ダーウィンの「創造の一つの中心」:Single centres of creation

ダーウィンは、『種の起源』の12章で、“single centres of creation”(創造の一つの中心)について論じている。

Some few families, many subfamilies, very many genera, a still greater number of sections of genera, are confined to a single region; and it has been observed by several naturalists that the most natural genera, or those genera in which the species are most closely related to each other, are generally confined to the same country, or if they have a wide range that their range is continuous.(Chapter XII)

「いくつかの科、多くの亜科、非常に多くの属、さらに多くの属の節が、一つの地域に限定されている。 もっとも自然な属、すなわちそれに含まれる種がもっともお互いに近縁な属は、一般的に同じ地域に限定されているか、あるいは広い範囲に連続的に生息していることが、博物学者たちによって観察されている。」

Hence, it seems to me, as it has to many other naturalists, that the view of each species having been produced in one area alone, and having subsequently migrated from that area as far as its powers of migration and subsistence under past and present conditions permitted, is the most probable. (Chapter XII)

「したがって、私には次のように思え、それは、多くの博物学者もそうであろう。各々の種は、一つの地域のみで生み出され、その後、過去および現在の条件が許す範囲で、その移動力と生存力によって可能なかぎり遠くまで、移動した可能性がもっとも高い。」

このような、「創造」が起きやすい場所についても、2章および4章で考察している。

Alphonse de Candolle and others have shown that plants which have very wide ranges generally present varieties; and this might have been expected, as they are exposed to diverse physical conditions, and as they come into competition (which, as we shall hereafter see, is a far more important circumstance) with different sets of organic beings. But my tables further show that, in any limited country, the species which are the most common, that is abound most in individuals, and the species which are most widely diffused within their own country (and this is a different consideration from wide range, and to a certain extent from commonness), oftenest give rise to varieties sufficiently well-marked to have been recorded in botanical works.Hence it is the most flourishing, or, as they may be called, the dominant species,— those which range widely, are the most diffused in their own country, and are the most numerous in individuals,— which oftenest produce well-marked varieties, or, as I consider them, incipient species.(Chapter II)

「アルフォンス・ドゥ・カンドールおよび他の研究者たちは、非常に広い範囲に分布する植物は、変種を生じやすいとを示した。このような種は、多様な物理的条件にさらされ、他の生物種と競争する(後述するように、こちらのほうがはるかに重要である)ので、このことは、予想されるであろう。しかし、私の表では、以下のことを示している。限られた地域では、もっとも個体数が多く、もっとも広く拡散している種(これは単に生息域が広いという意味ではないし、単に数が多いという意味とも違う)から、植物学の研究に変種として記録されるような、十分に明確な変種が生まれることが、もっとも一般的である。つまり、優占種(分布域が広く、かつその地域でもっとも普及しており、もっとも個体数が多い種)と呼ばれるもっとも繁栄している種が、しばしば記録されるような変種(いわば、発端の種)を生み出す。」

To sum up, as far as the extreme intricacy of the subject permits, the circumstances favourable and unfavourable for the production of new species through natural selection. I conclude that for terrestrial productions a large continental area, which has undergone many oscillations of level, will have been the most favourable for the production of many new forms of life, fitted to endure for a long time and to spread widely.(CHAPTER IV)

「主題は極端に複雑ではあるが、可能な範囲で、自然選択によって新しい種が生成する有利な状況と不利な状況について要約する。私は、地上では、多くの水準の振動を経験してきた広い大陸のエリアが、長期に存続し広範囲に生息できるような新種の生成に、もっとも有利であると結論づける。」

さらに、創造の中心から離れ、隔離された地域について、以下のように述べる。

The importance of isolation is likewise great in preventing, after any physical change in the conditions, such as of climate, elevation of the land, &c., the immigration of better adapted organisms; and thus new places in the natural economy of the district will be left open to be filled up by the modification of the old inhabitants. Lastly, isolation will give time for a new variety to be improved at a slow rate; and this may sometimes be of much importance. If, however, an isolated area be very small, either from being surrounded by barriers, or from having very peculiar physical conditions, the total number of the inhabitants will be small; and this will retard the production of new species through natural selection, by decreasing the chances of favourable variations arising.(CHAPTER IV.)

「隔離の重要性は、気候、標高、より適応した生物の移動など、条件の物理的変化を妨げることである。そして、このような、地域の自然経済における新しい場所は、古い住民の変化によって満たされるように開いたままにされる。最後に、隔離は、新しい種がゆっくりした速度で変異する時間を与える。ときにはこれが非常に重要になる。しかしながら、隔離された区域は非常に小さく、障壁で囲まれたり、特異な物理的条件であることから、生物の個体の総数は少なくなる。これは、有利な変異が起きる可能性を減少させるので、自然選択による新種の生成を遅らせる。」

ダーウィンの、「創造の中心はただ一つ」という説は、植物学者のヴァヴィロフだけでなく、人類学者にも影響を与えた。

アメリカの人類学者のクラーク・ウィッスラー(1870-1947)は、インディアナ大学やコロンビア大学で心理学を学び、のちにボアズに師事して人類学に転じた。ニューヨーク自然史博物館で40年間にわたって指導し、『アメリカインディアン』(1917)を著した。

ウィスラーは、それぞれの部族の文化的な特徴を、言語、食文化、衣類、建築、冶金、芸術、社会制度、神話、儀礼などの要素によって分類し、「文化領域」の概念を提案した。さらに、文化領域の地理的な分布を調べることで、「年代領域原理」を提唱した。

ウィッスラーの年代領域仮説によれば、新しい文化形質は、文化の中心地域で繰り返し起こり、それが、同心円状に、文化領域の周縁に向かって拡散してく。文化の形質がほぼ同じ速度で広がるならば、文化形質の地理的範囲と年代との間には関連性が存在する。そして、文化領域のより周縁で見られる文化的形質は、中心地域で見られる形質よりも古い。(*2)


How to Make Blackfoot Moccasins Circa, Excerpt from “Material Culture of the Blackfoot” by Clark Wissler , 1909

ここで、ダーウィンの「創造の一つの中心」のモデルを考える。


Nn:ニッチ
Kn:環境収容力
gn:遺伝子プール
mn:遺伝子プールの個体数
l:遺伝子プール間の距離

以前のブログで、遺伝子プールの表現型変異の速度rmを以下のように導いた。

rm=p0m/tg
rm:遺伝子プールの表現型変異の速度
p0:個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率
mn:遺伝子プールの個体数
tg:世代時間

上記の式から、遺伝子プールの個体数が長期的に安定である場合、p0およびtgが同じ値ならば、個体数mが大きいほど、変異速度rmは大きくなる。遺伝子プールの個体数mは、ニッチNの環境収容力Kが大きいほど大きくなり、変異速度rmも大きくなる。

また、存在する個体数に比べて環境収容力Kが大きい場合は、遺伝子プールの個体数は増加してdm/dt>0、drm/dt>0となり、変種や新種が生じる確率が大きくなる。

遺伝子プール同士は、時間の経過に比例して、遺伝子プール間の遺伝的距離dmが大きくなる。環境の違いは蓄積される変異に差をもたらす。g2とg3のように遺伝子プール間の距離lが小さい場合は、異なる遺伝子プールに属する個体同士が接合する確率が大きくなり、g2-g3間の遺伝的距離dm23はあまり大きくならない。ただ、この場合、遺伝的差異が存在する個体同士が接合するので、単独の遺伝子プールの変異速度に比べて、g2-g3全体の変異速度rm23は大きくなる。なお、遺伝子プール間の遺伝的距離は、遺伝子プール間の物理的距離と時間的距離が大きいほど、大きくなる。

g1のように他の遺伝子プールとの距離lが大きく、隔絶している場合は、他の遺伝子プールに属する個体と接合できないので、次第に遺伝的距離dmは大きくなる。このとき、環境収容力K1が小さければ、個体数m1は小さくなり、かつ遺伝的に近い個体同士でしか接合できないので、g1の変異速度rm1は小さくなる。すなわち、“ isolation will give time for a new variety to be improved at a slow rate”=隔離は、新しい種がゆっくりした速度で変異する時間を与える。

「創造の中心」から遠く隔絶した例としては、以下の生物がある。

カモノハシは、哺乳綱単孔目カモノハシ科カモノハシ属に分類されるが、カモノハシ科カモノハシ属は1種のみである。オーストラリアの森林地帯の河川や湖沼などの淡水域に分布し、群れは作らず単独で生活する。1億5000万年前に他の哺乳類から分岐したグループの末裔で、卵を産むことや、乳首がないなど、他の哺乳類にはない原始的な特徴を多く残している。卵を産む哺乳類である単孔類は、かつては多くの種が存在したが、現在はカモノハシとハリモグラしか生存していない。(*2)


カモノハシ(Author:Klaus)

ハイギョ(肺魚)は、肉鰭綱・肺魚亜綱に属する。肉鰭綱(にくきこう)は、肉質の鰭(ひれ)を持つ原始的な魚類で、現存する系統はハイギョ類とシーラカンス類のみである。ハイギョは、肺や内鼻孔などの両生類的な特徴を持つ魚で、4億年前に出現し、古生物学では64属280種が知られる。現存する種はオーストラリアハイギョ1種、ミナミアメリカハイギョ1種、アフリカハイギョ4種のみで、これらは全て淡水域に生息している。


オーストラリアハイギョ(Author:Tannin)

アマミノクロウサギは、兎形目ウサギ科アマミノクロウサギ属に分類され、1種のみが存在する。日本の奄美大島および徳之島の固有種で、DNA解析や形態から、原始的形質を多く残した種とされている。


アマミノクロウサギの剥製(Author:Momotarou2012)

なお、ダーウィンは、『種の起源』4章で、“living fossils”(生きた化石)として、カモノハシとハイギョを例にあげている。

All fresh water basins, taken together, make a small area compared with that of the sea or of the land. Consequently, the competition between fresh water productions will have been less severe than elsewhere; new forms will have been more slowly produced, and old forms more slowly exterminated. And it is in fresh water basins that we find seven genera of Ganoid fishes, remnants of a once preponderant order: and in fresh water we find some of the most anomalous forms now known in the world, as the Ornithorhynchus and Lepidosiren, which, like fossils, connect to a certain extent orders at present widely separated in the natural scale. These anomalous forms may be called living fossils; they have endured to the present day, from having inhabited a confined area, and from having been exposed to less varied, and therefore less severe, competition. (CHAPTER IV)

「淡水域は、それをすべてあわせても、海や陸地に比べて面積が小さい。その結果、淡水生物間の競争は、他の地域と比べてそれほど厳しくはないであろう。新しい形質はゆっくりと発生し、古い形質はよりゆっくりと消滅するであろう。かつて優位な地位を占めていた硬鱗魚類7属は、すべて淡水域で発見されている。そして、淡水域では、カモノハシやレピドシレン(Lepidosiren:ミナミアメリカハイギョ)のような、世界でもっとも異常な形質が見つかる。それらは、化石のように、現在では自然の階層が遠く離れた種類をつないでいる。これらの異常な形質は、『生きた化石』と呼べるであろう。彼らは限られた地域に住んでいて、それほど変化がなく、あまり厳しくない競争にさらされていたため、今日まで耐えてきた。」


South American lungfish (Lepidosiren paradoxa)

文献
*1)Charles Darwin, The Origin of Species, The sixth edition, 1872
*2)Stanley A.Freed and Ruths.Freed, Clark Wissler, National Academy of Sciences, 1992
*3)How the Venomous, Egg-Laying Platypus Evolved
https://news.nationalgeographic.com/2016/07/animals-platypus-evolution-science/

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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