植物ホルモン Plant hormone

SHINICHIRO HONDA

種あり(有核)の果実はなぜ糖度が高くなるのか?

植物ホルモンに明確な定義はないが,一般には,植物がもつ低分子で生理活性の強い物質とされている。植物は,環境の変化や成長の条件に応答しながら,全体で調和のとれた成長を続けるために,根や葉など離れた器官のあいだで,バランスを調節する仕組みを備えている。植物ホルモンは,外界からの刺激や遺伝子の発現などの情報伝達物質(シグナル)として作用している。植物ホルモンは,複数の物質が相互に作用しながら働くが,それらのメカニズムはきわめて複雑で,その全貌はわかっていない。

オーキシンは,頂芽など地上部で多く生産されるが,根部でも生成することがわかっている。サイトカイニン,ジベレリン,エチレン,アブシジン酸などは,植物体のどの細胞でも合成される。芽,根が形成される初期には,オーキシンやサイトカイニンが,成長点の原基で合成される。植物は水分ストレスを受けると気孔を閉じるが,このとき,緑色細胞でアブシジン酸が合成され,信号として作用している。

植物の篩管液には,植物ホルモンが存在し,信号として長距離輸送される。根で合成されたサイトカイニン(前駆体)は,信号として篩管を通って地上部に輸送される。また,外から局所的にジベレリンを与えると,維管束を通って移動するとされている。

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オーキシン

オーキシンには,おもに植物を成長させる働きがある。成長には,細胞の数を増やすことと,細胞そのものを大きくすることの二つがあるが,オーキシンは,その両方に作用する。また,植物の細胞,組織,器官の成長と分化に対して,さまざまに作用する。天然オーキシンには,インドール-3-酢酸(IAA),フェニル酢酸(PAA),4-クロロインドール3-酢酸(4Cl-IAA)が知られている。合成オーキシンには,1-ナフタレン酢酸(NAA),2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)などがある。


インドール-3-酢酸(IAA)

胚発生
植物の受精卵は,細胞分裂を繰り返して,球状の胚を形成する。双子葉植物では,球状の胚の3か所にオーキシンピークができて,下には根が形成され,上の2か所に子葉原基が形成される。また,オーキシンの通り道に,維管束ができる。


胚発生(*2)

器官と維管束の形成
植物の器官は,オーキシンピークから発生する。地上部の器官は,茎の成長点のオーキシンピークから生成され,地下部の器官は,根の先端のオーキシンピークから生じる。また,側根は主根の内側にできたオーキシンピークから発生する。

維管束の形成
茎ではオーキシンの通り道ができて,オーキシンが維管束の分化を誘導し,維管束が形成される。また,葉の原基の先端にオーキシンピークが発生し,葉の器官が形成される。このとき,オーキシンの通り道が維管束組織へ分化し,葉の中央に葉脈ができて,葉の成長とともに,葉脈のパターンが発達する。


維管束の形成(*2)

果実の肥大と単為結果
受精したトマトの果実では,細胞分裂期にアブシジン酸濃度が低下し,オーキシンとジベレリン濃度が上昇する。果実の細胞分裂には,オーキシンとジベレリンが関与していると考えられている。オーキシンは種子でも作られ,細胞肥大期の種子は,オーキシン濃度が高くなる。イチゴの受精直後に,種子を除去してしまうと,果実が肥大しないことが知られている。果実の細胞肥大期には,オーキシンが果実の肥大を促進し,ジベレリンは果実の肥大を維持すると考えられている。トマトトーンなどの合成オーキシンを,開花前3日~開花後3日の花房に処理すると,受精しなくても果実が着生して肥大し,種無しになる。トマト以外では,イチゴ,キュウリ,カンキツ類でも,オーキシン処理によって単為結果する。

カルス形成
適当な濃度のオーキシンとサイトカイニンを入れた培地で,植物の切片を培養すると,細胞分裂が進んで,カルス(細胞の塊)ができる。このカルスを,オーキシンとサイトカイニンを含む別の培地に移植したとき,オーキシンが多いと根が分化し,サイトカイニンが多いと茎葉が分化する。

不定胚形成
芽生えの胚軸を2,4-Dを含む培地で培養し,カルスを得る。このカルスは,不定胚形成能力を持ち,2,4-Dを含まない培地で培養すると,不定胚が形成される。2,4-Dが誘導する不定胚形成には,アブシジン酸(ABA)の生合成やシグナル伝達が関与していると考えられる。

傷口の癒合
植物の枝が折れたり,皮がはがれたりすると,傷口にカルスができて,組織が再生される。これは,「癒合」と呼ばれる。傷害誘導性のカルス形成のメカニズムについては,いくつかの経路がわかっているが,その一つにオーキシンの働きがある。花の茎を径の半分まで切断すると,3日めに茎の髄の細胞が細胞分裂を開始し,7日ほどで傷の上下の組織が結合する。このとき,茎の先端の頂芽を取り去ると,細胞分裂が起きなくなって癒合しない。次に,取り去った部位にオーキシンを与えると,細胞分裂が回復する。オーキシンは頂芽で合成され,茎の中を根(基部)に向かって輸送される。茎に傷ができると,オーキシンの流れが止まり,傷の上部ではオーキシン濃度が高くなり,下部では濃度が低くなる。傷の上部では転写因子のANAC071が誘導され,下部ではRAP2.6Lが誘導される。細胞分裂が誘導されて,組織癒合が起きます。これらの転写因子の発現は,エチレンとジャスモン酸でも調節されている。(*4)


傷口の癒合(*4)

頂芽優勢
植物の頂芽が成長しているときは,腋芽の成長が抑制されて,頂芽が優勢になることはよく知られている。これを頂芽優勢という。頂芽を切除すると,腋芽の成長抑制が解かれて,腋芽が成長しはじめる。腋芽の成長にはサイトカイニンが関与している。オーキシンは茎頂で生成し,基部に向かって輸送されてくるが,オーキシンが,サイトカイニンの生成を阻害することで,腋芽の成長を止めていると考えられている。頂芽から輸送されてきたオーキシンは,側芽がついている茎において,サイトカイニンの生成に関わる遺伝子(IPT)の発現を抑制する。頂芽が切除されると,茎へのオーキシン供給が絶たれるので,IPT遺伝子の発現抑制が解除され,IPTが働き,サイトカイニンが生成される。生成されたサイトカイニンは,腋芽に供給され,腋芽の休眠が打破されて成長を開始する。また,サイトカイニンは,根で多く合成されるが,頂芽切除後は,茎で一過的に作られたサイトカイニンが休眠側芽に作用する(根を取り除いても側芽の休眠が打破される)。なお,頂芽優勢の制御には,根から地上部に輸送されるストリゴラクトンも関与していることが報告されている。(*6),(*7)


頂芽優勢(*6),(*7)

光屈性
植物に横から光が当たると,茎などの地上部は,光の方向に向かって屈曲する。一方,地下部は光と反対の方向に屈曲する。地上部では光の陰になる方向に,オーキシンが横移動してオーキシンの濃度が高くなる。すると,日陰側のほうが,成長量が大きくなって,光の方向に向かうように屈曲する。


光屈性

重力屈性
植物を横にすると,茎は重力に逆らって上方に曲がり,根は重力に従って下方に曲がる。これを重力屈性という。茎や根のコルメラ細胞(重力感受細胞)では,デンプンを蓄積した色素体のアミロプラストが存在する。アミロプラストの沈殿方向にオーキシンが移動し,下側のオーキシン濃度が高くなって,下側の細胞の伸長を抑制する。このため,根が下方に向かって曲がる。


重力屈性(*8)

オーキシンの輸送
オーキシンは,茎の先端で活発に合成され,茎の中を頂端から基部に向かって移動していく。移動のスピードは,1時間に1センチほどとされている。また,若い葉の先端でも活発に合成され,葉の基部側に移動する。オーキシンは根の先端まで運ばれ,今度は根の表皮側を通って,根の基部側に輸送される。オーキシンの輸送には,組織の膜上に存在する排出輸送体(PIN1~PIN8)が作用しているが,その機構は完全にはわかっていない。オーキシンは頂端から基部に向かって移動するが,この移動は重力には関係ないので,極性移動という。極性移動には,PIN1とPIN2の排出輸送体が作用している。一方,重力方向へのオーキシン移動にはPIN3が作用している。排出輸送体は,茎では維管束内の形成層と道管,篩管の周辺にある柔細胞に存在し,これらの細胞によって極性移動される。篩管の中にもオーキシンは存在するが,篩管内のオーキシンには移動極性がなく,どちらの方向にも移動すると報告されている。


オーキシンの極性輸送

重力に対する反応
オーキシンの種類によって,重力に対する反応が異なることが知られている。インドール-3-酢酸(IAA)は,トウモロコシの中を重力によって下側に移動するが,フェニル酢酸(PAA)は,その性質を示さない。根のオーキシン量を低下させて,重力に応答しなくなったシロイヌナズナの変異体に,IAAを与えると,重力屈性を回復するが,PAAを与えても回復しない。PAAは重力による影響を受けない性質を持つと報告されている。(*9)


オーキシンの重力に対する反応(*9)

オーキシンによる細胞の伸長
オーキシンには,細胞を伸長させる作用がある。その仕組みについては,次のように報告されている。①オーキシンが,細胞膜プロトンポンプ(水素イオンを輸送するポンプ)のリン酸化レベルを上昇させて活性化する→②水素イオンが細胞外へ放出され酸性化する→③酸性化によって細胞壁がゆるみ膜電位も変化する→④カリウムイオンが流入する→⑤水が流入して細胞が大きくなる→⑥植物が伸長成長する。(*10)


細胞の伸長(*10)

オーキシンの濃度による作用
オーキシンは,濃度が低いときは成長を促進し,濃度が高くなると,成長を抑制するように作用する。また,茎と根では,成長の促進と抑制に作用する濃度が異なり,根のほうが,より低い濃度に反応する。このメカニズムは,「オーキシン信号伝達経路」として解明されている。オーキシンがごく少ないときは,Aux/IAAタンパク質とARFタンパク質が結合して,オーキシン応答性遺伝子の発現を抑制する。オーキシンが増えてくるとAux/IAAタンパク質は分解されて,ARFタンパク質がオーキシン応答性遺伝子の発現を促進する。ところが,Aux/IAAタンパク質は再び増加して,ARFタンパク質と結合し,オーキシン応答性遺伝子の発現を抑制するようになる。


オーキシンの濃度による作用

花芽形成の調節
ナシの長果枝伸長の停止期に,枝を斜めに誘引すると,腋芽の花芽の着生率が増加することが知られている。枝を斜めにすると,新梢先端でのオーキシン生成が減少する。オーキシンが減少すると,それがシグナルになってサイトカイニンが生成し,腋芽の細胞分裂を促進する。また,ジベレリンは,新梢伸長中に処理すると花芽形成数を減少させるが,伸長停止後に処理すると花芽数を増加させる。一方,アブシジン酸は,生育ステージに関係なく花芽形成を促進する。



芽中の活性型オーキシン(インドール酢酸)含量(左)および活性型サイトカイニン(ゼアチン)含量(右)に及ぼす影響。○:直立枝,●:誘引枝(*11),(*12)

根の通気組織の形成
イネ科作物やマメ科作物の破生通気組織は,根の皮層細胞の選択的な細胞死によって形成される。イネは,耐湿性が強い植物であり,酸素が豊富に存在する畑地土壌でも恒常的に通気組織を形成し,冠水したときにはその形成範囲を誘導的に広げる。耐湿性が強くないイネ科畑作物は,冠水に応答して誘導的に通気組織を形成する。恒常的通気組織の形成にはオーキシンシグナル伝達が関与し,誘導的通気組織形成にはエチレンと活性酸素種によるシグナル伝達が関与する。(*13)

昆虫の植物ホルモン
昆虫の中には,虫こぶを形成する種が多く存在する。これらの昆虫は,オーキシンを合成する酵素を持っており,サイトカイニンの一種も体内で合成していると言われている。虫こぶ形成昆虫だけでなく,ダニ,クモ,多足類を含むすべての節足動物が,高濃度のオーキシンを体内に保持しており,サイトカイニンについては,特定の昆虫のみが保持している。(*14)

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ジベレリン

ジベレリンは,1926年に黒澤栄一氏によって,イネの馬鹿苗菌から世界ではじめて発見された。現在は130種類以上の物質が登録されおり,GA1,GA2・・・と略記される。ジベレリンの生理作用も複雑で,すべてわかっているわけではないが,一般には,植物の成長を促進する作用がある。


ジベレリンA3(GA3

発芽
ジベレリンは,種子の胚で合成され,ジベレリンによって分解酵素のアミラーゼの合成が誘導される。アミラーゼによって,胚乳内のデンプンが糖化され,発芽が促進される。ジベレリンは,多糖,タンパク質などの分解酵素の合成を促進する。レタスなど光要求種子では,種子に光が当たると,光受容体のフィトクロムが活性化して,ジベレリン合成の遺伝子群が発現し,発芽が促進される。

伸長成長
ジベレリンは,植物の草丈を伸ばす。成長には,成長方向に伸びる伸長作用と横方向に伸びる肥大成長があるが,ジベレリンが強く作用するのは,伸長成長である。また,ジベレリンは細胞分裂の周期を短くして,細胞の分裂速度を大きくする。オーキシンとジベレリンは,ともに植物を伸長成長させるが,どちらか一方が生成されないときは,伸長作用が小さくなる。オーキシンとジベレリンは,共同で伸長成長を促進していると考えられている。

開花,結実
コムギにジベレリンを投与すると,春化処理の代替えになって,開花を誘導できる。ジベレリンは,開花を早める作用をもち,開花後の受粉,結実にも関与している。ジベレリンは,果実の着果を促進する作用がある。通常は,受精すると,胚が発生して種子ができ,胚がオーキシンを供給して子房を肥大化させる。ブドウの花にジベレリンを処理すると,花粉の受精能力が壊されて,胚の発生がないままで,子房の肥大が誘導される。これを「単為結果」といい,種無しブドウになる。

傷口の癒合
トマトやキュウリの栽培では,病害抑制のために接木がおこなわれる。このとき,穂木と台木の接着面では,組織が再生して癒着が完了する。芽の成長点から輸送されたオーキシンによって,NAC型転写因子が誘導され,維管束組織の細胞分裂を促進する。また,オーキシンがジベレリンの合成を促すことで,支持組織である皮層の細胞が成長する。(*15)


傷口の癒合(*15)

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サイトカイニン

サイトカイニンには,細胞分裂の促進,シュートの形成,老化抑制などさまざまな働きがある。また,種子の発達,クロロフィルの合成促進,形成層の形成などにも関与している。サイトカイニンには,根から茎葉に輸送されるものと,茎葉から根に輸送されるものがある。天然サイトカイニンには,ゼアチン,ペンジルアデニン,カイネチンが存在するが,カイネチンはニシンの精子から分離されたもので,植物体内には存在しない。人工のサイトカイニンには,チジアズロンなどがある。


ゼアチン

細胞増殖と茎葉形成
植物の組織片を,高濃度のオーキシンとサイトカイニンを入れた培地で培養すると,無秩序に細胞分裂が進んで,カルスができる。カルスを,オーキシンだけを入れた別の培地に移すと,根が形成され,サイトカイニン濃度が高くオーキシン濃度が低い培地に移すと,茎葉が形成される。

果実の細胞分裂
果実では,種あり幼果のほうが,サイトカイニン濃度が高くなる。種子のサイトカイニンの活性が高いほど,果肉組織の細胞分裂の活性が高くなる。種子からのサイトカイニンが,周囲の組織の細胞分裂を促進する。

腋芽の形成
頂芽から運ばれてくオーキシンによって,腋芽の発芽が抑えられている(頂芽優勢)。これは,オーキシンが,茎でのサイトカイニン合成酵素遺伝子(IPT)の発現を抑制しているためとされる。頂芽を切除すると,オーキシンの供給が無くなり,IPTが発現してサイトカイニンが生成し,腋芽が成長する。

栄養分の分配
植物体にサイトカイニンを塗ると,その部分に糖やアミノ酸などの栄養分が集まることが知られている。また,サイトカイニンは,植物体の老化を抑制し,植物を若く保つ作用がある。

傷口の癒合
傷口の癒合には,オーキシンとサイトカイニンが作用する。傷ストレスによって発現する転写因子WIND1は,ESR1遺伝子のプロモーターに直接結合してESR1遺伝子の転写を活性化する。このとき,オーキシンとサイトカイニンの両方が適度に存在することで,ESR1遺伝子の発現がさらに促進する。ESR1遺伝子は,下流の因子の少なくとも5個の遺伝子の発現を制御することで,傷口でのカルス形成を促していると考えられている。(*16)


傷口の癒合(*16)

窒素と根の伸長
土壌中に窒素が多く存在すると,地上部の成長が促進されて,根の成長は抑制される。逆に,窒素が不足すると,地上部の成長が抑制されて,根の成長が促進されることが知られている。窒素が多いと,サイトカイニンが増加し,地上部の成長が促進されて,根の成長が抑制される。窒素が不足すると,サイトカイニンが減少し,地上部の成長が抑制されて,根の成長が促進される。

サイトカイニンの輸送と活性化
サイトカイニンは,根と地上部間での情報伝達(シグナル)の役割を担っている。根から地上部へサイトカイニンが輸送されるときは,活性を持たないサイトカイニン前駆体のトランスゼアチンリボシド(tZR)が道管内を移動する。作用する場所に至ると,活性化酵素(LOG)によって,活性型のトランスゼアチン(tZ)に変換されて作用する。また,サイトカイニンの前駆体と活性型の両方が,根から地上部へ輸送されていることがわかっている。活性型の輸送はおもに葉面積の制御に関与し,前駆体の輸送は葉形成の速さの制御もおこなっているといわれている。また,根圏の窒素栄養環境によって,前駆体と活性型の輸送比率が変わることが報告されている。(*17)


サイトカイニンの輸送と活性化(*17)

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アブシジン酸

アブシジン酸(ABA)は,種子の休眠など,植物の成長を抑制するように作用する。ABAは,植物体のどの器官からも検出される。


アブシジン酸(ABA)

種子の形成と維持
受精して胚が発生しはじめると,しだいにアブシジン酸の濃度が高くなっていく。種子の形が完成したころに,もっとも濃度が高くなり,種子が成熟するにしたがって減少する。種子の水分が減少すると,アブシジン酸は,種子に乾燥耐性を付与する。

種子の休眠
種子の休眠形成には,アブシジン酸が必須とされる。種子が休眠中にはアブシジン酸の濃度が高く,休眠が打破されるときは,濃度が低くなる。

発芽の抑制
樹木の芽やジャガイモの芽は,冬期に休眠している。芽の休眠は,アブシジン酸によって維持,制御されている。アブシジン酸の生成量は,芽の休眠形成にともなって増加し,休眠性が低下すると減少する。

気孔の閉鎖
乾燥ストレスは,アブシジン酸を非常に増加させる。アブシジン酸は気孔を閉鎖して,水の蒸散を停止する。気孔の開閉を誘導するアブシジン酸は,維管束で合成され,孔辺細胞に輸送される。また,維管束だけでなく,孔辺細胞でもアブシジン酸が合成される。

水ストレス耐性
植物は,土壌が乾燥すると,根→茎→葉の順で水ポテンシャルが低下する。細胞内の水分が少なくなって,膨圧がゼロになると,アブシジン酸が生成する。増加したアブシジン酸によって,細胞内にはソルビトール,プロリン,LEAタンパク質などが蓄積して,乾燥に対する耐性が高まる。

栄養成長の抑制
水ストレスを受けるとアブシジン酸が増加し,一時的にシュートの成長を抑制する。ただ,水ストレスを受けていない組織に存在する低濃度のアブシジン酸は,栄養成長を促進する働きがある。

根の影響
根にアブシジン酸を与えると,濃度が高いときは伸長成長が抑制される。濃度が低いときは,逆に,伸長成長が促進される。このとき,エチレンとの相互作用が関わっているとされている。アブシジン酸は,エチレン合成を抑制することにより,根の成長を維持する。

根腐れ抑制
水田などの湛水状態でもイネやアシなどが根腐れせずに生育できるのは,アブシジン酸が作用して,根に酸素損失のバリアを形成するためと報告されている。(*18)

葉の老化
アブシジン酸は葉の老化を促進させる作用があるが,若い葉にアブシジン酸を処理しても老化は起こらない。齢が進んだ葉に対してだけ,老化を促進する。

病害虫抵抗性の低下
アブシジン酸は,病害虫に対する抵抗性を低下させる。アブシジン酸は,エチレン,ジャスモン酸,サリチル酸の作用を抑え,病害虫への抵抗性の発現を抑制する。

糖の蓄積
サトウキビの葉部にアブシジン酸水溶液を処理すると,茎中の糖度が,無処理のサトウキビに比べ,15~20%増大する。また,ジベレリン処理で無核化したデラウェアの果房に,オーキシンあるいはアブシジン酸を処理すると,還元糖の蓄積が促進されたという報告がある。デラウェア果粒の還元糖の蓄積には,内生オーキシンとアブシジン酸が関与していると考えられている。伊予柑の果実にアブシジン酸を処理すると,ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)の濃度が増加する。リンゴの無菌培養シュートにアブシジン酸を処理すると,培養シュートのデンプン含量を大きく低下させ,可溶性糖類,ショ糖(スクロース),グルコースの含量を増加させる。(*19),(*20),(*21),(*22)

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エチレン

エチレンは,ガス状の植物ホルモンで,古来よりその存在が知られていた。石炭ガスにはエチレンが5%ほど含まれており,ガス灯の周辺の街路樹は落葉する。エチレンは,植物が刺激を受けると,植物体中のどこの組織でも生成する。エチレンは,細胞内の液体内で合成され,まず水溶液として作用する。その後,細胞内からエチレンガスが外界へ出ていく。


エチレン

果実の成熟
果実の中には,十分に肥大したあと,エチレンが増大して呼吸量が増える種類がある。アボカド,バナナ,トマト,モモ,ナシ,リンゴ,メロン,カキなどの果実は,成熟開始期にエチレンが急増する。エチレンによって,呼吸速度が高まり,各種の酵素が誘導され,軟化や着色が進む。

休眠の打破
種子を水に浸けると,エチレンが生成する。ある種の植物では,エチレンによって休眠が打破される。また,球根の休眠打破にもエチレンが関与しているといわれている。

落葉,落果の促進
エチレンは,落葉や落果を促進する。齢が進んだ古い葉は,エチレンが増えて,老化が起きる。葉柄の離層が形成されて,落葉する。なお,葉から茎へオーキシンが移動しているときは,落葉が抑制される。病害虫に感染すると,エチレンが増えて葉が脱落する。このとき,葉柄の離層部では,細胞壁を分解するセルラーゼの活性が高まり,離層部の細胞が崩壊する。生理落果は,エチレンで起きる。

フックの形成
双子葉植物は,発芽するときに,カギ状のフックができる。先端の成長点が傷まないように,フックで堅い土を押し上げて,地上に芽を出す。フックができるのはエチレンの作用による。エチレンの作用によって細胞が横方向に肥大成長し,太く短い芽になる。もやし栽培では,エチレン処理すると,太いもやしになる。また,フックの形成には,サイトカイニンが,エチレンシグナルと光シグナルを統合し,制御していると報告されている。(*23)

接触ストレスへの応答
植物体に振動や接触がくり返されると,茎の伸長成長が抑制され,横方向への肥大成長が起きる。接触によって,背丈が低く太く丈夫な植物体になる。これは物理的な刺激によって,一過的に発生するエチレンの作用とされている。ユリを温室で栽培すると,通路に近い場所にあるユリは,草丈が短くなる。作業する人の体がユリに接触することで,エチレンが生成する。接触による一時的なエチレンの生成は,緑熟果実に触れることによっても起きる。

不定根と根毛の形成
エチレンが増大すると,主根の伸長成長を抑止するが,不定根の発根や根毛の形成を促進する。不定根とは,主根や側根以外の根のことである。

圧縮土壌での作用
揮発性のエチレンは,通気性のある土壌では拡散する。一方,圧縮土壌では拡散が抑えられ,根の付近のエチレン濃度は高くなる。エチレン濃度が高まると,細胞内シグナル伝達カスケードが起こり,根の成長が停止する。(*24)

冠水のストレス応答
イネの品種のなかには,冠水のストレスを受けると,浮稲のように茎を伸ばす性質ものがある。浮稲は,増水などで水没すると,そのストレスによってエチレン濃度が高くなる。高濃度のエチレンによって,OsEIL1aというタンパク質が蓄積し,これがSD1遺伝子に働き掛けてSD1タンパク質が生産される。SD1タンパク質は,ジベレリンを合成する酵素で,ジベレリンが生成して,水面まで伸長し呼吸できるようになる。いっぽう,冠水耐性のイネでは,高濃度のエチレンは,ジベレリンの情報伝達を抑制して伸長成長を抑制し,エネルギーの消費を抑えることで,冠水に耐えていると考えられている。(*25)

上偏成長
エチレンを植物に処理すると,葉が垂れる。これを上偏成長といい,組織の上側が下側に比べて早く成長するために起きる。トマトのばあい,根が冠水すると,根で作られたエチレンが地上部の葉柄部まで運ばれて,上偏成長が起きることがわかっている。

傷害への応答
植物がなんらかの傷害をうけると,エチレンが生成する。エチレンによって,フェニルアラニンアンモニアリアーゼやペルオキシダーゼなど,リグニン生合成に関わる酵素が誘導される。また,エチレンは,防御タンパク質の塩基性グルカナーゼや塩基性キチナーゼなどの酵素を誘導し,さらに,抗菌性物質のファイトアレキシンの生成を誘導して,植物の防御機能を高める。傷害によるエチレン合成は,植物体のどの部位でも起きるが,とくに,果実の傷害でより顕著に生成する。植物に病原体や害虫が侵入すると,エチレン,ジャスモン酸,サリチル酸などが生成し,病原体や害虫に対する抵抗性が誘導することが知られている。

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ブラシノステロイド

ブラシノステロイドは,ステロイド構造をもつ成長ホルモンで,花粉からはじめて単離された。ブラシノステロイドは,求頂的に移動せず,合成部位の近くの細胞で作用しているとされる。


ブラシノライド

茎の成長
ブラシノステロイドは,双子葉植物では胚軸,節間,葉柄,花柄などを伸長する。単子葉植物では,茎,幼葉鞘,中胚軸を伸長する。細胞伸長だけでなく,細胞分裂にも関与すると考えられている。オーキシンの作用と似ているが,オーキシンは,表層細胞の成長を促進するのに対して,ブラシノステロイドは内部組織と表層細胞の伸長を促進する。エンドウやコムギでは,若い組織はジベレリンによく反応し,齢が経過するとブラシノステロイドに反応し,次にオーキシンによく反応する。オーキシンとブラシノステロイドは相乗的に作用する。ブラシノステロイド処理してから,オーキシン処理すると,大きく作用することが知られている。茎の成長には,ジベレリンとブラシノステロイドの両方が必要であるが,その作用は独立していて,補完性がないとされている。

葉の成長
ブラシノステロイドは,葉の特定の細胞に作用して,葉の形を作る働きがある。イネの葉は,葉鞘から出ると,すばやく展開する。このときに作用するのがブラシノステロイドで,葉の表面の細胞を,裏側の細胞よりも早く成長させると考えられている。

根の成長
ブラシノステロイドは,低い濃度では根の成長を促進するが,高い濃度では成長を阻害する。根の屈地性,側根形成にも関与するとされる。

エチレン合成
ブラシノステロイドは,エチレンの発生を促進する。

分化
ブラシノステロイドは,道管や仮道管の分化と葉原基形成を促進する。

発芽
イネなどの種子の発芽を促進する。ブラシノステロイドは,アブシジン酸の発芽阻害作用を打ち破ることによって,発芽を促進すると考えられている。

生殖成長
ブラシノステロイドは,花粉に多く含まれており,花粉管の伸長を促進する。また,トウモロコシの雄花の分化を誘導する。エンドウやブドウでは,果実の成熟にブラシノステロイドが必要である。

ストレス耐性
ブラシノステロイドは,耐病性,耐暑性,耐寒性,耐塩性などのストレス耐性を高める。エチレンやジャスモン酸の合成を促進し,これらのホルモンがストレス耐性を高めると考えられている。

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ストリゴラクトン

ストリゴラクトンは,寄生植物のストライガなどの発芽を誘導する物質であるストリゴールに類似した化合物の総称である。植物の種類によって,ストリゴール(ソルガム,ワタ),5-デオキシストリゴール(ソルガム,ミヤコグサ),オロバンコール(クローバー,イネ,ササゲ),ソルゴモール(ソルガム,トウモロコシ),ソルゴラクトン(ソルガム)などがある。


ストリゴラクトン

アーバスキュラー菌根菌(AM菌)共生のシグナル
陸上植物の80%が,AM菌と共生している。AM菌は,宿主植物の根が近くにあると,菌糸を分岐して扇状に伸ばす。このとき,AM菌は,宿主植物が分泌するストリゴラクトンに反応している。植物からみると,ストリゴラクトンは,AM菌と共生するためのシグナルである。


ストリゴラクトンの作用

形成層の制御
茎が伸長するとき,維管束の木部と篩部のあいだには,形成層ができる。ストリゴラクトンは形成層の発達を促進する。

老化の誘導
ストリゴラクトンは,葉の老化を促進する。

根の形態調節
イネでは,リンや窒素が欠乏すると,ストリゴラクトンの生成が増加する。ストリゴラクトンが増加すると,主根が長くなり側根が少なくなる。シロイヌナズナでは,ストリゴラクトン処理で根毛の成長が促進される。シロイヌナズナは,リン酸が欠乏したときに,根毛が成長するので,ストリゴラクトンは,リン欠乏に対応して増加すると考えられている。ストリゴラクトンは,マメ科植物の根粒形成を促進する。ストリゴラクトンは,植物体内では,枝分かれの抑制,主根や根毛の成長促進,茎の肥大促進の作用がある。

頂芽優勢
頂芽優勢では,オーキシンが,サイトカイニンとストリゴラクトンの合成量を調節し,腋芽の成長を抑制している。

耐乾性
ストリゴラクトンは,アブシジン酸と協調して乾燥ストレスに対して耐性を高める。

地上部枝分かれを制御
植物は,根圏のストリゴラクトンを感知することによって,隣接する植物の存在を認識し,地上部枝分かれを制御している。ストリゴラクトンの前駆物質が,根から地上部へと移動し,枝分かれを調節している可能性があると報告されている。(*26)

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ジャスモン酸

ジャスモン酸は,花の香りの成分のひとつで,ジャスミン油から,ジャスモン酸メチルが単離された。その作用は,障害ストレスへの対応,離層形成の促進,葉の黄化,老化,成長阻害など多岐にわたる。ジャスモン酸は,葯の形成や花粉の発芽に必須で,ジャガイモの塊茎形成,ツルの巻き付き,ガム物質の形成促進などの作用がある。


ジャスモン酸

傷害応答,食害応答
植物が昆虫から食害されたり,カビなどによって細胞が壊死したりすると,障害を受けた部位でジャスモン酸が作られる。ジャスモン酸から,揮発性のジャスモン酸メチルが生成され,篩部を通って全身に輸送される。ジャスモン酸メチルのシグナルに反応して,タンパク質分解酵素阻害物質が作られ,害虫の消化酵素の働きを阻害する。このため,食害が広がらなくなる。これは,全身獲得抵抗性と呼ばれている。なお,ジャスモン酸情報伝達とサリチル酸情報伝達は,拮抗的な関係にあることがわかっている。ある種の害虫は,共生菌を利用してサリチル酸防除応答を活性化させることで,ジャスモン酸防御応答を抑制しているといわれている。

病害応答
植物が病原菌に感染すると,ジャスモン酸の一時的な蓄積が起こり,続いて病害抵抗性遺伝子が発現誘導されて,毒性のあるアルカロイドの蓄積が起こる。ジャスモン酸は,病原菌の感染に対して,抵抗するためのシグナルとして機能している。植物の細胞を殺して栄養分を利用するタイプの病原菌(殺生菌)に対しては,ジャスモン酸が作用し,植物細胞に寄生するタイプの病原菌(活動寄生菌)に対しては,サリチル酸が作用することがわかっている。ジャスモン酸の生成および情報伝達と,サリチル酸の生成,情報伝達は,お互いに抑制する関係にある。両者は拮抗的に作用する。この両者の関係を利用して,感染の際にジャスモン酸の情報伝達を活性化することで,サリチル酸情報伝達を抑制し,自分の感染を有利にする病原菌が存在するこが知られている。

老化作用
ジャスモン酸は,葉の老化を促進する。ジャスモン酸を処理すると,葉が黄化し,葉の付け根に離層が形成されて落葉する。クロロフィルが分解されると,ジャスモン酸が合成され,老化関連の遺伝子の発現が誘導される。

花とトライコームの形成
ジャスモン酸は,葯の裂開に必須である。また,トマトでは,ジャスモン酸が機能しないと,雌しべが発達不全になって,不稔になる。トウモロコシでは,ジャスモン酸が,雄花と雌花の分化に関与している。葉の表面には,細かい毛が生えており,この毛状突起のことをトライコーム(trichome)という。トライコームの形成は,ジャスモン酸情報伝達からの制御を受けている。

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サリチル酸

サリチル酸は,ヤナギ樹皮の抽出液に多く含まれており,古くから鎮痛,解熱剤として利用されてきた。サリチル酸,サリシン,アセチルサリチル酸(商品名アスピリン)などがある。


サリチル酸

全身獲得抵抗性(SAR)
植物が病原菌に攻撃されると,サリチル酸が急増する。篩管液にサリチル酸濃度が高くなり,サルチル酸メチルに変化して全身に運ばれる。このシグナルによって,病原菌から防御する抵抗性タンパク質が生成する。抵抗性タンパク質には,糸状菌の細胞壁を分解するキチナーゼやグルカーゼ,病原菌のタンパク質を分解するプロテアーゼなどがある。この防御反応は,全身獲得抵抗性(SAR)と呼ばれている。

ジャスモン酸との拮抗作用
サリチル酸とジャスモン酸の情報伝達の作用は,拮抗しており,お互いに他方のシグナルを抑制している。ジャスモン酸は殺生菌に対して抵抗性を付与し,サリチル酸は活動寄生菌に対する抵抗性を付与する。サリチル酸処理したキャベツでは,サリチル酸情報伝達が活性化しているので,ジャスモン酸情報伝達が抑制されて,黒すす病菌(殺傷菌)に対する抵抗性が生じないことが知られている。

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フロリゲン

花芽分化を開始させる物質は,花成ホルモン(フロリゲン)と呼ばれてきた。近年の研究では,花成ホルモン(フロリゲン)は,FT遺伝子によって作られるFTタンパク質ではないかといわれている。日長反応による開花については,葉で日長が受容された後,葉の篩部の細胞でFT遺伝子が働き,FTタンパク質が作られる。芽でFTタンパク質がFDタンパク質と結合し,その働きを調節する。FDタンパク質がAP1遺伝子の発現を誘導して,花芽形成が開始される。開花は日長反応だけでなく,温度,積算温度,齢,栄養状態,体内時計などさまざまな条件に左右されるので,すべての仕組みが判明しているわけではない。(*27),(*28)


日長反応による開花(*27),(*28)

また,葉で作られると考えられていたフロリゲンが,AHユリでは球根の鱗片で作られていると報告されている。2つの花成ホルモン遺伝子は,花芽分化の誘導だけでなく春化(低温感受)にも関与しており,それぞれ異なる開花生理に働くと推定されている。(*29)

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カンキツ栽培では,乾燥ストレスが,光合成同化産物の転流,分配に及ぼす影響について,次のように報告されている。(*30)

同化産物の分配率は,湿潤区では,新葉>果実>旧葉>主幹の順で大きくなる。緩乾燥区では,果実>新葉>旧葉>主幹の順であり,強乾燥区では,新葉>果実>旧葉>主幹で順である。
果実への分配率では,湿潤区が21.6%,緩乾燥区が37.4%,強乾燥区が26.1%であり,緩乾燥のときが,果実への同化産物の分配率がいちばん大きくなる。
乾物重当たりの同化産物の吸収量は,湿潤区では,新葉>新梢>旧葉>果実であり,緩乾燥区と強乾燥区では,新葉>旧葉>果実>新梢の順である。
果実での乾物重当たりの同化産物の吸収量は,緩乾燥区>強乾燥区>湿潤区の順であり,じょうのうと砂じょうの同化産物の分配率は,緩乾燥区>強乾燥区,湿潤区の順である。



乾燥ストレスが光合成同化産物の転流,分配に及ぼす影響(*30)

植物ホルモンの作用としては,次のようなことがわかっている。水ストレスを受けるとアブシジン酸が増加し,一時的にシュートの成長を抑制する。水ストレスを受けていない組織に存在する低濃度のアブシジン酸は,栄養成長を促進する働きがある。根にアブシジン酸を与えると,濃度が高いときは伸長成長が抑制されるが,濃度が低いときは,アブシジン酸が,エチレン合成を抑制することにより,根の成長が維持される。また,カンキツ果実にアブシジン酸を処理すると,ブドウ糖と果糖の濃度が増加する。

ハウスミカンの栽培では,梅雨明け~盆過ぎと9月中旬~収穫期に適度な乾燥ストレスを与えて,果実の糖を高める水管理技術が実践されている。

Reference,Citation
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