ブタの起源:Origin of domestic pig

ブタの原種がイノシシであることは、よく知られている。ウシの原種のオーロックスや、ウマの原種は絶滅してしまったし、野生スイギュウ、ムフロン、ベゾアールなども絶滅寸前である。ところが、イノシシだけは、現在でもその勢力を維持あるいは拡大している。

かつて、ヨーロッパではイノシシはほぼ絶滅し、日本でも個体数が激減した。しかし、現在、日本やヨーロッパでは、イノシシの数が増加しており、農作物への被害が問題になっている。また、もともと分布していなかった南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドでも、家畜ブタが野生化した野生化ブタ(Feral pig)が大繁殖している。(*1)


イノシシ、野生化ブタ(Feral pig)の分布

オーロックスやウマの原種が生存できなかったのに対して、イノシシだけが再び繁栄できたのには、理由がある。

生物は、環境収容力Kを超えて増加することはできない(ロジスティック方程式)。イノシシの個体数は、おもにイノシシが利用する資源量に左右される。イノシシは、森に生息しており、その食べ物は、植物の地下茎やドングリなどの子実である。ミミズ、ヘビなどの動物も食べるが、多くは植物質である。森の資源に依存するイノシシが増加しているということは、人間が、森の資源利用を放棄して、森から撤退したことを意味している。

なぜ、人間が、森の資源利用を放棄したかといえば、かつて森から得ていたエネルギーの利用をやめて、代わりに石炭・石油の化石エネルギー、あるいは原子力のエネルギーに依存するようになったからである。

イノシシ属(Sus)の分類については議論があるが、おおむね以下の4種が支持されている。

Sus verrucosus(Javan warty pig):スンダイボイノシシ、ジャワ島、マドゥラ島に分布
Sus barbatus(Bearded pig):ヒゲイノシシ、東南アジアに分布
Sus salvanius(Pygmy hog):コビトイノシシ、インド北東部、ブータンに分布
Sus scrofa(Wild boar):イノシシ


Javan warty pig(Author:Cornish, C. J.)

Bearded pig(Author:Rufus46)

Pygmy hog(Author:A. J. T. Johnsingh)

イノシシ(Sus scrofa)は、ユーラシア大陸に広く分布し、十数種の亜種が認められている。また、家畜のブタの学名は、Sus scrofa domesticusと表記するようになっている。


アナトリアのイノシシ(Author:eman)

日本のイノシシ

ヨーロッパのイノシシ(Author:Jerzy Strzelecki)

日本には、ニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)とリュウキュウイノシシ(Sus scrofa riukiuanus)の2つの亜種が生息するが、最近のDNA分析から、石垣島と西表島の集団は、新たな亜種として認められる可能性があるという。(*2)


(source:ゲノム情報に基づくニワトリ・ブタの家禽化・家畜化起源探索と遺伝的分化の解明)

ブタの家畜化についての考古学的な証拠としては、トルコ南東部で10,300年前、中国広西省桂林甑皮岩遺跡では11,000前の出土物の報告がある。

2000年のミトコンドリアDNA分析に基づく報告では、世界の家畜ブタには、ヨーロッパのイノシシに近縁な系統と、アジアのイノシシに近縁な系統が存在している。ヨーロッパのイノシシとアジアのイノシシの分岐は50万年前と推定されており、ブタの家畜化は、ユーラシアの西と東で別々に行われたことを示している。(*3)

2005年に、世界各地の野生のイノシシ属と野生化ブタ(Feral pig)のミトコンドリアDNA解析が報告されている。ただし、標本にコビトイノシシは含まれていない。イノシシ属は、東南アジア、インド、ユーラシア東部、ユーラシア西部の4つのクレード(系統群)に大きく分かれる。図のクレード1内のsvはスンダイボイノシシ(Sus verrucosus)、sbはヒゲイノシシ(Sus barbatus)を指している。D1~D6は、家畜ブタにも存在するハプロタイプが、イノシシにも含まれるクレードである。(*4)


Bayesian (MCMC) consensus tree of 122 Sus mtDNA control region haplotypes rooted by a common warthog (Phacochoerus aethiopicus). A total of 14 clusters (represented by a specific color and corresponding region on the Eurasian map) are contained within four major clades on the tree (1 to 4). Tips associated with the island of Sulawesi represent the native wild boar Sus celebensis. All other tips represent wild Sus scrofa unless indicated by the following two-letter codes: sb, Sus barbatus; sv, Sus verrucosus. D1 to D6 represent suggested centers of domestication. D1 to D3 indicate areas where native wild boar have haplotypes identical to those of domestic pigs from the same region. Additional details are given in fig. S1. (Science. 2005 Mar 11;307(5715):1618-21.)

ユーラシアの西と東でブタの家畜化が行われたが、農耕文化が拡大あるいは伝播する過程で、各地の野生のイノシシが家畜に取り込まれたことを示している。この報告でのなぞの一つは、最初に家畜化が行われた可能性が高いアナトリアのイノシシの系統が、家畜ブタから見つかっていないことである。

2015年にも、ヨーロッパとアジアの600頭以上の家畜ブタとイノシシの遺伝学的な解析が行われている。結果は、ヨーロッパの家畜ブタの起源は、アナトリアの家畜ブタであった。ところが、アナトリアの家畜ブタの大部分は、ヨーロッパのイノシシの系統に属していた。この理由としては、ブタが家畜化された当初から、家畜ブタと野生イノシシとの交雑が続いていたためと考えられている。現在の家畜ブタは、多くの野生系統に由来するモザイクであり、ヨーロッパの品種には、すでに野生型が絶滅した系統も存在するという。(*5)


European wild boars (EUW), European domestic breed (EUD), Asian wild boar (ASW), Asian domestic pigs (ASD)
Example of a parallel sweep in ASD and EUD. (a) CLR values in the PLAG1 region. Dashed blue and red lines represent P-value thresholds of 0.05 and 0.01, respectively. The boxed area indicates the position of the parallel swept region in b. (b) CLR values in the parallel swept region a few thousand basepairs upstream of the PLAG1 region. (c) Genealogy of phased haplotypes (supplementary Note) for the swept region in b. The shaded areas highlight the very short branch lengths that are the result of a selective sweep. The shaded area on the left (Europe) contains 64 haplotypes from EUD (>72% of the total EUD haplotypes) and 2 haplotypes from EUW (<4% of the total EUW haplotypes). The shaded area on the right (Asia) contains 24 haplotypes from ASD (>54% of the total ASD haplotypes) and no ASW haplotypes. (Nature Genetics volume 47, pages 1141–1148)

なお、以前にもふれたが、もともとイノシシが生息していなかったキプロス島に、11,400~11,700年前に、イノシシが生息したことが判明している(*6)。これは、イノシシが、舟で島に持ち込まれたことを示している。このとき、イノシシだけでなく、ムフロン、ベゾアール、オーロックス、ダマジカ、アカシカ、キツネも運ばれていた。

キプロス島の大型の動物が持ち込まれたのは、トルコ南東部でヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタの家畜化が始まる1,500~2,000年も前のことであり、生物的な家畜化が起きる前に、長期にわたって野生動物の管理が行われていたことを意味するが、これについてはのちに検討する。

文献
*1)兵庫県森林動物研究センター. (2016)なぜイノシシは都市に出没するのか?, 兵庫ワイルドライフモノグラフ8号
*2)西堀正英, 山本義雄, 万年英之, 下桐猛. (2016) ゲノム情報に基づくニワトリ・ブタの家禽化・家畜化起源探索と遺伝的分化の解明, 2016年度実績報告書
*3)Giuffra E, Kijas JM, Amarger V, Carlborg O, Jeon JT, Andersson L. (2000) The origin of the domestic pig: independent domestication and subsequent introgression. Genetics. 2000 Apr;154(4):1785-91.
*4)Larson G, Dobney K, Albarella U, Fang M, Matisoo-Smith E, Robins J, Lowden S, Finlayson H, Brand T, Willerslev E, Rowley-Conwy P, Andersson L, Cooper A. (2005) Worldwide Phylogeography of Wild Boar Reveals Multiple Centers of Pig Domestication, Science. 2005 Mar 11;307(5715):1618-21.
*5)Laurent A F Frantz, Joshua G Schraiber, Ole Madsen, Hendrik-Jan Megens, Alex Cagan, Mirte Bosse, Yogesh Paude, Richard P M A Crooijmans, Greger Larson & Martien A M Groenen. (2015) Evidence of long-term gene flow and selection during domestication from analyses of Eurasian wild and domestic pig genomes. Nature Genetics volume 47, pages 1141–1148
*6)Jean-Denis Vigne, Antoine Zazzo, Jean-François Saliège, François Poplin, Jean Guilaine, and Alan Simmons. (2009) Pre-Neolithic wild boar management and introduction to Cyprus more than 11,400 years ago. PNAS September 22, 2009. 106 (38) 16135-16138

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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