難溶性リン酸を吸収する作物

酸性やアルカリ性の火山灰土では、リンが土に固定されて、植物が吸収することが難しくなる。しかし、植物のなかには難溶性リン酸を吸収する種が存在するし、栽培植物についても報告がある。

ソバ(タデ科):ソバの原産地は、中国の雲南省と考えられている(*1)。ソバは、根からH(プロトン)を放出して、アパタイトなどCa型リン酸を溶解、吸収するとされている。


ソバ(タデ科)(Author:Koba-chan)

アブラナ科:ナタネ、ダイコン、ハクサイ、カブ、カラシナなどのアブラナ科作物は、根からHを放出して、Ca型リン酸を溶解、吸収する。また、アブラナ科作物とタデ科のソバは、リン肥沃度の低い土中では、「リン獲得根」が伸長すると報告されている。(*2)

ヒユ科:ヒユ科のテンサイ、ホウレンソウは、根からHを放出して、Ca型リン酸を溶解、吸収することが知られている。

ヒヨコマメ(マメ科):ヒヨコマメは、PPNB期に西アジアで栽培化されたきわめて古い作物で、創始作物(founder crop)のひとつとされている。西アジアの創始作物は、アインコルンコムギ、エンマーコムギ、オオムギ、レンズマメ、エンドウマメ、ヒヨコマメ、ビターベッチ、ソラマメ、アマといわれている。ヒヨコマメは、根からクエン酸やコハク酸を放出して、アルカリ土でのCa型リン酸を溶解して吸収する。また、ヒヨコマメは、Fe型リン酸が多い土壌でも生育することから、Fe型リン酸を吸収する可能性もあるといわれている。


ヒヨコマメ


キマメ

キマメ(マメ科):キマメは、インドやアフリカ東部で栽培されている。根からマロン酸、シュウ酸、ピシジン酸を放出し、AlおよびFeとキレート結合して、Al型リン酸、Fe型リン酸を溶解、吸収するとされている。(*3, 4)


(大谷, 阿江, 山縣. 1997)

ラッカセイ(マメ科):ラッカセイは、南アメリカで栽培化され、難溶性のFe型リン酸とAl型リン酸の溶解能があることが知られている。Fe型リン酸の溶解の全活性のうち、一部は根の表面に活性が存在することが報告されており、これは「接触溶解反応」と呼ばれている。溶解活性の反応部位では、3価の陽イオンとのみ特異的に結合するとされている。また、ラッカセイの根は、表面が脱落して、絶えず新しい溶解活性部位が表面に生成していると考えられている。(*5)


ラッカセイ(Author:Delince)

イネ:イネ(陸稲)は、可吸態リン酸が少ない黒ボク土で、リンをよく吸収することが知られているが、イネが難溶性リン酸を吸収する機構は解明されていない。

なお、水田では、畑作に比べて、イネのリン酸吸収が高いことが知られている。湛水下の水田土壌では、リン酸の溶出量は、pH5以下あるいはpH7以上で高くなるが、pH5~7の間では、著しく低くなる。pH5以下で、リン酸の溶出量が増えるのは、リン酸と結合している鉄が還元されて藍鉄鉱[Fe3(PO4)2・8H2O]に変化して溶解度が増大するためと考えられている。いっぽう、pH7以上では、土壌溶液中の鉄(Ⅱ)(Fe2)が、大気中のCO2によって炭酸鉄(Ⅱ)(FeCO3)となって沈殿し、溶液中から除去されて、リン酸の溶出が促進される。一般に水田土壌は中性付近なので、Fe2の沈殿によるリン酸の溶解度上昇が、水田土壌におけるイネのリン酸吸収の増加の要因とされている。(*6)


(飯村, 2005)

文献
*1)Ohmi OHNISHI. (1993) Population genetics of cultivated common buckwheat, Fagopyrum esculentum Moench. VIII. Local differentiation of land races in Europe and the silk road. The Japanese Journal of Genetics Volume 68 Issue 4 Pages 303-316.
*2)船場康司, 南條正巳. (2004) アブラナ科作物のリン獲得根伸長と土壌の可給態リンレベルとの関係. 日本土壌肥料学会講演要旨集50巻 p.143.
*3)大谷 卓, 阿江教治, 山縣真人. (1997) 植物のもつ難溶性リン酸獲得戦略. 農環研ニュースNo.36.
*4)大谷 卓, 阿江教治, 山縣真人. (1999) 黒ボク土中のリン酸に対するキマメおよびラッカセイの特異的吸収・利用機構. 農業環境技術研究所報告17号 p.55-123
*5)阿江教治. (2002) リンの溶解・吸収における細胞壁の関与:ラッカセイの場合. 日本土壌肥料学会講演要旨集48巻 p.183
*6)飯村康二. (2005) 湛水下の水田土壌におけるリン酸の溶解度上昇の原因について. 日本土壌肥料学雑誌76巻2号 p.199-200.

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リンと火山、黒ボク土と縄文人

リンPは、地殻に0.12%しか存在しない。また、リンは土に固定されやすく、難溶化したリンを吸収できる植物は多くない。

一般に雨が多い地方では、土が酸性化する。空気中のCO2が雨水に溶けると、炭酸水(H2CO3)になる。炭酸水は土の中のCaなどの塩基を溶かして流亡させるので、土の中にはHが増えて酸性化する。また、植物は、根から有機酸やHを分泌するので、さらに土が酸性化する。

逆に雨が少ない地方では、地表面から水が多く蒸発するので、地中から水が上昇する。塩基が土壌中から流亡しにくく、アルカリ化しやすい。

リン酸は、酸性土壌では、アルミニウムイオンや鉄イオンと化学的に結合して、難溶化する。また、ゲータイト[FeO(OH)]など金属水酸化物に電気的に吸着されたり、粘土表面に直接取り込まれて吸着する。pH6~7では、比較的易溶性のリン酸塩が存在するが、pH7以上のアルカリ性になると、Caと結合してリン酸カルシウムになり、難溶化する。

日本では、火山灰が風化して生成した黒ボク土が広く分布するが、黒ボク土は、リン酸の固定力が大きい。火山が噴火すると、火口から噴出した火山灰やほこりが積もる。また、流れ出した溶岩が冷えて固まり、安山岩や玄武岩などの火山岩になる。いっぽう、マグマが深層でゆっくり冷えたときは、花崗岩などの深成岩ができる。

これらの火山灰や火成岩の中のリンの多くは、アパタイト[Ca5(PO4)3(F,Cl,OH)1]で存在している。アパタイトは、アルカリ性では溶解しにくいが、酸性では溶解しやすい。また、植物の根から分泌されるキレート能をもつクエン酸やシュウ酸、あるいはHによって溶解する。


P-Ca:Ca型リン、P-non occluded:非結合型リン、P-o:有機態リン、P-occluded:結合態リン
土壌形成期におけるリンの形態と量の経時変化モデル(Walker and Syers, 1976)

酸性土壌では、アパタイトから溶出したリン酸は、活性アルミニウム、活性鉄と反応して難溶化すると考えられている。リン酸イオンと反応する活性Alは、アロフェン、イモゴライト、Al-腐植複合体、カオリン鉱物などに含まれる。いっぽう、活性Feは、ゲータイトやフェリハイドライト([Fe3+5][(OH)9|O3]15-)に含まれる。活性Al・Feは、酸性土壌ほど多い。

下図のように、リン酸は粘土表面に存在するアルミニウムイオンと反応して、非晶質リン酸アルミニウム類似物質へと変化して難溶化すると考えられている。この物質は、植物がきわめて利用しにくい物質とされている。(*1)


(1)(2):アルミニウム水酸化物に吸着
(3):アルミニウムのケイ酸塩鉱物と反応
(4)(5)(6):アルミニウム-腐植複合体と反応
(7):アルミニウムイオンと反応


(南條, 1995)

日本の黒ボク土には、活性Al・Feが多く含まれるので、リン酸の固定が問題になってきた。北海道立十勝農業試験場の報告では、圃場の形態別リン酸含量は、Al型リン酸含量がもっとも多く、全リン酸含量の53~64%を占めるという。次いで、有機態リン酸、Fe型リン酸、Ca型リン酸の順に多い。黒ボク土では、リン酸が下層へあまり溶脱せず、難溶化して蓄積しているといわれている。(*2)


(谷ら, 2011)

ただし、火山灰土であっても、時間とともに活性Al・Feの量が変化することが知られている。ハワイ諸島では、降灰より数十万年後までは、アロフェン、イモゴライト、Al-腐植複合体が生成して、活性Al・Feの含量が増加する。その後、活性Al・Feは、反応性の低い結晶性の鉱物へと変化するために減少し、噴火から410万年後には、強風化土壌であるオキシソルになっているという。このような変化は、火山砕屑物のサイズが小さいほど、Siが少ないほど早くなる。また、温度が高いほど、結晶性の鉱物が早く出現するといわれている。(*3)


ハワイ諸島における時間経過が土壌中の非結晶鉱物(活性Al・Feを主とする鉱物)の量に及ぼす影響(Harsh, et al.)(渡邉, 2016より)

歴史的には、日本の黒ボク土は、ススキやマツしか生えないやせた土壌と言われてきた。それは、酸性の黒ボク土ではリン酸が固定されて、これを吸収できる作物がほとんど無いためだ。しかし、火山の噴出物である火山灰や火山岩は、地球の内部から出てきた新鮮な土なので、植物や動物の成長に必要なP、Ca、K、Mgなどが溶脱しておらず、栄養分が豊富に含まれている(ただし、Nは含まれていない)。

インドのデカン高原は、6700-6500万年前にマグマが噴出して形成された広大な玄武岩台地だ。噴出した玄武岩は、2,000メートル以上の厚さで堆積しているといわれている。この玄武岩が風化した土壌は、レグールと呼ばれる肥沃な土壌である。ヒヨコマメ、キマメ、緑豆、ケツルアズキ、レンズマメ、ラッカイなどの豆類、アワ、キビ、インドビエ、シコクビエ、コド、サマイ、コルネ、コラティ、ソルガム、トウジンビエなどのイネ科雑穀、綿花などが栽培されており、インドの大きな人口を支えている。

インドネシアは、日本と同じ環太平洋火山帯に属し、国土には多くの活火山が存在する。日本もインドネシアも、国土の面積に対して非常に多くの人口を扶養している。アステカ文明がおこったメキシコ高原は、安山岩や玄武岩でできており、インカ文明が栄えたアンデス山脈には多くの活火山が存在し、安山岩などの火山岩で覆われている。アフリカ大陸で農業がさかんで人口が多いのは、エチオピア高原だが、エチオピア高原は玄武岩などの溶岩類に厚く覆われている。

また、日本の縄文遺跡は、黒ボク土地帯に多いことが知られている(*4)。ただし、どうして縄文遺跡が黒ボク土地帯に多くあるのはよくわかっていない。

もともと、縄文人の食料や日本列島の植生から、縄文文化は、東日本のナラ林地帯で栄えたという説が有力であった。しかし、縄文時代にもっとも人口が多かった関東地方は照葉樹林帯に属するので、この説にあわない。

また、黒ボク土は、縄文人の火入れなどの活動によって形成されたという説も唱えられている(*5)。しかし、黒ボク土が縄文人の活動でできたという説は、縄文遺跡がないところに黒ボク土が存在することを説明できないし、ほとんどの土壌学者からも支持されていない。




(枝村, 熊谷, 2009)

ごくふつうに考えれば、黒ボク土地帯に縄文遺跡が多いのは、新鮮な火山灰が堆積した土からは、アパタイト中のリン酸が多量に溶解するために、生物の生産力が大きくなるからであろう。

新しい火山灰が堆積した台地や、溶岩が堆積した台地で優占する植物は、タデ科のイタドリ、イネ科植物、イネ科のススキ、ササなどである。これらの植物は、リンの吸収能力が高く、栄養価が高い。縄文人が食料にしていた動物はシカとイノシシが多いが、シカはススキ、ササ、その他のイネ科植物を好んで食べるし、イノシシはササの地下茎やススキの根をよく食べる。

また、火山の土から溶脱したリンは、川から海に流れるので、河川の周囲の海はリンの濃度が高くなって、貝の生産量が多くなることが予想される。

すなわち、黒ボク土地帯に縄文遺跡が多いのは、新鮮な火山の土から、多くのリンが生物に供給されるためと考えられる。

文献
*1)南條正巳. (1995) 土壌コロイドとリン酸イオン. 粘土科学第35巻第3号108-119.
*2)谷 昌幸ら. (2011) 化学肥料と牛ふん堆肥を25年間連用した淡色黒ボク土畑土壌におけるリン酸の蓄積互と形態. 日本土壌肥料学雑誌 82(3), 224-227.
*3)渡邉哲弘. (2016) 火山灰土壌の分布と特殊性. 地球環境 21(1), 11-20.
*4)阪口 豊. (1987) 黒ボク土文化. 科学,57,352-361
*5)山野井徹. (1996) 黒土の成因に関する地質学的検討. 地質学雑誌第102巻第6号 526−544.
*6)枝村俊郎, 熊谷樹一郎. (2009) 縄文遺跡の立地性向. Theory and Applications of GIS, Vol. 17, No.1, pp.63-72

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