栽培植物の起源神話:Myths about the origin of cultivated plants

世界に存在する栽培植物の数は、花卉類を除いて1500種以上と言われている。イネ、コムギ、オオムギなど、栽培の歴史が長い作物では、品種の数が1万以上あり、栽培植物の品種の総数は、数十万におよぶ。また、植物だけでなく、イヌ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ニワトリなどの家畜やミツバチ、カイコなどの飼育昆虫も存在する。

野生の植物から、栽培種を作り出すのは、簡単なことではない。もっとも基本的な育種の方法は、植物の中から、目的にあった性質の個体を選択し、その種を播いて選択を繰り返す方法である。目的の性質とは、食用の栽培植物の場合では、食用部位が大きい、美味、子実が脱落しない(非脱粒性)、毒性がないなど、多岐にわたる。偶然に起きるこれらの突然変異を長期間にわたって積み重ねることで、栽培種が成立する。野生のムギやイネが、栽培種に置き換わるには、数千年もの時間がかかったことがわかっている。

ハイヌヴォレ型神話

作物などの栽培植物は、人類の生存に不可欠な存在であり、古来より重要視されてきた。世界中の神話のなかに、多くの作物の起源神話が残されている。

『古事記』では、五穀の起源として以下のように書かれている。

また食物 (をしもの) 大氣津比賣 (おおげつひめの)神に乞いき。ここに大氣都比賣、鼻口また尻より、種種 (くさぐさ)味物(ためつもの)を取り出して、種種作り(そな)へて(たてまつ)る時に、速須佐之男命(すさのおのみこと)、その(しわざ)を立ち伺ひて、穢汚(けが)して奉進(たてまつ)るとおもひて、すなわちその大宜津比賣神を殺しき。(かれ)、殺さえし神の身に()れる物は、頭に(かひこ)()り、二つの目に稻種(いなだね)()り、二つの耳に(あわ)()り、鼻に小豆(あずき)()り、(ほと)(むぎ)()り、尻に大豆(まめ)()りき。(かれ)ここに神產巢日(かみむすひ)御祖(みおやの)命、これを取らしめて、(たね)()しき。(文献1)

これとよく似た神話は、東南アジア、ポリネシア、メラネシア、アメリカ大陸まで、広く存在することが知られており、ドイツの民俗学者のアードルフ・イェンゼン(1899-1965)は、これらを「ハイヌヴォレ型」神話と名づけた。「ハイヌヴォレ」は、インドネシアのセラム島のヴェマーレ族に伝わる神話に登場する女性の名前である。

アメタという男が、狩りの最中に、イノシシの牙の間にある珍しいヤシの実を見つけた。アメタは、バナナから現われた西セラムの9つの部族の一人であった。彼は、ヤシの実を家に持ち帰った。その夜、夢の中に何者かが現れ、彼にヤシの実を植えるように言った。アメタがヤシを植えると、数日後には大木に生長して花を咲かせた。アメタは、花の蜜を採るために樹に登ったが、そのとき指を傷つけて血が花に落ちた。9日後、アメタはその花の場所でハイヌヴォレという名前の女の子を見つけた。彼は衣で彼女を包んで家に連れて帰った。彼女はまたたくに成長した。ハイヌヴォレはすばらしい才能を持っており、彼女が排便すると宝物を排泄した。おかげで、アメタは裕福になった。
ハイヌヴォレは、9日間続けられる踊りに参加した。この踊りでは、女性がアレカナッツを男性に配ることが伝統であった。男たちがハイヌヴォレにナッツを頼むと、彼女はナッツの代わりに排泄した宝物を与えた。彼女は毎日、金のイヤリング、サンゴ、磁器の皿、ブッシュナイフ、銅の箱、銅鑼など、高価なものを与えた。男たちは、最初は喜んでいたが、徐々に彼らはハイヌヴォレに対して驚いて怪しみ、次には嫉妬に駆られて、9日目の夜に彼女を殺すことに決めた。
9日目の夜に、男たちは踊り場の真ん中に穴を掘り、ハイヌヴォレを穴の中に押し込んだ。男たちは、彼女の叫びを彼らの歌でかき消し、穴の上に土を盛り上げた。ハイヌヴォレは生き埋めにされ、男たちは、「穢れ」を踏みつけながら踊った。アメタは、ハイヌヴォレを探しに行った。彼は何が起こったのかを知り、ハイヌヴォレの遺体を掘り出して、それを細かく切断して村の周囲に埋めた。すると、その断片から、芋などの様々な種類の作物の品種が生まれた。(文献2)

北アメリカのミシシッピ下流域のナチェズ族の神話は、次のように伝える。

一人の女が、二人の少女と暮らしていた。食物がなくなると彼女は、両手に一つずつ籠を持って、ある建物のなかへ入り、じきに籠を両方ともいっぱいにして出て来た。そしてその中身でおいしい料理を作って少女たちに食べさせていた。ところがあるとき少女たちが建物のなかを見てみると、からっぽで食物などどこにもなかった。少女たちは相談して、次に女が籠を持って建物のなかに入ったとき、なかで何をするか覗き見した。すると彼女は、まず籠の一つを床に置き、その上に股を開いて立って、体を擦ったり震わせた。たちまちがさごそと何かが落ちる音がして、籠はトウモロコシでいっぱいになった。次にもう一つの籠の上で同じことをすると、同じようにしてその籠が豆でいっぱいになった。
少女たちは顔を見合わせて、「彼女は大便をして、それを私たちに食べさせていたのだから、あんな汚いものを食べるのはよしましょう」と言い合った。料理を与えても、少女たちが食べないので、覗き見されたことを知った女の人は、こう言った。
「これが汚く思えて食べられないのなら、私を殺して死体を燃やしなさい。そうすると夏にその場所からいろいろなものが生えてくるから、それを畑に植えなさい。実が熟すと美味しい食物になって、おまえたちはこれからは、私がこれまで与えてきた食物の代わりに、それを食べて生きていけるでしょう」。
言われたとおりにすると、女の死体を焼いた場所から、夏にトウモロコシと豆とカボチャが生えた。(文献3)

プロメテウス型神話

イェゼンが、「プロメテウス型」と名づけたもうひとつの神話群がある。プロメテウスは、ギリシャ神話に登場するティーターンの一族である。ティーターンは、ウーラノス(天)とガイアから生まれ、オリュンポス神に先行する古い神々とされている。

プロメテウスは大地の土を取って、それを水で練りかためて、神々と同じ形に人間を造り上げました。プロメテウスは人間に直立の姿勢をあたえましたから、他の動物はみな顔を伏せて地上を見ているのに、人間だけは初めから天を仰ぎ、星を眺めました。
プロメテウスは、人間創造以前からこの地上に住んでいた巨神族の一人でありました。彼とその弟のエピメテウスが、人間製造の役目と、その人間や他の動物に、生存に必要な能力をあたえてやることを神から委任されました。直接の担任者はエピメテウスで、兄のプロメテウスはそのでき上りを監督する役目でありました。エピメテウスはすべての動物に、勇気や、力や、早さや、智慧などの賜物をさずけました。ある者は翼を、ある者は蹄を、ある者は身を隠すための殼をもらい出しました。ところが万物の霊長たるべき人間の番になると、他の動物に何もかもあたえつくしてしまった後で、これというほどの物が一つもなくなっていました。エピメテウスは困って兄のプロメテウスに相談しました。プロメテウスは女神アテナの助けを借りて、天へ昇って太陽の二輪車の火を自分の炬火に移し取り、その火を人間のところへ持って下りました。この賜物によって、人間は初めて他の動物以上のものとなりました。すなわち、その火のおかげで、人間はすべての動物を征服すべき武器をも作り、土地を開拓する道具をも作り、また住み家を暖めて寒さをしのぐ方法をも知ったのであります。最後に技術や、貨幣鋳造や、商売や、取引きの方法までも彼らが習得したのも、すべてこの火の賜物でありました。(文献4)

イェゼンは、「プロメテウス型」神話の代表的なものとして、西アフリカのドゴン族の創世神話をあげている。ドゴン族はマリのニジェール川流域に暮らす農耕民で、トウジンビエ、モロコシ、イネ、タマネギ、タバコ、野菜などを栽培している。また、ヒツジ、ヤギ、ニワトリを飼育する。ドゴン族は、その独特の宗教、神話、儀式、舞踏などで民族学者たちに注目されてきた。ドゴン族の神話は、口述で伝えられており、多種多様な神話が存在する。

太初に神(アンマ)は天空に土くれを拗って星辰を創造した。それから神は二つの白い壺を造り、そのうち一つには赤い螺旋状の銅を捲いて太陽とし、他の一つには白い銅を螺旋状に捲きつけて月とした。黒人は太陽の許に生まれ、白人は月夜に生まれた。
粘土の他の塊を使ってアンマは女性である大地をつくった。大地は北から南へと身体を延ばしており、蟻塚はそのセクスであり、白蟻の巣はそのクリトリスである。神(アンマ)はクリトリスを切り落した(成女式の陰核切除のはじまり)のち大地と結婚して金狼(ジャッカル)を生ませた。
次に、眼は赤く、身体は緑、柔軟な肢体を持った精霊ノンモたちが生まれた。ノンモたちは、その母なる大地が裸身なのを見て、金銀の総―水を意味する―のついた繊維を持ってきた。ところが金狼は、蟻塚に分け入って近親相姦を犯し、このとき流れ出た月経の血が繊維を赤く染めた。この原罪によって大地は不浄なものとなった。
その後、ただちに神は粘土から人間を創造した。これらの人間はそれぞれ男女両性の要素を兼ねそなえていたが、割礼と切除が教えられてから性の識別が可能になった。
始源期には八人の始祖がいたが、これがドゴン族を分ける八家族の起源である。ノンモの一人は「言葉」を与えられ、それを織機とともに蟻に教え、蟻がさらに人間に教えたのである。また八種の異なった穀物が八家族に分けられたが、それが食べ尽されてしまうと、二人の始祖は分与されていなかったフォニオまでも食べてしまった。そんなことの果てに彼らは天から逃げ出したが、これが最初の祖先たちが世界を構築するきっかけとなった。
世界はドゴンが用いる笊の形をしている。この笊は正方形で、ロは丸く大きいが、世界の笊は粘土でできており、逆さに伏せてあって、底が露台になっている。底は太陽を表象し、台は天を表わす。おのおのの側には十段の階段がある。北側の階段は人間と魚を、南の階段は家畜、東側の階段は鳥、西は野獣、野菜、昆虫をそれぞれこの世界にもたらす。祖先は火を盗み、露台の上に最初の鍛冶炉を据えつけた。ノンモたちは祖先を砲撃し、その肢体を毀損したため、それまでは柔軟であった肢体は関節から成るに至った。その後、彼らは露台から降りて最初の原野を造った。
彼につづいて他の始祖たちも降りてきたが、八番目の始祖の方が七番目の始祖より早く降りたので、後者は怒って蛇に変身してしまった。人間たちはこの蛇を殺して食べた。彼は人間たちを救うために自らすすんで犠牲になったのであるともいわれる。八番目の始祖、「言葉」の主レベが死ぬと、七番目の祖先である蛇は、これを石に変えて嚥み込んでしまった。このようにしてレベは九番目の始祖として再生した。(文献5)

このような、栽培種などの農耕文明が天からもたらされたという神話は、世界中に数多く存在している。

『日本書紀』では、天津彦火瓊瓊杵尊(アマツヒコホノニニギ)が、鏡と稲の穂を持って、高天原から高千穂の峰に降臨したと記されている。

是の時に、天照大神(あまてらすおほみかみ)、手に宝鏡(たからのかがみ)を持ちたまひて、天忍穂耳尊(あまのおしほみみのみこと)に授けて、()きて(のたま)はく、「()()、此の宝鏡を視まさむこと、当に吾を視るが如くすべし。(とも)(ゆか)を同じくし殿(おほとの)(ひとつ)にして、斎鏡(いはひのかがみ)とすべし」とのたまふ。(また)天児屋命(あまのこやねのみこと)太玉命(ふとたまのみこと)(みことのり)すらく、「惟爾二柱(これいましふたはしら)の神、亦(とも)殿(おほとの)の内に(さぶら)いて、善く防護(ほそきまもること)()せ」とのたまう。又勅して(のたま)はく、「吾が高天原(たまのはら)所御(きこしめ)斎庭(ゆにわ)(いなほ)を以て、亦吾が(みこ)(まか)せまつるべし」とのたまふ。(文献6)

アイヌ神話では、「オキクルミが天上界で、下界には魚や動物はたくさんいるが、穀物はないだろうと考えた。そこで一掴みの稗(ヒエ)の種を盗み、自分の脛を裂きそのなかに隠して、天上界から抜け出した」と伝えている。(文献3)

ギリシャ神話でも、農業の女神デメテルについて次のような伝承がある。デメテルは、ゼウスと仲直りして天界に戻るときに、アッティカのエレウシスの王子のトリプトレモスに、ムギの種と、翼の生えた竜が引く車を与えた。その車にトリプトレモスを乗せて、空から地上にムギの栽培を広めて回らせた。(文献3)

古代中国の西魏、北周の歴史を記録した『周書』(636年)では、「神農の時代に天から穀物が雨のように降ってきた。神農は大地を耕して、穀物の種子を播いた」と伝えている。(文献7)

1)倉野憲司校注、古事記、岩波文庫、1963
2)Jensen, Adolf E. and Herman Niggemeyer, Hainuwele ; Völkserzählungen von der Molukken-Insel Ceram, 1939
3)大林太良、吉田敦彦、伊藤清司、松村一男編、世界神話辞典、角川選書、2005
4)ブルフィンチ、ギリシャ・ローマ神話、岩波文庫、1978
5)阿部年晴、アフリカの創世神話、紀伊国屋書店、1965
6)日本書紀(1)、岩波文庫、1994
7)伊藤清司、中国の神話伝説、東方書店、1996

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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