西アジアの旧石器時代:Paleolithic age in Southwest Asia

西アジアで、もっとも古いホモ属の活動の証拠は、南コーカサス(ジュージア)のドマニシ遺跡である。ドマニシでは、180万年前のホモ属の骨が出土しており、これは、アフリカ以外でもっとも古い。


Dmanisi skull 3

ドマニシでは、アシューリアンに特徴的なハンドアックスなどの石器は見つかっておらず、より古いオルドワン型の石器しか出土していない。このため、ドマニシのホモ属については、ホモ・エレクトスより古い別種のホモ属であるという説がある。しかし、現在、この説は支持されておらず、ドマニシのホモ属は、ホモ・エレクトスの亜種のひとつとされている。

下部旧石器時代の西アジアで、アシューリアン石器がはじめて出土するのは、ガラリア湖の3kmほど南にあるウベイディア遺跡で、年代は140万年前である。

また、アシューリアン石器は、78万年前のフラ湖の南にあるゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡から大量に見つかっている。ハンドアックス、両面加工の石器、削器、ハンマー、錐などの石器、窪み石(pit stone)、シカ、ゾウ、カバなどの哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類の骨、大量の魚の歯、植物の残骸などが出土した。
これらの遺物は、それぞれ別の場所に埋まっており、食物の加工や魚の調理などが、異なる場所で行われていた。このことから、当時のホモ属の集団は、コミュニケーションの能力を有し、社会的な機能組織を形成していたと考えられている。男性は狩猟や石器製作などを行い、女性は採集や食物の加工などに従事する分業化がおきていたとされる。(*1, 2)


Gesher Benot Ya’aqov(American Association for the Advancement of Science)

ゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡(GBY)では、大量の窪み石(pit stone)が出土しており、堅果などの加工が行われていた。55種の植物が確認されており、当時のホモ属が、加工して食料にしていた植物として、以下のものが報告されている。(*3, 4)

オニバス:Euryale ferox(prickly water lily):スイレン科の1年生の水生植物で、種子を食用とする。fox nutとして現在でも利用されている。
パレスチナ・オーク:Quercus calliprinos(Palestine oak):ブナ科コナラ属の常緑樹で、長さ5cmほどのドングリの実が成る。
マウント・テーバー・オーク:Quercus ithaburensis (Mount Tabor oak) :ブナ科コナラ属の半常緑~落葉樹で、ドングリは長さ5 cmほどの楕円形。
マリアアザミ:Silybum marianum(Milk thistle):キク科オオアザミ属で、種子は現在でも薬用植物として利用される。
オリーブ:Olea europaea(olive):モクセイ科の常緑高木。
ヒシ:Trapa natans (water chestnut) :ミソハギ科の1年草の水草。池沼に生える浮葉植物で、種子は食用にされる。ヒシの実は、縄文時代の遺跡からも出土する。
クワイ:Sagittaria sagittifolia(arrowhead):オモダカ科の水生多年草で、塊茎を食用とする。日本では縁起の良い食物として、おせち料理で食べる習慣がある。
ガマ:Typha(cattail):ガマ科ガマ属の多年草で、池や沼などの水辺に生える。根茎を食用にする。
野生アーモンド:Amygdalus communis (wild almond):バラ科サクラ属の落葉高木。
アトランチックピスタチオ:Pistacia atlantica (Atlantic pistachio):ウルシ科カイノキ属の落葉高木。種子は、ピスタチオ同様に多くの脂肪を含む。未成熟果実を食用にすることもある。
野生ピスタチオ:Pistacia vera (pistachio):ウルシ科カイノキ属の落葉高木。乾燥と塩害に強い。


Typology of pitted stones at GBY. (1) Incipient pits on flat basalt cobble (layer II-6 L 6). (2) Shallow pit on round broken basalt cobble (layer “Unconformity”). (3) Large deep pit on broken basalt hammer (layer II-6 L 4b). (4) Small deep pit on basalt flake (layer II-6 L 4b). (4a) Cluster of small deep pits on angular basalt fragment (layer II-6 L 4b).(PNAS 2002 Feb 19; 99(4): 2455–2460)

中部旧石器時代の西アジアでは、ムステリアン石器が広く存在する。レヴァント地方ムステリアンは、ダブンB型、ダブンC型、ダブンD型の3つに分けられ、25~4.7万年前にかけて存続したらしい。西アジアでは、現生人類とネアンデルタール人が同時代に生活しており、現生人類の化石は、ミスリヤ洞窟の19.4~17.7万年前やカフゼーやスフール遺跡の12.5~9万年前の出土例がある(*5)。ネアンデルタール人の化石は、アムッド洞窟などから7.5~4.7万年前のものが見つかっている。

中部旧石器時代の遺跡からは、ガゼル、ダマジカ、アカシカ、ノロジカ、オーロックス、ロバ、カメ、トカゲなどが出土し、捕獲に使用したと思われるルヴァロア技法(石核から剥片を剥がす)による尖頭器も見つかっている。尖頭器は、投げ槍として利用されたらしい。

中部旧石器時代の西アジアでは、詳細な植物利用の論文が見つからなかったのだが、ヨーロッパについては以下のような報告がある。(*6)

イタリア中部のビランチーノ遺跡(Bilancino II)では、3万年前の石杵、石臼が出土し、それらに付着したデンプンの分析から、イネ科植物、ミナトカモジグサ属、ガマの根茎が加工されていたという。
ロシア南部のドン川の近くのコステンキ遺跡(Kostenki 16)では、3万年前の石杵の表面から、ハナワラビ属の根茎のデンプンが確認された。
チェコの南モラヴィア州のパヴロフ遺跡(Pavlov VI)では、3万年前の石杵に、ガマの根茎、ハナワラビ属などのシダ植物の根茎のデンプンが付着していた。


(A) Bilancino II grindstone and pestle grinder and wear traces. (B) Kostenki 16-Uglyanka, pestle and wear traces (C) Pavlov VI pestle grinder and wear traces. (PNAS November 2, 2010. 107 (44) 18815-18819)

また、イタリア南部のパグリッチ洞窟(Grotta Paglicci 23 A)では、中部旧石器時代の大量の石器、芸術品、埋葬物、ウマや手の壁画などが見つかっている。植物では、ビャクシン、ピスタチオ、スモモ、ドングリ、マツ、ヤナギ、ポプラ、カエデ、ナツメ、トネリコなどが出土している。3.3万年前の層から出土した石杵には、イネ科植物のデンプンが付着していた。これは、野生のカラスムギなどの種子をすりつぶした痕跡と報告されている。カラスムギをたき火で乾燥させてから石杵で粉にして、食料にしていたと考えられている。カラスムギの栽培型は、エンバク(燕麦、Oat)である。


The Paglicci pestle-grinder with the sampling areas. The dashed line indicates the area that became wet during the sampling on the apex. (PNAS September 29, 2015. 112 (39) 12075-12080)

現生人類がヨーロッパに侵入したもっとも古い痕跡は、ロシア南部のコステンキ遺跡とされている。コステンキ遺跡のもっとも古い文化層の年代は、4.5~4.2万年前とされているので、ヨーロッパに侵入してから1万年ぐらいたったころには、イネ科植物の種子を粉にして食べるという文化が存在していたと思われる。

また、ヨーロッパや西アジアから遠く離れたオーストラリアでも同様の報告がある。オーストラリアのカディー・スプリングス(Cuddie Springs)の3万年前の石皿についた使用痕や残滓の分析から、草木種子をすりつぶして食用にしていたと推測されている(*8)


Surface grindstone from the Cuddie Springs lake floor with morphology, usewear and residues consistent with a seed-grinding function: a millstone according to the classifications of Smith.(Photo Carlo Bento.) (Antiquity 71, 300–307)

人類は、20万年以上も昔からオーカーを利用していたので、オーカーを粉にするために、石杵や石臼を粉砕道具として使用してきた。ヨーロッパやオーストラリアの例から、人類は、かなり早い時期から、石杵、石臼、磨石、石皿を利用して、植物の根茎やイネ科植物の種子を食用とする文化(知識)を持っていたことがうかがえる。

文献
*1)Nira Alperson-Afil, Gonen Sharon, Mordechai Kislev, Yoel Melamed, Irit Zohar, Shosh Ashkenazi, Rivka Rabinovic. (2009) Spatial Organization of Hominin Activities at Gesher Benot Ya’aqov, Israel. Science 18 Dec 2009:Vol. 326, Issue 5960, pp. 1677-1680
*2)現代的生活の起源はホモ・エレクトスか
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2157/
*3)Naama Goren-Inbar, Gonen Sharon, Yoel Melamed, and Mordechai Kislev. (2002) Nuts, nut cracking, and pitted stones at Gesher Benot Ya‘aqov, Israel. PNAS 2002 Feb 19; 99(4): 2455–2460
*4)Yoel Melamed, Mordechai E. Kislev, Eli Geffen, Simcha Lev-Yadun, and Naama Goren-Inbar. (2016) The plant component of an Acheulian diet at Gesher Benot Ya‘aqov, Israel. PNAS December 20, 2016. 113 (51) 14674-14679
*5)Israel Hershkovitz, Gerhard W. Weber, Rolf Quam, Mathieu Duval, Rainer Grün, Leslie Kinsley, Avner Ayalo. (2018) The earliest modern humans outside Africa. Science 26 Jan 2018 Vol. 359, Issue 6374, pp. 456-459
*6)Anna Revedin, Biancamaria Aranguren, Roberto Becattini, Laura Longo, Emanuele Marconi, Marta Mariotti Lippi, Natalia Skakun, Andrey Sinitsyn, Elena Spiridonova, and Jiří Svoboda. (2010) Thirty thousand-year-old evidence of plant food processing. PNAS November 2, 2010. 107 (44) 18815-18819
*7)Marta Mariotti Lippi, Bruno Foggi, Biancamaria Aranguren, Annamaria Ronchitelli, and Anna Revedin. (2015) Multistep food plant processing at Grotta Paglicci (Southern Italy) around 32,600 cal B.P. PNAS September 29, 2015. 112 (39) 12075-12080
*8)Fullagar R, Field J. (1997) Pleistocene seed-grinding implements from the Australian arid zone. Antiquity 71, 300–307.
*9)藤井純夫ほか.(2013)西アジア考古学講義ノート. 日本西アジア考古学会
*10)藤本強.(1983)石皿・磨石・石臼・石杵・磨臼. 東京大学文学部考古学研究室研究紀要

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ブタの起源:Origin of domestic pig

ブタの原種がイノシシであることは、よく知られている。ウシの原種のオーロックスや、ウマの原種は絶滅してしまったし、野生スイギュウ、ムフロン、ベゾアールなども絶滅寸前である。ところが、イノシシだけは、現在でもその勢力を維持あるいは拡大している。

かつて、ヨーロッパではイノシシはほぼ絶滅し、日本でも個体数が激減した。しかし、現在、日本やヨーロッパでは、イノシシの数が増加しており、農作物への被害が問題になっている。また、もともと分布していなかった南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドでも、家畜ブタが野生化した野生化ブタ(Feral pig)が大繁殖している。(*1)


イノシシ、野生化ブタ(Feral pig)の分布

オーロックスやウマの原種が生存できなかったのに対して、イノシシだけが再び繁栄できたのには、理由がある。

生物は、環境収容力Kを超えて増加することはできない(ロジスティック方程式)。イノシシの個体数は、おもにイノシシが利用する資源量に左右される。イノシシは、森に生息しており、その食べ物は、植物の地下茎やドングリなどの子実である。ミミズ、ヘビなどの動物も食べるが、多くは植物質である。森の資源に依存するイノシシが増加しているということは、人間が、森の資源利用を放棄して、森から撤退したことを意味している。

なぜ、人間が、森の資源利用を放棄したかといえば、かつて森から得ていたエネルギーの利用をやめて、代わりに石炭・石油の化石エネルギー、あるいは原子力のエネルギーに依存するようになったからである。

イノシシ属(Sus)の分類については議論があるが、おおむね以下の4種が支持されている。

Sus verrucosus(Javan warty pig):スンダイボイノシシ、ジャワ島、マドゥラ島に分布
Sus barbatus(Bearded pig):ヒゲイノシシ、東南アジアに分布
Sus salvanius(Pygmy hog):コビトイノシシ、インド北東部、ブータンに分布
Sus scrofa(Wild boar):イノシシ


Javan warty pig(Author:Cornish, C. J.)

Bearded pig(Author:Rufus46)

Pygmy hog(Author:A. J. T. Johnsingh)

イノシシ(Sus scrofa)は、ユーラシア大陸に広く分布し、十数種の亜種が認められている。また、家畜のブタの学名は、Sus scrofa domesticusと表記するようになっている。


アナトリアのイノシシ(Author:eman)

日本のイノシシ

ヨーロッパのイノシシ(Author:Jerzy Strzelecki)

日本には、ニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)とリュウキュウイノシシ(Sus scrofa riukiuanus)の2つの亜種が生息するが、最近のDNA分析から、石垣島と西表島の集団は、新たな亜種として認められる可能性があるという。(*2)


(source:ゲノム情報に基づくニワトリ・ブタの家禽化・家畜化起源探索と遺伝的分化の解明)

ブタの家畜化についての考古学的な証拠としては、トルコ南東部で10,300年前、中国広西省桂林甑皮岩遺跡では11,000前の出土物の報告がある。

2000年のミトコンドリアDNA分析に基づく報告では、世界の家畜ブタには、ヨーロッパのイノシシに近縁な系統と、アジアのイノシシに近縁な系統が存在している。ヨーロッパのイノシシとアジアのイノシシの分岐は50万年前と推定されており、ブタの家畜化は、ユーラシアの西と東で別々に行われたことを示している。(*3)

2005年に、世界各地の野生のイノシシ属と野生化ブタ(Feral pig)のミトコンドリアDNA解析が報告されている。ただし、標本にコビトイノシシは含まれていない。イノシシ属は、東南アジア、インド、ユーラシア東部、ユーラシア西部の4つのクレード(系統群)に大きく分かれる。図のクレード1内のsvはスンダイボイノシシ(Sus verrucosus)、sbはヒゲイノシシ(Sus barbatus)を指している。D1~D6は、家畜ブタにも存在するハプロタイプが、イノシシにも含まれるクレードである。(*4)


Bayesian (MCMC) consensus tree of 122 Sus mtDNA control region haplotypes rooted by a common warthog (Phacochoerus aethiopicus). A total of 14 clusters (represented by a specific color and corresponding region on the Eurasian map) are contained within four major clades on the tree (1 to 4). Tips associated with the island of Sulawesi represent the native wild boar Sus celebensis. All other tips represent wild Sus scrofa unless indicated by the following two-letter codes: sb, Sus barbatus; sv, Sus verrucosus. D1 to D6 represent suggested centers of domestication. D1 to D3 indicate areas where native wild boar have haplotypes identical to those of domestic pigs from the same region. Additional details are given in fig. S1. (Science. 2005 Mar 11;307(5715):1618-21.)

ユーラシアの西と東でブタの家畜化が行われたが、農耕文化が拡大あるいは伝播する過程で、各地の野生のイノシシが家畜に取り込まれたことを示している。この報告でのなぞの一つは、最初に家畜化が行われた可能性が高いアナトリアのイノシシの系統が、家畜ブタから見つかっていないことである。

2015年にも、ヨーロッパとアジアの600頭以上の家畜ブタとイノシシの遺伝学的な解析が行われている。結果は、ヨーロッパの家畜ブタの起源は、アナトリアの家畜ブタであった。ところが、アナトリアの家畜ブタの大部分は、ヨーロッパのイノシシの系統に属していた。この理由としては、ブタが家畜化された当初から、家畜ブタと野生イノシシとの交雑が続いていたためと考えられている。現在の家畜ブタは、多くの野生系統に由来するモザイクであり、ヨーロッパの品種には、すでに野生型が絶滅した系統も存在するという。(*5)


European wild boars (EUW), European domestic breed (EUD), Asian wild boar (ASW), Asian domestic pigs (ASD)
Example of a parallel sweep in ASD and EUD. (a) CLR values in the PLAG1 region. Dashed blue and red lines represent P-value thresholds of 0.05 and 0.01, respectively. The boxed area indicates the position of the parallel swept region in b. (b) CLR values in the parallel swept region a few thousand basepairs upstream of the PLAG1 region. (c) Genealogy of phased haplotypes (supplementary Note) for the swept region in b. The shaded areas highlight the very short branch lengths that are the result of a selective sweep. The shaded area on the left (Europe) contains 64 haplotypes from EUD (>72% of the total EUD haplotypes) and 2 haplotypes from EUW (<4% of the total EUW haplotypes). The shaded area on the right (Asia) contains 24 haplotypes from ASD (>54% of the total ASD haplotypes) and no ASW haplotypes. (Nature Genetics volume 47, pages 1141–1148)

なお、以前にもふれたが、もともとイノシシが生息していなかったキプロス島に、11,400~11,700年前に、イノシシが生息したことが判明している(*6)。これは、イノシシが、舟で島に持ち込まれたことを示している。このとき、イノシシだけでなく、ムフロン、ベゾアール、オーロックス、ダマジカ、アカシカ、キツネも運ばれていた。

キプロス島の大型の動物が持ち込まれたのは、トルコ南東部でヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタの家畜化が始まる1,500~2,000年も前のことであり、生物的な家畜化が起きる前に、長期にわたって野生動物の管理が行われていたことを意味するが、これについてはのちに検討する。

文献
*1)兵庫県森林動物研究センター. (2016)なぜイノシシは都市に出没するのか?, 兵庫ワイルドライフモノグラフ8号
*2)西堀正英, 山本義雄, 万年英之, 下桐猛. (2016) ゲノム情報に基づくニワトリ・ブタの家禽化・家畜化起源探索と遺伝的分化の解明, 2016年度実績報告書
*3)Giuffra E, Kijas JM, Amarger V, Carlborg O, Jeon JT, Andersson L. (2000) The origin of the domestic pig: independent domestication and subsequent introgression. Genetics. 2000 Apr;154(4):1785-91.
*4)Larson G, Dobney K, Albarella U, Fang M, Matisoo-Smith E, Robins J, Lowden S, Finlayson H, Brand T, Willerslev E, Rowley-Conwy P, Andersson L, Cooper A. (2005) Worldwide Phylogeography of Wild Boar Reveals Multiple Centers of Pig Domestication, Science. 2005 Mar 11;307(5715):1618-21.
*5)Laurent A F Frantz, Joshua G Schraiber, Ole Madsen, Hendrik-Jan Megens, Alex Cagan, Mirte Bosse, Yogesh Paude, Richard P M A Crooijmans, Greger Larson & Martien A M Groenen. (2015) Evidence of long-term gene flow and selection during domestication from analyses of Eurasian wild and domestic pig genomes. Nature Genetics volume 47, pages 1141–1148
*6)Jean-Denis Vigne, Antoine Zazzo, Jean-François Saliège, François Poplin, Jean Guilaine, and Alan Simmons. (2009) Pre-Neolithic wild boar management and introduction to Cyprus more than 11,400 years ago. PNAS September 22, 2009. 106 (38) 16135-16138

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家畜ウシの起源:Origin of cattle

ウシ族の分類についても、最近まで系統関係がよくわかっておらず、学名表記も不安定であった。

Bos primigenius(Aurochs, cattle):オーロックス、家畜ウシ
Bos grunniens(Yak):ヤク
Bos javanicus(Banteng):バンテン
Bos frontalis(Gayal):ガヤル
Bos gaurus(Gaur):ガウア
Bos sauveli(Kouprey):コープレイ
Bison bonasus(European bison, wisent):ヨーロッパバイソン
Bison bison(American bison, American buffalo):アメリカバイソン、バッファロー


Yak, Date1898(Author:Lydekker, Richard)


Banteng at Indonesia(Author:rochmad setyadi)


Gayal(1887)


Gaur(Author:Animalkingdomvideos)


A young male Kouprey, the horns not yet fully developed, photographed 1937 at the Zoo of Vincennes, Paris.(Author:Georges Broihanne)


European Bison(Author:Talks Presenters)


Bison(Author:Jack Dykinga)

メスのミトコンドリアDNAで見ると、ヨーロッパバイソン(Bison bonasus, wisent)は、家畜ウシ(Bos taurus, ox, zebu)と近縁である(*1)。ところが、オスのY染色体で見ると、ヨーロッパバイソン(wisent)はアメリカバイソン(bison)と近縁である。これは、ヨーロッパバイソン(wisent)が、バイソン系統のオスとオーロックス系統のメスが交差して成立したためと考えられている。(*2)


Phylogenetic analyses including all the diversity for banteng and gaur sequences. The phylogenetic trees were carried out with the Bayesian approach, and the values on the branches correspond to posterior probabilities greater than 0.5. The analyses were done by including all sequences of banteng (Bos javanicus) and gaur (Bos frontalis) available in the EMBL/GenBank/DDBJ databases. Banteng and gaur sequences produced during this study are indicated by black circle. The tree in (A) was found by analysing the sequences of the subunit II of the cytochrome c oxidase (CO2), whereas the tree in (B) was obtained with the cytochrome b gene sequences (Cyb). (Molecular Phylogenetics and Evolution Vol 33, Issue 3, 2004, P 896-907)


Phylogenetic trees of bovine species. In the Neighbor-Joining tree the circled numbers correspond to the numbering of lineages in the text. The figures near nodes indicate bootstrapping percentages of the Neighbor-Joining (nj) maximum parsimony (mp), and maximum likelihood with the HKY + G model (ml; Swofford 2000) or the fraction of times a given clade occurs in the trees sampled during Bayesian analysis (ba); the figures of 100 are generated by three or all four of the algorithms. The interrupted line indicates an alternative position of wisent, diverging from a cluster of lineages (1), (3), and (4) (Molecular Biology and Evolution, Vol 21, Issue 7, 1 July 2004, P 1165–1170)


Explanations for the divergence of the mitochondrial DNA from bison and wisent (Molecular Biology and Evolution, Vol 21, Issue 7, 1 July 2004, P 1165–1170)


スペイン、アルタミラ洞窟のバイソン(Author:Rameessos)

家畜ウシの原種は、オーロックス(Bos primigenius)である。オーロックスは、最後の1頭が1627年にポーランドで死んで絶滅してしまった。絶滅したオーロックスには、少なくとも、次の3つの亜種が存在したことが認められている。

Bos primigenius primigenius(Aurochs):ユーラシア大陸に広く分布
Bos primigenius namadicus(Indian Aurochs):インドに分布、3,200年前?に絶滅
Bos primigenius africanus(African Aurochs):北アフリカに分布


Aurochs, the original probably dates from the 16th century(Author:Charles Hamilton Smith)


Aurochs bull at the Zoological Museum in Copenhagen. 7400 BC, found on Prejlerup.(Author:Michael B. H.)


zebu、コブウシ


Jabbarenの岩絵、アルジェリア東部(Author:Yangar)


Watusi Cattle(Sanga cattle)アフリカ(Author:Just chaos)

なお、家畜ウシの学名は、以前はBos taurus(cattle)あるいはBos indicus(zebu)であったが、現在は、祖先のオーロックスとおなじBos primigeniusに統一されている。

Bos taurusBos primigenius taurus(cattle):ウシ
Bos indicusBos primigenius indicus(zebu):ゼブー、コブウシ

2014年に、134品種1,543頭の家畜ウシの遺伝子の解析が行われている(*3)。家畜ウシは、アジア、ユーラシア、アフリカの3つの大きなグループに分かれた。また品種としては、ウシ(Bos taurus taurus)、ゼブー(Bos taurus indicus)、バンテン(Bos javanicus)の3種に大きく分けられる。家畜化が行われたおもな場所は、肥沃な三日月地帯とインダス渓谷の2か所と考えられる。

バンテン(Bos javanicus)は、ウシやゼブーの祖先の系統と、より古い時代に分岐した祖先に由来する。

また、アフリカのウシは、ウシ、ゼブー、バンテンとは別の系統であり、アフリカで第3のウシの家畜化があったと推定される。そして、アフリカで家畜化があった場合、その祖先は、ユーラシアのオーロックス、インドのオーロックスの共通祖先と姉妹だったであろう。

モンゴル牛(Mongolian)、和牛(Wagyu)、韓牛(Hanwoo)、中国在来牛(Qinchuan)など極東の在来牛は、アナトリアでウシが家畜化された比較的早い時期に、シルクロードを通って東方に移された家畜ウシの子孫である。また、和牛は、在来牛と近代以降に欧米から導入された牛との交配によって成立した。


Principal component analysis of 1,543 animals genotyped with 43,043 SNPs. Points were colored according to geographic origin of breed; black: Africa, green: Asia, red: North and South America, orange: Australia, and blue: Europe. (PLoS Genet 10(3): e1004254)


Phylogenetic network of the inferred relationships between 74 cattle breeds. Breeds were colored according to their geographic origin; black: Africa, green: Asia, red: North and South America, orange: Australia, and blue: Europe. Scale bar shows 10 times the average standard error of the estimated entries in the sample covariance matrix. Common ancestor of domesticated taurines is indicated by an asterisk. Migration edges were colored according to percent ancestry received from the donor population. Migration edge a is hypothesized to be from wild African auroch into domesticates from the Fertile Crescent. Migration edge b is hypothesized to be introgression from hybrid African cattle. Migration edge c is hypothesized to be introgression from Bali/indicine hybrids into other Indonesian cattle. Migration edge d signals introgression of African taurine into Iberia. Migration edges e and f represent introgression from Brahman into American Criollo. (PLoS Genet 10(3): e1004254)


Worldwide map with country averages of ancestry proportions with 3 ancestral populations (K = 3). Blue represents Eurasian Bos t. taurus ancestry, green represents Bos javanicus and Bos t. indicus ancestry, and dark grey represents African Bos. t. taurus ancestry. Please note, averages do not represent the entire populations of each country, as we do not have a geographically random sample. (PLoS Genet 10(3): e1004254) 青:ユーラシアの系統、緑:ゼブーとバンテンの系統、ダークグレー:アフリカの系統


Phylogenetic network of the inferred relationships between 14 cattle breeds. Breeds were colored according to their geographic origin; green: Asia, and blue: Europe. Scale bar shows 10 times the average standard error of the estimated entries in the sample covariance matrix. Migration edges were colored according to percent ancestry received from the donor population. Migration edges show indicine introgression into Mongolian cattle, African taurine and indicine ancestry in Marchigiana, and a northern European influence on Wagyu. (PLoS Genet 10(3): e1004254)

2014年には、家畜化の初期について解析されている(*4)。考古学と遺伝的データから、家畜ウシは、10,500年前に、中近東のオーロックスが最初に家畜化されたことが示されている。現在の家畜ウシのミトコンドリアDNAの変化、突然変異率の推定値の変動などから推定すると、最初に家畜化されたのは、80頭ほどの少数の集団であったという。このような少数の集団から、家畜化が始まったことは、考古学的な証拠と一致しており、ごく限られた地域で最初の家畜化が行われたと考えられている。

文献
*1)Alexandre Hassanin, AnneRopiquet, (2004) Molecular phylogeny of the tribe Bovini (Bovidae, Bovinae) and the taxonomic status of the Kouprey, Bos sauveli Urbain 1937, Molecular Phylogenetics and Evolution Vol 33, Issue 3, 2004, P 896-907
*2)Edward L. C. Verkaar  Isaäc J. Nijman  Maurice Beeke Eline Hanekamp  Johannes A. Lenstra, (2004) Maternal and Paternal Lineages in Cross-Breeding Bovine Species. Has Wisent a Hybrid Origin?, Molecular Biology and Evolution, Volume 21, Issue 7, 1 July 2004, Pages 1165–1170,
*3)Decker JE, McKay SD, Rolf MM, Kim J, Molina Alcalá A, Sonstegard TS, et al. (2014) Worldwide Patterns of Ancestry, Divergence, and Admixture in Domesticated Cattle. PLoS Genet 10(3): e1004254
*4)Bollongino R, Burger J, Powell A, Mashkour M, Vigne JD, Thomas MG. (2012) Modern Taurine Cattle Descended from Small Number of Near-Eastern Founders. Molecular Biology and Evolution, Volume 29, Issue 9, 1 September 2012, Pages 2101–2104,

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ヒツジの起源:Origin of domestic sheep

ヒツジ属(Ovis)の種についても、種や亜種の関係をめぐって議論が続けられている。2010年には、分子系統樹にもとづいて、以下のように報告されている。(*1)

Ovis. canadensis(Bighorn):ビッグホーン
O. dalli(Dall sheep):ドールビッグホーン
O. nivicola(Snow Sheep):シベリアビッグホーン
O. ammon(Argali):アルガリ
O. vignei(Urial):ウリアル
O. orientalis(Mouflon):ムフロン


The different classifications of the genus Ovis.


Phylogeography of the wild Ovis species. The map shows the geographic distribution of the seven wild Ovis species according to the classification of Nadler et al. (1973). The Chronogram presented is from a Bayesian dating analysis of the Cyt b data. Divergence times are given ±95% CI. The chromosome numbers are given for each taxon. The O. orientalis × vignei hybrids, which have a ploidy between 2n = 54 and 2n = 58, are not presented. The chromosome numbers given in italic refer to the hypothetical ancestral states according to the most parsimonious evolutionary scenario with regards to the Cyt b phylogeny.(Molecular Phylogenetics and Evolution 54 (2010) 315–326)


Differences among Cyt b haplotypes within and between Ovis species. Values above the diagonal give the average pairwise differences between species. Diagonal values give the pairwise difference within each group.


Bighorn(Author:Kim Keating)


Dall sheep(Author:Denali National Park and Preserve)


Snow sheep(Author:Joseph Smit)


Argali(Author:Momotarou2012)


Urial(Author:Altaipanther)


Mouflon(Author:Jörg Hempel)

ヒツジ(O. aries)の原種は、ムフロン(O. orientalis)である。ムフロンは、トルコ、コーカサス、イランなどに分布するが、ヨーロッパ(O. orientalis musimon)やキプロス島(O. orientalis ophion)にも生息している。

2002年、および2007年の報告によれば、家畜のヒツジのミトコンドリアDNAには、A、B、C、D、Eの5つのハプログループが存在する。ハプロAとBは、別々に家畜化され、ヨーロッパムフロン(O.o.musimon)は、ハプロBに属している。ヨーロッパムフロンは、新石器時代にアジアからヨーロッパに運ばれたのではないかと考えられている。(*2, 3)


Summary of sheep breed and mitochondrial haplogroup phylogenetic variation.(Genetics. 2007 Mar; 175(3): 1371–1379)


Five mtDNA lineages illustrated with two types of phylogenetic tree. (a) Neighbor-joining tree showing O. aries lineages in relation to wild sheep using cytB sequence (967 bp). Analysis of animals from nine domestic breeds (n = 197) was supplemented with wild Ovis species and a divergent haplotype previously identified from the Karayaka breed (Pedrosa et al. 2005). Additional data on the relationship between wild Ovis species are presented elsewhere (Hiendleder et al. 2002; Bunch et al. 2006). Bootstrap values are indicated on cluster nodes; values in parentheses were taken from a similar tree constructed using the mtCR-cytB data set (2027 bp). (b) Weighted median-joining network showing mt haplotypes. Node size is proportional to haplotype frequency and the mutational differences between haplogroups are proportional to branch length (D shown on branch). The smallest node is representative of one animal.(Genetics. 2007 Mar; 175(3): 1371–1379)

2009年に、ヒツジのゲノム内の内在性レトロウイルスのDNA解析が行われている。133品種1362頭の家畜ヒツジと63系統の野生のヒツジ属(O. vignei, O. orientalis musimon, O. orientalis ophion, O. orientalis orientalis)の調査の結果、ヒツジの家畜化(選択)は、はじめに南西アジアで起こり、次いで、ヨーロッパ、アフリカ、アジアに広がったことが示唆された。(*4)


Worldwide distribution of insertionally polymorphic enJSRVs. Distribution of the insertionally polymorphic enJSRV loci analysed in this study in 65 sheep populations representing local breeds from the old world. (A) Frequencies of each enJSRV locus in each population are represented by a vertical bar and arranged in a descending order. Insertion frequencies were obtained using the software Arlequin 3.11 (27) treating the absence of a specific enJSRV provirus as a recessive allele. (B) Locations of sheep populations sampled. (C-F). Interpolation maps displaying the spatial distribution of estimated enJSRVs frequencies. The geographical variation was visualized using the ‘Spatial Analyst Extension’ of ArcView GIS 3.2 software (ESRI, Redlands, CA, USA; http://www.esri.com). Interpolated map values were calculated employing the inverse distance–weighted with 12 nearest neighbours and a power of two, and interpolation surfaces were divided into 13 classes with higher insertion frequencies indicated by darkest shading. The central point of the sampling area was used as geographic coordinates for each population.(Science24 Apr 2009 : 532-536)


Combination of enJSRV proviruses (retrotypes) in the domestic sheep. Pie charts in the figure represent the frequency of each retrotype in the 65 populations tested. Each sheep tested was assigned a retrotype on the basis of the combination of insertionally polymorphic enJSRV proviruses present in their genome. Retrotypes were defined R0 to R14 as follows: RO = no insertionally polymorphic enJSRVs; R1 = enJSRV-7; R2 = enJSRV-18; R3 = enJS5F16; R4 = enJSRV-7 + enJSRV-18; R5 = enJSRV-7 + enJS5F16; R6 = enJSRV-18 + enJS5F16; R7 = enJSRV-7 + enJSRV-18+ enJS5F16; R8 = enJSRV-8; R9 =enJS5F16 + enJSRV-8; R10 = enJSRV-7 + enJS5F16 + enJSRV-8; R11 = enJSRV-18 + enJSRV-8; R12 = enJSRV-18 + enJS5F16 + enJSRV-8; R13 = enJSRV-7 + enJSRV-18 + enJSRV-8; R14 = enJSRV-7 + enJSRV-18 + enJS5F16 + enJSRV-8. Each retrotype is represented with a different colour (and pattern) as indicated in the figure. Numbers beside each pie chart indicate each of the 65 populations tested as indicated in Table S1. Note that most of the populations in South-West Asia, Central Asia, Southern Europe and Africa possess R2 (i.e. presence of enJSRV-18 only, shown in green) as the predominant retrotype. Around the Mediterranean basin there is also a high proportion of R4 given by the contemporary presence of enJSRV-7 and enJSRV-18 (shown in yellow). The primitive breeds are characterized by a high proportion of animals with R0 (no insertionally polymorphic proviruses, shown in white) or R1 (presence of enJSRV-7 only, shown in red). A ‘Nordic’ retrotype R3 (shown in blue) was characterized by a low frequency of enJSRV-18 and a high frequency of enJS5F16; Nordic populations also had a relatively high frequency of sheep with none of the insertionally polymorphic proviruses tested.(Science24 Apr 2009 : 532-536)

2013年には、現在のトルコ国内の家畜ヒツジ(628頭)、現在の野生ムフロン(O. gmelinii anatolica)(30頭)、およびトルコ南部の遺跡(OylumHöyük BCE 1880-330)から出土したサンプル(33頭)のミトコンドリアDNAの分析結果が報告された(*5)。なお、O. gmelinii anatolicaは、O. orientalisのことである。

現在のトルコ国内の家畜ヒツジには、ミトコンドリアDNAのハプロタイプA、B、C、D、Eが存在する。そして、これらのハプロタイプは、遺伝的な関係から、クラスターⅠ(A、B、D)とクラスターⅡ(C、E)の2つのグループに分けられる。この2つのクラスターの祖先は、異なる地理的起源を有していた可能性がある。

これは、家畜ヒツジには、地理的に異なる2つの母系の祖先が存在することを意味するが、このような例は他にも確認されている。キプロス島では、12,000年前にムフロン、ベゾアール、オーロックス(原牛)、イノシシ、ダマジカ、アカシカ、キツネなどが、他所から運び込まれていた。また、ヤギの家畜化では、イラン高原からトルコ南東部に移されたベゾアールが、母系の祖先のひとつになったらしい。同じように、東方から運ばれてきたメスのムフロンの系統が、家畜ヒツジの母系集団の祖先になった可能性がある。

位置的な関係から、もともとアナトリアには、クラスターⅠの系統が分布していた可能性が高い。また、現在のトルコには、野生のムフロンは500頭しか残っていないが、その中にハプロBは見つかっていない。系統が失われたか、もともとBは少なかったのかもしれないとしている。


The neighbor-joining tree of mtDNA CR sequences from domestic sheep and O. g. anatolica samples. The haplogroups (HPGs A–E) and two clusters (Cluster i and Cluster ii) formed by the sequences are designated. The bootstrap values are indicated on the main branches of the tree.(PLoS ONE 8(12): e81952.)


Summary of mtDNA haplogroup diversity of domestic sheep.(PLoS ONE 8(12): e81952.)


Haplogroup/haplotype compositions of the breeds, aDNA and O. g. anatolica on the map of Turkey. The locations of the pie charts on the centroids of the collection sites are all within the native distributions of the breeds or within the current day distribution for O. g. anatolica. Ancient DNA (aDNA) samples are located in the Kilis province, where Oylum Höyük is located. aDNA samples are considered in two successive time intervals therefore they are represented by two pie charts. The abbreviations of the breed names are given in the Materials and Methods section.(PLoS ONE 8(12): e81952.)


Median-joining network of mtDNA partial cytB sequences found within modern domestic and wild sheep. Nodes representing the haplotypes are proportional to the sample sizes used for the construction of the network. Haplotype names are given near the nodes. The ellipses labeled with letters A–E refer to the haplotypes of the individuals whose haplogroups were identified in domestic sheep in accordance with their CR sequences. The accession numbers of sequences used in the MJ network and their respective haplotypes are given together with the reference studies in Table S4.(PLoS ONE 8(12): e81952.)


The distribution of wild samples that were employed in Figure 3.The collection sites for members of Clusters I, II and III are indicated on the map with the brown region, the region with yellow borders and the blue region, respectively. The exact locations of collection sites (solid red circles) together with haplotypes (as depicted in Figure 3) of the wild O. gmelinii members of Cluster I (typed in red) and Cluster II (typed in black) including O. g. ophion are shown. The exact locations of the hybrids (not shown) were used in drawing the borders of the region with yellow borders and the blue region. The map was created using ArcMap™ within ArcGIS Desktop 10.(PLoS ONE 8(12): e81952.)

2013年の報告を読んだときに、びっくりしたのは、キプロス島の野生ムフロン(O. g. ophion)が、クラスターⅡに入っていたことである。現在のキプロスムフロンが、12,000年前に運び込まれたムフロンの子孫であるならば、12,000年前のキプロスムフロンは、もともとはイラン高原などに生息していたムフロンの系統ということになる。

ヤギの起源、ヒツジの起源、そしてキプロス島の3つの証拠は、当時の狩猟民社会が、トルコ南東部でヒツジやヤギの家畜化が始まる2,000年も前から、「野生」の大型動物をきわめて広範囲に移動させる何らかの生業システム、あるいは社会システムを有していたことを、示しているのではないだろうか。

*1)Hamid Reza Rezaei, Saeid Naderi, Ioana Cristina Chintauan-Marquier, Pierre Taberlet, Amjad Tahir Virk, Hamid Reza Naghash, Delphine Rioux, Mohammad Kaboli, François Pompanon.(2010)Evolution and taxonomy of the wild species of the genus Ovis (Mammalia, Artiodactyla, Bovidae). Molecular Phylogenetics and Evolution 54 (2010) 315–326
*2)Stefan Hiendleder, Bernhard Kaupe, Rudolf Wassmuth and Axel Janke.(2002)Molecular analysis of wild and domestic sheep questions current nomenclature and provides evidence for domestication from two different subspecies. Proc Biol Sci. 2002 May 7;269(1494):893-904
*3)Jennifer R. S. Meadows, Ibrahim Cema, Orhan Karaca, Elisha Gootwine, and James W. Kijas. (2007) Five Ovine Mitochondrial Lineages Identified From Sheep Breeds of the Near East. Genetics. 2007 Mar; 175(3): 1371–1379.
*4)Bernardo Chessa, Filipe Pereira, Frederick Arnaud, Antonio Amorim, Félix Goyache, Ingrid Mainland, Rowland R. Kao, Josephine M. Pemberton, Dario Beraldi, Michael J. Stear, Alberto Alberti, Marco Pittau, Leopoldo Iannuzzi, Mohammad H. Banabazi, Rudovick R. Kazwala, Ya-ping Zhang, Juan J. Arranz, Bahy A. Ali, Zhiliang Wang, Metehan Uzun, Michel M. Dione, Ingrid Olsaker, Lars-Erik Holm, Urmas Saarma, Sohail Ahmad, Nurbiy Marzanov, Emma Eythorsdottir, Martin J. Holland, Paolo Ajmone-Marsan, Michael W. Bruford, Juha Kantanen, Thomas E. Spencer, Massimo Palmarini. (2009) Revealing the History of Sheep Domestication Using Retrovirus Integrations. Science24 Apr 2009 : 532-536
*5)Demirci S, Koban Baştanlar E, Dağtaş ND, Pişkin E, Engin A, Özer F, et al. (2013) Mitochondrial DNA Diversity of Modern, Ancient and Wild Sheep (Ovis gmelinii anatolica) from Turkey: New Insights on the Evolutionary History of Sheep. PLoS ONE 8(12): e81952.

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家畜ヤギの起源:Origin of domestic goat

ヤギとヒツジは、イヌを除いて、もっとも早くに家畜化された動物と考えられている。

ヤギ属(Capra)の種は成立が複雑であり、2006年にミトコンドリアDNAとY染色体の分析によって、種同士の関係が報告されている。(*1)

Capra sibirica(Siberian Ibex):シベリアアイベックス
C. nubiana(Nubian Ibex):ヌビアアイベックス
C. ibex(Alpine Ibex):アルプスアイベックス
C. pyrenaica(Spanish goat):スペインアイベックス
C. caucasica(West Caucasian tur):カフカスアイベックス
C. cylindricornis(East Caucasian tur):カフカスツール
C. falconeri(Markhor):マーコール
C. aegagrus(Bezoar, Pasang):ベゾアール、パサン
C. hircus(Goat):家畜ヤギ


Siberian Ibex(Author:Ksuryawanshi)


Nubian Ibex(Author:netzach farbiash)


Alpine Ibex(Author:Bert de Tilly)


Spanish Ibex(Author:Juan Lacruz)


West Caucasian tur(Author:Cedricguppy)


East Caucasian tur(Author:Altaipanther)


Markhor(Author:Rufus46)


Bezoar(Author:F. Spangenberg)

 
Horn morphology of the Wve major morphotypes: (a) the generalized ibex-type (C. [i.] ibex, C. [i.] nubiana, C. [i.] sibirica, and C. [i.] caucasica), (b) the Spanish goat (C. pyrenaica), (c) the eastern tur (C. cylindricornis), (d) the markhor (C. falconeri), and (e) the bezoar-type (C. aegagrus). Artwork by Julie Dlugos.(Molecular Phylogenetics and Evolution 40 (2006) 739–749)


Approximate geographic distributions of wild Capra: the Spanish goat (C. pyrenaica), the eastern tur (C. cylindricornis), the markhor (C. falconeri), the generalized ibex-type (C. [i.] ibex, C. [i.] nubiana, C. [i.] sibirica, and C. [i.] caucasica) and the bezoar-type (C. aegagrus). Distribution areas are synthesized from Shackleton (1997).(Molecular Phylogenetics and Evolution 40 (2006) 739–749)


Phylogenetic tree constructed with cytochrome b sequences using Maximum Likelihood (ML) and Bayesian analyses. Numbers above the line are ML bootstrap values (BP) based on 200 pseudoreplicates. Numbers below the line are Bayesian posterior probabilities based on one million step Markov chain Monte Carlo simulations. See Tables 3 and 4 for details on location codes and GenBank accession numbers which follow species names in parentheses. (b) Phylogenetic tree constructed with AMELY and ZFY sequences using ML and Bayesian analyses. The same topology was obtained using maximum parsimony, and neighbor-joining methods. The (n) indicates the number of samples sequenced for both AMELY and ZFY. Numbers above the line are ML BP based on 200 pseudoreplicates. Numbers below the line are Bayesian posterior probabilities based on one million step Markov chain Monte Carlo simulations.(Molecular Phylogenetics and Evolution 40 (2006) 739–749)


Hypothetical evolutionary scenario of the genus Capra. The encircled symbols represent the possible geographic location of the ancestral ibex-type and bezoar-type.(Molecular Phylogenetics and Evolution 40 (2006) 739–749)

家畜ヤギ(C. hircus)の原種は、ベゾアール(C. aegagrus)である。ベゾアールは、トルコ、コーカサス、イラク、イラン、中央アジアに分布する。また、クレタ島(Kri-kri)など地中海島嶼部にも生息している。

2007年に、家畜ヤギのミトコンドリアDNAの分析結果が報告されている。世界各地の家畜ヤギ2,430頭を調査したところ、家畜ヤギは、A、B、C、D、Fの6つのハプロタイプからなることがあきらかになった。ハプロAは世界中に分布しており、家畜ヤギの91%を占めている。ハプロBはおもにアジアに分布し、アフリカとギリシャにもわずかに存在する。Cはアジア全域、Dはアジア全域と北ヨーロッパ、Fはシチリア、Gは中東と北アフリカに分布する。(*2)


Neighbor-joining trees of domestic goat based on 1540 mtDNA haplotypes (A) and on the 22 reference mtDNA haplotypes (B). Distances were calculated using the Kimura 2-Parameter model with gamma correction (alpha = 0.28). On the (A) tree, the numbers on the branches represent bootstrap values out of 1000 replications, and the stars point out the position of reference individuals for each haplogroup used to construct the (B) tree.(PLoS One. 2007; 2(10): e1012.)


Genetic diversity of goat mtDNA haplogroups(PLoS One. 2007; 2(10): e1012.)

2008年には、野生のベゾアールが生息するすべての地域から集められた473のサンプル(糞、体組織、骨)の分析結果が報告された(*3)。家畜のヤギの91%はハプロタイプAであるが、ザクロスとイラン高原のベゾアールからは、Aは見つからなかった。下図の地点33のAは、家畜ヤギが野生化したものと考えられる。

ハプロAのベゾアールが生息するのは、東部アナトリアであり、もっとも有力な家畜ヤギの起源地は、東部アナトリアである。ハプロCも東部アナトリアに由来するが、これは、南部ザクロスまたはイラン高原から移された系統と考えられる。他のハプロタイプB、D、F、Gも家畜ヤギに存在するが、その割合は低い(7.69%)。すなわち、B、D、F、Gは、家畜ヤギが拡散する過程で、それぞれの地域の系統が取りこまれた可能性がある。


Phylogenetic relationships of the 243 haplotypes from the 473 bezoars studied. This tree was obtained with the NJ method. To identify shared mtDNA haplogroups, 22 haplotypes chosen to represent the overall diversity of modern domestic goats (11) have also been included in the analysis (red). The scale represents the genetic distance. The different colors correspond to the haplotypes from the different mtDNA haplogroups found in domestic goat (A, green; B, dark blue; C, yellow; D, purple; F, light blue; G, orange). The other bezoar haplotypes are represented in white.(PNAS November 18, 2008. 105 (46) 17659-17664)


Study area and geographic distribution of the mtDNA haplogroups in the bezoar. (A) Natural distribution of the bezoar according to Uerpmann (38). This distribution may not have changed since the beginning of goat management/domestication, and stops at the eastern limit of the map. The archaeological sites that give evidence of local pre-Neolithic goat domestication are represented in red. The sites that suggest either local goat domestication or early prepottery Neolithic transfer of domesticated goat are represented in orange. Finally, the sites that provide evidence of transfer of domestic goats out of the original geographic range of the bezoar before the middle of the 10th millennium cal. B.P. are represented in yellow (see Table S1). The northern Zagros comprises the Iranian Provinces of Azerbaijan Gharbi, Zanjan and Kurdistan; the Central Zagros comprises Kermanshah, Lorestan, Khuzestan, and Isfahan Provinces. The Southern Zagros mainly comprises the Fars Province. (B) Geographic distribution of the mtDNA haplogroups in the bezoar. The size of the circles is proportional to the number of individuals analyzed. The different bezoar haplogroups are color-coded as in Fig. 1. Different localities are identified by numbers, as in Table S1.(PNAS November 18, 2008. 105 (46) 17659-17664)

ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタの家畜化についての考古学的な検証としては、2002年の本郷一美氏の報告がある。トルコ南東部のチャヨヌ遺跡(Çayönü)では、12,000~9,000年前の約3,000年間、定住生活が営まれていた。場所は、カラジャ山(Karaca Dağ)の北方に位置している。遺跡から出土した動物骨の分析では、PPNB後期に、ヤギとヒツジの骨が、出土動物骨の大多数を占めるようになる。また、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イノシシのサイズが小型化し、死亡年齢と食性の変化も生じている。これらのことから、PPNB後期に家畜の飼育が始まったと推定している。(*4, 5, 6)


チャヨヌ遺跡の各層から出土する動物の種構成とその相対的な割合(sorce:ドメスティケーションの考古学)


チャヨヌ遺跡から出土したウシ(左)とアカシカ(右)のサイズの変遷(sorce:ドメスティケーションの考古学)

ただ、PPNB後期のトルコ南東部で、「飼育」や「家畜化」がどのような目的や形態で行われていたのかはわかっておらず、「狩猟」、「飼育」、「野生」、「家畜」などの概念自体もはっきりしていない。たとえば、キプロス島でも、もともとヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ダマジカ、アカシカ、キツネなどは生息していなかったが、PPNB期に突如として出現している(*7)。これは、これらの動物が、舟で運ばれてきたことを意味するが、この時期のレヴァントではまだ「家畜化」が始まっていないとされている。当時のキプロスにいた動物は「野生」なのか「家畜」なのか、あるいは「狩猟」なのか「飼育」なのかを論理的に判別できない。なので、「家畜」の概念についてはのちに検討する。

*1)Nathalie Pidancier, Steve Jordan, Gordon Luikart, Pierre Taberlet, (2006) Evolutionary history of the genus Capra (Mammalia, Artiodactyla): Discordance between mitochondrial DNA and Y-chromosome phylogenies.Molecular Phylogenetics and Evolution 40 (2006) 739–749
*2)Saeid Naderi, Hamid-Reza Rezaei, Pierre Taberlet, Stéphanie Zundel, Seyed-Abbas Rafat, Hamid-Reza Naghash, Mohamed A. A. El-Barody, Okan Ertugrul, François Pompanon.(2007)Large-scale mitochondrial DNA analysis of the domestic goat reveals six maternal lineages with high haplotype diversity. PLoS One. 2007; 2(10): e1012.
*3)Saeid Naderi, Hamid-Reza Rezaei, François Pompanon, Michael G. B. Blum, Riccardo Negrini, Hamid-Reza Naghash, Özge Balkız,f Marjan Mashkour,g Oscar E. Gaggiotti, Paolo Ajmone-Marsan, Aykut Kence, Jean-Denis Vigne, and Pierre Taberleta,(2008)The goat domestication process inferred from large-scale mitochondrial DNA analysis of wild and domestic individuals. PNAS November 18, 2008. 105 (46) 17659-17664
*4)本郷一美.(2002)狩猟採集から食料生産への緩やかな移行 : 南東アナトリアにおける家畜化. 国立民族学博物館調査報告 33 109-158
*5)本郷一美.(2008)ドメスティケーションの考古学. 総研大ジャーナル 13 30-35
*6)Hongo, H., Pearson, J., Öksüz, B., Ilgezdi, G. (2009) The Process of Ungulate Domestication at Çayönü, Southeastern Turkey: A Multidisciplinary Approach focusing on Bos sp. and Cervus elaphus. Anthropozoologica 44(1): 63-78.
*7)Vigne, Jean-Denis & Carrre, I & Salige, J.F. & Person, A & Bocherens, Hervé & Guilaine, J & Briois, François. (2000). Predomestic cattle, sheep, goat and pig during the late 9th and the 8th millennium cal. BC on Cyprus: Preliminary results of Shillourokambos (Perkklisha, Limassol). Archaeozoology of the Near East IV. 52-75.

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トウモロコシの起源:Origin of maize

トウモロコシの起源についても、長い研究と論争の歴史がある。トウモロコシの場合は、形が似た野生植物が存在しないために、その起源は大きな謎であった。19世紀には、サン・イレールによるポッドコーン説(1829年)、アスシャーソンのテオシンテ説(1875年)、ドゥ・カンドールのコロンビア起源説(1882年)などが提案されていた。

20世紀以降は、テオシンテ説と3部説の2つが有力とされてきた。

1875年に、アスシャーソンが、トウモロコシの起源にはテオシンテが重要な役割を果たしたという説を提示し、1931年にニコライ・ヴァヴィロフ、1932年にジョージ・ビードルらもテオシンテ起源説を唱えた。

テオシンテは、現在のメキシコでもトウモロコシ畑に雑草として生息しており、両者の自然雑種が見られる(写真)。トウモロコシの染色体数は2n=20であり、テオシンテ(Zea mays L. subsp. mexicana)の染色体数も2n=20である。両者は容易に交雑して、その種子の稔性も大きい。形態が大きく異なることをのぞけば、遺伝的には、トウモロコシとテオシンテは同種の植物であることを示している。


teosinte (top), maize-teosinte hybrid (middle), maize (bottom)(Author:John Doebley)

一方、3部説は、1938年にマンゲルスドルフらが唱えた説で、以下のようなものであった。a)トウモロコシの祖先は、未発見あるいはすでに絶滅した野生トウモロコシに由来する。b)テオシンテは、トウモロコシとトリプサクム属(Tripsacum)の交雑種である。c)野生型に由来する初期の栽培型トウモロコシと多年生テオシンテとが交雑し、現在の栽培型が成立した。

テオシンテ説と3部説のあいだで激しい論争が続けられてきたが、2000年ごろまでには、遺伝的な解析によって、テオシンテ説が広く支持されるようになった。

イネ科(Poaceae)テオシンテ属(Zea)の植物としては、数種が知られており、栽培トウモロコシはZea mays L.に含まれる。

Z. diploperennis H. H. Iltis et al.
英名:diploperennial teosinte
分布:メキシコ(Jalisco, Nayarit)

Z. luxurians (Durieu & Asch.) R. M. Bird
英名:Florida teosinte, Guatemalan teosinte
分布:メキシコ(Oaxaca)、グアテマラ、 ホンジュラス

Z. mays L.
英名:maize, Indian corn
分布:メキシコ、グアテマラ

Z. nicaraguensis H. H. Iltis & B. F. Benz
分布:ニカラグア(Chinandega)

Z. perennis (Hitchc.) Reeves & Mangelsd.
英名:perennial teosinte
分布:メキシコ(Jalisco, Michoacan)

Z. vespertilio Gómez-Laur.
分布:コスタリカ(Guanacaste)


Z. diploperennis H. H. Iltis et al.(Author:Jeffdelonge)

Z. mays L.にはいくつかの亜種が認められている。

Z. mays L. subsp. huehuetenangensis (H. H. Iltis & Doebley) Doebley
英名:Hhuehuetenango teosinte, San Antonio Huista teosinte
分布:グアテマラ(Huehuetenango)
グアテマラ西部にのみ分布

Z. mays L. subsp. mexicana (Schrad.) H. H. Iltis
英名:Central Plateau teosinte, Chalco teosinte, Durango teosinte, Mexican teosinte、nobogame teosinte
分布:メキシコ(Chihuahua, DurangoGuanajuato, Jalisco , Michoacan)
メキシコの北部および中央部の、標高1700~2600mの高地

Z. mays L. subsp. parviglumis H. H. Iltis & Doebley
英名:Balsas teosinte, Guerrero teosinte
分布:メキシコ(Guerrero, Jalisco, Michoacan, Oaxaca)
メキシコの標高400~1800mの地域に分布。mexicana に比べ、低い標高で温暖な地域に生育している。分げつが多く、20~100本になる。栽培トウモロコシの祖先野生種。

Z. mays L. subsp. mays
英名:corn, dent corn, field corn, flint corn, maize, pod corn, popcorn, sweet corn
栽培トウモロコシ


Z. mays L. subsp. parviglumis(Author:Mbhufford)

2002年に松岡由浩氏らは、トウモロコシ在来品種193系統とテオシンテ71系統を用いて、分子系統樹を作成した。その結果、すべての栽培トウモロコシは、メキシコ南部のBalsas川中流域に自生するZ. mays L. subsp. parviglumisから生じたことが判明した。栽培化(domestication)は1回だけであり、比較的標高が低いBalsas川中流域から、メキシコ高地に伝播し、そこで急速に多様化して、北米や南米に拡散したことが示唆された。また、Z. mays L. subsp. parviglumisと栽培トウモロコシの分岐年代は、約9,000年前と推定されている。(*2)


Geographic distribution of maize and teosinte used in this study. Core Andean maize characterized by hand-grenade-shaped ears (22 samples), other South American maize (47), Guatemalan and southern Mexican maize (31), Caribbean maize (6), lowland western and northern Mexican maize (15), highland Mexican maize (20), eastern and central U.S. maize (24), southwestern U.S. maize (22), northern Mexican maize (6), ssp. parviglumis (34), and ssp. mexicana (33). Inset shows the distribution of the 34 populations of ssp. parviglumis in southern Mexico with the populations that are basal to maize in Fig. 2 (represented as asterisks). The blue line is the Balsas River and its major tributaries.(source:PNAS April 30, 2002. 99 (9) 6080-6084)


Phylogenies of maize and teosinte rooted with ssp. huehuetenangensis based on 99 microsatellites. Dashed gray line circumscribes the monophyletic maize lineage. Asterisks identify those populations of ssp. parviglumis basal to maize, all of which are from the central Balsas River drainage. (a) Individual plant tree based on 193 maize and 71 teosinte. (b) Tree based on 95 ecogeographically defined groups. The numbers on the branches indicate the number of times a clade appeared among 1,000 bootstrap samples. Only bootstrap values greater than 900 are shown. The arrow indicates the position of Oaxacan highland maize that is basal to all of the other maize. (source:PNAS April 30, 2002. 99 (9) 6080-6084)

考古学では、従来、もっとも古いトウモロコシの証拠は、メキシコのオアハカのギラ・ナキツ洞窟から出土した穂軸であった。これは、14Cによる年代測定で、6,250年前とされている。また、プエブラのテワカン盆地のサン・マルコス洞窟から見つかった穂軸は、5,600年前と推定されている。

2009年の報告では、Balsas川中流域のXihuatoxtla洞窟から出土したZ. mays L.のデンプンとプラントオパールの年代は、8,700年前であることが示されている(*3)。洞窟の周辺は、山頂が1,500~1,800m、谷底では標高700~900mの渓谷地帯である。年間降水量は1,000~1,400mmで、6~10月の雨期に90%が降る。気候区分は、サバナ気候あるいは温暖冬季少雨気候である。植生は熱帯性落葉樹林で、ピテケロビウム(マメ科)、プロソピス(マメ科)、ロイカエナ(マメ科)、スポンディア(ウルシ科)、ヤシ、ヤマノイモなどが多い。洞窟から出土した種子や磨石(すりいし)に付着したデンプンの分析から、8,990~8,610年前に、Z. mays L.とカボチャがすでに栽培されていたと考えられている。(*4)


The study area in northern Guerrero.(source:PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018)


A view of the enormous boulder that formed the Xihuatoxtla Shelter. (source:PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018)


Handstones and milling stone bases from the preceramic layers in the Xihuatoxtla Shelter. (A) Small handstone (318e) from layer E that yielded 80 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 29 squash phytoliths. (B) Complete milling stone base (316d) from layer D that yielded 68 maize starch grains as well as 4 yam (Dioscorea sp.), 3 legume, and 1 Marantaceae starch grains. (C) Handstone fragment (318d) from layer E that yielded 22 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 28 squash phytoliths. (D) Handstone (322c) from layer E that yielded 11 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 7 squash phytoliths. (E) Small handstone (365a) from layer C that yielded 24 maize starch grains and maize cob phytoliths. (F) Handstone (319d) from layer E that yielded 8 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 37 squash phytoliths. (G) Slab milling stone fragment (316c) from layer D that yielded 2 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 29 squash phytoliths. (source:PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018)


Af(熱帯雨林気候)、Am(熱帯季節風気候)、Aw(サバナ気候)、BWh,BWk(砂漠気候)、BSh,Bsk(ステップ気候)、Cwa,Cwb(温暖冬季少雨気候)

ただ、いろいろな論文を読んでもよくわからないのは、テオシンテの種子拡散者である。トウモロコシは、登熟しても穂軸から種子がはずれない(非脱粒性)が、テオシンテの種子は登熟して乾燥すると、種子がバラバラにはずれて地面に落ちる(脱粒性)。また、トウモロコシの種子の皮は薄いが、テオシンテの種子は堅い皮で包まれている。

中米や南米の草食動物としては、ラクダ科のアルパカとリャマがいる。しかし、テオシンテの種子には野毛がないので、アルパカやリャマの毛に付着して種子を拡散するわけではない。テオシンテがアルパカやリャマに種子を拡散してもらうには、種子を食べられるしかないので、テオシンテの種子は、登熟したあともしばらくは穂軸に着いており、完全に乾燥してから脱粒する性質なのかもしれない。


野生のアルパカ(Author:Franz Xaver)

アルパカやリャマに食べられなかったテオシンテの種子は、地面に落ちるので、これを食べるのは、鳥や小型の動物である。

鳥のなかで思い浮かぶのは、リョコウバト(passenger pigeon)である。リョコウバトは集団で渡りを行うハトで、夏期は北米の落葉樹林帯で営巣、繁殖し、冬期にはメキシコ周辺で生活していた。北米ではもっとも数が多かった鳥類で、かつては30~50億匹が生息していたと見積もられている。

リョコウバトはその肉が美味であったため、アメリカ先住民が狩猟の対象にしていたが、19世紀になって大乱獲が始まった。食用、飼料、羽根布団の材料として、大量に捕獲され、個体数が激減した。1914年に、動物園で保護されていた最後の1羽が死亡し、リョコウバトは完全に絶滅してしまった。

リョコウバトは、メキシコが乾期の冬の時期に、メキシコに大量に渡ってきて生活していたのであるから、地面に散らばったテオシンテの種子を食べて、拡散していたのではないだろうか。


Martha, the last passenger pigeon, mounted in a display case in the National Museum of Natural History(Author:Ph0705)

リョコウバトのような例はよく見られる。野生のコムギやオオムギはオーロックスやムフロンなどの草食動物と共生関係にあったが、ムギが栽培化されると、間もなくオーロックスやムフロンもウシやヒツジへ家畜化され、その後は植物も動物も野生型は衰退したり絶滅したりしてしまった。これは、イネとスイギュウの関係も同じである。

栽培化(domestication)とは、ヒトが、栽培化前の野生植物と共生していた野生動物の地位を奪うこととも言える。

小型の哺乳動物としては、アメリカ大陸には、もともと有袋類が多く生息していた。有袋類は有胎盤類より早く地球上に拡散し、その後に有胎盤類との競争に敗れてほとんどが絶滅した。

現在でもアメリカ大陸に生き残っている有袋類は、オポッサム目とケノレステス目である。オポッサム科は70種以上が生存しているが、ケノレステス目は、1科3属7種しか生き残っていない。ケノレステスは小型の有袋類で、有胎盤類のネズミによく似ている。かつては、多くのケノレステス目の小動物が生息し、食料が少なくなる乾期に、テオシンテの種子を貯蔵して生き延びていたのかもしれない。


Shrew opossum,Dusky caenolestid (Caenolestes fuliginosus)(1863)

文献
*1)山田実、トウモロコシの起源と特性、(1986)農業技術大系作物編第7巻、農文協
*2)Matsuoka, Y., Y. Vigouroux, M. M. Goodman, J. Sanchez G., E. Buckler, J. Doebley.(2002)A single domestication for maize shown by multilocus microsatellite genotyping. PNAS April 30, 2002. 99 (9) 6080-6084
*3)Dolores R. Piperno, Anthony J. Ranere, Irene Holst, Jose Iriarte and Ruth Dickau,(2009)Starch grain and phytolith evidence for early ninth millennium B.P. maize from the Central Balsas River Valley, Mexico, PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5019-5024;
*4)Anthony J. Ranere, Dolores R. Piperno, Irene Holst, Ruth Dickau and José Iriarte,(2009)The cultural and chronological context of early Holocene maize and squash domestication in the Central Balsas River Valley, Mexico, PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018
*5)Joost van Heerwaarden, John Doebley, William H. Briggs, Jeffrey C. Glaubitz, Major M. Goodman, Jose de Jesus Sanchez Gonzalez and Jeffrey Ross-Ibarra.(2011)Genetic signals of origin, spread, and introgression in a large sample of maize landraces
PNAS January 18, 2011. 108 (3) 1088-1092
*6)松岡由浩.(2007)栽培植物の分子系統学.蛋白質 核酸 酵素 Vol.52 No.15
*7)福永健二.(2009)植物のドメスティケーション:トウモロコシの起源.国立民族学博物館調査報告84 137-151

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イネとスイギュウ:Oryza and water buffalo

野生イネの種子には長い野毛が着いているので、種子を拡散しているのは何らかの草食動物であることはあきらかである。水辺で生活するアジアの草食動物といえば、スイギュウである。スイギュウ属の生息地とイネ属の分布は、重なり合っている。


Oryza rufipogon(source:中国科学院植物研究所)


台湾のスイギュウ(Author:L. Chang)

スイギュウは人間とのかかわりの歴史が長く、栽培イネの成り立ちが複雑なように、スイギュウの成り立ちも複雑である。

スイギュウは、ウシ科(Bovidae)の草食動物で、アフリカスイギュウ属(Syncerus)とアジアスイギュウ属(Bubalus)に分けられる。アフリカスイギュウ属は、アフリカスイギュウ(African buffalo、Syncerus caffer)の1種のみとされるが、いくつかの亜種が認められている。

・ケープバッファロー:Cape buffalo or Southern savanna buffalo, S. c. caffer:大型で南アフリカ、東アフリカに分布

・スーダンバッファロー:Sudanese buffalo, S. c. brachyceros:中型で西アフリカに分布

・ナイルバッファロー:Nile buffalo, S. c. aequinoctialis:中央アフリカのサバナのにみに分布

・マウンテンバッファロー:Mountain buffalo or Virunga buffalo, S. c. mathewsi:コンゴ、ルワンダ、ウガンダの山岳地帯に分布

・フォレストバッファロー:Forest buffalo、Dwarf buffalo, S. c. nanus:肩高120cm未満でもっとも小型。中央アフリカと西アフリカの森林地域に分布。S. c. cafferは2n=52、S. c. nanusは2n=54なので、別種として扱う研究者もいる


Buffalo (syncerus caffer) in the Kalahari desert, South Africa(Author:Charlesjsharp)


Sudanese buffalo(Author:Gregor Rom)


African Forest Buffalo(Author:Jamie Lantzy)

アジアスイギュウ属(Bubalus)の種としては、アノア(低地アノア)、ヤマアノア、タマラオ、アジアスイギュウが知られている。

・アノア:低地アノア, Lowland anoa, B. depressicornis:インドネシアのスラウェシ島のみに生息する小型のスイギュウで、体長150~180cm、肩高80~90cm。低地の森林、湿地などに生息する

・ヤマアノア:Mountain anoa, B. quarlesi:インドネシアのスラウェシ島およびブトン島に生息する。体長150~180cm、肩高60~70cmで、低地アノアよりも小さく、スイギュウの中でもっとも小型。山地の森林に生息する

・タマラオ:Tamaraw or Mindoro dwarf buffalo, B. mindorensis:フィリピンミンドロ島の固有種で、かつてはルソン島にも生息していたといわれる。体長150~180cm、肩高100~110cm。湿地や湿った草地などに生息する

・アジアスイギュウ:Asiatic water buffalo, B. bubalis:南アジアから東南アジアに広く分布する。インドスイギュウともいう。野生のアジアスイギュウは、家畜スイギュウより大型で、オスは体長240~300cm、肩高150~190cm、体重1,200kgになる。インドに1,500頭、東南アジアには数百頭しかいないとされ、絶滅の危機に瀕している


アノア、Lowland anoa(Author:Sakurai Midori)


ヤマアノア、Mountain anoa(Author:JERRYE AND ROY KLOTZ MD)


タマラオ(Author:Gregg Yan)


アジアスイギュウ:A herd of wild water buffalo in Kaziranga National Park, Assam, India.(Author:NejibAhmed)

かつてのアジアでは、河川、湖沼、湿地などの水辺には、多様な生活環境に適応した、多くのスイギュウ属が生息していた。現在では、野生のスイギュウ属は絶滅寸前であり、すでに絶滅してしまった種もいると思われる。そして、野生のイネ属植物も絶滅の危機に瀕している。スイギュウは水辺のイネ科植物の種子拡散者であり、スイギュウがいなくなれば、イネ属植物も衰退するのは必然である。

一方、家畜のスイギュウは、世界全体で1億8千万頭ほどが飼育されている。家畜スイギュウには、沼沢型(swamp type)と河川型(river tipe)の2つの系統があることが知られている。沼沢型は東南アジアおよび中国南部で飼育され、河川型はバングラディッシュからインド、ヨーロッパで飼育されている。

両者は染色体数が異なり、沼沢型が2n=48、河川型が2n=50で、系統間では自然交配しにくい。田中和明氏らの報告によれば、沼沢型スイギュウは、タマラオにもっとも近縁で、河川型スイギュウは、スリランカなどに生存している野生のアジアスイギュウに近い(*1)。系統遺伝学的な研究では、沼沢型と河川型は、亜種レベルに分化した2つの野生原種から家畜化されたと考えられている。(*2)


A phylogenetic tree of the eight Bovinae cytochrome b sequences constructed using the neighbor-joining method. The underlined numbers above the internal branches are bootstrap probabilities (%) based on 1000 bootstrapped maximum-parsimony trees, Numbers with arrows are estimated divergence times (Myr).(source:Phylogenetic relationship among all living species of the genusBubalus based on DNA sequences of the cytochromeb gene)

家畜スイギュウのもっとも古い記録は、インダス文明のモヘンジョダロから出土した印章で、5,000~4,500年前のものである。また、古代メソポタミアのアッカド王朝のシャル・カリ・シャッリ王の印章(4,200年前)にも、家畜スイギュウが描かれている。東南アジアでは、タイの東北部の3,600年前の遺跡から、犂耕に利用されたらしきスイギュウの骨が出土している。


モヘンジョダロ出土の印章、5,000~4,500年前


アッカドのシャル・カリ・シャッリ王の印章、4,200年前

スイギュウ以外のイネ属植物の種子拡散者としては、種子を食べる水鳥や水辺に生息するネズミの仲間が考えられる。ベトナムには田んぼに棲んでイネを食べる「田ねずみ」がいるし、日本でもかつてはクマネズミのことを「田ねずみ」と呼んでいたらしい。

イネの種子が株の周囲に落ちて群落を形成したり、水の流れに乗って広がるであろうが、それだけでは、川下にしか移動できないので、生息域が狭まってしまう。やはり、野生イネの生存には、スイギュウ、水鳥、ネズミなどの種子拡散者の存在が不可欠である。

1年生ルフィポゴンは、毎年、必ず種子をつけるが、多年生ルフィポゴンは、分げつして栄養繁殖できるので、必ずしも種子をつける必要がない。スイギュウの群れがいないときは、種子生産にエネルギーをまわさず、分げつしてできるだけすばやく群落を形成したほうが、ライバルとの競争に有利である。大きな群落を維持できれば、スイギュウの群れを呼び寄せるのに有利であり、種子を遠くまで拡散することができる。

このような現象は、多くの生物で見られる。イネ科、ユリ科、ヒガンバナ科の多年草では、土壌が肥沃で生育条件が良好なときは、分げつ、球根、りん片などで栄養繁殖して群落を形成する。群落を作って、ライバル植物の侵入を防ぐと同時に、昆虫、鳥類、草食動物が集まりやすくする。土壌養分が不足したり、日照不足などで生育条件が悪化すると、種子をつけて、動物たちに種子を拡散してもらう。

イネの苗の栽植密度と分げつの関係について、星川清親(1933-1996)先生は、次のように書いている。

「成苗移植栽培で、1株の苗数を変えて分げつのちがいをみたものである。1本植えでは2次分げつの数が最も多く、3次分げつも10%ほど出ている。3本植えでは1次分げつが主体で60%を占め、2次分げつがこれに次ぎ、3次分げつは出ない。5本植えになると2次分げつの比率が減り、10本植えではほとんどが主稈と1次分げつで占められる。1株苗数が多くなるにつれて、主稈、1次分げつの比率が大きくなる。実験的に1株4本植えで、株間隔を標準に近いもの(a)、密植(b)、10×10cmの超密植(c)として植えてみると、密植(b)では全茎数9で、1個体から1.3本しか分げつしないし、超密植(c)においては全茎数4で、分げつはゼロである。密植で主茎が生長するスペースしかないと、競争者になる分げつは休眠してしまう。しかし、移植まもない、分げつ期の初めころは、たとえ超密植(c)でも苗が小さいので空間も十分あり、分げつが出現しそうに思えるが、実験の結果、まったく分げつが出現しなかった。栽植密度に対するイネの分げつの反応はまだ解明されていない点を多く残しており、これは収量構成の重要要素だけに興味深い。」(『イネつくりコツのコツ』)(*3)

イネの苗は、「密植で主茎が生長するスペースしかないと、競争者になる分げつは休眠してしまう」。これは苗が小さくても同じで、イネの苗は、自分のとなりとの間隔をわかっており、間隔が狭いときは分げつしない。群落ができれば、もはや分げつにエネルギーを投入せず、種子の生産に転換するためであろう。

冬に、コムギやオオムギを踏むと稔実がよくなることはよく知られている。これは、ウシやシカなどの草食動物に踏まれたり、葉を食べられることが、ムギが生殖生長へ転換するシグナルになっているためと思われる。

同様に、多年生のイネも、スイギュウに踏まれたり、葉を食べられたりすることが、栄養繁殖から種子繁殖へ転換するシグナルになっていることが予想される。

たとえば、昔から篤農家たちは、育苗の際に苗を踏んだり、竹や角材を引いて苗を押し倒したりする作業を続けてきた。暖地では、かつては、苗の葉先を剪葉してから田植えすることが行われていたし、生育の初期に、窒素肥料を切らす栽培法もある。さらに、風で強く揺すられる田んぼの周囲の株のほうが、真ん中の株より収穫量が多くなることは、よく知られている。


篤農家は、苗踏みしたり、竹や角材を引いて苗を押し倒したりする。2009年にこの本を作ったときは、イネの多年生の性質を表現しようとしたのだが・・(source:イネつくりコツのコツ)

苗の剪葉については、1984年の青森県農業試験場の報告がある。下図のように、剪葉区は、無剪葉より草丈は短くなるが、葉令はやや優り、第1葉枯葉率は少ない。根については、最長新根長では差がないが、新根数で剪葉区がやや優れる。(*4)


(sorce:中苗の剪葉処理による苗質・活着への影響)

2016年にも青森県農林総合研究所によって、剪葉試験がおこなわれている。剪葉は、苗が徒長したばあい、もしくは徒長しそうなばあいに、園芸用バリカンなどで行う。剪葉程度は、葉身長の半分程度で、剪葉する高さは、2葉期剪葉では10cm程度、3葉期剪葉では15cm程度にしている。結果は、下表のように、2葉期剪葉・追肥区は、わら重が少なく、精玄米重が大きく、屑米が少なく、登熟歩合と整粒歩合が優れると報告されている。(*5)


(source:青森県農林総合研究所.植え痛みを軽減するための徒長苗に対する剪葉処理)

多年草としてのイネの性質について考えるようになったのは、1993年の大冷害のときだ。当時、福島、岩手、青森の農家をまわっていたが、周囲の農家が2~3俵しかとれないにもかかわらず、まれに、6~7俵の収穫がある篤農家がいた。気候や品種の条件が同じなのに、どうして収穫量に大きな差がでるのか不思議であった。そして、収量の違いは、イネの多年生の性質に合った栽培管理が行われていたかどうかの違いであり、それが冷害のときに強くあらわれたのではないかと思うようになった。

文献
*1)Kazuaki Tanaka, Chester D. Solis, Joseph S. Masangkay, Kei-ichiro Maeda, Yoshi Kawamoto, Takao Namikawa.(1996)Phylogenetic relationship among all living species of the genusBubalus based on DNA sequences of the cytochromeb gene. Biochemical Genetics
*2)在来家畜研究会編.(2009)アジアの在来家畜.名古屋大学出版会
*3)農文協編.(2011)農家が教えるイネつくりコツのコツ.農文協
*4)諏訪充.本田勝雄.高城哲男.小林陽.(1984)中苗の剪葉処理による苗質・活着への影響.東北農業研究35,21-22
*5)青森県農林総合研究所.(2016)植え痛みを軽減するための徒長苗に対する剪葉処理.青森県農林水産部

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