イネの起源1:Origin of Oryza sativa

1928年に、農商務省農事試験場の加藤茂苞(1868-1949)は、形態や交配親和性の違いから、イネをジャポニカとインディカの2つの型に分類することを提案した。1977年に、農学者の渡部忠世氏(1924-)は、東南アジアや南アジアの古代遺跡のレンガに残された籾の形を調べ、稲作の起源はアッサムから雲南にかけての地域という説を唱えた。

1973~78年に、浙江省で河姆渡遺跡が発掘され、大量のイネの籾、ヒョウタン、ドングリ、ヒシ、ナツメ、オニバス、ブタ、イヌなどが出土した。河姆渡遺跡は、長江下流域では、7,000~6,500年前に、大規模な稲作を基盤とした農耕文化が存在したことを示していた。


河姆渡遺跡(Author:Jiong Sheng)

その後、長江流域で新石器時代の遺跡が次々と発見された。長江中流の湖南省玉蟾岩遺跡では、12,000年前の層からいくつかのイネの種子が出土したと報じられられた(ただし、イネの年代は未確定)。同じ湖南省の彭頭山遺跡では、9,000年前のイネの籾殻などが出土した。長江下流の江蘇省龍虬荘遺跡では、7,000~5,200年前の1,800年ものあいだ、継続して稲作がおこなわれていたことが報告された。さらに、准河流域の河南省覃糊遺跡からも、さまざまな形をしたイネの種子が出土し、その年代は8,000年前とされている。

近年では、長江下流の浙江省上山遺跡(Shangshan)から、大量の陶片が出土し、陶片の表面やこね土には大量の籾殻が混じっていた。陶片中のイネのプラントオパールの14C分析によって、9,400年前にイネが存在していたことが確認された(*1)


上山遺跡(source:PNAS June 20, 2017. 114 (25) 6486-6491)

中国の古代文明は、黄河文明によって成立したということが、歴史学の常識であった。黄河文明は、アワ・キビの栽培を中心とした農耕文化から始まっている。しかし、長江流域には、稲作の農耕文化を基盤とする「長江文明」が存在したことがあきらかになった。

農学や遺伝学の研究者たちのあいだでは、稲作のアッサム-雲南起源説、長江流域説、東南アジア説など、いろいろな意見が存在していた。ジャポニカとインディカの起源についても、1元説と2元説があり、激しい論争が続けられてきた。長江流域で、きわめて古い稲作文化の証拠が次々と見つかったことで、稲作の長江起源説が支持されるようになっていた。

2012年に、国立遺伝学研究所の倉田のり氏らは、世界各地から収集された栽培イネ(O. sativa)1,083品種と、野生イネ(O. rufipogon)446系統の遺伝子の詳細な解析によって、栽培イネの起源地は、中国の珠江中流域であると発表した。(*2)

イネのゲノム解読を行い、次に、栽培化の過程で選択的一掃が生じた55箇所のゲノム領域を特定した。これらの領域には、脱粒性、草型、粒幅など、栽培化(domestication)にともなう特徴的な遺伝子が存在していた。選択的一掃(selective sweep)とは、強い選択圧によって特定の変異が集団内に広まることで、その周辺領域の多様性が低下することである。


a, Neighbour-joining tree of 446 O. rufipogon accessions, which was calculated from ∼5 million SNPs, identifies the three groups of Or-I (red), Or-II (grey) and Or-III (blue). b, Geographic origins of wild rice accessions. c, The level of genetic differentiation (FST) in O. rufipogon population around the DPL2 gene that underlies indica–japonica hybrid incompatibility in rice. d, Regional Manhattan plots of GWAS for tiller angle in O. rufipogon population identify a known gene, PROG1, using a compressed mixed linear model. The genome-wide significance threshold (1 × 10−6) and the position of the peak SNP are indicated by a horizontal dash-dot line and a vertical red line, respectively.(source:Nature volume 490, pages 497–501)


a, Phylogenetic tree of the full population (446 O. rufipogon accessions and 1,083 O. sativa varieties) calculated from ∼8 million SNPs in O. rufipogon and O. sativa. The double-layer rings indicate O. rufipogon (outer ring: Or-I, Or-II and Or-III are coloured in red, grey and blue, respectively) and O. sativa (inner ring: indica and japonica subspecies are in pink and sky blue, respectively). b, Illustration of genetic diversity and population differentiation in O. rufipogon and O. sativa. The size of the circles represents the level of genetic diversity (π) of the groups, and the FST values between the groups are indicated. ind, indica; jap, japonica. c, The spectrum of allele frequencies at the causal polymorphisms of Ghd7, DPL2 and GS3. (source:Nature volume 490, pages 497–501)


a, Phylogenetic tree of 446 O. rufipogon accessions and 1,083 O. sativa varieties calculated from SNPs in the overall regions of the 55 major domestication sweeps. b, Geographic locations of 62 O. rufipogon accessions, whose phylogenetic positions during domestication are indicated. Colour index represents the average of the genetic distance of O. rufipogon accessions to all cultivated rice accessions. Two major rivers in southern China are labelled in grey in the map. c, The average distance of O. rufipogon accessions from different countries to all cultivars. The distance was estimated by simple matching distance of SNPs around the Bh4 locus or all SNPs within the 55 domestication sweeps. d, The average distance of O. rufipogon accessions from different provinces in southern China to all cultivars. e, Schematics of the origin of cultivated rice. The aus and aromatic rice are minor groups of rice accessions with small geographic distributions.(source:Nature volume 490, pages 497–501)

集められた野生イネ(O. rufipogon)は、系統樹の解析によって、3つのサブグループOr-I、Or-II、Or-IIIに分類された。サブグループの遺伝的な系統と、採取地の地理的な関係は相関していた。イネの全ゲノムと栽培化にかかわるゲノム領域の解析によって、栽培イネと近縁なのは、中国の野生イネであり、さらに広西チワン族自治区(Guangxi)の系統がもっとも近縁であった。

イネの栽培化は、まず、中国南方に分布するOr-IIIaの野生イネからジャポニカが生まれ、次にそのジャポニカと、東南アジアあるいは南アジアのOr-Iの野生イネとの交配によってインディカが誕生したとするのがもっとも合理的であるとしている。

倉田氏らの報告は、従来はあまりなかった説であり、さらに、珠江中流域では、栽培起源地であることを証明する考古学的な証拠が確認されていない。しかし、私には、この報告はまったく意外ではなく、むしろ予想していたとおりの結果であった・・・。(つづく)

文献
*1)Xinxin Zuo, Houyuan Lu, Leping Jiang, Jianping Zhang, Xiaoyan Yang, Xiujia Huan, Keyang He, Can Wang and Naiqin Wu(2017)Dating rice remains through phytolith carbon-14 study reveals domestication at the beginning of the Holocene, PNAS June 20, 2017. 114 (25) 6486-6491
*2)Xuehui Huang, Nori Kurata[…]Bin Han,(2012)A map of rice genome variation reveals the origin of cultivated rice,Nature volume 490, pages 497–501

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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