オーカー、ヒトの成立、アトピー:Ocher, Human establishment, Atopic dermatitis

オーカー

オーカーのおもな原料は赤鉄鉱や褐鉄鉱である。赤鉄鉱の主成分は酸化鉄(III)で、その組成式はFe2O3である。ヘマタイト、酸化第二鉄、三酸化二鉄、赤鉄鉱、弁柄、赤錆など多くの呼び名がある。Fe2O3の結晶は光沢のある黒色だが、通常は赤褐色の岩石で、製鉄や赤色顔料に利用されてきた。

褐鉄鉱の別名はリモナイトで、化学組成はFeO(OH)・nH2Oである。鉄を多く含む鉱物の風化によって生成され、温泉(鉄泉)や湖沼の沈殿物としても産出する。形状によって鳴石、壷石、豆鉄鉱、鬼板、武石などと呼ばれる。高師小僧は褐鉄鉱が植物の根に集積したものである。褐鉄鉱も、製鉄や黄土色の顔料として利用されてきた。

鉄Feは地球でもっとも存在量が多い元素であり、2番目が酸素Oなので、赤鉄鉱や褐鉄鉱はごくありふれた物質である。ただし、海洋生物にとって、鉄はもっとも「高価」な元素であることは、以前のブログで書いた。

ヒトがオーカー(顔料)を使うようになった歴史はきわめて古く、アフリカでは28万年前の出土例がある(文献1)。

なかでも、よく例としてあげられるのは、ブロンボス洞窟である。ブロンボス洞窟は、南アフリカ南部のケープ海岸に位置する洞窟遺跡で、10万~7万年前の遺物が保存されている。模様が刻まれたオーカー(赤鉄鉱)、彫刻された骨、オーカー(顔料)の製造道具、貝殻のビーズなどが出土しており、当時、すでに「象徴的思考能力」が存在した証拠と考えられている。

2008年の調査では、10万年前の地層から、2枚のアワビの貝殻に、オーカー(顔料)の残存物が見つかった。同じ層からは、多数のオーカー(赤鉄鉱)、動物骨、木炭、珪岩の磨石、ハンマー石などが出土しており、ここで顔料が製造されていたことを示している。磨石上で、ハンマー石を使ってオーカー(赤鉄鉱)や木炭を粉末にし、アザラシの油脂と混ぜて顔料を製造していたらしい。(文献2、3)

オーカー(顔料)は、古代エジプトでも広く利用されていた。壁画には、女性は黄色のオーカー、男性は茶色のオーカー、口紅には赤色のオーカーを使用する様子が描かれており、パピルスにもオーカーについての記述がある。

現代でも、アフリカの狩猟採集民や牧畜民、オーストラリアのアボリジニ、南米大陸の熱帯雨林に住む狩猟採集民などが、オーカーを使用している。なかでも、ナミビアのヒンバ族は、動物の油脂やバターを混ぜたオーカーで、全身を赤色にすることで有名である。

オーカーとヒトの成立

現生人類(Homo sapiens)が登場したのは、30~25万年前と考えられているので(文献4)、ヒトは、種の成立とほぼ同じ時期にオーカー(顔料)を使い始め、以来、20万年以上もオーカーを身体に塗っていたことになる。

種の成立からこれほど長期にわたって身体に装着していたのであれば、ヒトにとって、オーカーはもはや身体の一部であり、「延長された表現型」であったにちがいない。すなわち、オーカー(顔料)はヒトの種の成立と何らかの関係があったことが予想される。

皮膚を紫外線や寄生生物から守るだけなら、他の哺乳動物と同じように、泥を皮膚に塗ればよいはずで、わざわざ硬い赤鉄鉱を磨石とハンマー石で粉末状にする必要がない。すなわち、オーカーの赤い色には、何らかの機能があったはずである。

ヒトにもっとも近いチンパンジーでは、メスには月経周期があり、その長さは32日ほどである。排卵が近づくと、メスの性皮はピンク色になって大きく膨張する(写真)。チンパンジーの発情期間は12日ほどで、その期間中に交尾する。また、妊娠・出産したあと、子供が乳離れするまでの5~6年間はまったく発情せず交尾しない。


http://thesymbiont.blogspot.jp/2010_12_01_archive.html


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一方、ヒトの場合、女性と男性はいつでも性交可能であり、しかも生殖目的ではない性行動を頻繁に行う。ヒトの女性は、チンパンジーのメスと異なり、排卵の時期を外見では判断できず、他者からわからないように隠している。排卵を隠すのは、性交を避けるためではなく、その逆である。

ヒトの女性は、その大きな臀部が特徴である。身体や臀部に赤いオーカーを塗ることで、膨張した性皮のような姿になり、常に男性の関心を惹きつけたと考えられる。

サン族とコイコイ族はアフリカ南部の乾燥地帯に住む狩猟採集民で、かつてはホッテントットと呼ばれていた。遺伝子解析では人類の祖先の形質をもっとも保存している部族とされている。サン族とコイコイ族の女性は臀部が際立って突出しており、小陰唇(性皮)の伸長がみられる。

そして、このような身体的特徴は、太古に作られた女性像にも表現されている。


ヴィレンドルフのヴィーナス。オーストリアのヴィレンドルフ近くの旧石器時代の遺跡から出土。24,000~22,000年前


レスピューグのビーナス。フランスのピレネー山脈の洞窟で発見された。26,000~24,000年前

Vestonicka_venuse
Venus of Dolní Věstonice(Author:Petr Novák, Wikipedia)

 
長野県棚畑遺跡出土、縄文時代中期(5,000~4,000年前)

超協力タカ派戦略では、バンド内での資源分配は平等が原則だが、サン族の射手が優先的に動物の腱を獲得するように、私的所有が完全に禁止されているわけではない。発情した姿の女性は、常に男性を惹きつけることで、より多くの資源を獲得できたのであろう。

また、このような、性による差が生じた理由は、ヒトの男性が、闘うための武器を、狩猟に利用することで、効率よく資源を獲得できるようになったためと考えられる。

体毛が少ないほうが、膨張した性皮の形に近いため、体毛が少ない女性ほど男性を惹きつけることができるので有利である。このため、次第に体毛を無くす方向に変異した。

ヒトは、ヒト科(ヒト属、チンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン亜科)の生物種の中ではもっとも多産であり、自己複製の速度が大きい。これは、ヒトの女性が常に男性を惹きつけることで、資源の獲得量を増やすことができたからであろう。

10万~7万年前に、ヒトの一部は、アフリカを出て世界中に拡散した(文献5)。冷涼な温帯への進出に伴って、衣類を着用するようになったため、次第にオーカーの全身塗装を止めるようになった。

オーカーとアトピー

ヒトは20万年以上も前からオーカーを身体に塗装してきた。オーカーがヒトにとって「延長された表現型」ならば、オーカーが常に皮膚に付着していることを前提とした形質が、遺伝子プール内に広がっているはずである。

ここで、思い浮かぶのは、アトピー性皮膚炎のことである。アトピー性皮膚炎の根本には皮膚の生理学的異常(皮膚の乾燥とバリアー機能異常)があり、そこへ様々な刺激やアレルギー反応が加わって生じると考えられている。(文献6、7)

最近、アトピー性皮膚炎の原因となる遺伝子の存在が報告されている。アトピー性皮膚炎のマウスでは、JAK1というたんぱく質遺伝子の一部が変化し、異常に活性化しているという。その結果、皮膚の角質に働く酵素が活性化し、角質がはがれて刺激を受けやすくなっているらしい。(文献8)

遺伝的な形質によって皮膚の角質が剥がれやすくなることがアトピー性皮膚炎の原因ならば、このような形質が、オーカーが常に皮膚に塗着していることを前提とした形質ではないだろうか。

オーカーとアトピーの因果関係については、ただの科学的な推論、あるいは仮説であるが、この仮説が正しいかどうかは、赤鉄鉱の粉末とオイルを混ぜて全身に塗り、アトピーの症状が改善するかどうかを診れば、証明できるはずだ。

文献
1)Henshilwood CS. et al.(2011): A 100,000-Year-Old Ochre-Processing Workshop at Blombos Cave, South Africa. Science, 334, 6053, 219-222.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1211535
2)Henshilwood CS. et al.(2011): A 100,000-Year-Old Ochre-Processing Workshop at Blombos Cave, South Africa. Science, 334, 6053, 219-222.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1211535
3)TRACSYMBOLS
https://web.archive.org/web/20130622200613/http://tracsymbols.eu/
4)On the origin of our species
https://www.nature.com/nature/journal/v546/n7657/full/546212a.html
5)Evidence mounts for interbreeding bonanza in ancient human species
http://www.nature.com/news/evidence-mounts-for-interbreeding-bonanza-in-ancient-human-species-1.19394
6)日本皮膚科学会、アトピー性皮膚炎
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa1/q02.html
7)日本アレルギー協会、よくわかるアトピー性皮膚炎
http://www.jaanet.org/pdf/atopi_tein.pdf
8)アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子を解明
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160426_3/

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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