米ぬかの効果―作物の窒素吸収を断つ

前回、露地栽培では窒素吸収を制限することは困難であると書いた・・・。

農家のあいだでは、米ぬかを田畑に施用すると、作物の味がよくなったり、病害虫に侵されにくくなったりするといわれている。ただ、どうして米ぬかにそのような効果があるのかは、わかっていない。

理由の一つとしてあげられるのは、米ぬかの機能性成分である。米ぬかに含まれる成分には、γ-オリザノール、フェルラ酸、ステロール、ワックス、グルコシルセラミド、トコトリエノール、フィチン、フィチン酸、イノシトール、米ぬかタンパク質など、多くの成分がある。γ-オリザノールは、心身症の抑制や血中コレステロールを低下させる作用が報告されており、フェルラ酸には軽度で高齢発症のアルツハイマー病患者の症状を改善する効果が発見されている。トコトリエノール、フィチン酸、イノシトールにも、多くの機能性作用が確認されている(文献)。

ただし、これらは人が摂取した場合の作用であって、米ぬかを土壌に投入した場合の米ぬかの成分と作物の関係については、何もわかっていない。

他の理由としてあげられるのは、微生物の働きである。米ぬかを放置しておくと、すぐに細菌や菌類などの微生物が繁殖する。土壌に投入された米ぬかには、土壌微生物が繁殖し、土壌中や空気中の微生物が多様化することで、特定の病原菌の増殖が抑えられるという説がある。確かに、土壌微生物が多様化すると、病原菌の増殖が抑制されるという研究報告はある。しかし、土壌微生物は、良質な堆肥などの施用でも増殖するので、米ぬかだけにそのような作用があるわけではない。また、微生物が多様になることと、収穫物の味が良くなることの因果関係もわからない。

米ぬかを、元素の組成から見ると、以下のとおりである。
水分率:10%
C炭素:40~48%
N窒素:1~3%
P2O5リン酸:2~5%
K2Oカリ:1~2%
C/N比:18~34
(水分以外は乾物当たり%)

また、有機化合物として見ると次のとおりである。
デンプン:~70%
タンパク質:10~15%
脂質:20%
繊維:10%
(乾物当たり%)

栄養素の元素としては、リン酸の含有量が多い。C/N比は18~34で、かなり大きい。デンプン70%、タンパク質10~15%、脂質20%で、熱量(エネルギー)が大きい。難分解性の繊維は10%しかなく、粉状なので微生物が分解しやすい。

有機物のC/N比は、堆肥の製造や使用では、重要視される。土壌中に有機物が存在すると、土壌微生物は有機物を分解しながら増殖する。土壌微生物のC/N比は5~10であるが、有機物には、微生物の成長や増殖に必要なエネルギー(糖類、脂質など)や栄養素がいつもバランスよく含まれているわけではない。有機物に糖類など炭素が少なく窒素が多ければ(C/N比が小さい)、余分な窒素はアンモニアや硝酸として大気中や土壌中に放出される。逆に、有機物に糖類などが多く窒素が少なければ(C/N比が大きい)、微生物は土壌中や大気中の窒素を細胞内に取り込む。微生物による土壌中の窒素の取り込みが急激に進んで、作物が窒素を吸収できなくなると、いわゆる「窒素飢餓」の状態になる。

有機物の中でC/N比が大きいのは、木材や樹皮(バーク)で、その値は500~1200にもなる。このため、作物や園芸の教科書には、おがくずやバークが入った堆肥はC/N比が大きいので、窒素飢餓に注意するようにと書いてある。市販されている家畜糞堆肥の多くはおがくず堆肥やバーク堆肥であるが、これらの堆肥で窒素飢餓が起きたという話は聞いたことがない。それは、窒素飢餓がおきるかどうかは、有機物のC/N比だけでは決まらないからである。

セロースは、地球上にもっとも多く存在する有機物で、分解が難しい。セルロースを分解できるのは、分解酵素セルラーゼを有する細菌、菌類、一部のシロアリなどである。リグニンは芳香族化合物が、網目状に結合したポリマーで、セルロースに次いで多く、もっとも分解しにくい有機物である。リグニンを分解できるのは、分解酵素のペルオキシダーゼ遺伝子を有する白色腐朽菌だけである(2016.10.7ブログ)。

木材は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンからなる。木材のセルロースは結晶状の束になっており、これをヘミセルロースが架橋して骨格を形成し、骨格の隙間にはリグニンが充填されている。木材は鉄筋コンクリートのような高次構造を有し、きわめて優れた強度と耐久性を持つ。木材を分解するのは難しく、担子菌(きのこの仲間)の白色腐朽菌だけが、これを完全分解できる唯一の生物とされる。しかし、白色腐朽菌であっても、木材を分解するには、数年~10年を要する。未分解のおがくずやバークを土壌中に入れても、きわめてゆっくりとしか分解が進まないため、短期的な土壌の化学性に影響を与えない。

米ぬかの成分は、ほとんどが易分解性で、熱量(エネルギー)が大きいため、微生物によって急速に分解が進む。米ぬかのC/N比は18~34と高く、増殖した微生物は窒素が不足するので、土壌中の窒素を急速に細胞内に取り込む。土壌は、窒素飢餓の状態になる。

微生物は、米ぬかのエネルギー(熱量)を消費してしまうと、それ以上は増えることができなくなる。資源が枯渇して多くの細胞が死滅し、芽胞や胞子を形成(有性生殖)して、休眠状態になる。死滅した細胞から窒素やリンなどの栄養素が、ゆっくりと土壌や大気中に放出され、これを作物が吸収する。

冷涼地や乾燥地を起源とするC3植物を、温暖多湿の場所で栽培した場合、生長速度がもっとも大きくなる時期に、生育のブレーキが働くのではないかと書いた。このとき、何らかの機構によって、細胞壁の構造を支えるセルロースやリグニンなどの合成が抑制され、窒素の余剰が生じて、組織が軟弱になるのであろう。病原菌や昆虫は、細胞壁のセルロース、リグニンを分解できないので、これらの構造化合物が少ない軟弱な部位を侵す。

そこで、作物の生育のブレーキが働く時期に、根からの窒素の吸収を中断すれば、組織の強固さを維持することができて、病害虫に侵されにくくなると考えられる。また、収穫物の食味は、窒素含有量が少ないほど良好になる傾向がある(2016.3.5ブログ)。

以上のことから、米ぬかを施用すると、作物が病害虫に侵されにくくなったり、収穫物の味がよくなったりするのは、米ぬかで増殖した微生物によって、作物の窒素吸収が一時的に断たれるためと考えられる。じっさいに、山梨県のブドウ農家の中には、初夏の時期に米ぬかを園地に散布するようになってから、果実の糖度が上昇し、灰色かび病の被害が減ったという報告もある(文献参照)。

日本で栽培されている冷涼地起源のC3植物としては、アスパラガスが代表的である。イネは亜熱帯起源のC3植物だが、野生のイネは涼しい日陰を好む。また、コーカサス起源のC3植物としては、ブドウだけでなく、リンゴ、甘果オウトウ(セイヨウミザクラ)、ヨーロッパスモモ(プルーン)、西洋ナシなど多くの果樹がある。これらの作物を温暖多湿地帯で栽培する場合、同様の米ぬかの利用法が考えられる。

また、北海道のダイズ農家の中には、米ぬかを圃場に投入して、ダイズの生育初期に意図的に窒素飢餓の状態をつくる農家がいるらしい。ダイズの根粒菌は、生育の初期に土中に窒素(硝酸)が多いと生育が悪くなることが知られている。

写真は自家菜園のインゲンである。種まきの直後に米ぬかを散布して、あとは何も施用していないが、良好に生育し、毎年たくさんの実を着ける。

ダイズと同じように空中窒素を固定する作物として、サツマイモがある。サツマイモは、土壌から吸収する窒素よりも、収穫物に含まれる窒素のほうが多いことは昔から知られていたが、30年ほど前に、ブラジルの研究機関によって、茎の中に窒素固定細菌が共生していることが発見された(文献)。このため、窒素が多い肥沃土壌でサツマイモを栽培すると、枝葉が過繁茂になって、イモが太らない(つるボケ)。とくに、夏季の生育の転換期のころに窒素が効きすぎると、イモの肥大が悪くなる。このときに、窒素の吸収を断つ方法として、米ぬかを利用できるかもしれない。

ソバ(タデ科)も、施用窒素よりも収穫物に含まれる窒素のほうが多い作物である。ソバ栽培では、窒素を多く施用すると、地上部が過繁茂になって減収する。タデ科植物は、火山が噴火したあとの原野に、真っ先に進出してくる植物のひとつとして知られており、ソバも何らかの窒素固定する機構を有していることが予想される。今後、ソバの合理的な施肥法が研究されれば、窒素吸収のコントロールに米ぬかを利用できるかもしれない。

なお、きのこは、枯れた立ち木をそのまま分解できるので、大気中の窒素を固定する何らかの機構(窒素固定細菌との共生など)を有していると思われる。

文献
米糠含有成分の機能性とその向上、日本食品科学工学会誌59巻7号、2012
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/59/7/59_301/_article/-char/ja/
米ぬかとことん活用読本、農文協、2004
サツマイモから国内で初めて窒素固定細菌を分離同定した
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/028357.html
サツマイモとサトウキビに内生する窒素固定細菌による固定窒素の量的評価
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16380053/

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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