農夫の教え The farmer’s instructions

『農夫の教え』は、世界でもっとも古い農業書で、ウル第三王朝時代の粘土版に書かれている。ウル第三王朝は、紀元前22~21世紀にメソポタミアを支配した王朝だ。『農夫の教え』は学校の教科書として書かれたもので、ウルとニップルから粘土板が出土している。翻訳には諸説あるが、英文をもとに翻訳した。(*1)

「年老いた農夫が息子に助言した

畑の準備をするときは、堤防、用水路、および開けるべき土手(取水口?)を点検しなさい。畑に水を引くときは、水位を高くしすぎないようにしなさい。水が引いて畑の土が出てきたら、水が溜まった場所を確認して、囲いをしなさい。そこを、牛たちが踏みつけないようにしなさい。

草を刈って、畑の区画を区切ったら、2/3ミナ(約650g)の重さの薄いクワで、繰り返し平らにならしなさい。平たいクワで雄牛たちの足跡を消し、きれいにしなさい。その区画の畝の底を、木槌で平らにしなさい。クワで区画の4方の周囲を起こしなさい。畑が乾くまでに、平らにならしなさい。

いつも道具の手入れをしておきなさい。くびきの部品は、組み立てておきなさい。新しいむちは釘に掛けておきなさい。古いむちの柄は職人に修理してもらっておくように。手斧、ドリル、のこぎり、あなたの道具の力を、万全にしておきなさい。革の組みひも、革のひも、革の袋、むちをしっかりと取り付けなさい。播種かごを点検して、側面を丈夫にしておきなさい。畑で必要なものは、手に入るはずです。作業内容を注意深く点検しなさい。

犂耕用の雄牛たち(2頭の去勢牛)は、予備の雄牛たちが必要です。雄牛と雄牛の装着具はゆるくしておきなさい。それぞれの犂は、お互いの予備にします。1台の犂(2頭の去勢牛)に割り当てる仕事は180イク(約65ha)です。しかし、1台の犂で144イク(約52ha)を耕すように作業を組むと、作業がはかどるだろう。180シラ(約180ℓ)の種子を、18イク(約6.5ha)の広さの区画に播きなさい。

バーディル犂で、犂1台分(2頭の去勢牛)の区画を耕したあと、その場所をツグシグ犂で耕す。さらにツグラ犂で耕す。ハロー(馬耙)を、1回、2回、3回とかける。大きな木槌で堅い場所をならすときは、木槌の柄をしっかりと取り付けなさい。そうしないと、実行できない。

畑仕事が忙しくなったときは、自分の仕事をなまけてはなりません。「畑仕事をしなさい」と、誰も言ってくれません。空の星座(暦)が正しいときには、雄牛たちの力を、何度も畑作業に使うことをためらうべきではありません。その鍬は、ちゃんと働くはずです。

条播犂で畑の作業するときは、犂をきちんと調整しなさい。条播犂の「カク」の上に、皮の蓋を置きなさい。犂の柄と細い杭を準備しなさい。板を開いて、畝の溝を作りなさい。

ニンダ(約6m)当たり、8本の畝の溝を作りなさい。大麦の種を、畝間よりも狭い間隔で入れなさい。条播犂で作業するときに、種を落とす人から目を離さないように。種を播く深さは、指2本分(約3.5㎝)です。ニンダ当たり1ギジ(約3ml/m)で播きなさい。種子が畝のくぼみにうまく入らないときは、犂のクサビを交換しなさい。締め付けが緩んだら、締め直しなさい。

溝を縦に起こしたところには、次は斜めに溝を起こし、溝を斜めに起こしたところは、次は縦に溝を起こしなさい。溝をまっすぐにすれば、広くてきれいな輪郭ができます。曲がった溝は、まっすぐにしなさい。溝をきれいにしなさい。あなたの耕作地を耕しなさい。土の塊は取り出しなさい。土が軟らかくて開くところは、畝の溝を広くしなさい。土が固まっているところは、畝の溝を狭くしなさい。それが、種の発芽に良いことです。

種が発芽して地面に出たら、ネズミに対して儀式を行いなさい。小鳥のくちばしをそらしなさい。大麦がせまい溝の底から伸び出したら、最初の種の水を与えなさい。大麦が……葦のマットのようになったら、水を与えなさい。作物の穂が出たら、水を与えなさい。大麦の葉が完全に伸びたら、水を与えてはいけません。さもないと、作物が赤さび病に感染しやすくなります。大麦の殻を取るのに適した状態のときに、水を与えなさい。それによって、1バン当たり1シラ(10ℓ当たり1ℓ)の増収になるだろう。

大麦を刈り取らなければならない時期になったら、大麦が過熟にならないようにしなさい。正しい時期に収穫しなさい。1人が大麦を刈って、1人は束を縛りなさい。そして、彼の前のもう1人が、束を振り分けなさい。あなたには、これら3人の人が収穫に必要です。大麦を収穫する人たちに、その穀物を傷つけさせないようにしなさい。大麦を積み重ねているときに、彼らが穀物をまき散らさないようにしなさい。

あなたの毎日の仕事は、夜明けに始まる。あなたを手伝ってくれる人や十分な人数の収穫人を集めなさい。そして大麦の束を、積みなさい。仕事は、慎重に実行しなさい。彼らは、古くなった粗い麦粉を食べていますが、誰にも新しいパンを焼かせてはいけません。収穫した大麦の束は、積んで寝かせなければなりません。大麦の束のための儀式は、毎日行わなければなりません。あなたの大麦を輸送するときは、大麦の運搬人には、少量ずつ、扱わせなさい。

たくさんのあなたの耕地なかの、空き地の境界をわかるようにしなさい。そこに通じる、適切な運搬路を確保しなさい。あなたの荷車を使用できる状態にしておきなさい。荷車を引く雄牛に餌をやりなさい。あなたの道具を・・・・

準備した脱穀場の床を、数日間、静かにしておきなさい。脱穀場を開くときは、表面をなめらかにしなさい。脱穀するときは、脱穀そりの歯と革ひもを、アスファルトで固定しなさい。牛に穀物を踏ませるときに、脱穀機は強くなくてはなりません。穀物を地面に広げたら、まだきれいになっていない穀物の儀式を行いなさい。

あなたが風選(風で籾とワラを選別)するときは、2人目の風選者には頭の良い人を置きなさい。2人の人は、周囲で、穀物を動かす作業をしなさい。

穀物がきれいになったら、それを計りの下に置きなさい。夕方と夜に儀式を行いなさい。正午にその穀物を搬出しなさい。

ニヌルタ神の教え、エンリルの息子ニヌルタ、忠実なエンリルの農夫、お褒めの言葉をお聞かせください。」


古代エジプトの農作業

『農夫の教え』には、180シラの種を18イク(1ブル)に区画に播くと書いてある。前川先生の概算は、300シラの種を1ブルに播くので、農夫の教えの記述より、1.67倍厚播きになっている。

また、1台の犂(2頭の去勢牛)に割り当てる耕作地を180イク(10ブル、約65ha)としており、2頭の牛が1作期に耕うんできる範囲から、耕作地の面積を定義している。古代では、耕作可能面積に対して、労働力や役畜が不足していたはずで、労働力と役畜数から、耕作面積を定義するのは合理的だ。ただし、1台の犂(2頭の去勢牛)が耕作する面積が10ブル(65ha)というのは広すぎるので、よくわからない。

なお、アメリカの測量法では、6マイル四方(1マイルは約1.6キロ)が1タウンシップで、これを36のセクションに分割する。1セクションは、1マイル四方(640エーカー)で、その4分の1の160エーカー(64ha)がクォーター・セクションと呼ばれ、畑1枚分の区画になる。これは、10ブル(65ha)とほぼ同じ広さなのは興味深い。

中東の農業を研究している後藤晃先生は、1970年代のイランの農村について次のように書いている。(*2, 3 4)

かつてのイランでは、灌漑施設を所有する地主が、村の農地の所有者であった。白色革命(1963年)とイラン革命(1978年)によって農地改革がおこなわれたが、農民は村の農地を個々に分割せず、村の農民の共同所有にしていた。生産は、生産単位ごとに共同でおこない、その年に耕作する農地は、毎年くじ引きで割り当てていた。収穫物は、生産単位のなかで、均等に分けた。

イランでは、犂を2頭の牡牛で引く。耕起や整地には2頭の牛が必要だが、農民は、通常は牡牛1頭だけを所有している。農作業には、農民2人牝牛2頭の犂組をつくり、この犂組を「ジョフト」(くび木の意味)という。

1ジョフトが、最少の生産単位であり、30ジョフトの村には、60頭の牝牛と60人の労働力があるとわかる。また、1台の犂(牝牛2頭)の耕作能力は7haほどで、耕地の半分は休耕されるので、1ジョフトの広さは14haと概算できるという。

さらに、灌漑用水の量もジョフトであらわされ、1ジョフトの耕地を灌漑する水量は1ジョフト・アーブ(アーブは水の意味)とあらわされる。

マルヴダシト地方では、牝牛のことを「ガーウ gav」というが、これは同時に、耕作権のことを意味する。「私はガーウをもっている」というと、「村に耕作権をもっている」という意味になる。

また、灌漑農業のマルヴダシト地方では、「シェリーキ」と呼ばれる協業単位がある。畜力で井戸から揚水するばあいは、1シェリーキは6人で編成され、6頭の牡牛(3ジョフト)と2頭の馬がいた。河川灌漑のばあいは、1シェリーキは4人で編成されたという。

「農夫の教え」では、畜牛に雄の去勢牛を使用していたが、イランでは牝牛を使用している。去勢牛と牝牛という違いはあるが、古代メソポタミアの面積の単位1ブル(6.48ha)は、イランの1/2ジョフト(約7ha)とほぼ同じである。先述のように、「農夫の教え」の1台の犂(2頭の去勢牛)が耕作する面積が180イク(10ブル=65ha)というのは広すぎるので、今後の研究の進展をのぞむ。

参考文献
*1)Black, J.A., Cunningham, G., Fluckiger-Hawker, E, Robson, E., and Zólyomi, G., The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature (http://www-etcsl.orient.ox.ac.uk/), Oxford 1998- .
*2)後藤 晃. (2002). 中東の農業社会と国家. 神奈川大学経済貿易研究所研究叢書.
*3)後藤 晃. マルヴダシト地方のオアシス農業社会.
*4)後藤 晃. イランの伝統農具と生活用具.

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投稿者: jcmswordp

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