アリによるアブラムシの「牧畜」:Ants put aphids on pasture

数年前、菜園でナスを栽培しているときに、アリにナスの新芽を食べられた。すべての新芽がかじられるので、それ以上、ナスが成長できず、まったく大きくならなかった。

それまで、何年もナスを栽培してきたが、新芽を食べるアリをはじめて見た。調べてみると、アルゼンチンアリが、ナスの新芽を食べることがあるらしい。南米原産のアルゼンチンアリは、現在、世界中に生息域が拡大しており、もっとも強力な侵略的外来種のひとつとされている。日本でも、広島県や兵庫県など、11都府県で生息が確認されている。


中央の黒く変色している部分がアリに食害された新芽。新葉が折れて落ちそうになっている

そこで、ナスの株元に、粘着面が外側になるようにガムテープを巻いてみた。樹に登ろうとするアリは、ガムテープにくっついて動けなくなる。この方法はとても効果があり、新芽はかじられなくなった。ただし、雨が降ると、粘着力が弱くなるので、定期的にガムテープを交換しなければならない。

2年ほどガムテープでアリを防いでいたが、その後、新芽を食べるアリは現れなくなった。米ナスから、別の品種に変えたせいかもしれないが、はっきりした理由はわからない。

ところが、3年くらい前から、ナスのアブラムシが止まらなくなった。それまでは、アブラムシがついても、そのうちに消えてしまい、ナスの生育に影響はでなかった。今度は、ナスが弱るほどアブラムシがついて、いつまでたっても、いなくならない。

ふつう、アブラムシは、先端のほうの軟らかい枝や葉に、集中的に発生することが多い。アブラムシは、宿主植物が豊富な春から夏にかけては、メスがクローン複製を繰り返して個体数を急増させ、コロニーを形成する。秋になると、有性生殖で卵を産み、卵で越冬する。

株元を見ると、アリが樹を登ったり降りたりして、アブラムシから甘露を集めているようだ。アリとアブラムシは、相利共生の関係にあるとされており、アリは捕食者からアブラムシを守り、アブラムシは甘露をアリに与える。

菜園のすべてのナスにアブラムシがつくわけでなく、1本の株だけに集中して発生している。また、ナスについたアブラムシを見ていると、葉や枝の一か所に集中しないで、葉の表や裏にバラバラについている。

葉の表と裏にいるアブラムシを、1匹残らず、手でつぶしてみた。翌日になって、ナスの葉を見ると、アブラムシが復活している。2~3日もすると、アブラムシは、手でつぶす前と同じように、葉にバラバラについている。

1本の株にだけアブラムシが発生し、しかもこんなに速く回復するのは、何らかの仕掛けがあるはずだ。ひとつは、アブラムシは、アリが保護してくれるナスの株を何らかの方法で判別しており、その株に目がけて飛んでくるのかもしれない。もうひとつは、アリがどこからかアブラムシを運んできて、葉の上にバラバラに配置していることだ。

アリとアブラムシを見ていると、両者の共生関係は、たまたまそこにいた相手をお互いに利用しているということではなく、もっと能動的に相手を操作している。

アリは、「家畜化」したアブラムシを「放牧」しているように見える。アリによるアブラムシの「牧畜」だ。

次に、アリが樹に登るのを防ぐために、ナスの株元に、ガムテープを巻いてみた。アリが新芽を食べたときは、この方法でうまく防御できた。

ところが、今回は少し様子が違う。新芽を食べられたときは、ガムテープがあると、アリは登るのをやめたのだが、今度はまったくあきらめない。次から次へと挑戦し、ガムテープについた仲間の体を乗り越えて登ろうとする。また、ガムテープが密着している部分の茎をかじって、ガムテープと茎の隙間を広げ、そこから登り降りしている。数日して、粘着力が弱まってくると、平気で登ってくる。

アリは、最初に「放牧場」に決めた株に、継続してアブラムシを「放牧」するようだ。何回妨害しても、となりの株には放牧せず、同じ株に執着している。

アブラムシの放牧場になったナスの株は、生育が悪くなるが、完全には枯れない。元気がなく、生かさず殺さずという状態である。収穫はほとんどなく、石ナスが1個だけ成った。アリは、ナスが枯れない程度に、アブラムシの数を調節していると思われる。


ナスの葉、アブラムシ、アリ、テントウムシ成虫、テントウムシ幼虫(今年のナス)

今年は、キュウリにアブラムシがつき始めた。同じ菜園で、10年以上キュウリを栽培しているが、キュウリにこれほどアブラムシがつくのは初めてだ。キュウリの葉の裏を見ると、多くのアブラムシがついているが、半分くらいはマミー化して黒くなっている。マミー(蛹)は、寄生蜂に産卵された状態のアブラムシのことである。

アブラムシの寄生蜂には、一次寄生蜂と二次寄生蜂がいる。一次寄生蜂はアブラムシに寄生し、二次寄生蜂はアブラムシの中で成長している一次寄生蜂の幼虫や蛹に寄生する。一次寄生蜂には、アブラバチ、アブラコバチなどがおり、二次寄生蜂には、ヒメタマバチ、トビコバチ、コガネバチ、オオモンクロバチなどが知られている。


キュウリの葉の裏。アブラムシ、アリ、マミー(黒い個体)がおり、アブラムシの半分くらいはマミー化している

キュウリの葉についたアブラムシとアリ。コロニーをつくる

キュウリの花についたアブラムシ、アリ、アブラムシの天敵のアブ幼虫

アブラムシをくわえて、キュウリの葉やツルを歩き回るアリ

アブラムシがキュウリの花につくと、果実が肥大しなくなるので、今年は、本気でアリ(アブラムシ)を退治することにした。キュウリの株を登り降りしているアリは、3~4種類はいるようである。

まず、キュウリの株元と支柱に、粘着面が外側になるように、ガムテープを巻いた。観察していると、すぐにヒメアリが、支柱の竹に穴を開けて、竹の内側から登り降りしはじめた。

次にホウ酸入りの糖液を株元に置いた。ホウ酸入り糖液は、家の中に侵入してくるイエヒメアリを防ぐために、以前から作っていたものだ。

材料(重量)
水(湯)   40~45%
糖蜜     55~60%
ホウ酸    2%

ホウ酸は、ゴキブリ退治用のホウ酸ダンゴなどでも使われるホウ酸粉末で、700~800円(500g)で市販されている。ホウ酸の人間への急性毒性は、食塩と同程度とされており、安全性に問題はない。昆虫のばあいは、哺乳類のように、ホウ酸を体外に排出できないので、毒性が強く現れるという。植物にとって、ホウ酸は必須元素であるが、施用量が多すぎると過剰害がでる。

ホウ酸は水に溶けにくいので、お湯に溶かす。糖蜜は、蜂蜜でも砂糖でもよい。今回使ったホウ酸入りの糖液は、昨年に作ったやつの残りだが、糖の材料は、料理に使っているサトウキビのブラウンシュガーを使用した。

材用を混ぜて固形分が溶けると、とろりとした液体になる。これを浅い小皿や容器に入れてアリが集まるところに置く。イエヒメアリなどタンパク質が好きなアリのばあいは、鰹節の粉を上に少しまいておくと、よく集まる。

アリは、ホウ酸入り糖液を吸ってもすぐには死なない。吸った糖液を巣に持ち帰って、仲間のアリや子供のアリに与えるので、巣の中のアリも死滅する。ただし、卵は死なないので、卵がかえると、またアリが出る。そこで、何日かしたら、また設置する。雨が入ると効果がなくなるので、適当な容器でフタをしておく。

糖液をキュウリの株元に置いて、30分もしないうちに、どんどんアリが集まってくる。2~3日すると、キュウリの樹を登り降りするアリの姿は見えなくなった。

アリがいなくなると、アブラムシもいなくなる。キュウリの葉には、寄生蜂が卵を産みつけたマミーだけが残っていた。また、テントウムシの幼虫が歩きまわっていた。


ガムテープにくっついたアリ

糖液を置くと、すぐにアリが集まってくる

糖液を置いて数日すると、アリも生きたアブラムシもいなくなった。マミーだけが残っている

黒く肥大したのがマミー。白く細いのはアブラムシが脱皮した抜け殻で、右のほうは寄生蜂が羽化したマミーの抜け殻

テントウムシの幼虫

この話を書いたところ、三重県のカンキツ農家(北東農園さん)から、次のような返信があった。

北東農園では、最近、ミカン畑のアリとアブラムシが減っているようだという。ミカンを食害するナメクジとカタツムリの駆除のために、燐酸第二鉄の薬剤を株元に撒いているが、それをアリが巣に持ち込んでいるらしい。燐酸第二鉄がアリにどのような影響を与えているのかはわからないが、アリの減少がアブラムシに影響するならば、それが理由なのかもしれないという。

燐酸第二鉄の薬剤は、ナメクジ類、カタツムリ類、アフリカマイマイ、ヒメリンゴマイマイで登録されている。燐酸第二鉄は、天然に存在する物質で、環境への安全性が高く、有機JASでも使える薬剤である。

ただし、アリとアブラムシの生息密度が低くなることが、菜園や樹園に長期的にどのような影響を与えるのはよくわからない。何年も継続して観察する必要がある。

せっかくなので、アリとアブラムシについての最近の論文も調べてみた。

坂田氏の調査(1998)では、次のように報告されている。アリは捕食者からアブラムシを保護し、アブラムシはアリに甘露を与える相利共生の関係あると見られている。しかし、アリは共生しているはずのアブラムシを捕食することがしばしばある。アリはアブラムシが少なく甘露が不足するときは、アブラムシを捕食しない。アブラムシが多く、甘露が十分にあるときは、アブラムシをよく捕食する。2種のアブラムシがいるときは、甘露が少ないアブラムシ種をよく捕食する。アリは、仲間が甘露を採集した形跡があるアブラムシを食べず、形跡がないアブラムシを捕食する。アリは、アブラムシの捕食者であるヒラタアブの若齢幼虫は排除するが、アブ幼虫があるていど大きくなると排除できない。2種のアリがいるばあい、上位のアリは下位のアリを排除する傾向がある。(*1)


(source:アブラムシとアリの相互作用系の解析)

片山氏の論文(2007)によれば、アリと密接な関係をもつアブラムシは、全アブラムシ種の20~30%という。また、両者の関係は、相利から片利まで連続的に変化している。アブラムシの寄生蜂のなかには、アリからの攻撃を回避できる種類がおり、その寄生蜂はアリをアブラムシ探索の手がかりとして使う。テントウムシは、この寄生蜂が卵を産み付けたアブラムシを食べてしまうが、アリがテントウムシを攻撃してアブラムシを保護するので、寄生蜂の卵が守られているという。つまり、この寄生蜂は、アブラムシ資源をめぐる、アリとテントウムシの競争関係を利用して繁殖している。(*2)


(a)アリとの関係が弱い場合、競争に強いテントウムシが寄生蜂の個体数を制限する。(b)アリとの関係が強い場合、テントウムシが排除され、寄生蜂がアブラムシを攻撃する。(source:アリ-アブラムシ共生系における今後の展望)

林氏(2017)らによれば、働きアリは、甘露を採集しているアブラムシ種の種類を仲間に伝えているという。甘露の採集経験があるアリは、未経験のアリに甘露を口移しで与える際に、アブラムシの情報を仲間に伝えるらしい。(*3)

渡邉氏らの調査(2018)では、ヨモギヒゲナガアブラムシには2つのタイプ(図の赤と青)が存在する。増殖率は赤のほうが高く、甘露の量は青のほうが多い。アリが不在のときは、赤のほうが多くなる。アリが随伴するばあいは、甘露の多い青のほうが増えるはずだが、じっさいには赤と青は同数になる。アリにとって、赤が必要な何らかの理由があることが示唆されるという。(*4)


アリ随伴時(a)とアリ不在時(b)の赤タイプ,緑タイプのアブラムシの増殖率。アリが随伴していると両者の増殖率に差はないが(a),アリ不在時には赤の増殖率が高い(b)。(source:複数の生物の共生系が生物多様性を維持することを解明)

生物の機構と生態系の構造は、きわめて複雑で、かつ時間的に変動している。

北東農園さん
https://hokuto-nouen.com/

文献
*1)坂田宏志. (1998) アブラムシとアリの相互作用系の解析
*2)片山昇. (2007). アリ-アブラムシ共生系における今後の展望. 日本生態学会誌 57(3), 324-333
*3)Masayuki Hayashi, Masaru K. Hojo, Masashi Nomura, Kazuki Tsuji. (2017) Social transmission of information about a mutualist via trophallaxis in ant colonies. The Royal Society DOI: 10.1098/rspb.2017.1367
*4)渡邉紗織,吉村仁,長谷川英祐. (2018) 複数の生物の共生系が生物多様性を維持することを解明. 北海道大学

自然農法とは何か: ゆらぎとエントロピー
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西アジアの旧石器時代:Paleolithic age in Southwest Asia

西アジアで、もっとも古いホモ属の活動の証拠は、南コーカサス(ジュージア)のドマニシ遺跡である。ドマニシでは、180万年前のホモ属の骨が出土しており、これは、アフリカ以外でもっとも古い。


Dmanisi skull 3

ドマニシでは、アシューリアンに特徴的なハンドアックスなどの石器は見つかっておらず、より古いオルドワン型の石器しか出土していない。このため、ドマニシのホモ属については、ホモ・エレクトスより古い別種のホモ属であるという説がある。しかし、現在、この説は支持されておらず、ドマニシのホモ属は、ホモ・エレクトスの亜種のひとつとされている。

下部旧石器時代の西アジアで、アシューリアン石器がはじめて出土するのは、ガラリア湖の3kmほど南にあるウベイディア遺跡で、年代は140万年前である。

また、アシューリアン石器は、78万年前のフラ湖の南にあるゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡から大量に見つかっている。ハンドアックス、両面加工の石器、削器、ハンマー、錐などの石器、窪み石(pit stone)、シカ、ゾウ、カバなどの哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類の骨、大量の魚の歯、植物の残骸などが出土した。
これらの遺物は、それぞれ別の場所に埋まっており、食物の加工や魚の調理などが、異なる場所で行われていた。このことから、当時のホモ属の集団は、コミュニケーションの能力を有し、社会的な機能組織を形成していたと考えられている。男性は狩猟や石器製作などを行い、女性は採集や食物の加工などに従事する分業化がおきていたとされる。(*1, 2)


Gesher Benot Ya’aqov(American Association for the Advancement of Science)

ゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡(GBY)では、大量の窪み石(pit stone)が出土しており、堅果などの加工が行われていた。55種の植物が確認されており、当時のホモ属が、加工して食料にしていた植物として、以下のものが報告されている。(*3, 4)

オニバス:Euryale ferox(prickly water lily):スイレン科の1年生の水生植物で、種子を食用とする。fox nutとして現在でも利用されている。
パレスチナ・オーク:Quercus calliprinos(Palestine oak):ブナ科コナラ属の常緑樹で、長さ5cmほどのドングリの実が成る。
マウント・テーバー・オーク:Quercus ithaburensis (Mount Tabor oak) :ブナ科コナラ属の半常緑~落葉樹で、ドングリは長さ5 cmほどの楕円形。
マリアアザミ:Silybum marianum(Milk thistle):キク科オオアザミ属で、種子は現在でも薬用植物として利用される。
オリーブ:Olea europaea(olive):モクセイ科の常緑高木。
ヒシ:Trapa natans (water chestnut) :ミソハギ科の1年草の水草。池沼に生える浮葉植物で、種子は食用にされる。ヒシの実は、縄文時代の遺跡からも出土する。
クワイ:Sagittaria sagittifolia(arrowhead):オモダカ科の水生多年草で、塊茎を食用とする。日本では縁起の良い食物として、おせち料理で食べる習慣がある。
ガマ:Typha(cattail):ガマ科ガマ属の多年草で、池や沼などの水辺に生える。根茎を食用にする。
野生アーモンド:Amygdalus communis (wild almond):バラ科サクラ属の落葉高木。
アトランチックピスタチオ:Pistacia atlantica (Atlantic pistachio):ウルシ科カイノキ属の落葉高木。種子は、ピスタチオ同様に多くの脂肪を含む。未成熟果実を食用にすることもある。
野生ピスタチオ:Pistacia vera (pistachio):ウルシ科カイノキ属の落葉高木。乾燥と塩害に強い。


Typology of pitted stones at GBY. (1) Incipient pits on flat basalt cobble (layer II-6 L 6). (2) Shallow pit on round broken basalt cobble (layer “Unconformity”). (3) Large deep pit on broken basalt hammer (layer II-6 L 4b). (4) Small deep pit on basalt flake (layer II-6 L 4b). (4a) Cluster of small deep pits on angular basalt fragment (layer II-6 L 4b).(PNAS 2002 Feb 19; 99(4): 2455–2460)

中部旧石器時代の西アジアでは、ムステリアン石器が広く存在する。レヴァント地方ムステリアンは、ダブンB型、ダブンC型、ダブンD型の3つに分けられ、25~4.7万年前にかけて存続したらしい。西アジアでは、現生人類とネアンデルタール人が同時代に生活しており、現生人類の化石は、ミスリヤ洞窟の19.4~17.7万年前やカフゼーやスフール遺跡の12.5~9万年前の出土例がある(*5)。ネアンデルタール人の化石は、アムッド洞窟などから7.5~4.7万年前のものが見つかっている。

この遺跡からは、ガゼル、ダマジカ、アカシカ、ノロジカ、オーロックス、ロバ、カメ、トカゲなどが出土し、捕獲に使用したと思われるルヴァロア技法(石核から剥片を剥がす)による尖頭器も見つかっている。尖頭器は、投げ槍として利用されたらしい。

中部旧石器時代の西アジアでは、植物利用の痕跡は少ないが、その1つにケバラ洞窟がある。ケバラ洞窟は、カルメル山西側の断崖に位置し、60,000~48,000年前の中部旧石器時代(オーリナシアンおよびムステリアン)と終末期旧石器時代の遺物からなる。中部旧石器時代のケバラ2からは、ネアンデルタール人のほぼ完全な骨格が出土している。

また、ケバラ2では、52分類群の3,956個の炭化種子が見つかっている。このうちの大部分の3,300個は、マメ科植物であった。ほかに、ドングリ(Quercus)、ピスタチオ(Pistacia atlantica)、ムラサキ(Onosma)、シャゼンムラサキ(Echium)、ベニバナ(Carthamus)、ブドウ(Vitis vinifera)、オオムギ(Hordeum spontaneum)などがあった。

さらに、中部旧石器時代のヨーロッパについては以下のような報告がある。(*6)

イタリア中部のビランチーノ遺跡(Bilancino II)では、3万年前の石杵、石臼が出土し、それらに付着したデンプンの分析から、イネ科植物、ミナトカモジグサ属、ガマの根茎が加工されていたという。
ロシア南部のドン川の近くのコステンキ遺跡(Kostenki 16)では、3万年前の石杵の表面から、ハナワラビ属の根茎のデンプンが確認された。
チェコの南モラヴィア州のパヴロフ遺跡(Pavlov VI)では、3万年前の石杵に、ガマの根茎、ハナワラビ属などのシダ植物の根茎のデンプンが付着していた。


(A) Bilancino II grindstone and pestle grinder and wear traces. (B) Kostenki 16-Uglyanka, pestle and wear traces (C) Pavlov VI pestle grinder and wear traces. (PNAS November 2, 2010. 107 (44) 18815-18819)

また、イタリア南部のパグリッチ洞窟(Grotta Paglicci 23 A)では、中部旧石器時代の大量の石器、芸術品、埋葬物、ウマや手の壁画などが見つかっている。植物では、ビャクシン、ピスタチオ、スモモ、ドングリ、マツ、ヤナギ、ポプラ、カエデ、ナツメ、トネリコなどが出土している。3.3万年前の層から出土した石杵には、イネ科植物のデンプンが付着していた。これは、野生のカラスムギなどの種子をすりつぶした痕跡と報告されている。カラスムギをたき火で乾燥させてから石杵で粉にして、食料にしていたと考えられている。カラスムギの栽培型は、エンバク(燕麦、Oat)である。


The Paglicci pestle-grinder with the sampling areas. The dashed line indicates the area that became wet during the sampling on the apex. (PNAS September 29, 2015. 112 (39) 12075-12080)

現生人類がヨーロッパに侵入したもっとも古い痕跡は、イタリアの洞窟遺跡やロシア南部のコステンキ遺跡とされている。コステンキ遺跡のもっとも古い文化層の年代は、4.5~4.2万年前とされているので、ヨーロッパに侵入してから1万年ぐらいたったころには、イネ科植物の種子を粉にして食べるという文化が存在していたと思われる。

また、ヨーロッパや西アジアから遠く離れたオーストラリアでも同様の報告がある。オーストラリアのカディー・スプリングス(Cuddie Springs)の3万年前の石皿についた使用痕や残滓の分析から、草木種子をすりつぶして食用にしていたと推測されている(*8)


Surface grindstone from the Cuddie Springs lake floor with morphology, usewear and residues consistent with a seed-grinding function: a millstone according to the classifications of Smith.(Photo Carlo Bento.) (Antiquity 71, 300–307)

人類は、20万年以上も昔からオーカーを利用していたので、オーカーを粉にするために、石杵や石臼を粉砕道具として使用してきた。ヨーロッパやオーストラリアの例から、人類は、かなり早い時期から、石杵、石臼、磨石、石皿を利用して、植物の根茎やイネ科植物の種子を食用とする文化(知識)を持っていたことがうかがえる。

文献
*1)Nira Alperson-Afil, Gonen Sharon, Mordechai Kislev, Yoel Melamed, Irit Zohar, Shosh Ashkenazi, Rivka Rabinovic. (2009) Spatial Organization of Hominin Activities at Gesher Benot Ya’aqov, Israel. Science 18 Dec 2009:Vol. 326, Issue 5960, pp. 1677-1680
*2)現代的生活の起源はホモ・エレクトスか
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2157/
*3)Naama Goren-Inbar, Gonen Sharon, Yoel Melamed, and Mordechai Kislev. (2002) Nuts, nut cracking, and pitted stones at Gesher Benot Ya‘aqov, Israel. PNAS 2002 Feb 19; 99(4): 2455–2460
*4)Yoel Melamed, Mordechai E. Kislev, Eli Geffen, Simcha Lev-Yadun, and Naama Goren-Inbar. (2016) The plant component of an Acheulian diet at Gesher Benot Ya‘aqov, Israel. PNAS December 20, 2016. 113 (51) 14674-14679
*5)Israel Hershkovitz, Gerhard W. Weber, Rolf Quam, Mathieu Duval, Rainer Grün, Leslie Kinsley, Avner Ayalo. (2018) The earliest modern humans outside Africa. Science 26 Jan 2018 Vol. 359, Issue 6374, pp. 456-459
*6)Anna Revedin, Biancamaria Aranguren, Roberto Becattini, Laura Longo, Emanuele Marconi, Marta Mariotti Lippi, Natalia Skakun, Andrey Sinitsyn, Elena Spiridonova, and Jiří Svoboda. (2010) Thirty thousand-year-old evidence of plant food processing. PNAS November 2, 2010. 107 (44) 18815-18819
*7)Marta Mariotti Lippi, Bruno Foggi, Biancamaria Aranguren, Annamaria Ronchitelli, and Anna Revedin. (2015) Multistep food plant processing at Grotta Paglicci (Southern Italy) around 32,600 cal B.P. PNAS September 29, 2015. 112 (39) 12075-12080
*8)Fullagar R, Field J. (1997) Pleistocene seed-grinding implements from the Australian arid zone. Antiquity 71, 300–307.
*9)藤井純夫ほか.(2013)西アジア考古学講義ノート. 日本西アジア考古学会
*10)藤本強.(1983)石皿・磨石・石臼・石杵・磨臼. 東京大学文学部考古学研究室研究紀要

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ブタの起源:Origin of domestic pig

ブタの原種がイノシシであることは、よく知られている。ウシの原種のオーロックスや、ウマの原種は絶滅してしまったし、野生スイギュウ、ムフロン、ベゾアールなども絶滅寸前である。ところが、イノシシだけは、現在でもその勢力を維持あるいは拡大している。

かつて、ヨーロッパではイノシシはほぼ絶滅し、日本でも個体数が激減した。しかし、現在、日本やヨーロッパでは、イノシシの数が増加しており、農作物への被害が問題になっている。また、もともと分布していなかった南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドでも、家畜ブタが野生化した野生化ブタ(Feral pig)が大繁殖している。(*1)


イノシシ、野生化ブタ(Feral pig)の分布

オーロックスやウマの原種が生存できなかったのに対して、イノシシだけが再び繁栄できたのには、理由がある。

生物は、環境収容力Kを超えて増加することはできない(ロジスティック方程式)。イノシシの個体数は、おもにイノシシが利用する資源量に左右される。イノシシは、森に生息しており、その食べ物は、植物の地下茎やドングリなどの子実である。ミミズ、ヘビなどの動物も食べるが、多くは植物質である。森の資源に依存するイノシシが増加しているということは、人間が、森の資源利用を放棄して、森から撤退したことを意味している。

なぜ、人間が、森の資源利用を放棄したかといえば、かつて森から得ていたエネルギーの利用をやめて、代わりに石炭・石油の化石エネルギー、あるいは原子力のエネルギーに依存するようになったからである。

イノシシ属(Sus)の分類については議論があるが、おおむね以下の4種が支持されている。

Sus verrucosus(Javan warty pig):スンダイボイノシシ、ジャワ島、マドゥラ島に分布
Sus barbatus(Bearded pig):ヒゲイノシシ、東南アジアに分布
Sus salvanius(Pygmy hog):コビトイノシシ、インド北東部、ブータンに分布
Sus scrofa(Wild boar):イノシシ


Javan warty pig(Author:Cornish, C. J.)

Bearded pig(Author:Rufus46)

Pygmy hog(Author:A. J. T. Johnsingh)

イノシシ(Sus scrofa)は、ユーラシア大陸に広く分布し、十数種の亜種が認められている。また、家畜のブタの学名は、Sus scrofa domesticusと表記するようになっている。


アナトリアのイノシシ(Author:eman)

日本のイノシシ

ヨーロッパのイノシシ(Author:Jerzy Strzelecki)

日本には、ニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)とリュウキュウイノシシ(Sus scrofa riukiuanus)の2つの亜種が生息するが、最近のDNA分析から、石垣島と西表島の集団は、新たな亜種として認められる可能性があるという。(*2)


(source:ゲノム情報に基づくニワトリ・ブタの家禽化・家畜化起源探索と遺伝的分化の解明)

ブタの家畜化についての考古学的な証拠としては、トルコ南東部で10,300年前、中国広西省桂林甑皮岩遺跡では11,000前の出土物の報告がある。

2000年のミトコンドリアDNA分析に基づく報告では、世界の家畜ブタには、ヨーロッパのイノシシに近縁な系統と、アジアのイノシシに近縁な系統が存在している。ヨーロッパのイノシシとアジアのイノシシの分岐は50万年前と推定されており、ブタの家畜化は、ユーラシアの西と東で別々に行われたことを示している。(*3)

2005年に、世界各地の野生のイノシシ属と野生化ブタ(Feral pig)のミトコンドリアDNA解析が報告されている。ただし、標本にコビトイノシシは含まれていない。イノシシ属は、東南アジア、インド、ユーラシア東部、ユーラシア西部の4つのクレード(系統群)に大きく分かれる。図のクレード1内のsvはスンダイボイノシシ(Sus verrucosus)、sbはヒゲイノシシ(Sus barbatus)を指している。D1~D6は、家畜ブタにも存在するハプロタイプが、イノシシにも含まれるクレードである。(*4)


Bayesian (MCMC) consensus tree of 122 Sus mtDNA control region haplotypes rooted by a common warthog (Phacochoerus aethiopicus). A total of 14 clusters (represented by a specific color and corresponding region on the Eurasian map) are contained within four major clades on the tree (1 to 4). Tips associated with the island of Sulawesi represent the native wild boar Sus celebensis. All other tips represent wild Sus scrofa unless indicated by the following two-letter codes: sb, Sus barbatus; sv, Sus verrucosus. D1 to D6 represent suggested centers of domestication. D1 to D3 indicate areas where native wild boar have haplotypes identical to those of domestic pigs from the same region. Additional details are given in fig. S1. (Science. 2005 Mar 11;307(5715):1618-21.)

ユーラシアの西と東でブタの家畜化が行われたが、農耕文化が拡大あるいは伝播する過程で、各地の野生のイノシシが家畜に取り込まれたことを示している。この報告でのなぞの一つは、最初に家畜化が行われた可能性が高いアナトリアのイノシシの系統が、家畜ブタから見つかっていないことである。

2015年にも、ヨーロッパとアジアの600頭以上の家畜ブタとイノシシの遺伝学的な解析が行われている。結果は、ヨーロッパの家畜ブタの起源は、アナトリアの家畜ブタであった。ところが、アナトリアの家畜ブタの大部分は、ヨーロッパのイノシシの系統に属していた。この理由としては、ブタが家畜化された当初から、家畜ブタと野生イノシシとの交雑が続いていたためと考えられている。現在の家畜ブタは、多くの野生系統に由来するモザイクであり、ヨーロッパの品種には、すでに野生型が絶滅した系統も存在するという。(*5)


European wild boars (EUW), European domestic breed (EUD), Asian wild boar (ASW), Asian domestic pigs (ASD)
Example of a parallel sweep in ASD and EUD. (a) CLR values in the PLAG1 region. Dashed blue and red lines represent P-value thresholds of 0.05 and 0.01, respectively. The boxed area indicates the position of the parallel swept region in b. (b) CLR values in the parallel swept region a few thousand basepairs upstream of the PLAG1 region. (c) Genealogy of phased haplotypes (supplementary Note) for the swept region in b. The shaded areas highlight the very short branch lengths that are the result of a selective sweep. The shaded area on the left (Europe) contains 64 haplotypes from EUD (>72% of the total EUD haplotypes) and 2 haplotypes from EUW (<4% of the total EUW haplotypes). The shaded area on the right (Asia) contains 24 haplotypes from ASD (>54% of the total ASD haplotypes) and no ASW haplotypes. (Nature Genetics volume 47, pages 1141–1148)

なお、以前にもふれたが、もともとイノシシが生息していなかったキプロス島に、11,400~11,700年前に、イノシシが生息したことが判明している(*6)。これは、イノシシが、舟で島に持ち込まれたことを示している。このとき、イノシシだけでなく、ムフロン、ベゾアール、オーロックス、ダマジカ、アカシカ、キツネも運ばれていた。

キプロス島の大型の動物が持ち込まれたのは、トルコ南東部でヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタの家畜化が始まる1,500~2,000年も前のことであり、生物的な家畜化が起きる前に、長期にわたって野生動物の管理が行われていたことを意味するが、これについてはのちに検討する。

文献
*1)兵庫県森林動物研究センター. (2016)なぜイノシシは都市に出没するのか?, 兵庫ワイルドライフモノグラフ8号
*2)西堀正英, 山本義雄, 万年英之, 下桐猛. (2016) ゲノム情報に基づくニワトリ・ブタの家禽化・家畜化起源探索と遺伝的分化の解明, 2016年度実績報告書
*3)Giuffra E, Kijas JM, Amarger V, Carlborg O, Jeon JT, Andersson L. (2000) The origin of the domestic pig: independent domestication and subsequent introgression. Genetics. 2000 Apr;154(4):1785-91.
*4)Larson G, Dobney K, Albarella U, Fang M, Matisoo-Smith E, Robins J, Lowden S, Finlayson H, Brand T, Willerslev E, Rowley-Conwy P, Andersson L, Cooper A. (2005) Worldwide Phylogeography of Wild Boar Reveals Multiple Centers of Pig Domestication, Science. 2005 Mar 11;307(5715):1618-21.
*5)Laurent A F Frantz, Joshua G Schraiber, Ole Madsen, Hendrik-Jan Megens, Alex Cagan, Mirte Bosse, Yogesh Paude, Richard P M A Crooijmans, Greger Larson & Martien A M Groenen. (2015) Evidence of long-term gene flow and selection during domestication from analyses of Eurasian wild and domestic pig genomes. Nature Genetics volume 47, pages 1141–1148
*6)Jean-Denis Vigne, Antoine Zazzo, Jean-François Saliège, François Poplin, Jean Guilaine, and Alan Simmons. (2009) Pre-Neolithic wild boar management and introduction to Cyprus more than 11,400 years ago. PNAS September 22, 2009. 106 (38) 16135-16138

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