トウモロコシの起源:Origin of maize

トウモロコシの起源についても、長い研究と論争の歴史がある。トウモロコシの場合は、形が似た野生植物が存在しないために、その起源は大きな謎であった。19世紀には、サン・イレールによるポッドコーン説(1829年)、アスシャーソンのテオシンテ説(1875年)、ドゥ・カンドールのコロンビア起源説(1882年)などが提案されていた。

20世紀以降は、テオシンテ説と3部説の2つが有力とされてきた。

1875年に、アスシャーソンが、トウモロコシの起源にはテオシンテが重要な役割を果たしたという説を提示し、1931年にニコライ・ヴァヴィロフ、1932年にジョージ・ビードルらもテオシンテ起源説を唱えた。

テオシンテは、現在のメキシコでもトウモロコシ畑に雑草として生息しており、両者の自然雑種が見られる(写真)。トウモロコシの染色体数は2n=20であり、テオシンテ(Zea mays L. subsp. mexicana)の染色体数も2n=20である。両者は容易に交雑して、その種子の稔性も大きい。形態が大きく異なることをのぞけば、遺伝的には、トウモロコシとテオシンテは同種の植物であることを示している。


teosinte (top), maize-teosinte hybrid (middle), maize (bottom)(Author:John Doebley)

一方、3部説は、1938年にマンゲルスドルフらが唱えた説で、以下のようなものであった。a)トウモロコシの祖先は、未発見あるいはすでに絶滅した野生トウモロコシに由来する。b)テオシンテは、トウモロコシとトリプサクム属(Tripsacum)の交雑種である。c)野生型に由来する初期の栽培型トウモロコシと多年生テオシンテとが交雑し、現在の栽培型が成立した。

テオシンテ説と3部説のあいだで激しい論争が続けられてきたが、2000年ごろまでには、遺伝的な解析によって、テオシンテ説が広く支持されるようになった。

イネ科(Poaceae)テオシンテ属(Zea)の植物としては、数種が知られており、栽培トウモロコシはZea mays L.に含まれる。

Z. diploperennis H. H. Iltis et al.
英名:diploperennial teosinte
分布:メキシコ(Jalisco, Nayarit)

Z. luxurians (Durieu & Asch.) R. M. Bird
英名:Florida teosinte, Guatemalan teosinte
分布:メキシコ(Oaxaca)、グアテマラ、 ホンジュラス

Z. mays L.
英名:maize, Indian corn
分布:メキシコ、グアテマラ

Z. nicaraguensis H. H. Iltis & B. F. Benz
分布:ニカラグア(Chinandega)

Z. perennis (Hitchc.) Reeves & Mangelsd.
英名:perennial teosinte
分布:メキシコ(Jalisco, Michoacan)

Z. vespertilio Gómez-Laur.
分布:コスタリカ(Guanacaste)


Z. diploperennis H. H. Iltis et al.(Author:Jeffdelonge)

Z. mays L.にはいくつかの亜種が認められている。

Z. mays L. subsp. huehuetenangensis (H. H. Iltis & Doebley) Doebley
英名:Hhuehuetenango teosinte, San Antonio Huista teosinte
分布:グアテマラ(Huehuetenango)
グアテマラ西部にのみ分布

Z. mays L. subsp. mexicana (Schrad.) H. H. Iltis
英名:Central Plateau teosinte, Chalco teosinte, Durango teosinte, Mexican teosinte、nobogame teosinte
分布:メキシコ(Chihuahua, DurangoGuanajuato, Jalisco , Michoacan)
メキシコの北部および中央部の、標高1700~2600mの高地

Z. mays L. subsp. parviglumis H. H. Iltis & Doebley
英名:Balsas teosinte, Guerrero teosinte
分布:メキシコ(Guerrero, Jalisco, Michoacan, Oaxaca)
メキシコの標高400~1800mの地域に分布。mexicana に比べ、低い標高で温暖な地域に生育している。分げつが多く、20~100本になる。栽培トウモロコシの祖先野生種。

Z. mays L. subsp. mays
英名:corn, dent corn, field corn, flint corn, maize, pod corn, popcorn, sweet corn
栽培トウモロコシ


Z. mays L. subsp. parviglumis(Author:Mbhufford)

2002年に松岡由浩氏らは、トウモロコシ在来品種193系統とテオシンテ71系統を用いて、分子系統樹を作成した。その結果、すべての栽培トウモロコシは、メキシコ南部のBalsas川中流域に自生するZ. mays L. subsp. parviglumisから生じたことが判明した。栽培化(domestication)は1回だけであり、比較的標高が低いBalsas川中流域から、メキシコ高地に伝播し、そこで急速に多様化して、北米や南米に拡散したことが示唆された。また、Z. mays L. subsp. parviglumisと栽培トウモロコシの分岐年代は、約9,000年前と推定されている。(*2)


Geographic distribution of maize and teosinte used in this study. Core Andean maize characterized by hand-grenade-shaped ears (22 samples), other South American maize (47), Guatemalan and southern Mexican maize (31), Caribbean maize (6), lowland western and northern Mexican maize (15), highland Mexican maize (20), eastern and central U.S. maize (24), southwestern U.S. maize (22), northern Mexican maize (6), ssp. parviglumis (34), and ssp. mexicana (33). Inset shows the distribution of the 34 populations of ssp. parviglumis in southern Mexico with the populations that are basal to maize in Fig. 2 (represented as asterisks). The blue line is the Balsas River and its major tributaries.(source:PNAS April 30, 2002. 99 (9) 6080-6084)


Phylogenies of maize and teosinte rooted with ssp. huehuetenangensis based on 99 microsatellites. Dashed gray line circumscribes the monophyletic maize lineage. Asterisks identify those populations of ssp. parviglumis basal to maize, all of which are from the central Balsas River drainage. (a) Individual plant tree based on 193 maize and 71 teosinte. (b) Tree based on 95 ecogeographically defined groups. The numbers on the branches indicate the number of times a clade appeared among 1,000 bootstrap samples. Only bootstrap values greater than 900 are shown. The arrow indicates the position of Oaxacan highland maize that is basal to all of the other maize. (source:PNAS April 30, 2002. 99 (9) 6080-6084)

考古学では、従来、もっとも古いトウモロコシの証拠は、メキシコのオアハカのギラ・ナキツ洞窟から出土した穂軸であった。これは、14Cによる年代測定で、6,250年前とされている。また、プエブラのテワカン盆地のサン・マルコス洞窟から見つかった穂軸は、5,600年前と推定されている。

2009年の報告では、Balsas川中流域のXihuatoxtla洞窟から出土したZ. mays L.のデンプンとプラントオパールの年代は、8,700年前であることが示されている(*3)。洞窟の周辺は、山頂が1,500~1,800m、谷底では標高700~900mの渓谷地帯である。年間降水量は1,000~1,400mmで、6~10月の雨期に90%が降る。気候区分は、サバナ気候あるいは温暖冬季少雨気候である。植生は熱帯性落葉樹林で、ピテケロビウム(マメ科)、プロソピス(マメ科)、ロイカエナ(マメ科)、スポンディア(ウルシ科)、ヤシ、ヤマノイモなどが多い。洞窟から出土した種子や磨石(すりいし)に付着したデンプンの分析から、8,990~8,610年前に、Z. mays L.とカボチャがすでに栽培されていたと考えられている。(*4)


The study area in northern Guerrero.(source:PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018)


A view of the enormous boulder that formed the Xihuatoxtla Shelter. (source:PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018)


Handstones and milling stone bases from the preceramic layers in the Xihuatoxtla Shelter. (A) Small handstone (318e) from layer E that yielded 80 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 29 squash phytoliths. (B) Complete milling stone base (316d) from layer D that yielded 68 maize starch grains as well as 4 yam (Dioscorea sp.), 3 legume, and 1 Marantaceae starch grains. (C) Handstone fragment (318d) from layer E that yielded 22 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 28 squash phytoliths. (D) Handstone (322c) from layer E that yielded 11 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 7 squash phytoliths. (E) Small handstone (365a) from layer C that yielded 24 maize starch grains and maize cob phytoliths. (F) Handstone (319d) from layer E that yielded 8 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 37 squash phytoliths. (G) Slab milling stone fragment (316c) from layer D that yielded 2 maize starch grains, maize cob phytoliths, and 29 squash phytoliths. (source:PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018)


Af(熱帯雨林気候)、Am(熱帯季節風気候)、Aw(サバナ気候)、BWh,BWk(砂漠気候)、BSh,Bsk(ステップ気候)、Cwa,Cwb(温暖冬季少雨気候)

ただ、いろいろな論文を読んでもよくわからないのは、テオシンテの種子拡散者である。トウモロコシは、登熟しても穂軸から種子がはずれない(非脱粒性)が、テオシンテの種子は登熟して乾燥すると、種子がバラバラにはずれて地面に落ちる(脱粒性)。また、トウモロコシの種子の皮は薄いが、テオシンテの種子は堅い皮で包まれている。

中米や南米の草食動物としては、ラクダ科のアルパカとリャマがいる。しかし、テオシンテの種子には野毛がないので、アルパカやリャマの毛に付着して種子を拡散するわけではない。テオシンテがアルパカやリャマに種子を拡散してもらうには、種子を食べられるしかないので、テオシンテの種子は、登熟したあともしばらくは穂軸に着いており、完全に乾燥してから脱粒する性質なのかもしれない。


野生のアルパカ(Author:Franz Xaver)

アルパカやリャマに食べられなかったテオシンテの種子は、地面に落ちるので、これを食べるのは、鳥や小型の動物である。

鳥のなかで思い浮かぶのは、リョコウバト(passenger pigeon)である。リョコウバトは集団で渡りを行うハトで、夏期は北米の落葉樹林帯で営巣、繁殖し、冬期にはメキシコ周辺で生活していた。北米ではもっとも数が多かった鳥類で、かつては30~50億匹が生息していたと見積もられている。

リョコウバトはその肉が美味であったため、アメリカ先住民が狩猟の対象にしていたが、19世紀になって大乱獲が始まった。食用、飼料、羽根布団の材料として、大量に捕獲され、個体数が激減した。1914年に、動物園で保護されていた最後の1羽が死亡し、リョコウバトは完全に絶滅してしまった。

リョコウバトは、メキシコが乾期の冬の時期に、メキシコに大量に渡ってきて生活していたのであるから、地面に散らばったテオシンテの種子を食べて、拡散していたのではないだろうか。


Martha, the last passenger pigeon, mounted in a display case in the National Museum of Natural History(Author:Ph0705)

リョコウバトのような例はよく見られる。野生のコムギやオオムギはオーロックスやムフロンなどの草食動物と共生関係にあったが、ムギが栽培化されると、間もなくオーロックスやムフロンもウシやヒツジへ家畜化され、その後は植物も動物も野生型は衰退したり絶滅したりしてしまった。これは、イネとスイギュウの関係も同じである。

栽培化(domestication)とは、ヒトが、栽培化前の野生植物と共生していた野生動物の地位を奪うこととも言える。

小型の哺乳動物としては、アメリカ大陸には、もともと有袋類が多く生息していた。有袋類は有胎盤類より早く地球上に拡散し、その後に有胎盤類との競争に敗れてほとんどが絶滅した。

現在でもアメリカ大陸に生き残っている有袋類は、オポッサム目とケノレステス目である。オポッサム科は70種以上が生存しているが、ケノレステス目は、1科3属7種しか生き残っていない。ケノレステスは小型の有袋類で、有胎盤類のネズミによく似ている。かつては、多くのケノレステス目の小動物が生息し、食料が少なくなる乾期に、テオシンテの種子を貯蔵して生き延びていたのかもしれない。


Shrew opossum,Dusky caenolestid (Caenolestes fuliginosus)(1863)

文献
*1)山田実、トウモロコシの起源と特性、(1986)農業技術大系作物編第7巻、農文協
*2)Matsuoka, Y., Y. Vigouroux, M. M. Goodman, J. Sanchez G., E. Buckler, J. Doebley.(2002)A single domestication for maize shown by multilocus microsatellite genotyping. PNAS April 30, 2002. 99 (9) 6080-6084
*3)Dolores R. Piperno, Anthony J. Ranere, Irene Holst, Jose Iriarte and Ruth Dickau,(2009)Starch grain and phytolith evidence for early ninth millennium B.P. maize from the Central Balsas River Valley, Mexico, PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5019-5024;
*4)Anthony J. Ranere, Dolores R. Piperno, Irene Holst, Ruth Dickau and José Iriarte,(2009)The cultural and chronological context of early Holocene maize and squash domestication in the Central Balsas River Valley, Mexico, PNAS March 31, 2009. 106 (13) 5014-5018
*5)Joost van Heerwaarden, John Doebley, William H. Briggs, Jeffrey C. Glaubitz, Major M. Goodman, Jose de Jesus Sanchez Gonzalez and Jeffrey Ross-Ibarra.(2011)Genetic signals of origin, spread, and introgression in a large sample of maize landraces
PNAS January 18, 2011. 108 (3) 1088-1092
*6)松岡由浩.(2007)栽培植物の分子系統学.蛋白質 核酸 酵素 Vol.52 No.15
*7)福永健二.(2009)植物のドメスティケーション:トウモロコシの起源.国立民族学博物館調査報告84 137-151

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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