カボチャとヒョウタンの起源 Origin of pumpkin and lagenaria

“domestication” is “humanization”

初期の栽培植物は、平衡テリトリー遊動あるいは平衡テリトリー貯蔵段階における、「管理採集」の生業スタイルから生じたと考えられると書いた。

段階 生業 行為
平衡テリトリー遊動、平衡テリトリー貯蔵 管理採集、管理狩猟 無意識の選択(収穫する)
無意識の繁殖(こぼれる、捨てる)
意識的な選択(選択して収穫する)
意識的な繁殖(保護する、残す)
平衡テリトリー初期農耕 管理採集、管理狩猟、栽培 意識的な選択(選択する、伝える)
意識的な繁殖(種を播く、伝える)

「延長された表現型」として栽培化がはじまったと考えれば、どこの発祥中心地であっても、上と同様の経過をたどったはずだ。しかし、作物の種類によって、その経路はさまざまである。

家庭菜園をやっている人や農家なら知っていると思うが、生ごみ堆肥を入れた畑や生ごみの捨て場からは、毎年、カボチャが勝手に生えてくる。


生ごみ堆肥から勝手に生えたカボチャ

イネ科植物と違って、カボチャなどのウリ科植物には、次のような特徴がある。

ウリ科植物の果実には、強い苦み成分のククルビタシンが含まれる。このため、野生のウリは、苦みと毒性が強くて食べられない。最初にウリを食用にした人は、苦みが少ない個体を選んで食べたであろう。また、イネ科植物の頴果とちがって、果実が比較的に大きいので、個体の特徴を見分けやすい。つまり、ウリ科植物の採集では、はじめから意識的な選択がはたらく。

また、果肉を食べて、種は食べずに捨てたり、排泄したりするので、選択(採集)と繁殖(捨てる)がつねにセットになっている。

これらのことから、ウリ科の植物は、定住しない平衡テリトリー遊動段階であっても、遺伝的な変異の蓄積=栽培化がおこることが予想される。

カボチャ(カボチャ属:Cucurbita)の栽培化のもっとも古い証拠は、メキシコ、オアハカのGuiláNaquitz洞窟で見つかっている(*1)。出土したヘポカボチャの種子や果皮の断片は、野生のカボチャと比較して、種子が長く、茎の直径が太く、果実の形と色が変化していた。このことから、栽培化されたカボチャと判定されている。14Cによる年代の測定では、8,000~10,000年前との年代がでており、これは、Balsas川中流域で発見されたトウモロコシの痕跡よりも古い年代だ。


Fig. 2. (A) Cucurbita pepo peduncle from zone B of Guila´ Naquitz that yielded an AMS 14C date of 7340 6 60 14C years B.P. (note diagnostic alternating large and small ridges). (B) Cucurbita pepo fruit end fragment from zone B of Guila´ Naquitz that retains orange rind color and yielded an AMS 14C date of 6980 6 50 14C years B.P. (C) A squash seed from zone C of Guila´ Naquitz 13.8 mm in length that exhibits marginal ridge and hair morphology diagnostic of C. pepo and yielded an AMS 14C date of 8910 6 50 14C years B.P.(Science 09 May 1997:Vol. 276, Issue 5314, pp. 932-934)

栽培トウモロコシは、メキシコBalsas川中流域に自生するZ. mays L. subsp. parviglumisから生じ、栽培化は1回だけであったことがわかっている。(トウモロコシの起源)

一方、栽培カボチャは、mtDNAの分析によって、少なくとも6つの異なる野生種から、別々に栽培化されたという。(*2)


Figure 1 (A and B) Geographic range of putative wild ancestors of domesticated Cucurbita spp. in the U.S., Central America, and South America. Numbers on the maps are individual numbers for wild taxa listed in Table 1 and in supporting information on the PNAS web site (www.pnas.org). Question marks indicate potential areas of domestication for species that presently lack a wild ancestor.


Figure 2 ML tree for 11 species of Cucurbita. Individual numbers in parentheses are those listed in Table 1 and in supporting information on the PNAS web site (www.pnas.org). Taxa in bold print are domesticated species. Bootstrap values above the branches: parsimony in bold (100 bootstraps); distance in italics (1,000 bootstraps). Values below the branches represent ML steps (50,000 puzzle steps).(PNAS January 8, 2002 99 (1) 535-540)

これらのことから、カボチャの栽培化は、トウモロコシの栽培がはじまる前の、狩猟採集段階でおきたことがうかがえる。

ちなみに、近年の研究では、アメリカ大陸の野生のカボチャやヒョウタンの種子拡散者は、絶滅したマストドンであったという。野生のカボチャやヒョウタンは、苦みが強くて人間を含む哺乳類はこれを食べないが、マストドンの糞にはこれらの種が多く含まれている。ゾウは苦みに対する耐性が高いという。(*3)

すなわち、マストドンが生存しているうちは、苦いウリの種子拡散者はマストドンであった。マストドンが絶滅してしまうと、苦いウリの種子拡散者はいなくなってしまう。次に、人間が苦みが少ないウリを選択的に採集して、その種子を環境中に拡散するようになると、人間が苦くないウリ=カボチャの種子拡散者になった。

ウリ科のヒョウタン(ユウガオ属 Lagenaria)については、日本の縄文時代の鳥浜貝塚(6,000~5,500年前)から種が出土しており、きわめて古い時代から人間が利用してきたことが知られている。

ヒョウタン(ユウガオ属)は、世界中で利用されているが、苦み成分のククルビタシンが高濃度で含まれているので、おもに容器として利用されてきた。食用としての利用が多いのは、東アジア、東南アジア、南アジアなどで、日本では、苦みの少ない品種であるユウガオをカンピョウにして食す。


南米でマテ茶を飲むためのクイア(Author:Mariano-J)


ヤシ酒を入れたヒョウタン容器、コンゴ(Author:Nick Hobgood)

近年の研究では、ヒョウタン(ユウガオ属)は、アジア、アメリカ、アフリカで別々に栽培化されたと考えられている。

2005年に、DNAの分析から、アメリカのヒョウタンは、10,000年前にアジアから持ち込まれたという研究が発表された(*4)。しかし、熱帯地方の植物であるヒョウタンが、寒冷なベーリング海峡経由で持ち込まれることは難しいという理由で、異論が出ていた。

2014年に、別のチームが、BC8000年~BC1925年のアメリカ大陸のヒョウタンのDNAを分析し、アメリカ大陸のヒョウタンは、アフリカ大陸の系統であると結論づけた。すなわち、アフリカ大陸のヒョウタンが大西洋を横断してアメリカ大陸に漂着し、その後に栽培化されたと考えられている。(*5)


Fig. 1. Sample map showing modern domestic gourds (□), modern wild gourds (★), and archaeological gourd rind samples (■) used here. Dates reported with archaeological specimens give the weighted mean of the calibrated age invoking the IntCal.09 calibration curve (8) in Oxcal 4.2 (7). See Table 1 for complete details of archaeological samples, and Table S1 for modern sample information.


Fig. 2. Maximum clade credibility tree of modern and ancient bottle gourd LSC plastid genome data, showing Bayesian posterior probability at nodes where Bayesian posterior probability ≥0.9. Ancient branches and samples are shown in red, and the scale bar assumes an evolutionary rate of 1.0 × 10−9 substitutions site−1 per year−1. The two subspecies, ssp. siceraria and ssp. asiatica [after Heiser (18)], are outlined, and a wild gourd from Zimbabwe [described by Decker-Walters et al. (25)] and one of only two known wild populations) forms an outgroup to all others, indicating some of the intraspecific diversity lost in L. siceraria during recent population declines. The Argentinian specimen within the asiatica lineage, from Heiser’s (18) collections (Table S1), may represent a historic introduction to South America. Alternatively, it may be of particular interest regarding possible prehistoric contact, material culture exchange, and domesticated germplasm transmission between Polynesia and South America (15, 19). The asiatica lineage is subtended by a domestic Ethiopian landrace, whereas a wild gourd from Kenya falls at the base of the siceraria group, suggesting that the Horn of Africa might have been an important ancestral center of Lagenaria diversity, and a source region for asiatica gourds dispersing from Africa north and east into Eurasia, as discussed elsewhere (15).


Fig. 3. Results of oceanic drift simulation experiments summarized in 10° latitude bins (Tables S3 and S4). African coastal bins give the minimum, average, and maximum drifter crossing success under all configurations of model parameters, and the average crossing times of successful drifters. New World figures indicate the minimum, average, and maximum percentage of all successful drifters arriving in a given bin, and the average crossing times of local arrivals. The Inset shows successful drifter paths over the course of three selected experiments (Table S3), with colors reflecting different departure latitude bands: yellow, 20°–10° S; magenta, 10°–0° S; cyan, 0°–10° N; red, 10°–20° N; black, 20°–30° N.

ここまで読んでくると、「栽培化」という言葉に、違和感を感じるであろう。カボチャやヒョウタンの例からわかることは、定住せずにキャンプ生活をしながら遊動する狩猟採集の段階で、植物の「栽培化」がすすんだということである。「栽培」や「農耕」をおこなわない狩猟採集民が、「栽培植物」を作りだしたことになる。じっさいには、狩猟採集民は、苦くないウリ(カボチャ)や大きなウリ(ヒョウタン)の種子拡散者にすぎない。

ここで思い出すのは、ナトゥーフィアン期のテル・アブ・フレイラの栽培型のライムギのことである。テル・アブ・フレイラでは、13,000BPの9個の粒の大きなライムギが出土しているが、この時期に農耕がはじまっていたかどうかについては、結論がでていない。(ナトゥーフィアン=貯蔵社会への転換)

テルアブフレイラ

これは、考古学的証拠が不十分というだけでなく、従来の「栽培」“cultivation”によって、「栽培化」“domestication”がおきたという概念では、「栽培化」の過程を論理的に説明できないためだ。さらに、「栽培化」“domestication”はもともと人間の行為をあらわす言葉(飼い慣らす)であるが、これを植物の遺伝的変異をあらわすことばとして使用しているので、うまく表現できない。

前回、栽培化を「延長された表現型」として見ると、「野生型」、「栽培型」という区分には意味がないと書いた。アリがアブラムシを「牧畜」していると考えると、自然界には野生のアブラムシは存在せず、すべてのアブラムシは「家畜アブラムシ」ということになってしまう。しかし、人間の手が加わっていない自然界の生物は、すべて「野生」のはずだ。

すなわち、「家畜アブラムシ」ではなく、正確には、「アリと延長された表現型の関係にあるアブラムシ」といわなければならない。同様に人間でも、次のような表現になる。

wild、野生 → ヒトと延長された表現型の関係にない
domestication、栽培化 → ヒトと延長された表現型の関係にある

「ヒトと延長された表現型の関係にある」では、あまりにも長ったらしいので、短く表現するならば、「ヒト化」であろう。“domestication”ではなくて、“humanization”のほうがうまく表現できる。

延長された

カラハリ砂漠で生活するサン族は、表面水が得られない時期は、2種のメロン (Citrullus lanatus、Citrullus naudinianus )、植物の根っこ(Rhaphionacme burkei、Coccinia rehmannii)、多肉植物(Aloe zebrina)などを水源として利用している。(*6)

とりわけ、ツァマ・メロン(Citrullus lanatus)は、ほぼ1年中利用できるため、きわめて重要だ。多い時期には1人が1日に5キロもツァマ・メロンを食べるという。ツァマ・メロンは、外観はスイカにそっくりで「甘味はなく、むしろ苦いものや酸っぱいものがまじっている」という。一方、根っこのRhaphionacme burkeiは苦くてまずいという。乾燥したステップで生きるサン族にとっては、ツァマ・メロンは、生存を左右するほど重要な植物である。


おもな水源植物の季節的移り変わり(source:ブッシュマン)


Citrullus lanatus ツァマ・メロン


Citrullus naudinianus


Rhaphionacme burkeiの根(source:ブッシュマン)

サン族は、農耕をまったくおこなわない狩猟採集民なので、人類学者や植物学者は、ツァマ・メロンを「野生のスイカ」と考えている。しかし、ほんとうは、サン族とツァマ・メロンは、「延長された表現型」の関係にあるにちがいない。野生のウリは苦くて食べられないはずで、1日5キロも食べるツァマ・メロンは、野生でないことはあきらかだ。水分が多く苦くないウリ=ツァマ・メロンの種子拡散者は、サン族だ。「野生のスイカ」ではなくて、「ヒト化スイカ」あるいは「ヒト型スイカ」と見るべきであろう。


Tsamma-Melonen in der Kalahari (Author:Genet)

文献
*1)Bruce D. Smith. (1997) The Initial Domestication of Cucurbita pepo in the Americas 10,000 Years Ago. Science Vol. 276, Issue 5314, pp. 932-934.
*2)Oris I. Sanjur, Dolores R. Piperno, Thomas C. Andres, Linda Wessel-Beaver. (2002) Phylogenetic relationships among domesticated and wild species of Cucurbita (Cucurbitaceae) inferred from a mitochondrial gene: Implications for crop plant evolution and areas of origin. PNAS 99 (1) 535-540.
*3)Logan Kistler, Lee A. Newsom, Timothy M. Ryan, Andrew C. Clarke, Bruce D. Smith,  George H. Perry. (2015) Gourds and squashes (Cucurbita spp.) adapted to megafaunal extinction and ecological anachronism through domestication. PNAS 112 (49) 15107-15112.
*4)David L. Erickson, Bruce D. Smith, Andrew C. Clarke, Daniel H. Sandweiss, Noreen Tuross. (2005) An Asian origin for a 10,000-year-old domesticated plant in the Americas. PNAS 102 (51) 18315-18320.
*5)Logan Kistler, Álvaro Montenegro, Bruce D. Smith, John A. Gifford, Richard E. Green, Lee A. Newsom, Beth Shapiro. (2014) Transoceanic drift and the domestication of African bottle gourds in the Americas. PNAS 111 (8) 2937-2941.
*6)田中二郎.(1971)ブッシュマン. 思索社.

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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