火山と栽培植物の発祥中心地 Volcano and Centre of creation

栽培植物の発祥中心地は、火山ではないだろうかと考えるようになったのは、20年ほど前だ。当時、栽培植物の原産地について調べていた。野菜や果樹の原産地の気候や土壌を知ることができれば、その作物の栽培技術をより深く理解できるのではないかと考えていたからだ。

当時は、栽培植物の原産地を知るには、ヴァヴィロフが1926~1940年にまとめた論文がもっとも重要だった。ヴァヴィロフは、栽培植物の発祥中心地として、Ⅰ:熱帯南アジア地域、Ⅱ:東アジア地域、Ⅲ:南西アジア地域、Ⅳ:地中海沿岸地域、Ⅴ:アビシニア地域、Ⅵ:中央アメリカ地域、Ⅶ南アメリカ・アンデス山系地域の7か所をあげていた。(*1)


(ヴァヴィロフ, 栽培植物発祥地の研究)

最新の研究では、少なくとも11の独立した発祥中心地が提案されており、もっとも古くて重要な「創造の中心」(single centres of creation)は、レヴァント、中国、メキシコの3か所である。(2018年3月15日ブログ)


少なくとも1つの栽培植物、あるいは家畜が生じた発祥中心地。黒線で囲まれたエリアは独立した栽培化の中心地で、矢印は拡散を示す。緑は更新世後期~完新世初期(12,000-8,200B.P.)、紫は完新世中期(8,200-4,200B.P.)に栽培化が行われたエリア。茶色は、栽培化が生物地学的に推測されるエリア(PNAS 111(17)6139-6146)(*2)

作物の原産地を調べたあとに、原産地の気象条件を、手元にあった『高等地図帳』で調べた。そもそもケッペンの気候区分は、植生分布に注目して考案されたものなので、農耕と関係が深いはずだ。しかし、気候区分と発祥中心地には、因果関係はあまり見られない。


ケッペンの気候図(Author:Peel, M. C., Finlayson, B. L., and McMahon, T. A.)

次に、原産地の土壌の条件を調べた。土壌は気候と植生の影響を受けるが、発祥中心地とは関係がないようであった。


世界の土壌帯(青野壽郎監修. 高等地図帳. 二宮書店)

同じ地図帳で地質図を見ると、栽培植物の原産地と火成岩(火山岩と深成岩)地帯が重なっていることがわかった。コムギやオオムギの原産地のレヴァント、トウモロコシやカボチャの原産地のメキシコ南部、ソバの原産地の雲南、長江下流域や珠江流域、ニューギニア東部、デカン高原などが火成岩地帯であることが示されていた。


世界の地質(青野壽郎監修. 高等地図帳. 二宮書店)

もっとも重要な発祥中心地は、レヴァント、中国、メキシコの3か所であるが、これらの中心地に共通するのは、コムギ、オオムギ、アワ、イネ、トウモロコシのイネ科作物が栽培化されたことだ。イネ科植物の頴果(子実)は粒が小さく、食料にするには、収穫、調整、加工に手間がかかる。しかし、頴果は保存性がきわめて高く、10年以上も品質を損なわずに貯蔵することができる。農耕がはじまる前には、長い貯蔵段階があったはずで、貯蔵に適したイネ科植物が栽培化されたのは自然なことだ。

ダーウィンが指摘したように、植物や動物の栽培化(domestication)は「無意識」におこなわれたはずで、「無意識の選択」(=収穫する)と「無意識の繁殖」(=こぼれる、捨てる)をくり返すことで、栽培型の変異が遺伝子プール内に広がる。コムギ、オオムギ、アワ、イネ、トウモロコシの栽培化には、1,000年以上もの時間を要したと考えられている。


栽培植物と家畜が生じた時期(単位:1,000年)。灰色は栽培化と家畜化の過程の時期、青色はプレドメスティケーション(前栽培化・家畜化)、赤色は、栽培化または家畜化による形態的変化が確認された以降(PNAS 111(17)6139-6146)


(PNAS 111(17)6139-6146を元に改変)

しかし、わたしが子供のころに学校で習ったのは、温帯では、草原 → 針葉樹 → 広葉樹へと植生が遷移するということだ。また、土の風化がすすむと、土の中のリンや塩基などの栄養分が次第に失われる。さらに、作物を何年も連作すると、土の栄養分が失われて、生産力が低下してしまう。1,000年以上も連作が可能なところは、土がよほど肥沃でなければならない。

自然界では、イネ科植物の草原が1,000年以上もつづく場所は、サバナやステップ草原しかない。しかし、レヴァント、中国、メキシコの発祥中心がサバナやステップというわけではない。また、サバナやステップは、雨季と乾季がはっきりと分かれているので、乾季には水や食料の獲得が困難だ。広大なステップ草原では、アボリジニやサン族のように、人間の集団(バンド)は水と食料を求めて移動をくり返さなければならないので、貯蔵段階に移行しにくい。貯蔵段階は定住段階なので、栽培植物の発祥中心地は、つねに水が得られる場所でなければならない。

新しい火山の土には、リンが豊富に存在するが、窒素が含まれておらずリン酸も固定されやすい。このため、侵入できる植物がかぎられている。イネ科植物はリンの吸収能力が高く、さらに窒素固定細菌と共生しているので、新しい火山の土に侵入する能力がある。火山の土は、植物にとっては大きなニッチなので、多くの植物が侵入しようとするが、イネ科植物は、ウシ、ヤギ、ヒツジ、シカ、ゾウなどの草食動物と「延長された表現型」の関係を結ぶことで、樹木の侵入を防いで、長期に火山草原を形成することが可能だ。

さまざまな条件を考えると、人間の集団が1,000年以上定住できて、かつイネ科植物の草原が1,000年以上つづくような場所は、火山の草原以外に思い浮かばない。

詳細な地質図を見れば、火山と発祥中心地との関係がよりはっきりする。以下の地質図では、Vの印はVolcanic rock=火山岩(噴出岩)、+の印はIntrusive rock=貫入岩(深成岩)を示している。


レヴァントの地質図(*4)


イラン北部の地質図(*5)

エンマーコムギとアインコルンコムギの原産地は、トルコ南東部のKaraca Dağ(カラジャ山)の山麓とされている。カラジャ山は、高さ1,952mの楯状火山で、玄武岩質溶岩の噴出によって形成された。カラジャ山の最後の大規模噴出は中期更新世(78~12万年前)とされており、新しい火山である。(2018年3月21日ブログ)

また、オオムギの原産地は、南レヴァントと報告されているが、古いオオムギ栽培の痕跡は、南レヴァントの火山岩地帯に重なっている(2018年3月29日ブログ)。

レヴァントの火山岩地帯は、「肥沃な三日月地帯」と一致する。遺伝子の分析による報告を読む前から、コムギやオオムギの原産地は、レヴァントの火山岩地帯のどこかだろうと思っていた。また、古い農耕神話には、火山の話が多く登場する。

レヴァント5
レヴァント

中国の華北は、レスに広く覆われているので、もともとの地質がわかりにくい。レスというのは黄土のことで、砂漠、乾燥地帯、山岳地帯に堆積した砂やホコリ(シルト)が、風で飛ばされて堆積したものだ。中国の華北地方や北米の中央部などに広く分布する。

華北の代表的な新石器時代の遺跡は、裴李崗文化(河南省)、磁山文化(河北省南部)、仰韶文化(河南省、陝西省、山西省)などだ。華北で栽培化されたアワの原産地はわかっていないが、地質図では、河南省から陝西省にかけて、火山岩地帯が存在する。

タデ科のソバの原産地は雲南省といわれている。タデ科は火山の土に最初に侵入する植物であり、地質図でみると、雲南省の大理や昆明の周辺は火山岩の土であることがわかる。

栽培イネの原産地は珠江流域とされている。イネは水生植物なので、地質は関係ないように思えるが、珠江流域は火成岩(深成岩)の地帯である(後述)。


中国の地質図(*6)

トウモロコシの原産地は、メキシコ南部のバルサス(Balsas)川中流域とされている(2018年4月25日ブログ)。バルサス川中流域は、上部新生代火山岩(Upper Cenozoic volcanic rocks:Cuv)で覆われている。


メキシコ南部の地質図(*7)

以前に、栽培イネの起源地は珠江流域という報告が予想どおりだったと書き、その理由も述べた(2018年4月11日ブロブ)。珠江流域がイネの発祥地ではないかと考えていたもうひとつの理由は、珠江流域が火成岩(深成岩)地帯であったからだ。

深成岩は、マグマが地下の深いところでゆっくり冷えた火成岩で、石英(SiO₂)や長石(KAlSi3O8 – NaAlSi3O8 – CaAl2Si2O8)の結晶が大きく成長している。深成岩には、成分のちがいによって、かんらん岩、斑れい岩、閃緑岩、花崗岩などがある。

花崗岩は高温高圧の環境で形成され、結晶が粒状に成長しているので、圧力の変化や温度の変化によって、岩石が細かく砕けやすい。花崗岩の風化がすすむと、石英は砂として残り、長石類は化学的に変化して粘土鉱物になる。

雨が多く土が酸性化する環境では、花崗岩の土からは、Fe、Al、Si以外のCa、Na、K、Pなどが溶脱してしまう。風化がさらにすすむと、最終的に残るのは砂と粘土鉱物のカオリン[Si4Al4O10(OH)8]といわれている。カオリンは、1:1型層状ケイ酸塩鉱物で、土の中では、単層が10~100重なって積層になっている。この鉱物は、カオリナイト、陶土とも呼ばれる。なお、「カオリン」は、中国の陶磁器の産地である景徳鎮の高嶺山(カオリン)に由来する。

風化すすんだ花崗岩の土は「マサ」と呼ばれている。マサは、砂と粘土が混じった黄褐色の土で、腐植が少なく養分が乏しい。マサなどのカオリン系土壌は、雨が降るとドロドロになる。

深成岩の酸性土壌では、土に含まれている養分が流れてしまうということは、流れた先の沖積土には、養分が多く含まれているということだろう。

日本列島では、弥生時代に水田稲作がはじまる。水田稲作は、初期にはまず、北部九州地方に集落が出現し、西日本各地に広がった。弥生時代の集落遺跡が多いのは、筑紫平野、福岡平野、早良平野、唐津平野、糸島平野、嘉穂平野、岡山平野、摂津平野、河内平野、和泉平野、奈良盆地、濃尾平野などだ。(*10)


弥生時代の主な集落分布図(弥生ミュージアムより)


弥生前期(後半)環濠の地域性(藤原. 2011)(*11)

いっぽう、日本列島の花崗岩の分布は、九州北部、中国地方、四国北部、近畿、東海に多い。弥生遺跡が多い沖積平野と花崗岩地帯にできた沖積平野は、重なっていることがわかる。


日本列島の花崗岩の分布(1Ma:100万年前)(鈴木ら. 2010)(*12)

深成岩地帯の珠江流域でも、沖積土にリンが多く蓄積していたために、野生イネの群落が長期につづき、貯蔵段階と栽培化につながったのではないだろうか。

文献
*1)ニコライ・ヴァヴィロフ. 栽培植物発祥地の研究. 八坂書房 1980.
*2)Larson G, et al. (2014) Current perspectives and the future of domestication studies. PNAS 111(17)6139-6146.
*3)青野壽郎監修 (1981) 高等地図帳. 二宮書店.
*4)Richard M. Pollastro, Amy S. Karshbaum, Roland J. Viger. (2000) MAPS SHOWING GEOLOGY, OIL AND GAS FIELDS AND GEOLOGIC PROVINCES OF THE ARABIAN PENINSULA. U.S. Geological Survey Open File Report 97-470B.
*5)R. M. Pollastro, F. M. Persits, D. W. Steinshouer. (1997) MAP SHOWING GEOLOGY, OIL AND GAS FIELDS, AND GEOLOGIC PROVINCES OF IRAN. U.S. Geological Survey Open File Report 97-470G, ver.1.0.
*6)Douglas W. Steinshouer1, Jin Qiang, Peter J. McCabe, Robert T. Ryder. (1998) MAPS SHOWING GEOLOGY, OIL AND GAS FIELDS, AND GEOLOGIC PROVINCES OF THE ASIA PACIFIC REGION. U.S. Geological Survey Open-File Report 97-470F.
*7)Christopher D. French, Christopher J. Schenk. (1997) Map Showing Geology, Oil and Gas Fields, and Geologic Provinces of the Gulf of Mexico Region. U.S. Geological Survey Open-File Report 97-470-L.
*8)北川隆司. (1999) 花崗岩のマサ化のメカニズムと斜面崩壊. 粘土科学第39巻第1号 37-44.
*9)和田信一郎. (2015) 土壌学. 和田信一郎の土の科学情報.
*10)弥生ミュージアム, 弥生時代集落の分布の傾向:http://www.yoshinogari.jp/ym/episode02/keikou01.html
*11)藤原 哲. (2011)弥生社会における環濠集落の成立と展開. 総研大文化科学研究第7号.
*12)鈴木和恵, 丸山茂徳, 山本伸次, 大森聡一. (2010) 日本列島の大陸地殻は成長したのか? Journal of Geography 119(6)1173—1196.

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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