アリによるアブラムシの「牧畜」:Ants put aphids on pasture

数年前、菜園でナスを栽培しているときに、アリにナスの新芽を食べられた。すべての新芽がかじられるので、それ以上、ナスが成長できず、まったく大きくならなかった。

それまで、何年もナスを栽培してきたが、新芽を食べるアリをはじめて見た。調べてみると、アルゼンチンアリが、ナスの新芽を食べることがあるらしい。南米原産のアルゼンチンアリは、現在、世界中に生息域が拡大しており、もっとも強力な侵略的外来種のひとつとされている。日本でも、広島県や兵庫県など、11都府県で生息が確認されている。


中央の黒く変色している部分がアリに食害された新芽。新葉が折れて落ちそうになっている

そこで、ナスの株元に、粘着面が外側になるようにガムテープを巻いてみた。樹に登ろうとするアリは、ガムテープにくっついて動けなくなる。この方法はとても効果があり、新芽はかじられなくなった。ただし、雨が降ると、粘着力が弱くなるので、定期的にガムテープを交換しなければならない。

2年ほどガムテープでアリを防いでいたが、その後、新芽を食べるアリは現れなくなった。米ナスから、別の品種に変えたせいかもしれないが、はっきりした理由はわからない。

ところが、3年くらい前から、ナスのアブラムシが止まらなくなった。それまでは、アブラムシがついても、そのうちに消えてしまい、ナスの生育に影響はでなかった。今度は、ナスが弱るほどアブラムシがついて、いつまでたっても、いなくならない。

ふつう、アブラムシは、先端のほうの軟らかい枝や葉に、集中的に発生することが多い。アブラムシは、宿主植物が豊富な春から夏にかけては、メスがクローン複製を繰り返して個体数を急増させ、コロニーを形成する。秋になると、有性生殖で卵を産み、卵で越冬する。

株元を見ると、アリが樹を登ったり降りたりして、アブラムシから甘露を集めているようだ。アリとアブラムシは、相利共生の関係にあるとされており、アリは捕食者からアブラムシを守り、アブラムシは甘露をアリに与える。

菜園のすべてのナスにアブラムシがつくわけでなく、1本の株だけに集中して発生している。また、ナスについたアブラムシを見ていると、葉や枝の一か所に集中しないで、葉の表や裏にバラバラについている。

葉の表と裏にいるアブラムシを、1匹残らず、手でつぶしてみた。翌日になって、ナスの葉を見ると、アブラムシが復活している。2~3日もすると、アブラムシは、手でつぶす前と同じように、葉にバラバラについている。

1本の株にだけアブラムシが発生し、しかもこんなに速く回復するのは、何らかの仕掛けがあるはずだ。ひとつは、アブラムシは、アリが保護してくれるナスの株を何らかの方法で判別しており、その株に目がけて飛んでくるのかもしれない。もうひとつは、アリがどこからかアブラムシを運んできて、葉の上にバラバラに配置していることだ。

アリとアブラムシを見ていると、両者の共生関係は、たまたまそこにいた相手をお互いに利用しているということではなく、もっと能動的に相手を操作している。

アリは、「家畜化」したアブラムシを「放牧」しているように見える。アリによるアブラムシの「牧畜」だ。

次に、アリが樹に登るのを防ぐために、ナスの株元に、ガムテープを巻いてみた。アリが新芽を食べたときは、この方法でうまく防御できた。

ところが、今回は少し様子が違う。新芽を食べられたときは、ガムテープがあると、アリは登るのをやめたのだが、今度はまったくあきらめない。次から次へと挑戦し、ガムテープについた仲間の体を乗り越えて登ろうとする。また、ガムテープが密着している部分の茎をかじって、ガムテープと茎の隙間を広げ、そこから登り降りしている。数日して、粘着力が弱まってくると、平気で登ってくる。

アリは、最初に「放牧場」に決めた株に、継続してアブラムシを「放牧」するようだ。何回妨害しても、となりの株には放牧せず、同じ株に執着している。

アブラムシの放牧場になったナスの株は、生育が悪くなるが、完全には枯れない。元気がなく、生かさず殺さずという状態である。収穫はほとんどなく、石ナスが1個だけ成った。アリは、ナスが枯れない程度に、アブラムシの数を調節していると思われる。


ナスの葉、アブラムシ、アリ、テントウムシ成虫、テントウムシ幼虫(今年のナス)

今年は、キュウリにアブラムシがつき始めた。同じ菜園で、10年以上キュウリを栽培しているが、キュウリにこれほどアブラムシがつくのは初めてだ。キュウリの葉の裏を見ると、多くのアブラムシがついているが、半分くらいはマミー化して黒くなっている。マミー(蛹)は、寄生蜂に産卵された状態のアブラムシのことである。

アブラムシの寄生蜂には、一次寄生蜂と二次寄生蜂がいる。一次寄生蜂はアブラムシに寄生し、二次寄生蜂はアブラムシの中で成長している一次寄生蜂の幼虫や蛹に寄生する。一次寄生蜂には、アブラバチ、アブラコバチなどがおり、二次寄生蜂には、ヒメタマバチ、トビコバチ、コガネバチ、オオモンクロバチなどが知られている。


キュウリの葉の裏。アブラムシ、アリ、マミー(黒い個体)がおり、アブラムシの半分くらいはマミー化している

キュウリの葉についたアブラムシとアリ。中央の黒いのはマミー

キュウリの花についたアブラムシ、アリ、アブラムシの天敵のアブ幼虫

アブラムシをくわえて、キュウリの葉やツルを歩き回るアリ

アブラムシがキュウリの花につくと、果実が肥大しなくなるので、今年は、本気でアリ(アブラムシ)を退治することにした。キュウリの株を登り降りしているアリは、3~4種類はいるようである。

まず、キュウリの株元と支柱に、粘着面が外側になるように、ガムテープを巻いた。観察していると、すぐにヒメアリが、支柱の竹に穴を開けて、竹の内側から登り降りしはじめた。

次にホウ酸入りの糖液を株元に置いた。ホウ酸入り糖液は、家の中に侵入してくるイエヒメアリを防ぐために、以前から作っていたものだ。

材料(重量)
水(湯)   40~45%
糖蜜     55~60%
ホウ酸    2%

ホウ酸は、ゴキブリ退治用のホウ酸ダンゴなどでも使われるホウ酸粉末で、700~800円(500g)で市販されている。ホウ酸の人間への急性毒性は、食塩と同程度とされており、安全性に問題はない。昆虫のばあいは、哺乳類のように、ホウ酸を体外に排出できないので、毒性が強く現れるという。植物にとって、ホウ酸は必須元素であるが、施用量が多すぎると過剰害がでる。

ホウ酸は水に溶けにくいので、お湯に溶かす。糖蜜は、蜂蜜でも砂糖でもよい。今回使ったホウ酸入りの糖液は、昨年に作ったやつの残りだが、糖の材料は、料理に使っているサトウキビのブラウンシュガーを使用した。

材用を混ぜて固形分が溶けると、とろりとした液体になる。これを浅い小皿や容器に入れてアリが集まるところに置く。イエヒメアリなどタンパク質が好きなアリのばあいは、鰹節の粉を上に少しまいておくと、よく集まる。

アリは、ホウ酸入り糖液を吸ってもすぐには死なない。吸った糖液を巣に持ち帰って、仲間のアリや子供のアリに与えるので、巣の中のアリも死滅する。ただし、卵は死なないので、卵がかえると、またアリが出る。そこで、何日かしたら、また設置する。雨が入ると効果がなくなるので、適当な容器でフタをしておく。

糖液をキュウリの株元に置いて、30分もしないうちに、どんどんアリが集まってくる。2~3日すると、キュウリの樹を登り降りするアリの姿は見えなくなった。

アリがいなくなると、アブラムシもいなくなる。キュウリの葉には、寄生蜂が卵を産みつけたマミーだけが残っていた。また、テントウムシの幼虫が歩きまわっていた。


ガムテープにくっついたアリ

糖液を置くと、すぐにアリが集まってくる

糖液を置いて数日すると、アリも生きたアブラムシもいなくなった。マミーだけが残っている

黒く肥大したのがマミー。白く細いのはアブラムシが脱皮した抜け殻で、右のほうは寄生蜂が羽化したマミーの抜け殻

テントウムシの幼虫

この話を書いたところ、三重県のカンキツ農家(北東農園さん)から、次のような返信があった。

北東農園では、最近、ミカン畑のアリとアブラムシが減っているようだという。ミカンを食害するナメクジとカタツムリの駆除のために、燐酸第二鉄の薬剤を株元に撒いているが、それをアリが巣に持ち込んでいるらしい。燐酸第二鉄がアリにどのような影響を与えているのかはわからないが、アリの減少がアブラムシに影響するならば、それが理由なのかもしれないという。

燐酸第二鉄の薬剤は、ナメクジ類、カタツムリ類、アフリカマイマイ、ヒメリンゴマイマイで登録されている。燐酸第二鉄は、天然に存在する物質で、環境への安全性が高く、有機JASでも使える薬剤である。

ただし、アリとアブラムシの生息密度が低くなることが、菜園や樹園に長期的にどのような影響を与えるのはよくわからない。何年も継続して観察する必要がある。

せっかくなので、アリとアブラムシについての最近の論文も調べてみた。

坂田氏の調査(1998)では、次のように報告されている。アリは捕食者からアブラムシを保護し、アブラムシはアリに甘露を与える相利共生の関係あると見られている。しかし、アリは共生しているはずのアブラムシを捕食することがしばしばある。アリはアブラムシが少なく甘露が不足するときは、アブラムシを捕食しない。アブラムシが多く、甘露が十分にあるときは、アブラムシをよく捕食する。2種のアブラムシがいるときは、甘露が少ないアブラムシ種をよく捕食する。アリは、仲間が甘露を採集した形跡があるアブラムシを食べず、形跡がないアブラムシを捕食する。アリは、アブラムシの捕食者であるヒラタアブの若齢幼虫は排除するが、アブ幼虫があるていど大きくなると排除できない。2種のアリがいるばあい、上位のアリは下位のアリを排除する傾向がある。(*1)


(source:アブラムシとアリの相互作用系の解析)

片山氏の論文(2007)によれば、アリと密接な関係をもつアブラムシは、全アブラムシ種の20~30%という。また、両者の関係は、相利から片利まで連続的に変化している。アブラムシの寄生蜂のなかには、アリからの攻撃を回避できる種類がおり、その寄生蜂はアリをアブラムシ探索の手がかりとして使う。テントウムシは、この寄生蜂が卵を産み付けたアブラムシを食べてしまうが、アリがテントウムシを攻撃してアブラムシを保護するので、寄生蜂の卵が守られているという。つまり、この寄生蜂は、アブラムシ資源をめぐる、アリとテントウムシの競争関係を利用して繁殖している。(*2)


(a)アリとの関係が弱い場合、競争に強いテントウムシが寄生蜂の個体数を制限する。(b)アリとの関係が強い場合、テントウムシが排除され、寄生蜂がアブラムシを攻撃する。(source:アリ-アブラムシ共生系における今後の展望)

林氏(2017)らによれば、働きアリは、甘露を採集しているアブラムシ種の種類を仲間に伝えているという。甘露の採集経験があるアリは、未経験のアリに甘露を口移しで与える際に、アブラムシの情報を仲間に伝えるらしい。(*3)

渡邉氏らの調査(2018)では、ヨモギヒゲナガアブラムシには2つのタイプ(図の赤と青)が存在する。増殖率は赤のほうが高く、甘露の量は青のほうが多い。アリが不在のときは、赤のほうが多くなる。アリが随伴するばあいは、甘露の多い青のほうが増えるはずだが、じっさいには赤と青は同数になる。アリにとって、赤が必要な何らかの理由があることが示唆されるという。(*4)


アリ随伴時(a)とアリ不在時(b)の赤タイプ,緑タイプのアブラムシの増殖率。アリが随伴していると両者の増殖率に差はないが(a),アリ不在時には赤の増殖率が高い(b)。(source:複数の生物の共生系が生物多様性を維持することを解明)

生物の機構と生態系の構造は、きわめて複雑で、かつ時間的に変動している。

北東農園さん
https://hokuto-nouen.com/

文献
*1)坂田宏志. (1998) アブラムシとアリの相互作用系の解析
*2)片山昇. (2007). アリ-アブラムシ共生系における今後の展望. 日本生態学会誌 57(3), 324-333
*3)Masayuki Hayashi, Masaru K. Hojo, Masashi Nomura, Kazuki Tsuji. (2017) Social transmission of information about a mutualist via trophallaxis in ant colonies. The Royal Society DOI: 10.1098/rspb.2017.1367
*4)渡邉紗織,吉村仁,長谷川英祐. (2018) 複数の生物の共生系が生物多様性を維持することを解明. 北海道大学

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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