植物の生長の謎

SHINICHIRO HONDA

植物の生長については、じつはわかっていないことだらけだ。たとえば、「植物は1日のうちでいつ生長するのか?」とか、「植物に、いつかん水すればいいのか?」など、もっとも基本的な疑問についてさえ、科学的に明確に答えている文献を見たことがない。こうしたことは、ごく最近になって、少しづつそのメカニズムの一端が明らかになってきたに過ぎない。

たとえば、前回、合理的に推論すれば、植物が自分の生育量を把握しているのは、師管か道管のどこかにちがいないと書いた。最近、名古屋大学の打田直行氏らは、植物が背丈のサイズをコントロールする際の、引き金となる物質とスイッチの組み合わせを発見した(文献参照)。その活性物質(EPFL4とEPFL6)は茎の内皮組織で生み出され、一方の受容体(ERECTA)は茎の師部で働くという。すなわち、植物は背丈のコントロールについて、内皮から情報を発信し、その情報を師部で受け取るコミュニケーションをとっているらしい。ただし、植物は茎の細胞間で情報を伝達していることはわかったが、そもそも植物が、背丈をどのような仕組みでコントロールしているのかはわかっていない。

師管

また、伸長のメカニズムについても、オーキシンが関与していることは昔からわかっていたが、詳細な機作はわかっていなかった。最近、名古屋大学の木下俊則氏らは、以下のメカニズムを報告している(文献参照)。オーキシンが細胞膜プロトンポンプ(水素イオンを輸送するポンプ)のリン酸化レベルを上昇させて活性化する→水素イオンが細胞外へ放出され酸性化する→酸性化によって細胞壁がゆるみ膜電位も変化する→カリウムイオンが流入する→水が流入して細胞が大きくなる→植物が伸長生長するという。

オーキシンポンブ

また、天然オーキシンにはIAA(インドール-3-酢酸)とPAA(フェニル酢酸)がある。IAAが重力方向(下の方)に移動して、茎を上に曲げたり、根を下に曲げたりすることはよく知られている。先述のように、オーキシンは適度な濃度で伸長させ(茎)、濃度が高すぎると伸長抑制する(根)のでこうなる。理化学研究所の笠原博幸氏らによれば、IAAの輸送は重力に影響されるが、PAAの輸送は重力に影響されないという(文献参照)。植物が、PAAとIAAの両方で伸長や伸長停止をコントロールしているのは確かであるが、じっさいに植物が生活環境のなかで、どのようにこの2種類を使って生育をコントロールしているのかはわかっていない。

オーキシンpaa

さらに、植物は夜に生長するのか昼に生長するのかについても、基礎的な研究が、最近に報告されたばかりである。国立遺伝学研究所の宮城島進也氏らは、単細胞の藻類(紅藻)の細胞内には、1日を刻む生物時計があり、そのスイッチによって、細胞分裂は夜に引き起こされることを明らかにしている。なぜかといえば、昼は光合成や呼吸によって活性酸素が多く発生するため、活性酸素によるダメージが少ない夜に細胞分裂するという(文献参照)。活性酸素の存在は、生物の生存にとってきわめて重大な問題であり、この研究が進めば、生物はどうして夜に眠るのかの理由も明らかになるであろう(つづく)。

光合成昼

文献
植物の背丈をコントロールするスイッチを発見!
http://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=737
植物ホルモン・オーキシンによる植物の伸長生長のメカニズムを世界で始めて発見

クリックして20120418_sci.pdfにアクセス

重力によって移動方向が変わらないオーキシンを発見
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150625_1/
昼に光合成、夜に細胞分裂が起こるのはなぜか?その謎を解明!

クリックしてPR20140509.pdfにアクセス

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