構造主義、戦後の人類学、言語学:Structuralism, Anthropology after war, Linguistics

構造主義

構造主義といえばレヴィ=ストロースであるが、その前に、マルセル・モース(1872-1950)について触れておく。モースは、フランスの社会学者のエミール・デュルケム(1858-1917)の姉の子で、ユダヤ系フランス人である。幼少の頃から叔父のデュルケムに教えを受けていた。高等教育資格を取ったのち、コレージュ・ド・フランスに続いてパリ大学民族学研究所で教えた。師のデュルケムは、機能主義、社会進化主義の立場をとったが、モースは、進化主義については、かなり慎重で、抑制した表現にとどめている。

モースは、ユダヤ系アルザス人で東洋学者のシルヴァン・レヴィ(1863-1935)から大きな思想的影響を受け、レヴィを「私の二番目の叔父であり、私のグル(師匠)である」と述べている(文献1)。1925年に発表した『贈与論』は反響を呼び、レヴィ=ストロースの構造主義にも大きな影響を与えた。

クロード・レヴィ=ストロース(1908-2009)の両親はユダヤ人で、父は印象派の画家であった。ブリュッセル(ベルギー)で生まれ、1914年に大戦が始まるとパリ近郊に移り、高校時代にマルクス主義の運動に参加するようになった。パリ大学で学び、教授資格取得後、高校で哲学を教えたが、この頃にロバート・ローウィ(1883-1957)の“Primitive Society”(原始社会、1919)を読み、人類学に強い興味を持った。

1935年にサンパウロ大学に社会学教授として赴任し、ブラジル内陸のボロロ族などの調査を行った。1939年にフランスに帰国し招集されて軍務についたが、1941年にフランスを脱しアメリカに渡った。ここで、ローウィ、ボアズ、ベネディクト、言語学者のロマーン・ヤコブソン(1896-1982)らと交流し、思想的影響を受けた。

構造主義の源流は、フェルディナン・ド・ソシュール(1857-1913)の記号論とされている。レヴィ=ストロースは、ヤコブソンを通じてソシュールの構造主義言語学を学び、これから着想を得て、親族構造論へと発展させた。

1948年に『親族の基本構造』を博士論文として書き上げ、49年にフランスに帰国して発表すると、大きな話題を呼んだ。レヴィ=ストロースは、構造主義人類学の創始者というだけでなく、彼の書いた“Tristes tropiques”(悲しき熱帯、1955)や“La Pensée sauvage”(野生の思考、1962)は、文学作品としても高い評価を受けている。

アメリカの戦後の人類学

戦後のアメリカの人類学は、長く、ボアズとその弟子たちの影響下にあった。ローウィは、アメリカインディアンの民族誌調査を通じて、モーガンの進化主義を批判し、ルース・ベネディクト(1887-1948)は、『菊と刀』(1946)を書いて、文化相対主義的な手法で、日本文化を分析しようとした。マーガレット・ミード(1901-1978)は、オセアニアの部族の女性の地位について報告し、フェミニズム運動に大きな影響を与えた。

ボアズらは社会進化主義を強く批判したため、戦後のアメリカの人類学者たちは一般的な社会理論を構想することさえはばかられていた。

こうしたアメリカ人類学の雰囲気に対して、ミシガン大学のレスリー・ホワイト(1900-1975)は、スペンサー、モーガンら19世紀の進化主義を再評価するとともに、ボアズらの文化相対主義を批判した。ホワイトは、技術革新とエネルギー消費量の観点から社会発展を理論化し、文化の発展段階を区分した。
・人力をを利用する
・家畜と植物のエネルギーを利用する(農業革命)
・化石燃料(石炭、石油)のエネルギーを利用する
・原子力エネルギーを利用する

ホワイトらの立場は、「ネオ進化論」と呼ばれた。

また、イリノイ大学のジュリアン・スチュワード(1902-1972)は、世界各地の固有の技術革新や社会的な変革が多様であることを示し(多系進化)、これらの多系進化を、環境に対する適応という観点で理論化することを試みた。これは、のちに文化生態学の成立へとつながっていった。

ホワイトやスチュワードの影響を受けたマーシャル・サーリンズ(1930-)やエルマン・サーヴィス(1915-1996)は、多系進化による新進化主義人類学を提唱した。

農耕の起源をめぐる議論については、カルフォルニア大学のカール・O・サウアー(1889-1975)が発表した、“Agricultural Origins and Dispersals”(農耕の起源と拡散、1952)がある。地理学者のサウアーは、農業、作物、家畜が環境に対して大きな影響を与えると考えた。そして、農耕の起源は中東ではなく、東南アジアであるとし、栄養繁殖による根菜の栽培と、ニワトリ、ブタの家畜化が始まったと主張した。

また、人類学者のジョージ・ピーター・マードック(1897-1985)は、多系進化と生態学的な観点で、世界中の民族文化を比較検討し、通文化研究の礎を築いた。「核家族」という用語を最初に使ったことでも知られる。のちに、マードックはアフリカの部族の文化と歴史に関する『アフリカ』(1959)を著し、その中で、ニジェール川流域で、マンデ族が独立に雑穀農耕を開始したと主張した。そして、中東のムギ農耕、東南アジアのイモ農耕、新大陸の農耕、アフリカの雑穀農耕の四か所を、農耕の独立発祥地として提唱した。

言語学

イギリス人の判事でインドを研究していたウィリアム・ジョーンズ(1746-1794)は、1786年に、ラテン語やギリシャ語が、サンスクリット語と共通の起源をもつと発表した。その後、インド・ヨーロッパ語族の研究が発展し、比較言語学が科学として確立した。同じ語族では、同語源の音韻が規則的に対応し、音韻変化をたどることで、祖語が同定でき、同語族に属する諸言語は、系統樹で示すことができる。そして、インド・ヨーロッパ語族の故地の探求が大きな関心となった。(文献2)

ドイツ生まれでイギリスに帰化した言語学者のマックス・ミュラー(1823-1900)は、インド人とヨーロッパ人を「アーリア人」と呼び、インド・ヨーロッパ語族の人種的優位性を暗示させた。これは、20世紀には、ナチスドイツのアーリア至上主義と人種差別へとつながっていった。

戦後は、インド・ヨーロッパ語族の故地として、カリフォルニア大学のマリヤ・ギンブタス(1921-1994)の黒海沿岸ステップ説と、ケンブリッジ大学のコリン・レンフルー(1937-)のアナトリア説の二つの説が提唱されてきた。

最近の遺伝子の解析による調査では、約4500年前のヨーロッパの文化的変容は、人間集団の移動を伴っており、青銅器時代にインド・ヨーロッパ語族がヨーロッパに拡散した可能性が提示されている。ヨーロッパについては、カスピ海~黒海の北方の草原地帯にいたヤムナ(Yamna)文化集団の移動が示唆されている(文献3)。また、中央・南アジアについては、草原地帯の南方にいたナマズガ(Namazga)文化集団の移動によるという報告がある。

近年の比較言語学の成果としては、オーストロネシア語族の研究がある。オーストロネシア語族は、台湾、東南アジア島嶼部、ポリネシア、マダガスカルにいたる広大な地域に分布することが明らかになり、さらに、言語学、考古学、人類学者らの共同研究でそれらの島々に到達した年代も実証的に研究されている。(文献4)

ただし、全般的に比較言語学は、かつての勢いが無くなっており、発展が停止してしまったかのようにみえる。もともと音韻変化をたどる方法に依拠する学問であり、言語学者のモリス・スワデシュによれば、1000年ごとに20%の語彙が失われるとされ、数千年よりも古い時代に分岐した言語については、比較言語学では限界がある。

そこで、より古い言語にアプローチする方法も提出されている。ロシアのイリッチ・スヴィティチは、印欧語族、アフロ・アジア語族、ウラル語族、カルトヴェリ語族、ドラヴィダ語族、アルタイ語族は、もっとも古い時代までさかのぼれば、「ノストラティック語族」を起源とするという大語族説を提唱した。また、アメリカのジョーゼフ・グリーンバーグは音韻対応を無視して多角比較を導入し、印欧語族、ウラル語族、アルタイ語族、朝鮮語、日本語、アイヌ語、ギリヤーク語、チュクチ語、エスキモー・アリュート語を含む、「ユーラシア大語族」を提唱した。ただし、これらの大語族説は、言語学者からの評判はよくない。

なお、日本の松本克己は、類型論的立場から、ユーラシア内陸言語圏と環太平洋言語圏という新しい方法を提出している。(文献5)

文献
1)マルセル・モース、1925、贈与論、筑摩書房、2009
2)風間喜代三、言語学の誕生、岩波書店、1978
3)Ewen Callaway, 2015, DNA data explosion lights up the Bronze Age, Nature, 522
https://www.nature.com/news/dna-data-explosion-lights-up-the-bronze-age-1.17723
4)Austronesian Basic Vocabulary Database
https://abvd.shh.mpg.de/austronesian/research.php
5)松本克己、世界言語のなかの日本語、三省堂、2007

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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