クジャクの装飾の有利性:Favourable of peacock decoration

SHINICHIRO HONDA

キジ亜科の鳥には、シャコ属、ユキシャコ属、セッケイ属、ウズラ属、クジャク属、キジ属、ヤマドリ属、ヤケイ属など多くの種が含まれる。キジ科鳥類の生態上の特徴は、地上で生活することであり、植物の種子、昆虫など、地上にいる生物を採食する。

キジ亜科のなかで、オスの尾羽が大きく、オスとメスの姿が異なるのは、クジャク属、キジ属、ヤマドリ属、ヤケイ属などであるが、これらは森の中で暮らす。

一方、草原、岩場、雪上などで暮らす、シャコ属、ユキシャコ属、セッケイ属、ウズラ属などは、尾羽が大きくならず、オスとメスの姿が似ている。

クジャクは、森の中で生活する。森の中では姿が見えないので、選択の要素として音波を利用するのが有効だ。じっさいに、クジャクは繁殖期に、大きな声で鳴いて異性に存在をアピールする行動をとる。また、危険を察知したときにも、大きな警戒音を発する。

クジャクのおもな捕食者は、トラやヒョウであるが、森に暮らすネコ科の肉食動物は、嗅覚と聴覚が優れている。クジャクが異性を誘うために、頻繁に鳴き声を出したり、フェロモンなどのにおいを放出したりすると、トラとヒョウに発見されやすい。森の中には身を隠す茂みが多くあるので、音やにおいを消せば、発見されにくい。

においと音に敏感な捕食者の存在のため、クジャクやキジの祖先のメスは、オスを選択する要素として、においや音を十分に利用できなかったのであろう。そこで、自分とオスとの遺伝的な差異を、オスの鳴き声だけでなく、尾羽の大きさや模様で判断する形質を獲得したと考えられる。

鳴き声で、お互いを近くまで誘い、姿が見えるところまで来たら、電磁波(光)を利用して、形や色で選択する。

自分と姿が異なる異性ほど、遺伝的な差異が大きいので、自分と形や色の差異がより大きなオスを選択すれば、遺伝子の変異速度を大きくすることができる。オスのほうは、尾羽が大きく目立つ個体(系統)ほど、メスに選択される確率が高いので、形や色が装飾化する方向に変異(進化)が進む。

尾羽の大きさや装飾そのものには、生存に有利な機能が無くても、オスとメスの形や色の差異を、オスとメスの間の遺伝的な差異の大きさの基準にすることはできる。遺伝的差異が大きいということだけで、遺伝子の変異速度を大きくできるので、ライバルとの競争には有利である。これが、クジャクやキジのオスが、装飾化の方向に変異(進化)した理由と考えられる。

この装飾化の方向への変異は、超タカ派のスミロドンやデイノテリウムが「自分のコピー」からのしっぺ返しによって絶滅してしまったほど進むことはない。なぜなら、クジャクには、トラやヒョウなど強力な捕食者が存在するので、フィッシャーが指摘したように、尾羽の装飾化の変異は、装飾によって得られる有利さ(メスに選ばれる)が、装飾によって生じる不利さ(トラに捕食される)に相殺されるところで進化的に安定になる。(つづく)

補足
クジャクのメスは、オスの羽の大きさや模様ではなく、オスの鳴き声で選択しているという研究がある。しかしこの研究は、飼育下のクジャクの行動を観察したものである。人間に飼育されているクジャクは、捕食者に襲われる心配がないので、鳴き声を抑制する必要がない。そのため、性選択の要素として、音(鳴き声)の影響が大きくなったと考えられる。じっさいに、野生状態のクジャクでは、オスの装飾とメスの選択には相関関係が認められている。そもそも、クジャクのメスが鳴き声だけでオスを選択しているとする立場は、オスが装飾化の方向へ変異した理由を説明できない。

クジャクの尾羽の謎 2

文献
Charles Darwin, The Origin of Species, The sixth edition, 1872

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