ウイルス vs 脊椎動物:Virus vs Vertebrata

ウイルスの大きさ(直径)は、アーキアやバクテリアの1/10ほどしかない。多細胞生物である人間と比べると、1/108である。

ウイルス :数十nm~数百nm
アーキア :0.5µm~数µm
バクテリア:0.5µm~5µm
真核生物 :数µm~数十m

ウイルスの遺伝子は多様で、もっとも小さなウイルスは2個のタンパク質をコードするにすぎないが、最大のものは、2500個のタンパク質をコードするという。一般的なウイルスの遺伝子は、数十個のタンパク質をコードしている。ウイルスは、単独では自己複製することができず、宿主であるアーキア、バクテリア、真核生物に寄生して生存している。

ウイルスは、他の生物に比べてきわめて小さい。小さいということは、複製に要する物質やエネルギーの量が小さいので、世代時間tgがきわめて小さくなる。tgが小さいほど変異速度が大きくなるので、ウイルスは宿主よりも有利である。とくに、身体が大きな多細胞生物は、複製に必要な蓄積資源量が大きいので、世代時間tgは大きい。多細胞生物は、ウイルスの寄生に対して対抗できないはずだ。

変異速度の大きなウイルスに対抗するのが免疫であり、多細胞生物は、免疫を獲得したことで身体を大きくすることができたのであろう。免疫には、自然免疫と獲得免疫がある。自然免疫は、次世代に引き継がれる遺伝的な情報であり、獲得免疫は、複製のあとに獲得される遺伝的な情報だ。

脊椎動物の獲得免疫を担う免疫細胞には、T細胞とB細胞がある。これらの免疫細胞が他の体細胞と違うのは、細胞が生成して成熟していく過程で、レセプター(受容体)遺伝子の組換えが行われることだ。ふつうの体細胞は、同一化によって変異速度をゼロにしているので、変異速度が大きいウイルスの侵入に対して無力である。そこで、免疫細胞のレセプター遺伝子の変異速度を大きくすることで、ウイルスの変異速度に対抗している。

T細胞レセプター(TCR)とB細胞の免疫グロブリン(Ig)で起きる遺伝子の組換えは、V(D)J遺伝子再構成(V(D)J recombination)と呼ばれている。

免疫細胞のレセプター遺伝子は、切断したV、D、Jの遺伝子断片を組換えることで、遺伝子の変異速度を飛躍的に大きくしている。遺伝子組換えによって、何十万種類ものT細胞、B細胞が作られ、未知の病原・抗原に対抗できるように準備している。

「獲得」というのは、一度感染したウイルスの情報にもとづいて、免疫細胞がいつでも対抗できるような状態になることだ。

生成したばかりで、抗原と出会う前のT細胞は、何も仕事をしない状態(ナイーブT細胞)にある。病原などが侵入し、樹状細胞から抗原の情報を受け取ると、ナイーブT細胞は活性化してエフェクターT細胞になる。エフェクターT細胞は、増殖して病原・抗原を攻撃する。病原・抗原がいなくなると、活動を終えたエフェクターT細胞は死んで減少するが、一部はメモリーT細胞になって体内に残る。再び同じ病原・抗原が侵入すると、メモリーT細胞は、すばやくエフェクターT細胞に変化して、病原・抗原を攻撃する。

免疫細胞は、造血幹細胞から作られる。造血幹細胞は胎児のときは肝臓に存在するが、出生後は骨髄で活動する。B細胞は骨髄で生成し、T細胞は胸腺で生成する。

遺伝子組換えによって起きる免疫細胞の変異は、ランダム(中立)なので、当然、「自己」を攻撃する有害な変異も起きてしまう。胸腺では、胸腺上皮細胞や樹状細胞が、有害な細胞や無効な細胞を殺し、有力な細胞を残している。

これは、多細胞生物が、生殖細胞を大量に複製し、配偶子や卵を環境中に放出して、適応速度を大きくする「構造的な選択」と似ている。

脊椎動物が強害なウイルスに感染すると、多くの個体が死亡するが、免疫を獲得して生き残る個体も多く存在する。現存する脊椎動物は絶滅せず存続してきたので、免疫細胞のレセプター遺伝子の変異速度は、ウイルスの変異速度よりも大きいはずだ。一方、ウイルスも絶滅せずに存続しているので、両者の闘争は拮抗(平衡)している。

変異速度が劣るウイルスが生き残る方法としては、以下のパターンが考えられる。

(a)抗体を破る形質(変異)の獲得
ある遺伝子プール内で、ウイルスに対する抗体を獲得した個体の割合が高くなっても、ウイルスが変異すると、遺伝子プール内に再び感染・蔓延することが可能になる。

(b)同じ遺伝子プール内の年代乗り換え
ウイルスは、遺伝子プール内の、抗体(メモリー細胞)がない若年層に感染する。そして、次々と若い年代の個体に感染し、「年代乗り換え」を行う。宿主が、世代時間が長く遺伝子プールが大きい生物種なら、ウイルスは、年代乗り換えによって、同じ遺伝子プール内で永続的に存続することができる。

(c)遺伝子プールの乗り換え
ウイルスは、遺伝子プールから別の遺伝子プールに乗り換えながら感染する。同種内の遺伝子プールを次々と乗り換えるのは普通であるが、種を乗り換えることもしばしばある。
ウイルスは遺伝子の量が少ないので、遺伝子が変異すると、以前に持っていた形質を維持できなくなる可能性が高い。一方、脊椎動物の宿主では、獲得した情報(メモリー)は、次の世代に遺伝しないので、こちらも、次第に遺伝子プールから失われていく。これは、カッコウがスズメ目の宿主を次々と乗り換えて存続する「変異の共振による進化的な安定」と似ている(2017.2.20ブログ)。

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cn:カッコウの遺伝子プール内における、宿主種nに対する托卵可能遺伝子の量
hn:宿主種nの遺伝子プール内における、托卵拒否遺伝子の量
tc:カッコウが宿主の種を乗り換える平均時間
th:宿主種の遺伝子プール内に、托卵拒否遺伝子が存在する平均時間
h=∫cdt+kt   (t1≦t≦t2
n・tc=th

ウイルスと他の生物が決定的に違うのは、ウイルスは、他の生物に寄生しないと、自己複製できないことである。もし、きわめて強害なウイルスが出現して、宿主を絶滅させてしまえば、ウイルス自身も絶滅する。なので、現在、地球上に残っているウイルスは、宿主を絶滅させない(自分が絶滅しない)ウイルスである。寄生しないと自己複製できないウイルスは、宿主との「共存」以外に生き残る方法がない。(つづく)

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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