古代メソポタミアの徳政令:Debt cancellation in Mesopotamia

貨幣の供給(2017.10.20ブログ)の補足

オリエント学の前川和也氏は、以下のような興味深い指摘をしている。(*1)

古代メソポタミアの著名な法典としては、ウル・ナンム法典(B.C.2050)、リピト・イシュタル法典(B.C.1934-1924)、ハムラビ法典(B.C.1754)、エシュヌンナ法典(B.C.1930)などがある。

これらの法典に共通するのは、「正義」と「自由」についての記述であるという。

ウル・ナンム(B.C.2047-2030)は、メソポタミア南部のウル第3王朝の初代の王で、彼が制定した法典は、発見されている世界最古の法典である。

…after An and Enlil had turned over the Kingship of Ur to Nanna, at that time did Ur-Nammu, son born of Ninsun, for his beloved mother who bore him, in accordance with his principles of equity and truth… Then did Ur-Nammu the mighty warrior, king of Ur, king of Sumer and Akkad, by the might of Nanna, lord of the city, and in accordance with the true word of Utu, establish equity in the land; he banished malediction, violence and strife,…(*2)

「・・・アンとエンリルがウルの王をナンナに向かわせた後、そのとき、ニンサンの息子であるウル・ナンムが、彼の愛した母親のために、彼の平等と真実の原則に従って・・・それから、ウルの王、シュメルとアッカドの王のウル・ナンムは、都市の主であるナンナによって、そして、ウトゥの真実の言葉に従って、国土に平等を確立した。彼は、虐待、暴力、紛争を追放した···」


Ur Nammu code Istanbul(Author:oncenawhile)

リピト・イシュタル(在位:B.C.1934-1924)は、古代メソポタミア、イシン第1王朝の第5代王であり、リピト・イシュタル法典の前文には次のような文章が書かれていた。

Eridu, the suitable lord of Erech, [king] of I[sin], [kin]g of Sum[er and Akkad], who am f[it] for the heart of Inanna, [estab]lished [jus]tice in [Su]mer and Akkad in accordance with the word of Enlil. ・・・・Verily, in those [days] I procured the [fre]edom of the [so]ns and daughters of [Nippur], the [so]ns and daughters of Ur, the sons and daughters of [I]sin, the [so]ns and daughters of [Sum]er and Akkad upon whom….slaveship…..had been imposed.(*3)

「イナンナの心に合った、シュメルとアッカドの王、イシンの王、ウルクの適切な領主であるエリドゥは、エンリルの言葉に従ってシュメルとアッカドに正義を確立した。···本当に、そのとき、私は、奴隷を課せられていた、ニップルの息子と娘たち、ウルの息子と娘たち、イシンの息子と娘たち、シュメルとアッカドの息子と娘たちを、自由の身にした。」


The Code of Lipit-Ishtar(Author:Francis Rue Steele, 1915-2004)

ハムラビ(B.C.1810-1750)は、バビロン第1王朝の第6代の王であり、エラム、ラルサ、エシュヌンナ、マリなどの都市国家を征服してメソポタミア全域を支配した。ハムラビ法典は、ハムラビが王に即位する際の所信表明という説がある。

—at that time, Anu and Bel called me, Hammurabi, the exalted prince, the worshiper of the gods, to cause justice to prevail in the land, to destroy the wicked and the evil, to prevent the strong from oppressing the weak, to go forth like the Sun over the Black Head Race, to enlighten the land and to further the welfare of the people….(*4)

「・・そのとき、アヌとエンリルは、私を、ハムラビ、高貴な王子、神の崇拝者と呼んだ。正義が国土に生じるために、悪を滅ぼすために、強者が弱者を圧迫するのを防ぐために、黒い頭の種族の上の太陽が前進するために、国土を教化するために、人々の福祉をさらに向上させるために。・・」


Code de Hammurabi

ハムラビから4代あとのアミツァドゥカ(Ammi-Saduqa:B.C.1646-1626)の勅令が発見されており、「王が国土に正義を確立したときに聞くことを命じられた法の粘土板」とある。そして、2条、3条、4条、20条には、これまでの債権を無効にする命令があるという。アミツァドゥカなど、古バビロニアの王たちは、治世のはじめに、まず「自由」と「正義」を確立し、同時に徳政令を公布していたらしい。

すなわち、「自由と正義の確立」とは、具体的には「債務帳消し」のことを意味している。

Whoever has given silver or barley to an Akkadian or Amorite as an interest-bearing loan, or to gain a return (ana melqetim), and had a written document (lit. a tablet) executed, because the king has established justice in the land (mesaram sakanum), his document is voided (lit. his tablet is broken). He may not collect the barley or silver on the basis of this document. (*5)

「利子付貸付として、あるいは、返済を得るために、銀貨や大麦を、アッカド人やアモリ人に与え、そして、書かれた文書を作成した者は、王が国土に正義を確立したので、彼の文書は無効になる。彼は、その文書に基づいて大麦または銀を集めることはできない。」

Venus_Tablet_of_Ammisaduqa
Venus tablet of Ammisaduqa

このような徳政令は、すでに紀元前24世紀のラガシュ都市国家に見られ、支配者であったエンメテナやウルイニムギナは、債務奴隷を「母のもとにもどし」、債務から解放していたという。前川氏は、ほかにも、王たちが物品の標準価格や労働賃金を定めた例をあげて、次のような文章で結んでいる。

「当時、私的な経済が大発展をとげていたことはうたがいない。それにともなって生じた社会的な混乱を解決するために、王たちは標準価格を設定し、また徳政令を公布したのであろう。」(*1)

文献
*1)大貫良夫、前川和也ほか、人類の起源と古代オリエント、中央公論社、1998
*2)Code of Ur-Nammu
http://www.polk.k12.ga.us/userfiles/644/Classes/177912/Code%20of%20Ur-Nammu.pdf
*3)Francis R. Steele, The Code of Lipit Ishtar – University of Pennsylvania Museum Monographs, 1948 – includes complete text and analysis of all fragments [reprinted from American Journal of Archaeology 52 (1948)]
*4)The Code of Hammurabi
http://oll.libertyfund.org/titles/hammurabi-the-code-of-hammurabi
*5)The Edict of Ammi-saduqa
http://www.worldhistory.biz/ancient-history/71292-text-14-1-the-edict-of-ammi-saduqa.html

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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