不況と恐慌の本質:Essence of recession and depression

ドーキンスは、「この地上で、唯一われわれだけが、利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できる」と書いている。人間が遺伝子の支配から独立でいられるのは、脳における情報の変異速度が、遺伝子の情報の変異速度を凌駕しているからである。

人間の社会は、情報の変異速度が大きく、複雑に変動するので、不況や恐慌のような基本的な経済現象についてさえ、よくわかっていない。

マルクスは、恐慌について次のように述べる。

Now one stream of commodities follows another, and finally it is discovered that the previous streams had been absorbed only apparently by consumption. The commodity-capitals compete with one another for a place in the market. Late-comers, to sell at all, sell at lower prices. The former streams have not yet been disposed of when payment for them falls due. Their owners must declare their insolvency or sell at any price to meet their obligations. This sale has nothing whatever to do with the actual state of the demand. It only concerns the demand for payment, the pressing necessity of transforming commodities into money. Then a crisis breaks out. It becomes visible not in the direct decrease of consumer demand, the demand for individual consumption, but in the decrease of exchanges of capital for capital, of the reproductive process of capital.
「今や、一つ商品の流れに、別の流れが続く。前の流れは、最後は消費によって吸収される。商品資本は、市場の中で場所を得るために、お互いに競争している。後から来た流れは、とにかく売るために、より安く売る。前の流れは、支払い期日までに、まだ処分されていない。その商品の所有者は、支払い義務を果たすために破産を宣告するか、あるいはどんな価格であっても売却しなければならない。この売却は、実際の需要の状態とは何の関係もない。それは、支払いの要求、すなわち、商品をお金に変えるという緊急の必要性にしか関係していない。こうして、恐慌が起きる。それは消費需要(個人消費の需要)の直接的な減少ではなく、資本のための資本の交換の減少、資本の再生産過程の減少として現われる」(文献1、第2部第1編第2章)

マルクスは、過剰生産によって果てしない価格競争に陥り、財と貨幣の流れが破れることで恐慌がおきると考えた。

ケインズも、基本的にはこれと同様の見方をしており、過剰生産による不況を克服するためには、総需要を大きくするほかなく、そのための財政政策を唱えた。

This analysis supplies us with an explanation of the paradox of poverty in the midst of plenty. For the mere existence of an insufficiency of effective demand may, and often will, bring the increase of employment to a standstill before a level of full employment has been reached. The insufficiency of effective demand will inhibit the process of production in spite of the fact that the marginal product of labour still exceeds in value the marginal disutility of employment.
「この分析は、豊かさの真っ最中に貧困が起きるパラドックスを説明するものである。有効な需要の不足の存在は、完全雇用のレベルに達する前に、雇用の増加を停止させる。有効需要の不足は、労働の限界生産が、依然として、雇用の限界的な負の効用を上回っているという事実にもかかわらず、生産過程を阻害するであろう」(文献2、第3編)

Consumption — to repeat the obvious — is the sole end and object of all economic activity. Opportunities for employment are necessarily limited by the extent of aggregate demand. Aggregate demand can be derived only from present consumption or from present provision for future consumption. The consumption for which we can profitably provide in advance cannot be pushed indefinitely into the future. We cannot, as a community, provide for future consumption by financial expedients but only by current physical output. In so far as our social and business organisation separates financial provision for the future from physical provision for the future so that efforts to secure the former do not necessarily carry the latter with them, financial prudence will be liable to diminish aggregate demand and thus impair well-being, as there are many examples to testify.
「消費は―あきらかなことを繰り返すと―すべての経済活動の唯一の終点であり目的である。雇用の機会は、必然的に、総需要の大きさに制約される。総需要は、現在の消費か、あるいは、将来の消費のための現在の調達(投資)からしか派生しない。消費、すなわち将来に有利さをもたらすような事前の調達(投資)を、無期限に先送りすることはできない。社会全体としては、財政的な方法(貯蓄)では、将来の消費につながるような調達(投資)を実現できず、現在の実際の物理的な生産によるしかない。社会および企業が、将来のための財政的な調達(貯蓄)と、将来のための物理的な調達(投資)と分離して、前者(貯蓄)を確保しようとする努力が、必ずしも後者(投資)を担保しない限り、財政的な慎重さは総需要を減少させ、経済は健全さを損なう。そう証言する多くの例がある」(文献2、第8編)

アメリカのマルクス経済学者のスウィージーは、マルクスの恐慌の論述は、「未完成の事業のリストに残されざるをえなかった」と書いて、マルクスとはやや異なる見方をしている。

「必要なことは、利潤率が通常の水準以下にまで減退し、そのために資本家たちが、より有利なる状態が回復するまで、かれらの資本を貨幣形態において保蔵しはじめるということである。かくして、流通過程の継続性はやぶれ、そして恐慌が襲来するのである」(文献3)

スウィージーは、「かれらの資本を貨幣形態において保蔵しはじめる」ことが、直接の要因と考えていた。

一方、自由主義者のフリードマンは、大恐慌について、次のように述べる。

「1929年7月から33年3月までの間にアメリカの通貨供給量は三分の一減少した。減少のうち三分の二は、英国の金本位離脱後に起きている。通貨供給量の減少は食い止めるべきだったし、それは十分に可能だったと考えられる。もしそれができていたら、不況はもっと短く、もっと穏やかだったろう。(中略)私の知る限りでは、どの国のどの時代にも深刻な不況は必ず通貨供給量の減少を伴っているし、逆に通貨供給量の大幅減は、必ず深刻な不況を引き起こしている」(文献4)

恐慌の本質を、スウィージーは「貨幣の保蔵」と言い、フリードマンは「通貨供給量の減少」と言う。まったく立場の異なる2人の経済学者は、違う言葉を使ってはいるが、じつは同じ事を言っている。

ここで、視点を変えて、自然界での資源の流れを見てみる。

光合成生物は、地球に注ぐ太陽エネルギーを利用して、糖類と有用物質を集積する。光合成生物を、動物性プランクトン、昆虫、草食動物などが摂取し、さらに、肉食生物がそれらを摂取する。食物連鎖によって有機物が分解され、別の化合物が合成される。最後は、微生物によって、原子や分子にまで分解される。分解された物資は、再び光合成生物に利用される。

全体から見れば、地球に注ぐ太陽の光エネルギーは、熱として宇宙空間に放出される。熱力学第一法則により、全体のエネルギーは一定であるが、熱力学第二法則によりエントロピーが増大する。ただし、生物の内部ではエントロピーは増大せず、安定の状態にある。シュレーディンガーは、このことを次のように表現した。

What an organism feeds upon is negative entropy. Or, to put it less paradoxically, the essential thing in metabolism is that the organism succeeds in freeing itself from all the entropy it cannot help producing while alive.
「生物が食べているものは、負のエントロピーである。あるいは、逆説的ではないならば、代謝における本質的なことは、生物は、生きている間に、生産の邪魔になるすべてのエントロピーから自由でありつづけることである」(文献5)


e:エネルギー
s:エントロピー

生物は、系の外部に、エントロピーが増大したエネルギーや物質を排出することで、系の内部のエントロピーの増大を防いでいる。また、生物から見ると、「生産」とは、エネルギーと物質を獲得することであり、「消費」とは自己複製することである。

生物間の資源の受け渡しは、無償で贈与される。もしも、生物が、人間のように財(資源)と引き換えに貨幣(物質)を交換したらどうなるであろうか。生産者である光合成生物のもとには、莫大な量の貨幣(物質)が集中して、光合成生物は生存できなくなるであろう。分解者のほうは、貨幣(物質)が無くなってしまい、財(資源)を入手できなくなって死滅するであろう。(つづく)

文献
1)Karl Marx, Capital, 1867
2)John Maynard Keynes, The General Theory of Employment, Interest and Money, 1936
3)ポール・スウィージー、資本主義発展の理論、1942、日本評論社、1951
4)ミルトン・フリードマン、資本主義と自由、1962、日経BP、2008
5)Erwin Schrödinger, What Is Life?, 1944

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米ぬかの効果―作物の窒素吸収を断つ

前回、露地栽培では窒素吸収を制限することは困難であると書いた・・・。

農家のあいだでは、米ぬかを田畑に施用すると、作物の味がよくなったり、病害虫に侵されにくくなったりするといわれている。ただ、どうして米ぬかにそのような効果があるのかは、わかっていない。

理由の一つとしてあげられるのは、米ぬかの機能性成分である。米ぬかに含まれる成分には、γ-オリザノール、フェルラ酸、ステロール、ワックス、グルコシルセラミド、トコトリエノール、フィチン、フィチン酸、イノシトール、米ぬかタンパク質など、多くの成分がある。γ-オリザノールは、心身症の抑制や血中コレステロールを低下させる作用が報告されており、フェルラ酸には軽度で高齢発症のアルツハイマー病患者の症状を改善する効果が発見されている。トコトリエノール、フィチン酸、イノシトールにも、多くの機能性作用が確認されている(文献)。

ただし、これらは人が摂取した場合の作用であって、米ぬかを土壌に投入した場合の米ぬかの成分と作物の関係については、何もわかっていない。

他の理由としてあげられるのは、微生物の働きである。米ぬかを放置しておくと、すぐに細菌や菌類などの微生物が繁殖する。土壌に投入された米ぬかには、土壌微生物が繁殖し、土壌中や空気中の微生物が多様化することで、特定の病原菌の増殖が抑えられるという説がある。確かに、土壌微生物が多様化すると、病原菌の増殖が抑制されるという研究報告はある。しかし、土壌微生物は、良質な堆肥などの施用でも増殖するので、米ぬかだけにそのような作用があるわけではない。また、微生物が多様になることと、収穫物の味が良くなることの因果関係もわからない。

米ぬかを、元素の組成から見ると、以下のとおりである。
水分率:10%
C炭素:40~48%
N窒素:1~3%
P2O5リン酸:2~5%
K2Oカリ:1~2%
C/N比:18~34
(水分以外は乾物当たり%)

また、有機化合物として見ると次のとおりである。
デンプン:~70%
タンパク質:10~15%
脂質:20%
繊維:10%
(乾物当たり%)

栄養素の元素としては、リン酸の含有量が多い。C/N比は18~34で、かなり大きい。デンプン70%、タンパク質10~15%、脂質20%で、熱量(エネルギー)が大きい。難分解性の繊維は10%しかなく、粉状なので微生物が分解しやすい。

有機物のC/N比は、堆肥の製造や使用では、重要視される。土壌中に有機物が存在すると、土壌微生物は有機物を分解しながら増殖する。土壌微生物のC/N比は5~10であるが、有機物には、微生物の成長や増殖に必要なエネルギー(糖類、脂質など)や栄養素がいつもバランスよく含まれているわけではない。有機物に糖類など炭素が少なく窒素が多ければ(C/N比が小さい)、余分な窒素はアンモニアや硝酸として大気中や土壌中に放出される。逆に、有機物に糖類などが多く窒素が少なければ(C/N比が大きい)、微生物は土壌中や大気中の窒素を細胞内に取り込む。微生物による土壌中の窒素の取り込みが急激に進んで、作物が窒素を吸収できなくなると、いわゆる「窒素飢餓」の状態になる。

有機物の中でC/N比が大きいのは、木材や樹皮(バーク)で、その値は500~1200にもなる。このため、作物や園芸の教科書には、おがくずやバークが入った堆肥はC/N比が大きいので、窒素飢餓に注意するようにと書いてある。市販されている家畜糞堆肥の多くはおがくず堆肥やバーク堆肥であるが、これらの堆肥で窒素飢餓が起きたという話は聞いたことがない。それは、窒素飢餓がおきるかどうかは、有機物のC/N比だけでは決まらないからである。

セルロースは、地球上にもっとも多く存在する有機物で、分解が難しい。セルロースを分解できるのは、分解酵素セルラーゼを有する細菌、菌類、一部のシロアリなどである。リグニンは芳香族化合物が、網目状に結合したポリマーで、セルロースに次いで多く、もっとも分解しにくい有機物である。リグニンを分解できるのは、分解酵素のペルオキシダーゼ遺伝子を有する白色腐朽菌だけである(2016.10.7ブログ)。

木材は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンからなる。木材のセルロースは結晶状の束になっており、これをヘミセルロースが架橋して骨格を形成し、骨格の隙間にはリグニンが充填されている。木材は鉄筋コンクリートのような高次構造を有し、きわめて優れた強度と耐久性を持つ。木材を分解するのは難しく、担子菌(きのこの仲間)の白色腐朽菌だけが、これを完全分解できる唯一の生物とされる。しかし、白色腐朽菌であっても、木材を分解するには、数年~10年を要する。未分解のおがくずやバークを土壌中に入れても、きわめてゆっくりとしか分解が進まないため、短期的な土壌の化学性に影響を与えない。

米ぬかの成分は、ほとんどが易分解性で、熱量(エネルギー)が大きいため、微生物によって急速に分解が進む。米ぬかのC/N比は18~34と高く、増殖した微生物は窒素が不足するので、土壌中の窒素を急速に細胞内に取り込む。土壌は、窒素飢餓の状態になる。

微生物は、米ぬかのエネルギー(熱量)を消費してしまうと、それ以上は増えることができなくなる。資源が枯渇して多くの細胞が死滅し、芽胞や胞子を形成(有性生殖)して、休眠状態になる。死滅した細胞から窒素やリンなどの栄養素が、ゆっくりと土壌や大気中に放出され、これを作物が吸収する。

冷涼地や乾燥地を起源とするC3植物を、温暖多湿の場所で栽培した場合、生長速度がもっとも大きくなる時期に、生育のブレーキが働くのではないかと書いた。このとき、何らかの機構によって、細胞壁の構造を支えるセルロースやリグニンなどの合成が抑制され、窒素の余剰が生じて、組織が軟弱になるのであろう。病原菌や昆虫は、細胞壁のセルロース、リグニンを分解できないので、これらの構造化合物が少ない軟弱な部位を侵す。

そこで、作物の生育のブレーキが働く時期に、根からの窒素の吸収を中断すれば、組織の強固さを維持することができて、病害虫に侵されにくくなると考えられる。また、収穫物の食味は、窒素含有量が少ないほど良好になる傾向がある(2016.3.5ブログ)。

以上のことから、米ぬかを施用すると、作物が病害虫に侵されにくくなったり、収穫物の味がよくなったりするのは、米ぬかで増殖した微生物によって、作物の窒素吸収が一時的に断たれるためと考えられる。じっさいに、山梨県のブドウ農家の中には、初夏の時期に米ぬかを園地に散布するようになってから、果実の糖度が上昇し、灰色かび病の被害が減ったという報告もある(文献参照)。

日本で栽培されている冷涼地起源のC3植物としては、アスパラガスが代表的である。イネは亜熱帯起源のC3植物だが、野生のイネは涼しい日陰を好む。また、コーカサス起源のC3植物としては、ブドウだけでなく、リンゴ、甘果オウトウ(セイヨウミザクラ)、ヨーロッパスモモ(プルーン)、西洋ナシなど多くの果樹がある。これらの作物を温暖多湿地帯で栽培する場合、同様の米ぬかの利用法が考えられる。

また、北海道のダイズ農家の中には、米ぬかを圃場に投入して、ダイズの生育初期に意図的に窒素飢餓の状態をつくる農家がいるらしい。ダイズの根粒菌は、生育の初期に土中に窒素(硝酸)が多いと生育が悪くなることが知られている。

写真は自家菜園のインゲンである。種まきの直後に米ぬかを散布して、あとは何も施用していないが、良好に生育し、毎年たくさんの実を着ける。

ダイズと同じように空中窒素を固定する作物として、サツマイモがある。サツマイモは、土壌から吸収する窒素よりも、収穫物に含まれる窒素のほうが多いことは昔から知られていたが、30年ほど前に、ブラジルの研究機関によって、茎の中に窒素固定細菌が共生していることが発見された(文献)。このため、窒素が多い肥沃土壌でサツマイモを栽培すると、枝葉が過繁茂になって、イモが太らない(つるボケ)。とくに、夏季の生育の転換期のころに窒素が効きすぎると、イモの肥大が悪くなる。このときに、窒素の吸収を断つ方法として、米ぬかを利用できるかもしれない。

ソバ(タデ科)も、施用窒素よりも収穫物に含まれる窒素のほうが多い作物である。ソバ栽培では、窒素を多く施用すると、地上部が過繁茂になって減収する。タデ科植物は、火山が噴火したあとの原野に、真っ先に進出してくる植物のひとつとして知られており、ソバも何らかの窒素固定する機構を有していることが予想される。今後、ソバの合理的な施肥法が研究されれば、窒素吸収のコントロールに米ぬかを利用できるかもしれない。

なお、きのこは、枯れた立ち木をそのまま分解できるので、大気中の窒素を固定する何らかの機構(窒素固定細菌との共生など)を有していると思われる。

文献
米糠含有成分の機能性とその向上、日本食品科学工学会誌59巻7号、2012
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/59/7/59_301/_article/-char/ja/
米ぬかとことん活用読本、農文協、2004
サツマイモから国内で初めて窒素固定細菌を分離同定した
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/028357.html
サツマイモとサトウキビに内生する窒素固定細菌による固定窒素の量的評価
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16380053/

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