栽培化(domestication)についての最近の研究(総論)

2011年に、アメリカ国立進化総合センター(The United States National Evolutionary Synthesis Center)において、遺伝学、古生物学、地理学、考古学の分野で、栽培化・家畜化(domestication)について研究する25人の研究者たちが議論している。(*1)

食料生産のための植物の栽培化と動物の家畜化は、最終氷期から現在の間氷期へ移行中の12,000~11,000年前に、全世界で始まった。少なくとも11の独立した発祥中心地が確認されたが、さらに数か所の発祥地が提案された。栽培化の年代は、完新世初期(12,000〜9,000B.P.)と完新世中期(7,000〜4,000B.P.)に大きく分けられる。ただし、イヌだけは3万年以前に家畜化された。


少なくとも1つの栽培植物、あるいは家畜が生じた発祥中心地。黒線で囲まれたエリアは独立した栽培化の中心地で、矢印は拡散を示す。緑は更新世後期~完新世初期(12,000-8,200B.P.)、紫は完新世中期(8,200-4,200B.P.)に栽培化が行われたエリア。茶色は、栽培化が生物地学的に推測されるエリア(source:PNAS, 2014 Apr 29; 111(17): 6139–6146)


栽培植物と家畜が生じた時期(単位:1000年)。灰色は栽培化と家畜化の過程の時期、青色はプレドメスティケーション(前栽培化・家畜化)、赤色は、栽培化または家畜化による形態的変化が確認された以降(source:PNAS, 2014 Apr 29; 111(17): 6139–6146)


(source:PNAS, 2014 Apr 29; 111(17): 6139–6146)を元に改変

20万年前にホモ・サピエンスが登場して以来、95%の期間は、狩猟と採集の生活を続けてきた。なぜ人類が、狩猟採集の戦略を捨てて、農耕社会への移行したのかについては、激しい議論が続けられている。気候変動、人口圧力、競争の激化など、多くの説が唱えられているが、大多数の考古学者を満足させられる回答は得られていない。

栽培化された植物の特徴は、種子拡散能力の低下、毒性やトゲなど防御機能の低下、分岐の減少、種子の減少、浅い種子休眠、種子の大型化、花序の大型化、斉一な発芽などである。また、家畜化された動物では、小型化、従順、毛色の変化、耳が垂れる、幼い顔、などの変化がみられる。

コムギ、オオムギでは、脱粒性の野生種から非脱粒性の栽培種に置き換わるまでに、2,000〜4,000年を要したことがわかっている。

栽培化に長期の時間がかかったということは、“predomestication cultivation”(PDC:前栽培化栽培)と呼ばれる期間が存在したことを意味する。PDCは、西アジアや中国に栽培植物が登場する以前に、何世紀にもわたって続いていたと考えられる。

植物や動物の栽培化は、個体の「選択」によって行われる。選択には「無意識の選択」と「意識的な選択」があり、これは、ダーウィンが予想したとおりの状況だったと考えられる。ダーウィンは、『種の起源』で、次のように書いている。(*2)

At the present time, eminent breeders try by methodical selection, with a distinct object in view, to make a new strain or sub-breed, superior to anything of the kind in the country. But, for our purpose, a form of selection, which may be called unconscious, and which results from every one trying to possess and breed from the best individual animals, is more important. Thus, a man who intends keeping pointers naturally tries to get as good dogs as he can, and afterwards breeds from his own best dogs, but he has no wish or expectation of permanently altering the breed. Nevertheless we may infer that this process, continued during centuries, would improve and modify any breed, in the same way as Bakewell, Collins, &c., by this very same process, only carried on more methodically, did greatly modify, even during their lifetimes, the forms and qualities of their cattle.Slow and insensible changes of this kind could never be recognised unless actual measurements or careful drawings of the breeds in question have been made long ago, which may serve for comparison.(Chapter I)

「現在、著名な育種家たちは、国内にあるどの種類よりも優れた新たな系統または亜品種を作るために、はっきりした目的を視野に入れて、系統的な選択を試みている。しかし、我々の目的を果たす上では、『無意識』と呼べる選択の形態、すなわち、すべての人が、最高の個体の動物を所有して、それを繁殖させようとした結果のほうが、より重要である。ポインターを飼い続けることを望む人は、自然と、できるだけ良い犬を得ようとし、その後、彼が所有する最善の犬から繁殖する。しかし、彼は、その種をどんどん変異させることを、望みも期待もしていない。それにもかかわらず、何世紀ものあいだ続けられたプロセスは、あらゆる品種を改善し変異させるであろう。それは、ベルクウィルやコリンズなどの育種家が、彼らの生存期間中に、おなじプロセスをより体系的に実施することで、ウシの形態と品質を大きく変えたのと同じである。このような、ゆっくりで、感知できない変異は、変化を比較できるような品種のじっさいの測定や、注意深い描画がずっと前になされていない限り、決して認識することができない。」

例えば、栽培ムギや栽培イネの非脱粒性は、穂首や茎をナイフで刈り取るとう収穫方法を続けた結果、非脱粒性の個体が無意識に選択され、広まった。

なお、日本で栽培化された作物として報告されているのは、アズキ(Vigna angularis)、ダイズ(Glycine max)、エゴマ(Perilla frutescens)、ゴボウ(Arctium lappa)である。ダイズは、中国とは別々に栽培化されたという説をあげている。

個人的に興味深いのは、報告では栽培化(野生種から栽培種への変化)について、遺伝学の立場から詳細に論じているのに対して、農耕文化そのものや農耕文化の「伝播」については、まったく触れていないことである。そのため、発祥中心地どうしの関係性がよくわからない。ベルウッドがためらう理由(2017.12.3ブログ)を、目のあたりにするようである。

文献
*1)Current perspectives and the future of domestication studies. PNAS 2014 April, 111 (17) 6139-6146.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24757054
*2)Charles Darwin, The Origin of Species, The sixth edition, 1872

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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