差異性向、不確実性性向:Preference of difference, preference of uncertainty

ある個体Aから見て、自分と遺伝的(DNA)な差異がdの異性Bを選択したとき、Aには存在しない何らかの形質(遺伝子)が、Bに存在する確率をpdとする。遺伝的な差異dが大きいほど、確率pdも大きくなる。たとえば、ニホンザルからみて、同じニホンザルよりも、インドから中国南部に生息するアカゲザルのほうが、自分には無い遺伝子(形質)を持つ確率が高い。個体(単系統)からみると、pdが大きいほど変異速度が大きくなるので、ライバルや環境の変化への対応に有利である。

遺伝的な差異dがごく小さいならば、表現型の変異が起きる確率は小さいので、pd=0である。また、dがどんなに大きくなっても、pdの値は1を超えることはない(0≦pd≦1)。

ただし、遺伝的な差異dが大きすぎると、AとBは接合できなくなる。接合可能な遺伝的差異の大きさには、ある閾値dtが存在する。


d:遺伝的(DNA)な差異
pd:自分に存在しない形質が、異性に存在する確率
dt:接合可能な遺伝的差異の大きさ

なお、ここでの遺伝子(gene)とは、「十分に存続しうるほどには短く、自然淘汰の意味のある単位としてはたらきうるほど十分に長い染色体の一片」、あるいは、「自然淘汰の単位として役立つだけの長い世代にわたって続きうる染色体物質の一部」の意味である(ドーキンス)。

生物が複製によって得ることができる「有利さ」をRcとする。また、異性間の接合によって得られる「有利さ」をRf、異性間の接合によって生じる「不利さ」をRiとする。

「有利さ」については、以下のように定義する。以前、生物のもっともシンプルな定義を、「生物は、記録された情報をもとに不完全な自己複製をする化合物」とした。自己複製を行うには、エネルギーと物質が必要である。そこで、「有利さ」の定義を、「生物が時間当たり質量当たりに獲得できる利用資源の量」とする。利用資源とは、太陽エネルギーと循環する物質のことなので、「有利さ」とは、生物が獲得できる、質量当たりの物質・エネルギー流速度のことである。なお、「不利さ」はマイナスの「有利さ」である。

次に、遺伝的な差異dの異性との接合によって得られる有利さの期待値をef、接合によって生じる不利さの期待値をeiとする。また、Rcが得られる確率は1とする。有利さの期待値ef、および不利さの期待値eiは以下のようにあらわせる。

ef=Rc+Rf・pd
ei=Rc+Ri・pd (Ri<0)
ef:有利さの期待値
ei:不利さの期待値
Rc:複製によって得られる有利さ
Rf:異性との接合によって得られる有利さ
Ri:異性との接合によって生じる不利さ

d=0のときは、自己複製はクローン複製であることを意味する。クローン複製は、単細胞生物に多いが、植物や昆虫のような高等生物でもしばしば見られる。植物では、分げつによって増殖したり、地下茎やりん片で栄養繁殖する種が存在する。昆虫では、アブラムシ、シロアリ、ゴキブリなど、単為生殖によってクローン複製する種がある。

遺伝的差異が存在する異性との接合によって得られる形質が、生存に有利か不利かはアプリオリには決まらない。個体Aにとって、異性Bとの遺伝子の差異が大きいほど、得られる有利さの期待値は大きくなるが、生じる不利さの期待値も同じだけ大きくなる。逆に、遺伝的な差異が小さいほど、得られる有利さの期待値は小さいが、生じる不利さの期待値も小さい。たとえていうと、前者は賞金の期待値は大きいが価格が高い宝くじであり、後者は期待値は小さいが、価格が安い宝くじである。

ここで、有利さの期待値efと不利さの期待値eiの差をuとすると、uは次のようにあらわせる。

u=ef-ei
=(Rf-Ri)pd
u:有利さの期待値と不利さの期待値の幅(期待値幅)

期待値の幅が大きいほど、不確実性が大きく、期待値の幅が小さいほど、不確実性が小さいことを意味する。

大きな期待値幅uを好む個体は、不確実、大胆、勇敢、無謀、冒険、危険、ハイリスクを好む性質であり、遺伝子の変異速度が大きく革新的である。小さな期待値幅uを好む個体は、確実、慎重、臆病、無難、安定、安全、ローリスクを好む性質であり、遺伝子の変異速度が小さく保守的である。

このような、「差異の大きさの好み」(差異性向)、あるいは「不確実性の大きさの好み」(不確実性性向、リスク性向)は、高等生物だけに存在する(学習)わけではなく、遺伝的な形質と予想される。そして、環境やライバルの変化に対応できるように、これらの遺伝子は、遺伝子プール内に、確率的(正規分布)にばら撒かれているのが、種(遺伝子プール)の存続にとって合理的である。

生物は、自己複製の際に、クローン複製、自家受精、近親交配を避ける(大きなdを選択する)のがふつうであるが、逆にこれを行う場合(小さなdを選択する)がある。

一般には、遺伝子の変異速度が大きいほど、ライバルとの生存闘争に有利なので、大きな差異や大きな不確実性を好む個体のほうが有利である。しかし、利用資源が豊富にあり、遺伝子プールの個体数が増えている場合は、小さな差異や小さな不確実性を好む個体のほうが有利になる。なぜなら、遺伝的差異の大きな異性を選択すると、選択のためのコストが大きくなり、接合できなくなる確率も高くなるからだ。利用資源が豊富に存在する場合は、変異速度を大きくしてライバルと闘う必要がないので、遺伝的差異が小さい異性を選択する個体のほうが、選択・接合コスト(期待値)が小さく、有利になる。


d:遺伝的(DNA)な差異
c:選択・接合のコスト(期待値)

このような現象は、多くの生物で見られる。イネ科、ユリ科、ヒガンバナ科の多年草では、土壌が肥沃で生育条件が良好なときは、分げつ、球根、りん片などで栄養繁殖(クローン複製)して群落を形成する。生育条件が悪化すると、種子を多く着生(有性生殖)して、遠くに種子を拡散しようとする。

アブラムシは、宿主植物が豊富な春から夏にかけては、メスがクローン複製を繰り返して個体数を急増させ、コロニーを形成する。生存条件が悪化する秋になると、オスとメスが有性生殖で卵を産み、卵で越冬する。

野生のイネ科植物やマメ科植物は自家不和合性で、自家交配しない性質がある。ところが、栽培コムギ、栽培イネ、ダイズでは、自家受粉して稔実する。栽培植物では、人間が除草してライバルを駆逐したり、肥料を十分に施したりするので、遺伝子の変異速度を大きくする必要がない。そのため、遺伝的差異が大きい株と他家交配するよりも、自家交配したほうが有利になる。

利用資源が豊富なときは、小さな差異、小さな不確実性を選択した遺伝子が有利であり、生存条件が悪化したときは、大きな差異、大きな不確実性を選択した遺伝子が有利である。地球環境の変動やライバルの変化に対して、生き残れた遺伝子および遺伝子プールだけが存続できた。

「『同性の個体間の激しい闘争』こそが、自然選択の核心である」と書いたが、「魅力的な異性の選択」も「同性の個体間の激しい闘争」のひとつである。(つづく)

文献
Charles Darwin, The Origin of Species, The sixth edition, 1872
リチャード・ドーキンス、1976、『利己的な遺伝子』、紀伊國屋書店、増補新装版、2006

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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