはずだ。托卵鳥が、次の宿主種に乗り換えるまでの期間を1000年とし、托卵可能な鳥類の種数を5000種とする。托卵鳥の同時代のメスの系統数を10として、托卵鳥の種数を10とする(カッコウ属は11種)。すなわち、1000年×5000種/10系統/10種=5万年たてば、5000種のすべてが托卵を拒否するようになる。スズメ目が登場してから、すでに3000万年もたっているのであるから、すべての宿主が托卵を拒否する形質を獲得して、カッコウ属はとっくに絶滅しているはずだ。

カッコウが絶滅せずに生存できる条件は、次々と新しい宿主の種があらわれるか、あるいは獲得した托卵を拒否する形質を、宿主が喪失してしまうかのどちらかである。

6500万年前の白亜紀末に、恐竜が大絶滅して以来、大絶滅はおきていない(現在をのぞく)。生物の種は、大きなニッチが生じると、一気に種が分岐し、それぞれの種の個体数が増えるにしたがって種数が減る(競争排除則)ので、鳥類の新しい種がどんどん生まれるとは考えにくい。すなわち、宿主は、獲得した托卵を拒否する形質を、時間がたつにつれて喪失してしまうと思われる。

カッコウの卵が托卵可能に変異する回数の時間当たりの変化量(変異速度)を、rcとする。宿主が托卵を拒否する形質があらわれる回数の時間当たりの変化量(変異速度)を、rhとする。宿主の個体数は長期的には一定であるが、カッコウが卵を産む数は複数なので、卵の個数が10個ならば、rcはrhの10倍になるはずだ。しかし、カッコウのメスは、複数の宿主の巣に1個ずつ卵を産むので、托卵拒否の変異速度も10倍になって同じ速度になる。スズメ目の宿主はオスとメスが共同で子育てすることが多く、オスかメスのどちらかが托卵を拒否すればよいので、托卵拒否変異速度rhは、托卵可能変異速度rcの2倍になると考えられる。

rh=2rc

変異速度が2倍なので、宿主は、比較的短時間で、托卵を拒否できるようになる。これが、カッコウが次々と宿主を乗り換えなければならない理由であろう。

次に、托卵拒否遺伝子を獲得した宿主は、大きさや模様が違う卵を捨てるので、カッコウが次の宿主に乗り換えたあとには、模様が少し違う自分の卵を捨ててしまう可能性が高くなる。さらに、托卵拒否遺伝子は、カッコウの姿を見ると果敢に攻撃するので、本物のタカに対しても攻撃を仕掛け、死んでしまう確率が高くなる。

下図のモデルように、宿主の托卵拒否遺伝子は、カッコウが托卵しなくなると、托卵を拒否しない遺伝子より不利になるために、少しずつ遺伝子プールから減っていくと考えられる。

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cn:カッコウの遺伝子プール内における、宿主種nに対する托卵可能遺伝子の量
hn:宿主種nの遺伝子プール内における、托卵拒否遺伝子の量
tc:カッコウが宿主の種を乗り換える平均時間
th:宿主種の遺伝子プール内に、托卵拒否遺伝子が存在する平均時間
h=∫cdt+kt   (t1≦t≦t2

図のように、

n・tc>th

のとき、カッコウは永続的に乗り換え可能になる。tcが短いほど、多くの種類の宿主が必要となり、thが長いほど宿主が不足するリスクが高くなる。托卵可能な宿主の種の数が十分に大きくないと、乗り換える宿主が不足して、カッコウは絶滅してしまう。長い時間がたてば、上記の不等式は平衡になるので、以下の関係になる。(n:宿主とカッコウの種数の比)

n・tc=th

カッコウが自分で子育てせずに托卵するようになったのは、スズメ目が繁栄してその種数が十分に大きくなり、逆にカッコウ目が衰退して種数が減ってからと考えられる。

カッコウのタカ擬態は、昆虫食の鳥類が縄張りへ侵入することを防ぐと同時に、宿主の托卵拒否遺伝子をタカに殺させる効果がある。しかし、カッコウがあまりにタカそっくりになると、同種の異性が自分から逃げてしまったり、逆に同種の異性と間違えてタカに近づいて襲われるリスクが高くなる。小鳥や宿主が間違えるほどタカに近く、カッコウが間違えないほどにタカと違う姿で、進化的に安定になる。

宿主は、托卵される期間には、異質な卵やヒナを排除したりカッコウを攻撃する形質(タカ派)が存続しやすく、非托卵期には、同種の異質形質を排除せず、カッコウやタカから逃げる形質(ハト派)が生き残りやすい。また、一羽で子育てするより、つがいで育てる宿主のほうが有利になる。

カッコウと宿主の形質は絶えず変異しているが、それは、一方向に発散せず、ある幅の範囲で周期的に変動している。もし、変異が発散するようであれば、カッコウと宿主は共存できすにどちらかが絶滅するであろう。両者の絶え間ない変異は、定振幅周期変動であり、長期的には進化的に安定している。このために、殺しあうような激しい生存闘争をしながらも、3000万年以上も共存してこられたのであろう。

モデルでは、両者の変異が闘争し合って周期的に変異が振動し、振動そのものが、進化的に安定になるので、「変異の共振による進化的な安定」ではないだろうか。(つづく)

文献
日本におけるカッコウの托卵状況と新しい宿主オナガへの托卵開始
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo1986/39/1/39_1_1/_article/-char/ja/
Nick Davies, Cuckoo: Cheating by Nature, Bloomsbury Publishing, 2015
Whole-genome analyses resolve early branches in the tree of life of modern birds
http://science.sciencemag.org/content/346/6215/1320.full
Leigh Van Valen, 1973, A new evolutionary law
https://dl.dropboxusercontent.com/u/18310184/about-leigh-van-valen/Piglet%20Papers/1973%20new%20evol%20law.pdf

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競争―草原でのウシ科、ウマ科、ネズミ、イネ科、マメ科、菌類、細菌の関係

Competition―Relationship of bovidae, equidae, muroidea, poaceae, fabaceae, fungus, bacteria in grassland

「競争」というのは、ありふれた概念であるが、きちんと考えようとするとかなりやっかいである。日本語の「競争」という言葉は、福沢諭吉が経済学で使われていた英語のcompetitionを、「競い争う=競争」としたらしい。competeは、com(一緒に)とpet(追い求める)が語源とされている。

経済学ならば、人間が市場や社会で、何かを「一緒に追い求める」ということは、成立するであろう。しかし、ESSとゲーム理論のところ(2017.1.20ブログ)でも触れたように、自然界では、異種を捕食(殺す)することはあたりまえであり、同種のライバルを殺すこともふつうにみられる。

最初は「一緒」に競争していても、競争の過程で相手を殺したり、結果として相手が死んでしまえば、もはや「一緒」でなくなるので、競争ではなくなる。結果まで含めて「競争」という言葉で表現できないので、「競争」という言葉は、相手が死なないことを前提にしていることがわかる。

ダーウィンは、『種の起源』の中で、生存闘争のことを、struggle for existence 、あるいはstruggle for lifeという言い方をしている。生物では、ライバルが死なないことを前提にする状況はまれなので、ここでは、競争を以下のように定義する。

競争(competition):同じ資源を追い求める異種または同種の生物間の、ライバル種または自己の種が絶滅しない状態の生存闘争

ライオンとトムソンガゼルは、生存闘争しながら共存しているが、同じ資源を求めているわけではないので競争ではない。トムソンガゼルとヌーは、同じ資源を求めて闘争しているが、両方とも絶滅していないので、競争している。トムソンガゼル同士も激しく闘争するが、種が絶滅するほどではないので、トムソンガゼル同士も競争している。

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ダーウィンに大きな影響を与えたマルサスの『人口論』(1798年)には、次のように書かれている(文献参照)。

人口は、何の抑制もなければ、等比級数的に増加する。生活物資は等差級数的にしか増加しない。(人口論、p30)

必然性、すなわち厳然と全体を支配する自然の法則が、生命の数をあらかじめ定められた範囲内に制限するのである。植物も動物も、この偉大なる制限の法則のもとで縮こまる。そして人間も、理性をいかに働かせようと、この法則から逃れることはできない。(同、p31)

「等比級数的に増加する」というのは、人口100人の町で1年で110人に増えたとすると、1000人の町なら1100人に増えるはずということだ。それぞれの1年当たり増加数は10人と100人なので、時間当たりの増加数(増加速度)Δxは、もとの人口xに比例する。数式では次のようになる。

Δx=dx/dt=mx

mは増加率をあらわし、マルサス係数と呼ばれる。この微分方程式を満たす時間関数x(t)は、以下の式になる。

x(t)=x(0)emt

eは自然対数であり、xは指数関数なので、「指数関数的に増大する」とも表現される。

引用の下段の「生命の数をあらかじめ定められた範囲内に制限する」ということを、数学的に最初に表現したのが、ベルギーの数学者のピエール=フランソワ・フェルフルストである(Verhulst,1838)。(じっさいには、のちに何人もが同様の数理モデルを独自に考案している)

dx/dt=rx(1-x/K)

式を見ればわかるように、人口xが小さいときは増加率が大きいが、xが大きくなるにつれて、増加率は小さくなる。xがKを超えると、xは減少するようになる。rは内的自然増加率、Kは環境収容力と呼ばれる。フェルフルストは、これを、ロジスティック方程式と名づけた。この微分方程式を満たすx(t)は、以下の時間関数で与えられる。

x(t)=K/(1+C・e-rt
C=K/ x(0)-1

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ロジスティック方程式をもとに考え出されたモデルが、ロトカ・ヴォルテラの競争方程式である(Volterra,1926,1931)。

dx/dt=r1x(1-(x+ay)/K1
dy/dt=r2x(1-(bx+y)/K2

上段の式では、種xと種yの個体数が増えると、xの増加率は次第に減少するが、a<1ならライバル種yの影響のほうが小さいので、x同士の種内闘争が激しくなる。a>1ならライバル種yの影響が大きく、種間闘争が激しくなる。

この連立微分方程式をアイソクライン法などで解析すると、両種が共存できる条件は、ab<1のときで、種間闘争が種内闘争よりも小さいときである。種間闘争のコストが小さくなるのは、おもには、xとyの食べ物(利用資源)と棲む場所(空間)が異なるときである。

食べ物(利用資源)や棲む場所(空間)が同じときは、種間闘争が激しくなってどちらかが絶滅するので、「競争排除則」とも呼ばれる。

「競争排除則」によれば、優位な種によって他の種はどんどん絶滅に追いやられ、種数は次第に少なくなるはずである。しかし、じっさいの自然界では、非常に多くの種が保存されている。多数の種が共存できる条件を知るために、連続ニッチモデル、干渉型競争、ロッタリーモデル、時間変動共存、捕食者の存在による共存などさまざまなモデルが考案されている。じっさいには、きわめて複雑な自然の状態を、ひとつの数理モデルで表現するのは困難であり、個別に調べるほかない。

また、一般に数理モデルでは、種の変異を想定しておらず、進化的に安定であることが前提である。生物(遺伝子)はつねに自己複製しているが、複製は常に不完全で、絶えず変異が生じる。変異の数は、個体数が多いほど、あるいは、自己複製のスピードが速いほど、多くなる。資源や空間にニッチがあるときは、個体間の闘争コストが低く、個体数が増える。変異が淘汰されず、変種や新種が増えて進化的に不安定になる。資源や空間が不足すると、闘争が激しくなって個体数が減少する。自然選択によって、生存に不利な変異は死滅する。

アフリカの草原では、シマウマ、ヌー、トムソンガゼルが同じ場所で草を食べながら共存している状態がしばしば観察される。小原秀雄氏は、このような状態を、シマウマは門歯(前歯)で丈の高い草の先端を噛み取り、ヌーは幅の広い葉を食べ、小さいガゼルは残りの柔らかい葉を選んで食べると報告している。これは、「食い分け」とか「棲み分け」(今西、可児)と表現されることが多いが、生物が主体的に棲み分けているわけではなく、遺伝子のランダムな変異と自然選択の結果、ニッチに適応した種(遺伝子)が生き残ったということである(中立説・自然選択説)。

しかし、上記の草食動物の平和的な共存関係は、雨季の植物が豊富な時期には成り立つかもしれないが、生物が生存できる個体数は、もっとも植物が少ない時期の植物の量に左右される。草原の植物がどんどん少なくなり、多くの草食動物が死んでいく状況で、このような、動物同士の平和的な共存が成立するとは思えない。食べ物が少なくなったときに、どうして弱い種が排除(絶滅)されずに生存できるのであろうか。

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アフリカのサバナ草原は、雨が少ないところは乾燥サバナ、多いところは湿潤サバナなどと呼ばれるが、植生の変化は連続的である。降水量が少ないところは樹木がほとんど無い草原になり、降水量が多いほど樹木が増加する。草本は、イネ科植物がもっとも多く、次いでマメ科植物が多い。

イネ科植物は、土壌中の難溶リンを溶解する能力が高く、根は浅い層に集中して伸びる「ひげ根」である。水分蒸散のために、地下から土壌水が上昇する乾燥気候に適応している。また、根の表面には、窒素を固定する細菌(Azospirillum)が生息しており、イネ科植物と共生関係にある。Azospirillumの窒素固定力はそれほど大きくないが、イネ科植物は、窒素が少ないやせた土壌でも単独で群落を形成することができる。イネ科植物は、1~2年生が多く、雨が降らない乾季は、硬い種子で休眠する。休眠種子はきわめて保存性が高く、条件がよければ10年以上も保存が可能である。

イネ科植物は、ウシ科の草食動物と捕食・被食の関係にあるが、相利共生でもある。ダーウィンは、『種の起源』の中で次のように書いている。「ヒースに生えている植物のあいだをよくよく調べたところ、アカマツの実生や低木がたくさん見つかった。ただしそれらには、絶えずウシに食われ続けてきたことを示す跡があった。・・・その木は過去二六年にわたってヒースの植物のあいだから頭を突き出そうと奮闘したものの果たせずに来たことが確認された。」すなわち、草原の植物は、葉を草食動物に食べられることで、日光を遮る樹木の侵入を防いでいる。

昔から、冬に麦を踏むと、種実の稔実がよくなることが知られている。麦が踏まれることは、草食動物の群れの到来のサインであり、養分蓄積から稔実へと生育が転換するスイッチになっていると考えられる。これは、水稲の苗踏みでも、同様の効果が見られる。イネ科植物の種子には野毛があり、動物の身体に付着したり、種子が食べられて、糞と一緒に草原に種子が拡散される。

ウシ亜目の反芻動物は、セルロースを効率よく分解・利用できる数少ない哺乳動物である。ウシやヒツジは、4つの胃を持ち、食物を吐き戻して噛み返す。哺乳動物はセルロース分解酵素(セルラーゼ)を持たないが、反芻動物は、胃の中に共生する微生物がセルロースを分解する。第1胃(ルーメン)に生息する微生物は、細菌、原虫、真菌などであるが、ルーメン発酵をおもに担っているのはルーメン細菌である。ルーメン細菌は、嫌気的な代謝により植物からエネルギーを得ており、その際に、酢酸、プロピオン酸などの揮発性脂肪酸(VFA)が生成する。微生物は有機物分解により得られた栄養素から、タンパク質等を合成しながら増殖する。反芻動物は、発酵産物の揮発性脂肪酸と、微生物遺体由来のタンパク質を吸収利用する。

イネ科植物は、草食動物に葉茎を食べられたほうがよいので、アルカロイドなどの毒を有する種がほとんど存在しない。しかし、毒が無いと昆虫に食害されるので、土壌中のケイ酸を多く吸収して、ケイ酸のガラスで葉、茎、種子を硬くして昆虫の食害を防いでいる。また、イネ科の植物はセルロースの含有量が高いため、反芻動物以外の動物からの食害が少ない。さらに、ウシ科やシカ科は上あごの門歯(前歯)がなく、舌で草を寄せて、ちぎって食べるので、イネ科植物の貯蔵養分がある株元や根が残る。

一方、マメ科植物の根の根粒には、根粒菌(Rhizobia)が共生している。根粒菌は大気中の窒素分子をアンモニア態窒素に変換して宿主に供給する。宿主は光合成産物(エネルギー)を根粒菌に供給する。マメ科植物は、土壌中の窒素が少ないやせ地でも生息できるが、難溶リンを溶解する能力はない。そこで、草原では、イネ科植物とマメ科植物は一緒に生息する。両者は、水や日光をめぐっては競争の関係であるが、リンと窒素を交換して相利共生の関係でもある。

マメ科植物は、実が熟すと鞘がはじけて種子を遠くまで飛ばして拡散する。種子の拡散には、ウシなどの草食動物は不要である(ウシは種子を噛み砕いてしまう)。ただし、ネズミの仲間は植物の種実を地下の巣に貯蔵する性質があるので、ネズミが貯めこんで、食べ残したマメの種子から発芽する可能性はある。マメの種を播くときは、地中に深く植えて水分が多いほうが発芽がよいのは、そのためであろう。穀物の種子にカビ(子嚢菌)が発生すると、毒のマイコトキシンが生成するのは、カビが生えた種子をネズミが食べ残すように、植物とカビが共生関係にあるためと考えられる。

いずれにしても、マメ科植物は、昆虫にも草食動物にも葉茎が食べられないほうが有利なので、アルカロイドなどの毒、苦味、草食動物を不妊にさせるフィトエストロゲンなどの化合物を含有する種が多い。トゲミノウマゴヤシやアカシアのように、鋭い棘を有する種もある。

昆虫は、これらの植物の毒に対抗するために、毒への耐性を強くする。さらに、植物の毒を身体に吸収して、鳥類、爬虫類、両生類、哺乳類から身を守る昆虫が多く存在する。哺乳類でも同様に、植物毒に対する耐性は、種によって差がある。家畜の場合では、アルカロイドに対する耐性は鳥類のニワトリが一番高く、ウマ、ウシ、ブタの順に耐性が高いことが知られている(文献参照)。

ウマ目にはウマ科ウマ属しかなく、ウマ、シマウマ、ロバなど5亜属9種しか生き残っていない。ウマの栄養素は、タンパク質、炭水化物、脂肪であるが、食物繊維のセルロースも利用することができる。ウマは反芻しないが、盲腸や結腸を含めた大腸が大きく発達している。セルロースは、大きな大腸で微生物によって脂肪酸に分解され、吸収・利用される。ただし、反芻してセルロースを十分に砕き、大きなルーメンを持つウシに比べると、セルロースの分解度が低い。

シマウマ亜属には、サバンナシマウマ、ヤマシマウマなどがいる。サバンナシマウマは、樹木がない草原と樹木がある草原の両方で暮らす。1頭のオス、数頭のメス、子馬からなるハレムを形成する。子馬のオスは成長すると集団を離れ、単独またはグループで行動し、やがてハレムのオスに挑戦する。シマウマは、降雨によって生育する植物に依存しているので、降雨を求めて集団で移動する。ヌーなど他の草食動物も同様の行動をとるので、混合して一緒に移動する。シマウマの食べ物は、おもにイネ科およびマメ科の草本だが、草が少ない乾季は、樹木がある草原で、低木、小枝、樹木の葉、樹皮も食べる。

ヌーは、ウシ目ウシ科ヌー属で、オグロヌーとオジロヌーの2種がいる。オジロヌーは野生種が一度絶滅した絶滅危惧種で、集団で長距離移動するのはオグロヌーである。オグロヌーはアフリカ南部および東部の樹木のあまりない草原や乾燥した草原に生息する。

ヌー(オグロヌー)は、植物が多い雨季には、若年オス同士、成年オス同士、メス同士で、それぞれが集団で行動している。集団の大きさは、数頭~数千頭とされる。成年オスは、各々縄張りを作り、縄張りをめぐって他のオスと激しく闘争する。雨季の終わりに繁殖が始まると、オスは自分の縄張りにメスを誘導して交尾する。雨季が終わって乾季が始まると、水と草を求めて、大集団で長距離移動する。食べ物はイネ科植物を中心とする草原の草本であるが、草が不足したときは、低木や木の葉も食べるとされる。

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トムソンガゼルは、ウシ科ガゼル属の体長1mほどの敏捷な草食動物で、時速80~96kmで疾走できる。雨季には、樹木のない草原に生息し、乾季には樹木が多い草原に移動する。草が豊富な雨季には、成年のオスが草原に広がって、それぞれが縄張りを形成する。オス同士は縄張りをめぐって闘争する。メスは集団で草原を移動しながら、オスたちの縄張りに入る。若年のオスは集団で移動するが、成年オスたちの縄張りに入ると追い出される。雨季には、樹木のない草原でイネ科植物を中心に新鮮な草本を食べる。草本が減る乾季には、樹木が多い草原に移動して、低木の新芽や若葉、広葉草本、マメ科植物も食べる。

以上のことから、サバナ草原のシマウマ、ヌー、トムソンガゼルの関係は、次のように考えられる。シマウマは、雨季は、樹木のない草原で、イネ科植物の葉の生長点などセルロースが少なくデンプンが多い部分やマメ科植物を食べる。乾季には、樹木の多い草原に移動して、アルカロイドが多いマメ科植物や低木の芽や葉などを食べで生き延びる。

ヌーは、イネ科植物を中心とする草本に依存している。セルロースが多いイネ科植物と、捕食・被食および相利の関係にある。雨季は樹木のない草原で暮らし、乾季には草を求めて大移動する。

トムソンガゼルは、イネ科植物を中心とする草本に依存しているが、乾季には、樹木のある草原に移動して、マメ科植物や低木の芽や葉も食べる。同じウシ科のヌーよりも、ルーメンが小さいために、セルロースの分解効率は劣るが、アルカロイドなど植物毒に対する耐性がやや高いと考えられる。

トムソンガゼルの最大の優位性は、俊敏性である。いくら、ヌーやシマウマがトムソンガゼルを追い払おうとしても、トムソンガゼルはすばやく逃げて傷を負うことなく植物を食べることができるので、トムソンガゼルを完全に排除することが難しい。

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なお、生物は、自己複製のたびに遺伝子の変異が起きている(中立)。トムソンガゼルの遺伝子プールで、ヌーに闘いを挑む気の荒い変異(タカ派)が起きたとする。タカ派は、同種のオス同士の闘いでは有利だが、ヌーとの闘いでは傷ついたり死ぬ確率が高くなる。このため、ヌーの存在は、トムソンガゼルがタカ派の方向に変異することを抑止して、進化的に安定させる効果があると考えられる。異種の生物間では、優位なタカ派の種が、よりハト派の種を進化的に安定にさせる。

同じ資源を追い求めて競争しても、種が排除されずに多くの種が生存できるのは、地球の空間が複雑で、かつエネルギーが時間的につねに流動しているためだ。流れる川には無数の渦ができるように、地球の環境にも無数のニッチができる。(つづく)

文献
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
マルサス、1798、人口論、光文社、2011
巌佐庸、数理生物学入門、HBJ出版局、1990
牧草・飼料作物および雑草に含まれる有毒物質と家畜中毒、牧草と園芸第53巻第6号、2005

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