少子化、情報プール、よみがえるマルサス Information pool, rising Malthus

マルサスによれば、人間の人口は等比級数的に増加するが、利用資源量を超えて増加することはできない。ダーウィンの進化論に大きな影響を与えた『人口論』(1798年)には、次のように書かれている。(*1)

Population, when unchecked, increases in a geometrical ratio. Subsistence increases only in an arithmetical ratio. A slight acquaintance with numbers will shew the immensity of the first power in comparison of the second.

「人口は、抑制がなければ、等比級数的な比率で増加する。生活物資は、等差級数的にしか増加しない。 数字を少しでも知っていれば、後者に比べて、前者の力の莫大なことがわかるであろう。」

Necessity, that imperious all pervading law of nature, restrains them within the prescribed bounds. The race of plants, and the race of animals shrink under this great restrictive law. And the race of man cannot, by any efforts of reason, escape from it.

「必然的に、強大ですべてに浸透する自然の法則は、その数を定められた範囲内に制限する。植物種も動物種も、この強大な制限の法則のもとで縮こまる。そして人間も、いかなる理性の努力によっても、それから逃れることはできない。」

人口が等比級数的に増加するというのは、次式で与えられ、増加率mはマルサス係数と呼ばれる。

dx/dt=mx
x(t)=x(0)emt
x:人口
t:時間
m:マルサス係数

人口が、定められた範囲内に制限されるという理論は、ピエール=フランソワ・フェルフルスト(Verhulst,1838)によって数式化されており、ロジスティック方程式と呼ばれる。

dx/dt=rx(1-x/K)
x(t)=K/(1+C・e-rt)
C=K/ x(0)-1
K:環境収容力

しかし、じっさいには、世界人口は増大しつづけており、マルサスの理論は人間にはあてはまらないと考えられてきた。


World human population (est.) 10,000 BC–2000 AD.

ところが、近年、東アジアやヨーロッパ諸国では、出生率が大幅に低下しており、世界人口は、2100年ごろから、減少に転じると予測されている。


世界人口 1800-2100年(国連 (2004) 及びアメリカ国勢調査局の評価・推計に基づく) (Author:Loren Cobb)

マルサスとロジスティック方程式によれば、1国の経済成長率が大きい(dx/dtが大きい)ほど、その国の出生率は大きくなるはずだ。

統計では、1人当たりGDPと出生率のあいだには、負の相関があり、GDP/人が大きい国ほど出生率は小さくなる。これは、一般には成熟した先進国では、経済成長率が小さいためだ。


1人当たりGDPと出生率の関係(187か国) (*2, 3)

経済成長率と出生率の関係では、それほど明確ではないが、正の相関が見られる。経済成長率が高い国ほど、出生率が大きくなる傾向があり、ロジスティック方程式と矛盾しない。


経済成長率と出生率(187か国) (*2, 3)

上図でもわかるように、同じ経済成長率であっても、出生率が大きく変動することがある。経済学者のジェフリー・サックスは、貧困国の出生率の変化について次のように指摘している。(*4)

「イランではこの革命によって若い娘が学校に通えるようになり、女性の識字率が急上昇したために、出生率が急激かつ大幅に低下した」、「女性教育の普及によって、女性が労働力に加わると、金を稼げるようになり、それにつれて家で子育てをする「コスト」も高くなる。教育、法律、社会改革を通じて、女性は力をつけるようになり、出産に関しても自分で選択できるようになる(それまでは、夫や家族の他のメンバーが選択をしていた)」(貧困の終焉)

また、GDP/人が大きな国では、低所得の層ほど、結婚、出産を敬遠する傾向がある。韓国、日本、アメリカでは、子供を増やしたくないのは、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」という理由がもっとも多い。スウェーデンやフランスでは、高年齢のためという理由が多いが、一般には高学歴ほど出産年齢が高くなるので、子供の教育に大きなコストがかかるということであろう。


子どもを増やしたくない理由(*5)

ドーキンスは、「この地上で、唯一われわれだけが、利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのである」、「私たちの脳は、遺伝子に対して反逆できるほどには十分に、遺伝子から分離独立した存在なのである」と書いている。(*6)

人間が遺伝子に反逆できるということは、脳における情報の変異速度が、遺伝子の変異速度を凌駕しているということだ。

生物は、系の外部に、エントロピーが増大したエネルギーや物質を排出することで、系の内部のエントロピーの増大を防いでいる。生物から見ると、「生産」とは、エネルギーと物質を「獲得」することであり、「消費」とは「自己複製」することである。なお、物質の獲得にはエネルギーが必要なので、利用資源はエネルギーに還元される。


e:エネルギー
s:エントロピー

遺伝子から見れば、獲得したエネルギーを、すべて自己複製に利用するのが有利である。子供の教育に大きなコストがかかるという理由で子供を増やさないということは、遺伝子の複製よりも、脳による情報の複製に大きなエネルギーが必要であることを示している。

ヒトは、変異した情報を蓄積する生物であり、時間とともに情報が蓄積し、情報プールが増大する(情報(知識)の変異速度)。情報プールの巨大化によって、脳による情報複製のエネルギー消費が、遺伝子複製のエネルギー消費を上まわるようになったと考えられる。

ruroa
原石1kg当たりから製作できる石器の刃の長さ

ヒトは、情報プールの増大によってマルサスの理論を克服してきたが、情報プールの巨大化によって、マルサスは、200年後の現代によみがえった。

文献
*1)Thomas Robert Malthus. (1798) An Essay on the Principle of Population.
*2)The International Monetary Fund
*3)The World Bank Group
*4)ジェフリー・サックス. (2005). 貧困の終焉. 早川書房, 2006.
*5)内閣府. (2010) 少子化社会に関する国際意識調査.
*6)リチャード・ドーキンス. (1976) 利己的な遺伝子. 紀伊國屋書店 増補新装版 2006.

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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