西アジアの旧石器時代:Paleolithic age in Southwest Asia

西アジアで、もっとも古いホモ属の活動の証拠は、南コーカサス(ジュージア)のドマニシ遺跡である。ドマニシでは、180万年前のホモ属の骨が出土しており、これは、アフリカ以外でもっとも古い。


Dmanisi skull 3

ドマニシでは、アシューリアンに特徴的なハンドアックスなどの石器は見つかっておらず、より古いオルドワン型の石器しか出土していない。このため、ドマニシのホモ属については、ホモ・エレクトスより古い別種のホモ属であるという説がある。しかし、現在、この説は支持されておらず、ドマニシのホモ属は、ホモ・エレクトスの亜種のひとつとされている。

下部旧石器時代の西アジアで、アシューリアン石器がはじめて出土するのは、ガラリア湖の3kmほど南にあるウベイディア遺跡で、年代は140万年前である。

また、アシューリアン石器は、78万年前のフラ湖の南にあるゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡から大量に見つかっている。ハンドアックス、両面加工の石器、削器、ハンマー、錐などの石器、窪み石(pit stone)、シカ、ゾウ、カバなどの哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類の骨、大量の魚の歯、植物の残骸などが出土した。
これらの遺物は、それぞれ別の場所に埋まっており、食物の加工や魚の調理などが、異なる場所で行われていた。このことから、当時のホモ属の集団は、コミュニケーションの能力を有し、社会的な機能組織を形成していたと考えられている。男性は狩猟や石器製作などを行い、女性は採集や食物の加工などに従事する分業化がおきていたとされる。(*1, 2)


Gesher Benot Ya’aqov(American Association for the Advancement of Science)

ゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡(GBY)では、大量の窪み石(pit stone)が出土しており、堅果などの加工が行われていた。55種の植物が確認されており、当時のホモ属が、加工して食料にしていた植物として、以下のものが報告されている。(*3, 4)

オニバス:Euryale ferox(prickly water lily):スイレン科の1年生の水生植物で、種子を食用とする。fox nutとして現在でも利用されている。
パレスチナ・オーク:Quercus calliprinos(Palestine oak):ブナ科コナラ属の常緑樹で、長さ5cmほどのドングリの実が成る。
マウント・テーバー・オーク:Quercus ithaburensis (Mount Tabor oak) :ブナ科コナラ属の半常緑~落葉樹で、ドングリは長さ5 cmほどの楕円形。
マリアアザミ:Silybum marianum(Milk thistle):キク科オオアザミ属で、種子は現在でも薬用植物として利用される。
オリーブ:Olea europaea(olive):モクセイ科の常緑高木。
ヒシ:Trapa natans (water chestnut) :ミソハギ科の1年草の水草。池沼に生える浮葉植物で、種子は食用にされる。ヒシの実は、縄文時代の遺跡からも出土する。
クワイ:Sagittaria sagittifolia(arrowhead):オモダカ科の水生多年草で、塊茎を食用とする。日本では縁起の良い食物として、おせち料理で食べる習慣がある。
ガマ:Typha(cattail):ガマ科ガマ属の多年草で、池や沼などの水辺に生える。根茎を食用にする。
野生アーモンド:Amygdalus communis (wild almond):バラ科サクラ属の落葉高木。
アトランチックピスタチオ:Pistacia atlantica (Atlantic pistachio):ウルシ科カイノキ属の落葉高木。種子は、ピスタチオ同様に多くの脂肪を含む。未成熟果実を食用にすることもある。
野生ピスタチオ:Pistacia vera (pistachio):ウルシ科カイノキ属の落葉高木。乾燥と塩害に強い。


Typology of pitted stones at GBY. (1) Incipient pits on flat basalt cobble (layer II-6 L 6). (2) Shallow pit on round broken basalt cobble (layer “Unconformity”). (3) Large deep pit on broken basalt hammer (layer II-6 L 4b). (4) Small deep pit on basalt flake (layer II-6 L 4b). (4a) Cluster of small deep pits on angular basalt fragment (layer II-6 L 4b).(PNAS 2002 Feb 19; 99(4): 2455–2460)

中部旧石器時代の西アジアでは、ムステリアン石器が広く存在する。レヴァント地方ムステリアンは、ダブンB型、ダブンC型、ダブンD型の3つに分けられ、25~4.7万年前にかけて存続したらしい。西アジアでは、現生人類とネアンデルタール人が同時代に生活しており、現生人類の化石は、ミスリヤ洞窟の19.4~17.7万年前やカフゼーやスフール遺跡の12.5~9万年前の出土例がある(*5)。ネアンデルタール人の化石は、アムッド洞窟などから7.5~4.7万年前のものが見つかっている。

この遺跡からは、ガゼル、ダマジカ、アカシカ、ノロジカ、オーロックス、ロバ、カメ、トカゲなどが出土し、捕獲に使用したと思われるルヴァロア技法(石核から剥片を剥がす)による尖頭器も見つかっている。尖頭器は、投げ槍として利用されたらしい。

中部旧石器時代の西アジアでは、植物利用の痕跡は少ないが、その1つにケバラ洞窟がある。ケバラ洞窟は、カルメル山西側の断崖に位置し、60,000~48,000年前の中部旧石器時代(オーリナシアンおよびムステリアン)と終末期旧石器時代の遺物からなる。中部旧石器時代のケバラ2からは、ネアンデルタール人のほぼ完全な骨格が出土している。

また、ケバラ2では、52分類群の3,956個の炭化種子が見つかっている。このうちの大部分の3,300個は、マメ科植物であった。ほかに、ドングリ(Quercus)、ピスタチオ(Pistacia atlantica)、ムラサキ(Onosma)、シャゼンムラサキ(Echium)、ベニバナ(Carthamus)、ブドウ(Vitis vinifera)、オオムギ(Hordeum spontaneum)などがあった。

さらに、中部旧石器時代のヨーロッパについては以下のような報告がある。(*6)

イタリア中部のビランチーノ遺跡(Bilancino II)では、3万年前の石杵、石臼が出土し、それらに付着したデンプンの分析から、イネ科植物、ミナトカモジグサ属、ガマの根茎が加工されていたという。
ロシア南部のドン川の近くのコステンキ遺跡(Kostenki 16)では、3万年前の石杵の表面から、ハナワラビ属の根茎のデンプンが確認された。
チェコの南モラヴィア州のパヴロフ遺跡(Pavlov VI)では、3万年前の石杵に、ガマの根茎、ハナワラビ属などのシダ植物の根茎のデンプンが付着していた。


(A) Bilancino II grindstone and pestle grinder and wear traces. (B) Kostenki 16-Uglyanka, pestle and wear traces (C) Pavlov VI pestle grinder and wear traces. (PNAS November 2, 2010. 107 (44) 18815-18819)

また、イタリア南部のパグリッチ洞窟(Grotta Paglicci 23 A)では、中部旧石器時代の大量の石器、芸術品、埋葬物、ウマや手の壁画などが見つかっている。植物では、ビャクシン、ピスタチオ、スモモ、ドングリ、マツ、ヤナギ、ポプラ、カエデ、ナツメ、トネリコなどが出土している。3.3万年前の層から出土した石杵には、イネ科植物のデンプンが付着していた。これは、野生のカラスムギなどの種子をすりつぶした痕跡と報告されている。カラスムギをたき火で乾燥させてから石杵で粉にして、食料にしていたと考えられている。カラスムギの栽培型は、エンバク(燕麦、Oat)である。


The Paglicci pestle-grinder with the sampling areas. The dashed line indicates the area that became wet during the sampling on the apex. (PNAS September 29, 2015. 112 (39) 12075-12080)

現生人類がヨーロッパに侵入したもっとも古い痕跡は、イタリアの洞窟遺跡やロシア南部のコステンキ遺跡とされている。コステンキ遺跡のもっとも古い文化層の年代は、4.5~4.2万年前とされているので、ヨーロッパに侵入してから1万年ぐらいたったころには、イネ科植物の種子を粉にして食べるという文化が存在していたと思われる。

また、ヨーロッパや西アジアから遠く離れたオーストラリアでも同様の報告がある。オーストラリアのカディー・スプリングス(Cuddie Springs)の3万年前の石皿についた使用痕や残滓の分析から、草木種子をすりつぶして食用にしていたと推測されている(*8)


Surface grindstone from the Cuddie Springs lake floor with morphology, usewear and residues consistent with a seed-grinding function: a millstone according to the classifications of Smith.(Photo Carlo Bento.) (Antiquity 71, 300–307)

人類は、20万年以上も昔からオーカーを利用していたので、オーカーを粉にするために、石杵や石臼を粉砕道具として使用してきた。ヨーロッパやオーストラリアの例から、人類は、かなり早い時期から、石杵、石臼、磨石、石皿を利用して、植物の根茎やイネ科植物の種子を食用とする文化(知識)を持っていたことがうかがえる。

文献
*1)Nira Alperson-Afil, Gonen Sharon, Mordechai Kislev, Yoel Melamed, Irit Zohar, Shosh Ashkenazi, Rivka Rabinovic. (2009) Spatial Organization of Hominin Activities at Gesher Benot Ya’aqov, Israel. Science 18 Dec 2009:Vol. 326, Issue 5960, pp. 1677-1680
*2)現代的生活の起源はホモ・エレクトスか
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2157/
*3)Naama Goren-Inbar, Gonen Sharon, Yoel Melamed, and Mordechai Kislev. (2002) Nuts, nut cracking, and pitted stones at Gesher Benot Ya‘aqov, Israel. PNAS 2002 Feb 19; 99(4): 2455–2460
*4)Yoel Melamed, Mordechai E. Kislev, Eli Geffen, Simcha Lev-Yadun, and Naama Goren-Inbar. (2016) The plant component of an Acheulian diet at Gesher Benot Ya‘aqov, Israel. PNAS December 20, 2016. 113 (51) 14674-14679
*5)Israel Hershkovitz, Gerhard W. Weber, Rolf Quam, Mathieu Duval, Rainer Grün, Leslie Kinsley, Avner Ayalo. (2018) The earliest modern humans outside Africa. Science 26 Jan 2018 Vol. 359, Issue 6374, pp. 456-459
*6)Anna Revedin, Biancamaria Aranguren, Roberto Becattini, Laura Longo, Emanuele Marconi, Marta Mariotti Lippi, Natalia Skakun, Andrey Sinitsyn, Elena Spiridonova, and Jiří Svoboda. (2010) Thirty thousand-year-old evidence of plant food processing. PNAS November 2, 2010. 107 (44) 18815-18819
*7)Marta Mariotti Lippi, Bruno Foggi, Biancamaria Aranguren, Annamaria Ronchitelli, and Anna Revedin. (2015) Multistep food plant processing at Grotta Paglicci (Southern Italy) around 32,600 cal B.P. PNAS September 29, 2015. 112 (39) 12075-12080
*8)Fullagar R, Field J. (1997) Pleistocene seed-grinding implements from the Australian arid zone. Antiquity 71, 300–307.
*9)藤井純夫ほか.(2013)西アジア考古学講義ノート. 日本西アジア考古学会
*10)藤本強.(1983)石皿・磨石・石臼・石杵・磨臼. 東京大学文学部考古学研究室研究紀要

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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