表現型変異の速度:Phenotypic mutation speed

生物の自己複製を、以下のように分類する。

複製 非変異
変異 非表現型
表現型 非生存
生存 非有利
有利

複製には非変異と変異があり、変異には非表現型と表現型がある。表現型変異には有害な非生存の変異と生存可能な変異がある。表現型の生存可能な変異には、生存に非有利な変異と有利な変異がある。ただし、変異が非有利か有利かは、競争者、捕食者、寄生者、環境条件などによる自然選択の結果によって決まる。

生存条件が良好なときは、表現型変異の非生存以外はすべて生存できるので、個体数が増えて、かつさまざまな変種や新種が分化する。強力なライバル種が現れたり生存条件が悪くなったりすると、非変異や非表現型変異の個体でも生存できなくなり、表現型変異のうち、生存に有利な変異だけが生き残る可能性がある。

生存に有利な変異の速度が「適応速度」であるが、変異は中立であり、変異が生存に非有利か有利かはアプリオリには決まらない。すなわち、適応速度は、アプリオリには決まらず、自然選択の「結果」としてしかわからない。種の適応速度を、構造的に左右しているのは、おもに表現型変異の速度である。

種の個体数は、季節の変動や地球環境の変動によって、増加したり減少したりする。競争排除則と赤の女王仮説によれば、競争力の弱い種は、次第に個体数を減らして絶滅してしまう(文献)。逆に競争力がきわめて高く、個体数が増加しつづける種が存在すれば、利用資源を大量に消尽して、ライバル種や被捕食種を絶滅させてしまうはずだ。ただし、その場合でも、マルサスとロジスチック方程式によって、環境収容力を超えて増加することはできない。超タカ派に変異して、絶滅する確率も高くなる。

現存している生物種は、絶滅しておらず、他の生物を絶滅させてもいないので、現存する生物種の個体数は、長期的には安定していると考えられる(人間をのぞく)。

変異速度1

生物種の個体数が長期的には安定のとき、種の1つの個体が自己複製を繰り返して、長期的に生存している場合(単系統)を考える。複製から次の複製までの時間をtg、時間t後の個体数は1のままとすると、時間tの間の複製回数はt/tgである。個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率をp0とすると、時間tの間に、単系統で表現型変異が起きる回数ci(t)は、以下の式で与えられる。

ci=p0t/tg
p0:個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率
tg:世代時間

単系統の表現型変異回数の時間あたりの変化量をriとすると、riは単系統の表現型変異の速度を意味している。

ri=dci/dt
=p0/tg
ri:単系統の表現型変異の速度

次に、個体数mの遺伝子プールでは、時間tの間に表現型変異が起きる回数cm(t)、遺伝子プールの表現型変異の速度rmは、以下の式で与えられる。

cm=p0mt/tg
rm=dcm/dt
=p0m/tg
rm:遺伝子プールの表現型変異の速度
m:遺伝子プールの個体数

上記の式から、生物種の個体数が長期的に安定である場合、p0、mが大きいほど、あるいはtgが小さいほど、rmが大きくなることがわかる。

p0が大きいほどrmが大きくなり、競争者や寄生者への対抗に有利であるが、p0には閾値が存在する。p0が大きくなるほど、非変異と表現型の非変異の確率が小さくなり、また変異は中立なので、非生存の確率が大きく(生存確率が小さく)なってしまうからである。

変異確率1
p0:個体の1回の複製時に表現型変異が起きる確率
rm:遺伝子プールの表現型変異の速度
s:変異後の生存確率

また、有性生殖では、p0の値にはさらなる限界がある。有性生殖での遺伝子の交換と組換えは、同種の異性の個体間で行われる。表現型の変異が生存可能な変異の範囲内であったとしても、異性の個体間の遺伝的な距離(差異)が大きくなって、遺伝子の交換ができなくなってしまえば(大型犬と小型犬など)、遺伝子プールの個体数mの大きさを維持することができない。

すなわち、p0が大きくなるとrmは大きくなるが、p0がさらに大きくなると、mは大きな値をとれなくなって、rmも大きくならない。

変異確率2
m:遺伝子プールの個体数

このように、p0の値には限界があるので、rmを大きくしてライバル種に対抗するには、mを大きくするか、tgを小さくするしかない。

なお、環境中に大きなニッチが生じたり、生存条件が良好になったりして、mが増加しているときは、

dm/dt>0
drm/dt>0

となるので、rm→大となって、変種や新種が生じやすくなる。

逆に、生存条件が悪化したり、個体数が環境収容力に近づいて生存競争が激化すると、mは増加しなくなるので、

dm/dt<0
drm/dt<0

となり、rm→小になる。

地球環境の大変動がおきて、急激にm→小になると、生物種は環境変化に対応することが難しくなり、大量絶滅につながる可能性が高まるが、その一方では、ライバルがいなくなった世界で、生存に有利な変異だけが生き残って、次の大進化と大増殖の条件ができる。(つづく)

文献
マルサス、1798、人口論、光文社、2011
Leigh Van Valen, 1973, A new evolutionary law
https://dl.dropboxusercontent.com/u/18310184/about-leigh-van-valen/Piglet%20Papers/1973%20new%20evol%20law.pdf

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 19,714

有性生殖だから遺伝的多様性が大きいというわけではない:It is not that genetic diversity increases by sexual reproduction

ウイルスは、RNAまたはDNAと、それを包むタンパク質の殻(カプシド)から成る。その大きさは、数十nm~数百nmとされる。n(ナノ)は10−9倍である。ウイルスは細胞膜をもたず、ATPやタンパク質合成もできない。ウイルスは単独では自己複製できず、宿主生物に寄生したときだけ増殖できる。ウイルスは自己複製の際に遺伝子が変異するだけでなく、異なる株のウイルス間で、断片化された遺伝子を組換えて(viral sex)、両方の性質をもった子孫ウイルスが生まれることがあるとされる(文献参照)。

ウイルスセックス

アーキア(古細菌)の大きさは、0.5µm~数µmで、最大のものは10数µmである。µ(マイクロ)は、10−6倍である。ほとんどは球菌または桿菌であるが、アメーバのような種や、複数の細胞が集合する種も存在する。アーキアは、同種の個体間で接合し、壊れたDNAを修復したり、遺伝子を交換して組換えることがある。

バクテリア(真正細菌)は、古細菌とほぼ同じ大きさで、0.5µm~5µmである。最大では、750µmに達する種が知られている。一般には無性生殖で増殖するが、生存条件が厳しくなったとき、接合(有性生殖)して遺伝子を交換する。

真核生物で最小といわれるプラシノ藻は、アーケプラスチダ、緑藻植物門の単細胞生物で、大きさは1µm~数µmしかない。葉緑体は1個しかないが、光合成によって水とCO2から糖を生産できる。おもに、無性生殖で増殖するが、接合して有性生殖する種も報告されている。

プラシノ

ゾウリムシは、アルベオラータ、繊毛虫門の単細胞生物で、長さ90µm~150µm、幅40µmほどの大きさである。細胞表面の繊毛で運動し、細菌や酵母などを捕食する。無性生殖のときは、2つに分裂する。有性生殖では接合して遺伝子を交換するが、細胞そのものは融合しない。

ゾウリムシ

酵母は、真核生物で、菌界子嚢菌門の単細胞生物である。糖を分解してアルコールとCO2を生じる(アルコール発酵)。「酵母」とは、生物学上の分類ではなく、多くの異なる種が含まれる。大きさは直径 3〜4µmであるが、40µmまで成長するものもある。

代表的な酵母に、サッカロミケスがある。サッカロミケスは、醸造、パン発酵などに広く用いられ、人間にとってきわめて重要な種である。カビなどと同じ子嚢菌門であるが、菌糸はない。栄養分が豊富にあると、2時間ごとに出芽して分裂・増殖するが、これを出芽酵母と呼ぶ。出芽酵母は、母細胞が成長して大きくなると、細胞に出芽が生じて娘細胞となり、娘細胞は成長して大きくなる。両者が同じ大きさ(もとの2倍)になったときに、2つに分裂する。これは、無性生殖であり、自己複製してクローン分裂する。

出芽酵母

サッカロミケスには、aとαの2つの性が存在する。これらは染色体数が1本しかない1倍体(n)である。aとαは、栄養分が枯渇すると、フェロモンによって相手を区別し、接合する(有性生殖)。このとき、フェロモンをより多く出している異性を選ぶ。異性と接合すると、細胞が融合して、2倍体(2n)の分裂酵母になる。2倍体の分裂酵母は、栄養条件が良いときは、出芽して増殖するが、栄養条件が悪くなると遺伝子の組換えと減数分裂が起きる。4つに分裂して、それぞれ1倍体の細胞になる(図)。

酵母サイクル

分裂酵母では、aとαがそれぞれ成長して2倍の大きさになったとき、aとαは接合して減数分裂し、4つの子供細胞ができる。これは、大きさ(蓄積資源量)でみれば、2つの細胞の大きさが2倍になったとき、4個(2倍)になるので、出芽酵母(無性生殖)と同じ比率である。

分裂酵母

酵母は、生育条件が良好な環境では無性生殖で増殖し、条件が悪くなると異性と接合して生き延びようとする。つまり、生存条件が良いときは、無性生殖が有利で、生存条件が悪いときは、有性生殖のほうが有利ということを示している。

また、有性生殖の本質は、「同種の個体間の遺伝子の交換と組換え」であると考えると、ウイルスを含むすべての生物で、遺伝子の交換と組換えが起きる。

減数分裂

有性生殖の減数分裂では、まず生殖細胞でDNA複製が行われ、元の染色体と同じ配列の2本の染色体が生成される(姉妹染色分体)。次に、姉妹染色分体同士が対合して2価染色体を形成し、組換えが行われる。その後、それぞれの相同染色体が分離して、減数第1分裂が終了する。つづいて、減数第2分裂が始まり、2の姉妹染色分体が別れ、配列の異なる4つの配偶子ができる。

このような有性生殖の遺伝子の交換と組換えは、一般には、遺伝子の多様性を大きくする仕組みと考えられている。しかし、遺伝子の変異が起きるのは、複製によってDNAが合成されるときである。また、変異というのは、「不完全な自己複製」のことであり、中立説では、突然変異は偶然に、中立に起きる。

遺伝子の交換と組換え時にも、何らかの「不完全さ」が生じる可能性はあるが、組換え時にはDNA合成が行われるわけではないので、1次的な機能をもった遺伝子が新たに生成する可能性は小さい(後述)。すなわち、複製の不完全さ(変異確率)そのものは、無性生殖も有性生殖も同じと考えられる。

遺伝子の多様性というのは、種の遺伝子プール内の個体の遺伝子の差異のことである。遺伝子プール内で生じる時間当たりの変異の数が、無性生殖も有性生殖も同じならば、時間当たりに生じる遺伝子の多様性は、無性生殖も有性生殖も同じであるはずだ。

一般に、生物が有性生殖を行うのは、遺伝子の多様性を増すためと解釈される。しかし、遺伝子プール内で生じる時間当たりの遺伝子の差異は、無性生殖も有性生殖もほぼ同じと考えられ、遺伝子の多様性という理由では、コストが高い有性生殖の有利性を説明できない。(つづく)

文献
Umene K. Mechanism and application of genetic recombination in herpesviruses. Reviews in Medical Virology. 1999
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10479778?dopt=Abstract
Ascospore Formation in the Yeast Saccharomyces cerevisiae
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1306807/
減数分裂時に起こる遺伝的組換え機構
https://www.nig.ac.jp/museum/genetic/07_b.html

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 20,993

寿命はなぜ存在するのか:Why does life span exist?

地球の大きさと、太陽から地球に注ぐ、時間当たりのエネルギーの量(エネルギー流速度)には、限界がある。そのため、「必然性、すなわち厳然と全体を支配する自然の法則が、生命の数をあらかじめ定められた範囲内に制限するのである。植物も動物も、この偉大なる制限の法則のもとで縮こまる。」(Malthus、1798)。すなわち、古い個体(遺伝子)が死なないと、次の世代の個体(遺伝子)は生存することができない。次の世代が生まれないと、自己複製とそれに伴う複製ミス(変異)が起きないので、生物は進化(変異)しなくなる。

%e3%83%ad%e3%82%b8%e3%82%b9%e3%83%81%e3%83%83%e3%82%af

古生物の考古学的な絶滅の証拠と、赤の女王仮説(Valen,1973)によれば、種は絶え間なく進化(変異)しつづけなないと、生存しつづけることができない。種の遺伝子プールが、古い個体(遺伝子)ばかりで占められて、新たな変異(遺伝子)があらわれなければ、その種は、捕食者、寄生者、競争者に敗れ、あるいは環境変化に対応できず、絶滅してしまう。

%e8%b5%a4%e3%81%ae%e5%a5%b3%e7%8e%8b

上の2つの理論から、生物の個体には、寿命が存在することが、論理的に必然である。生物種の寿命は、種にとっての環境収容力K(利用資源、空間など)が大きいほど、あるいは、競争者、寄生者、捕食者が少ないほど、長くなると考えられる。

なお、ドーキンスの定義によれば、個々の生物は、「遺伝子の乗り物、すなわち遺伝子機械」とされる。別の言い方では、「生存機械」、「遺伝子の受動的な避難所」、「ライバルとの化学的な戦いや偶然の分子の衝撃の被害から身をまもる壁」などと述べられている。また、「遺伝子」(gene)は、「十分に存続しうるほどには短く、自然淘汰の意味のある単位としてはたらきうるほど十分に長い染色体の一片」と定義されている。あるいは、「自然淘汰の単位として役立つだけの長い世代にわたって続きうる染色体物質の一部」とか「複製忠実度のすぐれた自己複製子」などとされる。有性生殖を行う生物では、「性と交叉によって遺伝子プールはよくかきまぜられ、遺伝子は部分的にまぜられる」状態にあり、「遺伝子は、死ぬべき運命にある生存機械を次々につくっていくために、遺伝子プールから相ついでひきだされてくる仲間の集団と協力して、生活をたてている」。(Dawkins,1976)

文献
マルサス、1798、人口論、光文社、2011
Leigh Van Valen, 1973, A new evolutionary law
https://dl.dropboxusercontent.com/u/18310184/about-leigh-van-valen/Piglet%20Papers/1973%20new%20evol%20law.pdf
リチャード・ドーキンス、1976、『利己的な遺伝子』、紀伊國屋書店、増補新装版、2006

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 44,322