イタドリ、ススキ、マツ:難溶性リン酸を吸収する植物 Reynoutria japonica, Miscanthus, Pine

自然界では、火山の土であっても、砂漠でなければ植物が繁茂する。自然界には難溶性リン酸を吸収するさまざまな植物が存在する。

ルピナス(マメ科):アフリカやアメリカ大陸に分布するルピナス(ルーピン)は、根からクエン酸などの有機酸や酵素のホスファターゼを分泌して、難溶性リン酸を可溶化するといわれている。


ルピナス(マメ科)

ユーカリ(フトモモ科):オーストラリアの酸性土壌に生育するユーカリは、根からクエン酸などキレート性物質を放出して難溶性リン酸を溶解、吸収するといわれている。なお、ユーカリは、外菌根性であり、担子菌のHysterangiumPisolithusと共生関係にある。菌根菌を接種したユーカリは、低濃度のリン酸土壌でも生育することができるという。(*1)


ユーカリの森、オーストラリア(Author:Mattinbgn)

アカシア類(マメ科):オーストラリアのリン酸を吸収しにくい土壌には、マメ科のアカシア類が生息している。これらのアカシア類は、有機酸を放出して鉄やアルミをキレート化し、Fe型あるいはAl型の難溶性リン酸を溶解吸収するとされている。また、アカシアは、窒素を固定する根粒菌だけでなく、アーバスキュラー菌根菌(AM菌)とも共生している。


オーストラリアのアカシア(Author:Mark Marathon)

日本列島には、多くの活火山が存在する。桜島の火山噴出物に覆われた土は、噴火から20年ほど経過すると、地衣類やコケ類が出現する。50年たつと、イタドリ(タデ科)やススキ(イネ科)が侵入する。100年たつと、クロマツの林ができて、ヤシャブシ(カバノキ科ハンノキ属)なども生える。150年以上たつとアラカシ(ブナ科)、タブノキ(クスノキ科)、スダジイ(ブナ科)などの常緑広葉樹林になると考えられている。(*2)

富士山が最後に噴火したのは1707年の宝永大噴火で、山頂部および斜面の一部は、現在でも裸地になっている。富士山の植生は、山頂から低地になるにつれて発達している。噴火後の火山に最初に侵入する植物は、イタドリ(タデ科)やオンタデ(タデ科)とされている。その後は、ミヤマヤナギ(ヤナギ科)、ミヤマハンノキ(カバノキ科ハンノキ属)、ダケカンバ(カバノキ科)、カラマツ(マツ科カラマツ属)、シラビソ(マツ科モミ属)、コメツガ(マツ科ツガ属)へと植生が遷移すると推定されている。

日本の活火山では、初期に侵入する植物は、イタドリ、オンタデなどのタデ科植物だ。また、暖温帯では、ススキ属の植物が初期に侵入する。その次に、カバノキ科ハンノキ属やその他のカバノキ科植物が侵入するが、ハンノキ属の植物は放線菌のフランキア属と共生して窒素を固定することが知られている。その後は、マツ科のマツ属やカラマツ属が繁殖し、暖温帯ではクロマツが、亜高山帯や寒帯ではカラマツが優占するといわれている。


ハンノキ(カバノキ科ハンノキ属)(Author:Σ64)


シラビソ(マツ科モミ属)(Author:Inti-sol)


コメツガ(マツ科ツガ属)

イタドリは、新しい火山の土に最初に侵入する植物であることはよく知られているが、どうしてイタドリが火山の土に侵入できるのかについて調べた論文を見たことがない。ただ、イタドリはソバと同じタデ科植物なので、根からHを放出して、アパタイト中のリン酸を吸収していると考えられる。

しかし、新しい火山の土には窒素が含まれていない。イタドリは、窒素がほとんど存在しない火山の土で旺盛に成長することから、大気中の窒素を固定する何らかの機構を有していると思われる。


イタドリ(タデ科)

イネ科植物のススキも、火山の土に初期に侵入する植物だ。また、日本の黒ボク土地帯では1万年以上もススキの草原がつづいていたといわれている。近年の報告では、ススキが強酸性土壌へ定着するには、AM菌との共生が必要であり、ススキは、耐酸性のAM菌との共生によって、リン酸の一部を得ているという(*3)。ただ、イネ科植物が、酸性土壌の難溶性リン酸を吸収する機構については、解明されていない。

また、火山の土には窒素がほとんど含まれていないので、火山の土で生育するには、大気中の窒素を固定する必要がある。窒素については、イネ科植物の根圏や体内に窒素固定細菌が生息していることが知られている。エンドファイトとは、植物の体内で生活する微生物のことだが、窒素固定能力をもったエンドファイトとして、Acetobacter属、Herbaspirillum属、Azoarcus属などの細菌の存在が報告されている。(*4)

イネ科植物の体内には、窒素固定能をもつ偏性嫌気性細菌と窒素固定能をもたない好気性(通性嫌気性)細菌の両方が生息しており、両者が共同(コンソーシアム)して窒素固定活性を発現していると考えられている。ススキについても、定着生の高い嫌気窒素固定コンソーシアムの存在が確認されている。(*5)


箱根仙石原のススキ野(Author:Jungle)

火山の周辺では、ススキやササの草原にマツ類が侵入する。それが可能なのは、マツ類が難溶性リン酸を溶解、吸収する機構を有しているからだ。

マツ類は菌根性の植物で、無機養分のほとんどを、菌根菌をとおして得ているといわれている。菌根菌は、植物の根に侵入して共生する菌類のことで、生物としてはグロムス門、担子菌門、子嚢菌門などに分類される。また、その形態から、アーバスキュラー菌根、外菌根、ラン菌根、エリコイド菌根、モノトロポイド菌根などに分けられている。

植物のほとんどは菌根菌と共生関係にあるが、アブラナ科、ヒユ科、ナデシコ科、タデ科、ケシ科など、菌根菌非共生の植物もある。また、スイレン目、オモダカ目などの水生植物も菌根菌非共生だ。外菌根と共生する植物は、マツ科、ブナ科、カバノキ科、フタバガキ科、ヤナギ科、フトモモ科などが知られている。外菌根菌は、ハラタケ目に属する担子菌が多いが、セイヨウショウロ科(トリュフ)やチャワンタケ科の子嚢菌、ケカビ門も存在するとされている。

マツ類は、マツタケなどの担子菌と共生し、共生菌に光合成産物(エネルギー)を与える代わりに、菌から水や無機養分を得ている。マツタケには、Al型リン酸を溶解吸収する能力があることが知られている。なお、菌根菌は、可溶性のリン酸が多い肥沃な土壌では、菌根の発達が悪くなるといわれている。(2016年4月20日ブログ)

マツタケの子実体は、アカマツを中心に環状に形成される。これは、一般に「シロ」と呼ばれている。シロの先端は、菌根がもっとも活発に成長しているため、活性菌根帯と呼ばれる。活性菌根帯の土壌は細菌や酵母に対して強い抗菌活性を示す。(*6, *7)

この抗菌活性を有する物質は、シュウ酸アルミニウム錯体と報告されており、シュウ酸アルミニウム錯体は、他の微生物に対して抗菌作用があると同時に、マツタケに対して菌糸の成長促進効果があるという。

マツタケは菌根からシュウ酸を放出して、Al型リン酸を溶解してリン酸を吸収すると同時に、シュウ酸アルミニウムの抗菌作用によって土壌中の微生物環境を整えることでシロを拡大しているらしい。

マツタケ菌糸からのシュウ酸放出は、酸性土壌におけるAl型リン酸の溶解吸収、可溶性アルミニウムの解毒、他の土壌微生物の抗菌作用の機能をはたしていると考えられている。

なお、マツタケは、アカマツだけでなく他のマツ属の樹木と共生する。さらに、中国の四川省や雲南省に分布するマツタケは、マツ類ではなくブナ科の樹木(コナラ属、シイ属など)を宿主にしているという。(*8)


(西野, 2017)


富士山の森林限界付近で発芽したカラマツの実生(Author:御粥)

文献
*1)Myra Chu-Chou, Lynette J.Grace. (1982) Mycorrhizal fungi of Eucalyptus in the North Island of New Zealand. Soil Biology and Biochemistry14-2:133-137
*2)上條隆志, 田村憲司, 廣田 充, 西村貴皓, 東 亮太, 藤井美央. (2016) 火山遷移に伴う植生発達と環境形成. 地球環境21(1),21-32.
*3)河原 愛, 佐藤理子, 江沢辰広. (2013) アルミニウム耐性植物ススキのリン酸吸収を担う直接および菌根経路. 日本土壌肥料学会講演要旨集59巻.
*4)南澤 究. (2003) イネ科植物の窒素固定エンドファイト. 日本農芸化学会誌77巻2号 p.126-129
*5)斉藤朝美, 葉 繽, 南澤 究. (2002) ススキへの定着性の高い嫌気窒素固定コンソーシアムの選抜. 日本微生物生態学会講演要旨集(18),100.
*6)西野勝俊ら. (2016) シュウ酸アルミニウムの抗菌作用を利用したマツタケの生長戦略. 日本森林学会学術講演集.
*7)西野勝俊. (2017) マツタケシロの抗菌物質・シュウ酸アルミニウム錯体の化学生態学. 京都大学.
*8)進藤克実, 松下範久, 寳月岱造. (2008) 中国雲南省産のマツタケとブナ科樹木との菌根共生. 第119回日本森林学会大会.

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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