栽培オオムギの起源:Origin of domestic barley

イネ科(Poaceae)オオムギ属(Hordeum)植物は、30種ほどが知られており、2倍体、4倍体、6倍体がある。コムギとは異なり、オオムギ属のなかで栽培化されたのは、栽培オオムギの1種のみである。

野生オオムギ
英名:wild barley
学名:Hordeum vulgare L. subsp. spontaneum (K. Koch) Thell.

栽培オオムギ
英名:barley
学名:Hordeum vulgare L. subsp. vulgare

ただ、栽培オオムギは、品種の数が膨大にあり、世界各地の研究施設には、30~50万種類のオオムギが保存されているという(*1)。栽培オオムギは、穂の形態の違いから、二条型と六条型に分かれる。二条型は、小穂に1個の種子が稔実し、六条型は3個稔る。このため、穂を上から見ると、二条型では種子が2列に並び、六条型では6列に並ぶ。


二条型と六条型(Author:Xianmin Chang)

野生オオムギは二条型であり、野生オオムギから、二条型の栽培オオムギが選択され、その後に、二条型から六条型が生じたとされている。欧米では二条型、アジアでは六条型の栽培が多い。種子の数が少ない二条型は、粒が大きくなるため、ビール、ウイスキーなどの醸造用や飼料用で用いられる。六条型は食用と飼料に利用される。

他の形態的な違いとして、皮麦と裸麦の区別がある。皮麦は、種子を包む穀皮が種子と固着しており、裸麦は固着していない。チベットなどアジアではオオムギを食用で利用するため、裸麦の栽培が多い。日本では六条皮麦はおもに東日本で栽培され、裸麦は西日本で多く栽培される。

二条型 皮麦 「二条大麦」「ビール麦」と呼ばれる。醸造、飼料に利用
裸麦 栽培はまれ
六条型 皮麦 「六条大麦」と呼ばれる。麦飯、押し麦、麦茶に利用
裸麦 「裸麦」と呼ばれる。押し麦、麦飯、麦味噌に利用

大原農業研究所(現在の岡山大学資源植物科学研究所)の高橋隆平氏(1910-1999)が、栽培オオムギは、西域型(W型)と東亜型(E型)に大別できることを見出したことは書いた(2018.2.13ブログ)。高橋氏らは、オオムギの脱粒性には、2つの遺伝子が関与しており、2つが同時に働くと脱粒性(野生型)となり、どちらか一方が欠けると非脱粒性(栽培型)になることをあきらかにした。

脱粒に関与する2つの遺伝子は、Btr1Btr2と名づけられている。下図のように、野生オオムギは、Btr1、Btr2の両方が機能することで、小穂がバラバラになって落ちる。一方、栽培オオムギの対立遺伝子は、野生型と遺伝的に異なるbtr1、btr2であると考えられている。W型では、遺伝子の組み合わせがbtr1-Btr2となり、E型では、Btr1-btr2の組み合わせになっている。(*1)


(参考:麦の自然史)

前回のブログで、「野生コムギの遺伝子プールでは、脱粒遺伝子と非脱粒遺伝子が混在している状態が合理的だ」と書いた。オオムギの脱粒性は、Btr1、Btr2の2つの遺伝子がそろわないと機能しないのであるから、コムギよりも、遺伝子プールの中に、非脱粒性の形質の割合が高くなることが予想される。

さらに、野生オオムギでは、小穂が穂の先端から順番に脱落するが、最下段の小穂は脱落せずにとどまることが知られている。自然の状態の野生オオムギの集団では、非脱粒の小穂の割合は、全体の10%ほどとされている。

オオムギの古い考古学的な記録としては、ヨルダン渓谷の新石器時代初期(PPNA期)のGilgal遺跡がある。ここでは、26万粒のオオムギ種子、12万粒のエンバク種子、イチジクの種子、ドングリが出土しており、その年代は11,400年前とされている。出土したオオムギは、野生のオオムギであり、Gilgal遺跡は“predomestication cultivation”(前栽培化栽培)の段階と考えられている。

丹野研一氏とGeorge Willcox氏は、もっとも早い栽培オオムギの証拠が確認できるのは、南レヴァントのTell Aswadであると報告している(*2)。Tell Aswadは、PPNB期初期の遺跡で、その年代は10,500年前である。Tell Aswadで確認された非脱粒の小穂の割合は30%以上であり、すでに栽培オオムギが出現していたことが予想される。

Tell Aswadに近いTell Ramad(9,000年前)では、非脱粒の小穂のほうが脱粒の小穂より多くなっており、栽培化がさらに進んだことがうかがえる。

さらに、北方のSekher al-Aheimar(9,300年前)やSalat Cami (8,300年前)では、非脱粒の小穂(栽培型)しか存在しておらず、この地域は、野生オオムギの自然分布の外であった。


Percentages of barley spikelets from sites in the study. Domestic types at Aswad are low, but a later increase can be seen at the nearby site of Ramad. Further north at Sekher al-Aheimar and Salat Cami Yanu, domestic types are dominant suggesting that domestication proceeded more quickly in this area, possibly because the sites were situated outside the natural distribution area of wild barley(source:Veget Hist Archaeobot (2012) 21:107–115)


Locations of major sites with dates. Sites with predomestic cultivation are marked with. Dates given in bold italic indicate early finds of domestic spikelets.(source:Veget Hist Archaeobot (2012) 21:107–115)

2015年に、小松田隆夫氏、佐藤和広氏らは、ドイツなど6か国の研究機関と共同で、栽培オオムギと野生オオムギの遺伝的な解析を行った(*3)。また、このときに、オオムギでは、小穂に離層が形成されず、軸の節で細胞壁が極端に薄くもろくなり、細胞壁が砕けて脱落することをあきらかにした。オオムギのBtr1、Btr2遺伝子は、この細胞壁を薄くもろくする機作に関与していると予想されている。

分析では、W型の栽培オオムギにもっとも近縁なのは、南レヴァントと中央アジアの野生オオムギであった。最古の栽培オオムギがTell Aswad(10,500年前)で確認されていることから、W型の栽培オオムギの起源は南レヴァントとしている。

一方、E型にもっとも近縁なのは、北西シリアとトルコ南東部の野生オオムギであった。北西シリアに近い考古学的な記録としては、9,750年前のTell Abu Hureyraが知られている(Hillman et al., 1989)。また、トルコ南東部の最古の栽培オオムギは、Sekher al-Aheimar(9,300年前)やSalat Cami (8,300年前)のものである。

遺伝子の解析と考古学的な証拠から、約1万年前に南レヴァントでW型の栽培オオムギが出現し、その後、北レヴァント(北西シリア~南東トルコ)でE型が出現したと結論づけている。


Cultivated Barley Originated from South and North Levant Sites of domestication. The GIS-based map of the Fertile Crescent indicates the collection sites of the wild barley accessions harboring the proposed ancestral btr1 (in purple, located in the southern portion of the Levant and Central Asia) and btr2 (in blue, located in the northern portion of the Levant) alleles. The other wild barley analyzed are indicated with gray dots. Black lines indicate the Levant (left) and Central Asia (right).(source:Evolution of the Grain Dispersal System in Barley. Cell, 162(3), 527-539)

多くの考古学が、PPNA期の初期に、レヴァントの北から南までの広い範囲で、“predomestication cultivation”(前栽培化栽培)が行われていたと考えている。そして、つづくPPNB期の初期に、レヴァントの各地で、栽培植物が出現している。

文献
*1)佐藤洋一郎・加藤鎌司編著(2010). 麦の自然史. 北海道大学出版会
*2)Ken-ichi Tanno & George Willcox,(2012). Distinguishing wild and domestic wheat and barley spikelets from early Holocene sites in the Near East, Veget Hist Archaeobot 21:107–115
*3)Evolution of the Grain Dispersal System in Barley. Cell, 162(3), 527-539, 2015
http://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(15)00839-9

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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