パン属、ホモ属、ヒトの進化的な安定:Evolutionary stability of Pan, Homo, H. sapiens

超協力∩(タカ派∪超タカ派∪ハト派)戦略:Super-cooperative ∩(hawk ∪ super-hawk ∪ dove)strategy of Homo sapiens

ヒト科ホモ属は、超協力超タカ派戦略ではないかと述べた(2017.1.26ブログ)。現在、生存しているホモ属の種はヒト(Homo sapiens)のみであり、他のホモ属の種は、ヒトとの生存闘争に敗れて絶滅したと考えられる。ダーウィンは、「競争が最も厳しいのは、習性や体質、構造などの面で互いにきわめて近縁な種類間」と指摘している・・・。

パン属

ヒト科パン属のチンパンジーは、成年オス、成年メス、子供からなる20~100頭の群れを形成し、数十km2の広大な縄張りの中を遊動している。成年のオスとメスは、複数の異性と交尾をする乱婚であり、オスは自分の子供がわからないとされている。

成年オスたちは、協力して縄張りの周辺を巡回し、他の群れのオスと激しく闘争する。ある群れのオスが別の群れのオスのほとんどを殺戮し、敗けたほうの群れのメスが、勝ったほうの群れにすべて取り込まれた例も観察されている。しかし、いくら闘争が激しくても、双方のオスが共倒れで死んでしまうほどではなく、チンパンジーは、超協力タカ派戦略と考えられる。

集団で暮らし、知能が高いチンパンジーには、有力な捕食者(天敵)は存在しないといわれる。まず、パン属の進化的な安定について考えてみる。

超協力タカ派のパン属の群れが、なわばりを守りながら、熱帯雨林を分割して平衡状態にあるとする。群れG1の中では、常に遺伝的な変異が生じる。オスのタカ派遺伝子Aで占められる群れの中で、犬歯が長く、腕力が強く、攻撃的な超タカ派の遺伝子Aが生じたとする。オスは、群れ内での順位をめぐって激しく闘争する。A vs A+の闘いでは、攻撃的なA+は有利なので、上位の位置を占める。A+は食料を多く獲得し、多くのメスと交尾して、G1内にA+遺伝子が広がる。G1内にAが増えてくると、闘いはA+ vs A+になる。「自分のコピー」との闘いでは、しっぺ返しによって、闘争コストがきわめて大きくなる。超タカ派同士なので、双方が共倒れして死亡する確率が高くなる。

また、A+は、群れのボスとして、近隣の群れとの闘争の先頭に立つので、ここでも死亡する確率が高くなる。群れ内の闘争でも、群れ間の闘争でも死亡する確率が高いので、A+は、G1内の多数派になることができず、ごく少数派に留まる。


G:群れ
A:タカ派(hawk)
A+:超タカ派(super-hawk)
A:ハト派(dove)

次に、G1の中で、ハト派の遺伝子Aが生じたとする。Aは、犬歯が小さく、腕力が弱く、争いを好まない。ライバルと闘わずにすぐに逃げ出すので、Aは、G1内の下位の位置に置かれる。食料を多く獲得することができず、メスと交尾するのも不利である。しかし、闘わずにすぐに逃げるので、傷ついたり、死亡したりする確率は小さい。群れのなわばりは広いので、食料を得られないわけではなく、メスの数も多いので、まったく交尾できないわけではない。メスのほうは、オスがタカ派かハト派かにはあまり関係なく、自分との遺伝的な距離が大きいオスを選択するので、Aのオスには交尾のチャンスが少なからずある。

また、他の群れとの闘いでも、Aはすぐに逃げるので、死亡率が低い。すなわち、A遺伝子は、G1内に広がる条件がある。しかし、G1内にAが多くなると、G1は他の群れとの闘いで負けてしまうので、なわばりを守ることができず死滅する。ハト派遺伝子Aは、G1内にある程度は広がるが、多数派になることができず、少数派に留まる。

すなわち、パン属の遺伝子プールでは、以下の遺伝子が混在する状態で、進化的に安定になるはずだ。
・多数のタカ派
・少数のハト派
・ごく少数の超タカ派

パン属はチンパンジー1種ではなく、ボノボ(ピグミーチンパンジー)が存在する。ボノボのオスは、チンパンジーのオスに比べると、攻撃的でなく、闘争のときでも、噛み付いたり激しく追いかけたりしない。また、群れ同士の闘争においても、致死的な闘争に至った例は観察されていない(文献1)。群れの中のオスの間には、優劣関係が存在し、上位のオスほどメスとの交尾頻度が高いが、下位のオスたちでも交尾をする機会は皆無ではない(文献1)。


ボノボのオスの交尾度数

最新の研究では、ボノボは、パン属の少数の個体が、最近(100万年または180万年前)になってコンゴ川の左岸に移入し、定着したと考えられている(文献2)。このとき、コンゴ川を渡ったのは、パン属の中のハト派であったことが予想される。その後、地理的に隔離されために、タカ派遺伝子が侵入できず、ハト派の遺伝子が生き延びることができたのであろう。

パン属の例から考えると、犬歯が小さく身体が華奢なホモ属の祖先(アルディピテクス、アウストラロピテクス)も、もともとは、闘いを避けて逃げるハト派であったことが予想される。ホモ属の祖先は、共通祖先からハト派が分岐したのち、タカ派との生存闘争を続ける中で、2本足で走り、手で武器を持って闘うタカ派の形質を獲得したのであろう。

ちなみに、ボノボのオスが相手を攻撃するときは、2メートルほどの枝を折ってこれをうしろにひきずりながら走る」(「枝ひきずり」)ことが観察されている(文献3)。

ホモ属

ホモ属は、数十~100人ほどの集団を形成し、オスが協力して近隣の集団となわばり(資源)をめぐって、激しく戦闘する。戦闘は複数vs複数で行われるので、ライバル集団との戦闘に勝つには、集団内のオスは結束が強いほうが有利である。オスが出自集団にとどまって、父系の血縁集団を形成することで、オス同士の協力度、結束力が高まる。しかし、集団の同一性が高くなると、遺伝子の変異速度が小さくなって不利になる。そこで、若いメスが、他の集団に移ることで、遺伝的な差異を大きくし、集団の遺伝子の変異速度を維持している。さらに、メスの移動は、種全体の遺伝子プールを大きくし、種全体の遺伝子の変異速度を大きくする効果がある。

特定のオスがメスを独占すると、オス同士の結束が得られないので、婚姻の形態は、乱婚制あるいは一夫一婦制が有利であるが、一夫一婦制のほうが交尾の機会が均等になるので、より平等である。ただ、オスは戦闘で死亡して数が減るので、一夫多妻制も一部に存在する。

集団のオスの戦闘力・結束力は、個体の同一性が高いほど強く(有利)なり、個体の差異が大きいほど弱く(不利)なる。しかし、集団の遺伝子の変異速度からみると、集団の同一性が高いほど変異速度は小さく(不利)なり、集団内の差異が大きいほど、変異速度は大きく(有利)なる。集団内の遺伝子の同一化と差異化は、常にせめぎ合う関係にある。

集団戦闘に勝ち残るための遺伝的な形質として、以下のような要素があげられる。
・集団内のオス同士の協力度が高く、結束力が強い
・個体間の意思疎通能力が高い
・記憶力が高い
・走力、持久力が高い
・武器の製作能力が高い
・武器を使う能力が高い
・戦略に優れる(先読み能力)

「戦略」という言葉は、確定した定義がないが、ゲーム理論のミニマックス戦略などでは、「先読み」の能力に左右される。

生物の生存闘争では、遺伝子の変異速度が大きいほうが有利であるが、脳の新皮質が発達したホモ属では、脳による情報の変異速度の大きさに左右される。いずれにしても、最終的には「自分のコピー」との戦いになり、超タカ派の場合は、「しっぺ返し」によって闘争コストがきわめて大きくなり、共倒れの確率が高くなる。

ちなみに、霊長目の中で、体毛が無いのはヒトだけである。ヒトは他の霊長目に比べて、走力、持久力が突出して優れている。長い時間を走り続けると、体温が上昇してしまうので、体温を下げるために大量の汗を出す必要がある。体毛がある動物が大量の汗を出すと、体表面の水分率が高くなるので、細菌や菌類に寄生されるリスクが高くなる。また、運動を停止したときに、濡れた体毛からの水分の蒸発によって体温が奪われ、免疫力が低下してしまう。体毛が無ければ、汗は流れてしまい、すぐに乾いて微生物に寄生されにくく、体温低下も防げる。長距離を走ることによる体温変動に対応するには、体毛が無いほうが、生存に有利だったのであろう。

ただし、体毛が無いと、紫外線の悪影響を受けるので、メラニンが多い形質が広がった。また、蚊やアブなどに刺されやすくなるので、皮膚を紫外線や昆虫から守るために、オーカーを塗る習慣が生じたと考えられる。オーカーを全身に塗ることで、さらに無毛化が進んだ。ヒトがオーカーを使うようになった証拠はきわめて古く、ヨーロッパでは25万年前、アフリカでは28万年前の出土例がある(文献4)。

また、ヒトは、物を投げる能力が、動物全体の中で傑出している。ヒトが他のライバル種に勝つには、武器を投げる形質が重要であったことがうかがえる。

ヒト

次に、ヒトの進化的な安定について考察する。ヒトは殺傷力の高い武器を使用して、個人同士で争ったり、集団で戦闘したりして多数の死亡者を出すことがしばしばあるので、パン属に比べると、はるかに超タカ派であることがうかがえる。しかし、共倒れでヒトの個体数(人口)が減っているわけではなく、逆に増えている。もっとも、将来、大戦争が起きて、人類が衰退する可能性もゼロではない。

パン属のモデルと同様に、超協力タカ派のヒトの集団(band)が、自分たちのなわばりを守りながら、陸地を分割して平衡状態にあるとする。

オスのタカ派遺伝子Aが多数を占める集団B1の中で、攻撃性が高い超タカ派の遺伝子Aが生じると、AはB1内の他の個体を攻撃して、多くの資源と配偶者を獲得しようとするであろう。しかし、ヒトの集団は、協力度や結束力が高いために、1人が資源や配偶者を独占することを許さず、複数の他の個体から反撃を受ける。Aがいくら攻撃力が高くても、多数を相手に勝つことは不可能なので、Aは集団の上位の位置を占めることができない。また、AがB1内に広がったとしても、A+ vs A+の闘いになって、共倒れする確率が高くなる。

他の集団との闘いのときは、攻撃的なA+は、戦闘の先頭に立つ機会が多いので、他の個体よりも死亡する確率が高い。すなわち、遺伝子A+は、B1内で多数派を占めることができず、少数派に留まる。

次に、B1内でハト派の遺伝子Aが生じたとする。Aは、争いを好まず、すぐに逃げ出すので、集団の中では立場が弱く、食料や配偶者を獲得するのが不利である。他の集団との闘いのときは、Aはすぐに逃げてしまうので、死亡率が低いが、他の個体から卑怯な行動を非難されて立場が弱くなる。たとえ、B1内にAが広がったとしても、B1は他の集団との闘争で負けてしまい存続できない。すなわち、ハト派Aは、多数派になることができず、少数派に留まる。

以上のことから、ヒトの遺伝子プールでは、以下の遺伝子が混在する状態で進化的に安定になると考えられる。
・多数のタカ派
・少数の超タカ派
・少数のハト派

戦闘に勝つためには、ヒトでは、遺伝的な形質だけでなく、脳による情報の変異の影響が大きくなることが予想される。なぜなら、集団が勝ち残るには、出自集団の中ではタカ派あるいはハト派として行動し、他の集団に対しては超タカ派として行動するのが合理的だ。このような形質は、遺伝的な形質として獲得するのは困難である。目の前の相手が、同じ集団に属するか他の集団に属するかを、外見や匂いなどの遺伝的形質で判断することはできないので、学習によって出自集団のメンバーを認識し記憶するほかない(神話、トーテム)。メンバーの数は多いほど有利である。さらに、遺伝的に備わっている個々のタカ派・ハト派の形質を、学習によって矯正し、相手に応じて行動を変化させなければならない。(ただし、学習による個体の性質と、遺伝子による個体の性質の関係はよくわからない)

狩猟採集民などの「非貯蔵社会」では、域内の個体数は、凶作年の端境期に獲得可能な食料の量に左右される。食料の欠乏期がやってくるたびに、多くの個体が死滅するので、少数派のハト派や超タカ派遺伝子は死滅し、多数派のタカ派遺伝子のみが存続する確率が高い。

すなわち、非貯蔵社会では、遺伝子プールはほぼタカ派で占められ、「超協力タカ派」の状態で進化的に安定になる。農業を行わず狩猟と採集のみで暮らしていたオーストラリアのアボリジニの社会では、ブーメランや投げ槍などの武器は存在するが、より殺傷力の高い弓矢は出現しなかった。カラハリ砂漠の狩猟採集民であるサン族(ブッシュマン)は、弓矢を使用するが、その矢には矢羽が無く、飛距離が短く命中率も低い。

一方、農業革命を経た「貯蔵社会」では、凶作年の端境期であっても貯蔵した食料によって生き延びることができるので人口が増加する。人口が増加している間は、「表現型変異の非生存」以外はすべて生存できるので、タカ派、超タカ派、ハト派のすべてが存続できる。域内の人口が増加して慢性的な資源不足になると、集団内や集団間で資源を奪いあうようになる。闘争では、よりタカ派の方が有利なので、武器の殺傷力が際限なく大きくなる。

ヒトの社会構造

ヒトの社会構造について検討する。ヒトの基本の集団は、夫婦を中心とする親族集団であり、親族集団が集まって、数十~100人ほどの父系集団(band)を形成する。男性は出自バンドに留まる傾向があり、若い女性は出自バンドを出て、他のバンドに移る傾向がある。女性が移動する範囲が母系集団であり、母系集団は1次言語集団になる。1次言語集団は、部族(tribe)を形成する。

非貯蔵社会の場合は、集団の個体数に対して、なわばりの範囲には限度がある。また、集団vs集団の闘いでは、相手を皆殺しにするのは困難で、生き残った相手から報復を受ける。このため、複数のバンドと複数の部族が並存する平衡状態になりやすい(図の左)。父系集団の男系は、他の父系と自分たちを区別する必要があるので、氏族(clan)を形成する。


mn:男系(male)
fn:女系(female)
Bn:父系集団(band)
Fn:母系集団
1Ln:1次言語集団
Tn:部族(tribe)
Cn:氏族(clan)

一方、貯蔵社会では、超タカ派戦略の父系集団が、他のバンドの父系集団を倒して、部族のエリア全体を支配する(上図の右)。部族内に勝利した父系の氏族(clan)が拡大する。

人口が増加し続ける貯蔵社会は不安定なので、人口増と交通の発達にともない、部族社会が解体し、部族連合、クニ、nationが形成される。これにより、2次言語集団ができる。(つづく)


2Ln:2次言語集団
Nn:部族連合、クニ、nation
Cn:氏族(clan)

文献
1)加納隆至、ボノボのオスの順位と交尾頻度、霊長類研究、1994
2)竹元博幸、川本芳、古市剛史、ボノボはどのようにしてコンゴ川左岸に分布するようになったのか?、2015
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/151019_2.html
3)黒田末寿、ピグミー・チンパンジー、筑摩書房、1982
4)A Milk and Ochre Paint Mixture Used 49,000 Years Ago at Sibudu, South Africa
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0131273
5)クロード・レヴィ=ストロース、今日のトーテミスム、1962、みすず書房、1970
6)クロード・レヴィ=ストロース、野生の思考、1962、みすず書房、1976

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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