神概念6 Conceptions of God

SHINICHIRO HONDA

「天と地が作られた」という創世神話は,世界中の民族に広く存在する。この話が書かれたもっとも古い神話は,シュメールの神話である。

『エンキとニンマフ』
Enki and Ninmah

天と地が作られたとき,それらの夜,天と地が作られた夜,それらの年,運命が決定された年,アヌナの神々が生まれたとき,女神たちが結婚したとき,女神たちが天と地に分配されたとき,女神たちが・・・妊娠して出産したとき,神々が義務付けられた(?)とき・・・彼らの食事・・・彼らの食事のために,上級の神々がその仕事を監督し,一方,下級の神々が苦労していた。神々が運河を掘り,ハラリの泥を積み上げていた。神々は泥を浚渫し,この生活に不平を言い始めた。そのとき,すべての古い神々の創造者,偉大な知恵の一つであるエンキは眠りから覚めることなく,他の神々が知らない場所,深い地底の淡水の源,流れる水の中で,床に横になっていた。神々は泣きながら言った。「彼は嘆きの原因だ!」古い神々を生んだ原初の母ナンムは,神々の涙を,床で目覚めず,眠っている彼女の息子に持って行った。「貴方は本当に眠っているのか,・・・起きていないのか?神々,貴方の創造物は彼らを破壊している。・・息子よ,床から目覚めなさい!貴方の知恵から生まれた技術を使って,神々の代わり(?)を創造し,彼らが苦労から解放されるようにしなさい!」母のナンムの言葉を聞いて,エンキは床から起き上がった。熟考のための部屋ハルアンクグで,彼はイライラして太ももを叩いた。・・・・創造者エンキは,問題について考えた後,母親のナンムに言った。「母上,貴方が計画した創造物は,本当に存在するでしょう。かごを運ぶ労働を彼らに課しなさい。貴方は,アブズの上部の粘土をこねる必要があります。誕生の女神たちが粘土を切り取り,貴方が形を作ります。ニンマフを貴方の助手として活動させましょう。ニニンマ,クジアナ,ニンマダ,ニンバラグ,ニンマグ,・・・そしてニングナが,貴方が誕生を与えるのを待っている。母上が彼の運命を布告した後,ニンマフにかごを運ぶ仕事を彼に課させましょう。」・・・エンキは,・・・彼らの心に喜びをもたらした。彼は母親のナンムとニンマのためにごちそうを用意した。・・・すべての古い神々は彼を讃えた。・・「偉大な知恵の主よ,貴方と同じくらい賢いのは誰ですか?貴方の行動に匹敵する偉大な主人エンキ・・父のように・・貴方は私の運命を決定する人です。貴方は私です。」エンキとニンマフは,ビールを飲み,彼らは高揚し,ニンマフはエンキに言った。「人間の体は良いか悪いかのどちらかであり,運命を良くするか悪くするかは,私の意思次第です。」エンキはニンマフに答えた。「私は,貴方が偶然に決めた良し悪しの,運命の釣り合いをとる。」ニンマフは,手でアブズの上部から粘土を取り,最初に,伸ばした弱い手を曲げることができない人間を作った。エンキは,伸ばした弱い手を曲げられない男を見て,彼の運命を定めた。エンキは,彼を王の下僕に任命した。2番目に,ニンマフは,光を戻す(?)人間,つねに目を開けている(?)人間を作った。エンキは,光を戻す(?)人間,つねに目を開けている(?)人間を見て,音楽芸術を割り当てる運命を布告し,彼を長にした・・・王の目で。3番目に,ニンマフは,両脚が折れた人間,脚が麻痺した人間を作った。エンキは両脚が折れた人間,脚が麻痺した人間を見て,銀細工師の仕事のための・・・。代わりに,ニンマフは,三つ目を,馬鹿な人間に作った。エンキは,馬鹿として生まれた人間を見て,運命を定めた。エンキは,彼を王の下僕に任命した。4番目に,ニンマフは,尿を抑えることができない人間を作った。尿を抑えられなかった人間を見たエンキは,魔法の水に浸し,ナムタル悪魔を彼の体から追い出した。5番目に,ニンマフは出産できない女を作った。エンキは出産できなかった女性を見て,運命を定めた。エンキは,彼女を女王の家に属(?)させた。・・・6番目に,ニンマフは体にペニスも膣もない人間を作った。エンキはペニスも膣もない人間を見て,それに「ニップルの宦官」と名付け,王の前に立つ運命を定めた。ニンマフは,つまんだ粘土を手から地面に投げ,大きな沈黙が起きた。偉大な主人エンキはニンマフに言った。「私はあなたの生き物の運命を定め,彼らに彼らの毎日のパンを与えた。さあ,今度は,私はあなたのために誰かを作る。そして,あなたはその新しく生まれた人間の運命を定めなければならない。」・・・・

この神話には,「天と地が作られた」としか書いていない。中国神話の『三皇本紀』も同様であり,「天地初立,有天皇氏,十二頭」としか書いていない。一方,バビロニア神話の『エヌマ・エリシュ』,エジプト神話,ギリシア神話などでは,天と地の創造について,いろいろと書かれているが,潤色が多すぎて,もとの意味がよくわからない。

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ウバイド期(BC6500~3800年)のメソポタミア南部では,灌漑農業の進展によって,多くの集落が形成され,やがて都市が出現した。もっとも古い都市は,エリドゥと考えられており,シュメール王名表の冒頭には,「王の位が天から降りた後,王の位はエリドゥにあった。エリドゥで,アルリムは王になった。彼は28,800年間支配した」と書かれている。エリドゥは,最大時には1万人が住んでいたという。

エリドゥでは,最下層のBC5300年頃の窪地の中から,祭壇のような施設がある建物が出土している。部屋の中央には「焼けた跡」があり,供物台があったのではないかと考えられている。この建物は,後のメソポタミアの神殿の特徴を持ち,同じ場所に何度も立て替えられていた。ここは,1000年以上も神聖な場所であったとされている。


エリドゥの神殿(レベル7)

農業生産を行うには,農地の近くに集落を作らなければならない。都市ができるということは,農業生産に直接に従事しない人々が多数存在するということであり,社会が分業化していることを示している。人口が増大して,農業の生産規模が大きくなれば,生産組織や生産システムが高度化,複雑化する。生産システム内の機能が分化して,専門化,専業化する。

メソポタミア南部では,肥沃な土(リン)と強い太陽光線以外の原材料が少なく,都市を建設するには,木材,石材などを遠方から運ばなければならない。そのためには,交易,運送,建設を担う人間が必要である。灌漑設備の建設には,地形を測量して,ヘッドダムや用水路を建設しなければならないので,専門的な知識を持った技術者が必要だ。また,役牛の飼育と管理には,繁殖,去勢,馴致,訓練,犂の製造,犂耕などの,専門的な知識と技術が必要である。

これらの技術のうちで,運送や役牛飼育については,特定の集団が,技術を長期に独占することは困難である。サービスの需要が多ければ,参入する人が増えて,収穫逓減になる。自由に参入することが困難なのは,冶金術である。冶金では,軍事力による鉱山の独占的所有が可能であり,しかも,生産技術がきわめて高度で複雑なので,他者は簡単には参入できない。

チャイルドは,人間の都市革命の要素として,灌漑,犂,役畜,帆掛舟,車輪付き交通機関,果樹栽培,造酒,冶金術,煉瓦,アーチ,釉薬,印章,太陽暦などをあげている。これらの機能のなかで,長期的な独占が可能なのは,冶金術であり,冶金術によって作られた武器と生産手段が社会の基盤になっている。チャイルドが指摘した都市革命は,情報の変異と蓄積という点から見れば,「金属革命」と呼ぶことができる。

日本列島では,灌漑可能な河川が多く,また,良質な砂鉄や樹木(木炭)が豊富で,どこの地方でも製鉄が行えた。一方,雨が降らないメソポタミアでは,土地があっても意味がなく,灌漑水が大きな意味を持っている。1962年の農地改革が始まる前の,イランの地主制について,以下の報告がある。

イランでは1960年にはじめて全国規模の農業センサスがまとめられた。これによると,農民総数の59.2%が分益農(raiyati),12.4%が定額小作の借地農(ejarei)であった。農民全体の71.6%が地主が所有する土地で農業をおこなっていたことになる。一般に分益農制では,農民は生産に必要な農具や役畜をもって自己の労働で農作業を行う。しかし地主もまた土地だけではなく水やその他の生産に必要な資本を提供する。このため,分益農は土地のみを地主から借りる借地農と比べて農業経営への独立性が相対的に弱く,地主もまた経営に関与する。・・・ヘイラーバード村の古老の話によると,地主は50km離れた州都から時々馬に乗ってやって来てさまざまな指示を行ったが,その指示は絶対的なもので意見をはさむことは一切認められなかった。村の紛争に対しては地主が裁決を下し,農民の生存権をも奪う領主裁判権ほどの権限はなかったものの,重大事件を除けば実質的な裁判権を行使した。またポレノウ村の農民の話によると,農民は地主の意思で容易に追放され,農民は「あそこへ行け,こっちへ来いといわれれば,働く場所も住居も移った」。農民は貧困のあまり畑の作物をくすねることもしばしばあったが,地主の差配としてのキャドホダー(kadkhuda)は暴力をもって処罰した。・・・地主の強い権限から農業労働以外にも農民にさまざまな賦課を命じた。・・・とくに地主が土地とともに主要な生産手段である水の所有者であったことが重要である。すでに述べたように,乾燥地では灌漑が農業の条件となり灌漑なしに経営は成り立たないから,水利に権利をもつ者が強い請求権をもつことができた。イランでは水は,土地に付属する属地的な性格をもたず人に帰属する属人的な物権である。このため,土地と水の所有者が分離していることもあり,農業に際して水の所有者と土地の所有者の間で水が売買されることもあった。しかし,オアシス農業地帯では多くの場合,地主は同時に水の所有者でもあり,主要な生産手段を独占していた。・・・農業を成立させる条件でありかつ高い生産性を保証する水は地主によって独占され,この独占が農民に対する地主の強い権限の根拠でもあった。・・・ケルマン地方の場合,農業労働のメンバーは頻繁に交代させられ,「耕した土地を自らの手で収穫できる保障はまったくない」という状況にあったといわれている。・・・灌漑農業では農民は労働と雄牛を負担するか,自らの労働力のみしか負担していない。これに対して非灌漑農業では,農民が労働力に加えて役畜と種を負担する場合が割合として非常に高い。これを地主の負担でみると,灌漑農業では土地,水,種,地方によっては牛も負担したが,非灌漑農業では土地のみの提供者である割合が高い灌漑農業を行うポレノウ村の場合でみると,農民は自分の労働力のみ負担した。もっとも役畜としての雄牛は農民が飼養したが,地主が購入資金を出しており,牛が死ぬか農民が村を出るときには地主はこの資金を回収した。したがって農民自身はこの牛を地主のものと思っていた。・・・マルヴダシト地方の場合でみると,灌漑小麦では地主は土地,水,種,また役畜を負担することで収穫の3分の2に権利をもち,農民は自らの労働を提供することで3分の1を得た。一方,非灌漑小麦では地主は土地のみを提供し農民がその他の要素を負担することで収穫の5分の4を手にした。(後藤,アブドリ. 2006)

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「天と地が作られた」というのは,地形のことを言っているわけではない。「天」は,天(そら)ではなく,アン(天空神)のことである。「地」は,地面ではなく「マウンド」であり,すなわちエンキのことである。

アンは「天」,「空」であり,統治システムには中心が存在しない。ギョベクリ・テペの円形石柱の中心には何も無く,「空」である。一方,「地」(マウンド)のエンキは,「空」ではない。エリドゥの最下層(BC5300年頃)の神殿の部屋の中央には,「焼けた跡」があった。焼けた跡は供物台ではなくて,冶金のマウンドの跡ではないだろうか。メソポタミアでは,紀元前3000年期に神殿施設として,巨大なジッグラトが建設されるようになった。エンリルの主要な聖域は、メソポタミア南部のニップルのエクル「山の家」であった。また,エンリルは「偉大な山」と呼ばれた。

Templo_de_fuego,_Baku,_Azerbaiyán,_2016-09-27,_DD_34
拝火神殿,Eternal flame at Fire Temple of Baku also known as Ateshgah of Baku.

1024px-Atashgah_firetemple_Isfahan
拝火神殿,Fire temple structure on the top of the hill,Isfahan, Iran

古代エジプトの神殿には,銅の板や金で装飾された石柱(オベリスク)が立てられた。このオベリスクの起源は,ベンベンとされている。ベンベンは,尖ったピラミッド型の「マウンド」で,ピラミッドの起源にもなったと考えられている。ヘリオポリスの創造神話では,ベンベンは,原初の水「ヌン」から最初に生まれた「マウンド」のことであり,そのマンウドに創造神アトゥムが座ったと書かれている。


Obelisk of Pharaoh Senusret I, Al-Maalla area of Al-Matariyyah district in modern Heliopolis.


Benben stone from the Pyramid of Amenemhat III, Twelfth Dynasty. Egyptian Museum, Cairo.

エジプトのベンベンとよく似たシンボルに,南アジアや東南アジアのリンガ(Lingam)がある。リンガは,円筒形の柱のような形で,シバ神のシンボルとされている。最も古いリンガは,BC2300年のモヘンジョダロやハラッパーの遺跡から出土している。


Un linga-yoni en el santuario Cat Tien, en la provincia de Lam Dong (Vietnam).


A Buddhist Stupa (above) may have influenced the later iconography of the Hindu Shiva-linga, according to Swami Vivekananda.(Author:Ken Wieland)

天と地が作られる前は,部族の神である氏族神概念(古い神々)と,それらの部族を超越した絶対神である天空神概念しか存在していなかった。

天空神アンは,神概念であり,何らかの債権と債務(奉納の受け取りと支払い)につながっている。債権と債務が存在しないのに,個人が奉納を支払う神概念が存在する合理性は存在しない。ただし,天空神アンは,軍事力を有せず,権威のみの「暇な神」である。天空神概念の債権と債務はそれほど大きくなく,神官に支払われる程度の奉納にすぎない。

軍事力は,それぞれの部族(氏族)に存在する。人間は,自分が属する血縁集団の部族あるいは氏族の為にしか,命をかけて戦闘しない。もし,血縁関係がまったく無い集団のために,命を投げ出す個体(遺伝子)が出現しても,その遺伝子が存続する確率は,そうでない遺伝子の存続確率よりも小さいので,その遺伝子は,遺伝子プールに広がらない。氏族神概念は,軍事力につながっているので,債権債務は大きい。氏族神への奉納は,武器製造者と兵に支払われる。

「天と地が作られた」ということは,アンと並ぶ絶対神で,何らかの債権と債務(奉納の受け取りと支払い)を有する神概念が,新たに作られたことを意味する。絶対神というのは,部族や氏族を超越した神概念のことである。

新たな神概念であるエンリル・エンキは,武器と生産手段(灌漑水)を供与する力を有する。武器は領地(土地)の獲得と維持に必須であり,ツルハシはヘッドダムなど灌漑施設の建設に必須である。すなわち,エンリル・エンキは,部族を超える超越性,軍事力,生産の機能を兼ね備えた神概念である。それは,メソポタミア社会が,部族のテリトリーを越えた何らかの領域を形成する社会へと転換したことから生じたものである。部族社会における軍事力と贈与(等価交換)のシステムから,共通の神概念による法と市場(等価交換)のシステムへ転換した。

『エンキとニンマフ』には,人間は,神々の代わりに苦しい労働を行うために,粘土から作られたと書かれている。人間が粘土から作られたという神話は,バビロニア神話,ギリシア神話,中国神話,メラネシアのバンクス諸島の神話など世界中にある。なかでも,シュメールと中国の神話では,下のように,はっきりと階級制度を正当化(合法化)している。

エンキは,伸ばした弱い手を曲げられない男を見て,彼の運命を定めた。エンキは,彼を王の下僕に任命した・・・エンキは,馬鹿として生まれた人間を見て,運命を定めた。エンキは,彼を王の下僕に任命した・・・(エンキとニンマフ)

天地ができあがったが,まだ人間はいなかった。そこで女媧は黄土を手でこねて人間を一人一人造っていった。だが,その仕事はなかなか重労働で,休まず続けても思うようにはできあがらなかった。そこで女媧は縄を泥の中にひたし,それを引きあげて造ることにした。こうして縄から滴り落ちる泥がつぎつぎと人間になったが,黄土を丸めて造った人間が金持や高貴な人間となったのに対し,縄から滴ってできた人間は貧乏人や凡庸な人間となった。(後漢,風俗通義)

部族社会では,集団は血縁関係を基盤にしており,テリトリーから得られる食料は常に平等に分配される。獲物を獲得した人間は,資源を多く獲得することはできないが,面目を保つことができて,集団内での優位な位置を占めることができる。逆に,獲物を獲得できない人間は,面目を保つことができず,優位な位置を占めることができない。そこには,暗黙の債権債務関係(序列)が存在する。

部族から国家へと転換すると,血族集団以外の集団や個人との債権債務関係が生じる。そこでは,暗黙の債権債務関係が成立しないので,トークンによって,債権債務を記録するようになった。個人間,集団間の債権債務関係が,数字で記録(記憶)されるようになった。

ウバイド期には,「王」という概念が成立していない。王とは,テリトリーの土地(領地)や生産手段の所有権を有する個人のことだ。王権が成立する前は,領地を所有する特定の個人は存在せず,領地の所有者は,形而上的な神概念であった。

天空神のアンは,暴力を伴わない権威のみの神概念なので,土地(領地)の所有権を有しない。もともとは,土地(領地)の所有権は,軍事力を有する氏族神概念(古い神々)とつながっていた。「天と地が作られた」という神権の成立によって,土地(領地)や生産手段の所有権は,氏族神とエンリル・エンキが有するようになった。

ただし,メソポタミアでは,河川の流域の外は砂漠である。砂漠の土地をテリトリーにする先住の部族は存在しておらず,無人,無主の土地であった。メソポタミアに進出した人々は,無人,無主の土地に灌漑施設を建設して,土地の領有権を得た。

エンリル・エンキは,軍事力を有しており,土地(領地)や灌漑水の所有者である。絶対的な王権の時代には,王が,武器と土地,灌漑水などの生産手段を独占的に所有し,土地と灌漑水の供与を債権にして税(使用料)を徴収したように,神権も,武器と生産手段の供与を債権にして,奉納を支払わせた。

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『魏志倭人伝』や『三国志』では,卑弥呼は倭国の「王」,「女王」と書かれる。ただし,統治システムにおいて,絶対的な王が存在しない場合,中心は,「天」,「空」になる。卑弥呼は,天空神の声を伝えるシャーマンの役割である。

「神」というのは,説文では「示に従い申の声」とあり,「示」が神の意味である。示は,契文に多く残されており,説文は「天垂象,見吉凶,所以示人也」とし,加藤先生は「机上に肉を載せて血の垂れる形」と言う。白川先生も祭卓(神を祭るときに使う机)の形とし,藤堂先生は神霊が天からくだってくる祭壇としている。

しかし,中国神話の最高神(示)は,天,空であり,実体が存在しない。契文の形は机や祭壇ではなく,実体が存在しないことを表現したものだ。「示」は,部族同士の債権の形而上的保証人である天,空(実体が無いもの)から下ってくる信号の象形である。シャーマンは,その信号を伝える媒体である。

文献
*1) Black, J.A., Cunningham, G., Fluckiger-Hawker, E, Robson, E., and Zólyomi, G., The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature (http://www-etcsl.orient.ox.ac.uk/), Oxford 1998-.
*2) G.J. Wightman. (2007). Sacred Spaces: Religious Architecture in the Ancient World.
*3) 後藤 晃, ケイワン・アブドリ. (2006). イラン土地制度史論(1)―マルヴダシト地方を中心に―. 商経論叢 第41巻第3・4合併号.
*4) 伊藤清司. (1996). 中国の神話・伝説. 東方書店.
*5) 許慎. 説文解字. 中國哲學書電子化計劃.
*6) 加藤常賢. (1970). 漢字の起源. 角川書店.
*7) 白川 静. (2003). 常用字解. 平凡社.
*8) 藤堂明保, 加納善光. (1980). 現代標準漢和辞典. 学研.

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