プロスペクト理論,不確実性,選択 Prospect Theory, Uncertainty, Selection

SHINICHIRO HONDA

ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーは,人間の行動について,以下のようなプロスペクト理論を発表した。(*1)

1, 利益につながるリスクが存在する選択に直面したとき,人々はリスク回避的である。期待効用は低いが,確実性の高い解決策を好む。

2,損失につながるリスクが存在する選択に直面したとき,人々はリスク追及的である。損失を回避できる可能性がある限り,より低い期待効用につながる(損失が小さくなる)解決策を好む。

例えば,人々に以下のような選択問題を出す。

Q1,以下のどちらかを選択せよ。
a, 無条件で10,000ドルもらえる。
b, コインを投げて,表が出たら20,000ドルもらえるが,裏が出たら何ももらえない(0)。

Q2,あなたには,20,000ドルの借金がある。以下のどちらかを選択せよ。
a, 無条件で借金が10,000ドル減額される(残りの借金が10,000ドルになる)。
b, コインを投げて,表が出たら借金は0になるが,裏が出たら借金は20,000ドルのままである。

Q1では,もらえる金額の期待値(確率×金額)は,aもbも10,000ドルで同じであるが,ほとんどの人は,確実なaを選択する。Q2では,減る借金の金額の期待値は同じであるが,借金が0になるbを選ぶ人が多いという。

カーネマンらは,人々が,期待値は同じなのに反対の行動をとるのは,認知バイアスの存在によるとし,以下のような評価関数を考えた。

価値関数

確率加重関数


Value function in Prospect Theory, drawing by Marc Oliver Rieger.(Author:Rieger at English Wikipedia)

人々が選択の際に,このような複雑な計算を瞬時に行っているとは思われないが,このような性向が存在することは確かであろう。昔から,「金持ち喧嘩せず」,「重宝を懐く者は夜行せず」,「窮鼠猫を噛む」などと言われている。

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プロスペクト(予測)における選択の性向は,人間の認知バイアスというわけではない。なぜなら,人間だけでなく,全ての生物は,同様のシステムを採用しているからである。

差異性向,不確実性性向

生物(遺伝子プール)では,利用資源が豊富なときは,小さな差異,小さな不確実性を選択した遺伝子が有利であり,生存条件が悪化したときは,大きな差異,大きな不確実性を選択した遺伝子が有利(遺伝子の生存可能性が高い)である。


d:遺伝的(DNA)な差異
pd:自分に存在しない形質が,異性に存在する確率
dt:接合可能な遺伝的差異の大きさ


ef=Rc+Rf・pd
ei=Rc+Ri・pd (Ri<0)
u=ef-ei
=(Rf-Ri)pd
ef:有利さの期待値
ei:不利さの期待値
Rc:複製によって得られる有利さ
Rf:異性との接合によって得られる有利さ
Ri:異性との接合によって生じる不利さ
u:有利さの期待値と不利さの期待値の幅(不確実性)


アブラムシの生活環


子嚢菌の生活環,カワキコウジカビ(Eurotium)(参考:かび検査マニュアルカラー図鑑)


ケルコゾアの生活環,プラスモディオホラ(Plasmodiophora)

上記の選択問題の解答では,人々(情報プール)は,合理的な選択を行っているにすぎない。お金をもらえる(資源が豊富)ときは,小さな不確実性を選択したほうが有利であり,借金がある(資源が欠乏)ときは,大きな不確実性を選択したほうが有利である。

cf.
武器と資源獲得の不確実性

Reference
*1) Kahneman, Daniel; Tversky, Amos (1979). “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk”. Econometrica. 47 (2): 263–291.

“プロスペクト理論,不確実性,選択 Prospect Theory, Uncertainty, Selection” への 1 件のフィードバック

  1. 成程!
    と思ってしまった。
    いつも難しい内容な感じのする部分(数式あり)があるが。式を無視して読むと納得。

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