貯蔵の意味2:果実の豊凶振動 Meaning of storage 2: Vibration of nuts production

ドングリ、カキ、カンキツ、リンゴなど、果実を成らす植物には、年によって豊凶が存在することが知られている。近年は、ドングリの凶作年にクマが人里へ出没することから、ドングリの豊凶の仕組みについて、さかんに研究が行われているが、その仕組みは謎である。果実の生産では、結実量の年次変動のことを、「隔年結果」という。隔年結果は、果実生産では経営上の大きな問題であり、古くから研究がおこなわれてきたが、その原因や仕組みについては解明されていない。

ダーウィン進化論から考えれば、ドングリに豊凶があるのは、次のような理由と思われる。

ドングリの種子拡散者は、リス、ネズミ、カケスなどである。これらの動物は、ドングリを林床のあちこちに埋めて貯蔵する習性がある。リスやネズミは、貯蔵したドングリを食料が少ない冬期に食べるが、忘れてしまったり、食べ残したりしたドングリが残る。土の中では水分が適度に保たれるので、春にドングリが発芽しやすくなる。

もし、リスやネズミがドングリを土の中に埋めなければ、地面に落ちたドングリは、昆虫やクマに食べられてしまう。また、ドングリは乾燥に弱いので、地上に落ちたままでは、乾燥して発芽しなくなる。

ドングリとの関係が取りざたされるクマは、種子をかみ砕いてしまうので、種子拡散者ではない。クマは、果実、植物、動物、魚、昆虫などを食べて、糞や尿を森の中にばら撒く。クマの遺体も、最後は土に還元される。ドングリから見ると、クマは、リン、窒素、カリウム、カルシウムなどの無機栄養分を運んで、海と陸との間で有用物質を循環している。ただし、クマはどこで糞をしたり、死んだりするかわからないので、自分の分だけの無機養分を供給するわけではない。

植物、動物、昆虫、微生物など、安定した同一の生態系に存在する異種の生物種は、お互いに「延長された表現型」であって、何百万年間もつづけられてきた遺伝子変異と自然選択の結果として、そこに存在(生存)している。そこでは、現時点での遺伝子情報のレベルにおいて、エネルギー利用の大きな無駄や非効率は存在しない。

ドングリから見ると、リス、ネズミ、カケスの個体数が少なすぎれば、埋められる子実が少なくなって、昆虫に食べられたり乾燥したりして無駄になる。動物の個体数が多すぎれば、ほとんどの子実が食べられてしまうので、やはり無駄になる。種子拡散者の個体数が少なすぎても多すぎても、遺伝子を存続するためのエネルギー効率が悪くなる。エネルギー効率が悪くなれば、同属のライバル種や、同種の異株(遺伝子)との生存闘争に勝ち残ることができない。

ブナ属、コナラ属、クリ属、マテバシイ属、シイ属などのブナ科植物は、自家不和合性で、個体株の配偶子同士が交配することを避ける性質がある。1本だけでは、受精せず、子実を実らせることができない。人間や動物と同じで、1つの個体だけでは自己複製して遺伝子を存続することができず、ある程度の大きさの遺伝子プールが必要である。その遺伝子プールが大きいほど、遺伝子プールの遺伝子の変異速度を大きくできるので、ライバル種との闘いに有利になる。

しかし、1個の個体から見ると、まわりが同種の生物だらけになると、生存闘争のライバルは「自分のコピー」になる。「自分のコピー」は自分と生存能力に差がないので、生存闘争はより熾烈になる。周囲がコピーだらけになれば、生き残れるかどうかは、偶然のみに左右される。同種の遺伝子プールでは、それぞれの個体の、正確にコピーしようとする運動(同一化)と、コピーミスをして新たな変異を獲得しようとする運動(差異化)が、つねに拮抗している。環境飽和力(空間、エネルギー流速度、有用物質)が大きな生態系では、1つだけの種が優占せずに、次々と変種があらわれて、多様な生物種で満たされる。これは、遺伝子プールに、差異化の運動が存在するためである。

ドングリにとってもっとも危険なのは、リスやネズミが極端に増えすぎて、子実がひとつも残らなかったり、逆に1匹もいなくなって、子実がひとつも埋められなくなることだ。ドングリの子実は、大きくてカロリーが高いので、大型動物を誘引(操作)する能力が高いが、逆に、昆虫に食べられたり、乾燥したり、腐ったりしやすい。遺伝情報は、何億年もかけてできあがったものなので、一度でも失われると、再び作ることができず、その時点で終わりとなる。現在の地球上に生存している生物種は、遺伝子が途絶する確率を小さくすることができた生物種だけだ。ブナ科植物は自家不和合性と書いたが、じつは植物の自家不和合は100%ではない。自家不和合が強い植物であっても、花の数%は自家交配する性質がある。

ドングリが、遺伝子途絶の確率を小さくするには、種子拡散者の個体数が極端に変動する確率を小さくしておく必要がある。そのためには、ふだんから、子実の数を年によって増やしたり減らしたりして、種子拡散者の個体数が極端に大きくなったり、ゼロになったりしないようにしておくのが合理的だ。

さらに、リスやカケスの活動範囲はかなり広いので、1本の樹だけが子実の生産量を振動させても効果がない。広い範囲で、個体同士が豊凶の周期を同調させなければならない。

動物を惹きつけて、子実を多く拡散するには、子実を多くつけたほうがよいが、子実生産に養分を多く使うと、樹の成長にまわす分が少なくなる。枝葉や根の成長が遅れるので、ライバルに負けてしまう。また、自分や自分の同種が子実を減らそうとしても、同じ生態系内のライバル種が子実をたくさん成らせば、動物は減らないので、やはり無駄になる。

森の中では、自分、自分の同種、ライバル種の個体、ライバル種、動物、昆虫などの複雑な関係の中で、あたかも人々が、市場で取引をしたり、談合したり、カルテルを結んだり、騙したり、投票で決めたりしながら、財を獲得するのと同じ状態にあると思われる。もちろんドングリがそんなことを考えるわけではなく、長いあいだの変異と自然選択の結果、そうなった。

ドングリがどのような仕組みで子実の豊凶振動を起こし、かつ広い範囲の個体同士が、どのように豊凶周期を同調させているのか、多くの研究者が取り組んでいるが、いまだに謎である。

従来は、豊凶は気候に左右されるといわれてきたが、北海道の釧路地方の調査では、降水量についてはやや関連性が認められるが、気温や日照とは関連が見られない。知床地域の調査では、降水量、気温、日照すべてで、豊凶との関連が確認できない。(*1)


釧路地方のミズナラの豊凶指数の年変化、日照時間(6月中旬―-9月中旬)と豊凶指数


釧路地方のミズナラの受粉後(6月中旬)の気候(降水量・日最高気温・日照時間)と豊凶指数


知床地域の豊凶指数の年変化


知床地域の豊凶指数と気候(souce:どんぐりの豊作は予測できる?)

また、子実の豊凶は、樹体に蓄積された貯蔵養分(炭水化物)に左右されるともいわれてきたが、森林総合研究所の調査では、ブナの結実豊凶の制限要因は、窒素資源であるとしている。安定同位体を用いた調査によって、その年の花の炭水源は貯蔵養分に依存するが、種子生産の炭素源は、貯蔵炭水化物ではなく、その年に作られた光合成産物であることが示されている。豊作年には窒素資源が優先的に種子生産に配分されるため、花芽分化に必要な窒素資源が不足し、翌年は凶作になると報告している。(*2)


種子生産の炭素源(左)、ブナ個体あたりの種子(Fr)と葉(Lf)の窒素量(右)(韓ら, 2015)

貯蔵養分は、樹木が前年に生産した炭水化物(光合成産物)と根から吸収した無機養分(窒素、リン酸、カリウムなど)からなる。太陽から地球にそそぐ光の量は、毎年同じなのであるから、毎年同じ量の炭水化物を生産し、同じ量の無機養分を吸収するのがもっとも効率的であるはずだ。つまり、樹体の貯蔵養分の変動は、豊凶現象の結果であって、要因ではない。

果実の隔年結果の研究でも、結実は貯蔵養分に左右されると長いあいだ考えられてきたが、近年は、植物ホルモンなどの作用に起因すると考えられている。果実の種子では、ジベレリンが生成するが、豊作年に果実がたくさん結実すると、ジベレリンの濃度が高くなる。高濃度のジベレリンが枝に移行して、新梢での花芽分化を抑制すると考えられている。しかし、植物ホルモンは、情報伝達の物質であって、豊凶振動の経路の一部にすぎない。つまり、要因ではない。

いずれにしても、貯蔵養分やジベレリンの作用だけでは、樹木がどのように広い範囲で豊凶周期を同調しているのかの仕組みを説明できない。

北海道大学では、3地区の林地で、28年間、ミズナラ種子の豊凶調査を行っている。ミズナラの種子生産量には大きな年次変動が存在し、その年次変動には明瞭な周期性が見られた。豊作年の翌年は、不作あるいは凶作となる確率が高い。豊凶変動は、同一サイト内の個体間、および近接する3つのサイト間で、変動が同調している。全てのサイトで豊作が同調した年は28年間で7回あり、凶作または不作の同調が13回観測された。豊作よりも不作または凶作が同調する傾向がある。また、バイオマス成長量の年次変動は、種子生産量よりも、より密接にサイト間で同調する。豊凶変動は、外的要因である気象条件よりも、個体の内的要因が豊凶により強く影響していることが示唆される。(*3)


種子生産量(落下種子数のサイトごとの平均値と標準誤差)の経年変化(來住ら, 2015)


樹幹のバイオマス成長量(平均値とSE)の経年変化(來住ら, 2015)

これらの研究から、ドングリの周期的な豊凶振動は、気候などの外的要因よりも、内的要因に強く起因していることがうかがえる。豊凶振動をひき起こし、かつ集団で豊凶周期を同調させる仕組みとはどのようなものであろうか。このような複雑な仕組みを実現する条件として、どのようなことが考えられるであろうか。

・植物の個体は体内時計を有している
・体内時計によっておおよその豊凶周期が決まる
・豊凶周期は、気候など外的要因の影響を受ける
・豊凶周期は、他の個体からの情報の影響を受ける
・伝達される情報には投票行動のような作用があり、豊凶のタイミングについて多数派が形成される
・豊作よりも凶作を発現する情報のほうが強い作用がある(動物が増えすぎるリスクのほうが大きい)
・豊作年は凶作年に比べて同調が少ないことは、多数派に対して出し抜こうとする個体(遺伝子)が存在することを意味している
 
植物には体内時計が存在することや、植物の個体同士で情報伝達をおこなっていることは知られているが、詳細な仕組みはわかっていない。植物の情報伝達の存在がわかっているのは、次のようなことである。

・花粉や胞子による遺伝子の交換
・化学物質による情報伝達
・音波による情報伝達

化学物質による植物間のシグナルとして知られているのは、植物ホルモンのエチレン、サリチル酸、ジャスモン酸である。エチレンは果実の成熟や組織の肥大成長を促進する。ジャスモン酸やサリチル酸は、病害虫に対する抵抗性を誘導する。また、植物ホルモンのストリゴラクトンは、寄生植物のストライガなどの発芽を誘導する。もともと、ストリゴラクトンは、アーバスキュラー菌根菌の菌糸を伸長させて、共生するためのシグナル物資であるが、これをストライガが利用していると考えられている。

テルペン類や香り成分も、害虫への防御反応に関与している。トマトがハスモンヨトウに食害されると、十数種類の香り成分を放出する。その香り成分を別のトマトに曝露して、ハスモンヨトウに食べさせると、幼虫の成育が抑制される。これは、トマトが、無毒な香り化合物(ヘキセニルビシアノシド)を取り込んで、毒性のある化合物に変換しているためであるという。このシステムは他の多くの植物でも見られるらしい(*4)。

音波による植物の情報伝達については、ほとんど研究されていない。日本では、わずかに、2012年に高校生によって実施された研究がある。マカラスムギに2,000Hzの音を連続して聞かせると発芽率が上昇し、500Hzでは、発根率、芽、根の成長が強く促進されることが示された。また、100Hz以下の音は、発芽、発根率を低下させ、芽と根の成長を抑制する効果があるという。(*5)


音楽がマカラスムギの発芽・発根,初期生育に及ぼす影響(佐藤, 2012)


マカラスムギの発芽・発根,初期生育に対する一定周波数音の効(佐藤, 2012)


音がマカラスムギ種子内の糖代謝に及ぼす影響(佐藤, 2012)

ほかには、トマトが発する超音波(アコースティック・エミッション:AE)を測定することで、トマトの健康診断ができるという研究がある。植物は、環境変化などのストレスを受けると、茎から超音波(AE)を発生させ、茎が振動する。この振動を測定することで、植物のストレス耐性が数値化できるという。(*6)


超音波(AE)の測定による野菜(トマト)の健康診断の概要 (蔭山ら, 2009)

cf. 炭と微生物、炭と植物の謎
https://jcmswordp.wordpress.com/2016/02/23/%E7%82%AD%E3%81%A8%E5%BE%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E3%80%81%E7%82%AD%E3%81%A8%E6%A4%8D%E7%89%A9%E3%81%AE%E8%AC%8E/

文献
*1)渡辺展之 (2011) どんぐりの豊作は予測できる?, さっぽろ自然調査館 調査館通信35号
*2)韓慶民ら (2015) 樹木の種子豊凶のカギは窒素, 森林総合研究所平成27年版 研究成果選集
*3)來住牧ら (2015) ミズナラ堅果生産量の長期動態と豊凶仮説の検証, 低温科学73 125-132
*4)杉本貢一ら (2014) 被害を受けた仲間の香りを取り込んで身を守る. 化学69 (11)
*5)佐藤優紀 (2013) 植物における音の影響, 化学と生物 Vol. 51, No. 3.
*6)Kensuke KAGEYAMA, et al.(2009)Estimation for Embolism Risk of Tomato Using Acoustic Emission Response to Increased Drought Stress Environmental Control in Biology. Vol.47, 3, p127-136(植物の発する超音波や振動を測定し、植物の健康診断を行うことができます)
*7)松橋通生ら (1998) 炭素の生物作用一炭素の波動から細胞音波へ. 炭素材料学会1998巻184号 p. 213-218

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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