競争―草原でのウシ科、ウマ科、ネズミ、イネ科、マメ科、菌類、細菌の関係

Competition―Relationship of bovidae, equidae, muroidea, poaceae, fabaceae, fungus, bacteria in grassland

「競争」というのは、ありふれた概念であるが、きちんと考えようとするとかなりやっかいである。日本語の「競争」という言葉は、福沢諭吉が経済学で使われていた英語のcompetitionを、「競い争う=競争」としたらしい。competeは、com(一緒に)とpet(追い求める)が語源とされている。

経済学ならば、人間が市場や社会で、何かを「一緒に追い求める」ということは、成立するであろう。しかし、ESSとゲーム理論のところ(2017.1.20ブログ)でも触れたように、自然界では、異種を捕食(殺す)することはあたりまえであり、同種のライバルを殺すこともふつうにみられる。

最初は「一緒」に競争していても、競争の過程で相手を殺したり、結果として相手が死んでしまえば、もはや「一緒」でなくなるので、競争ではなくなる。結果まで含めて「競争」という言葉で表現できないので、「競争」という言葉は、相手が死なないことを前提にしていることがわかる。

ダーウィンは、『種の起源』の中で、生存闘争のことを、struggle for existence 、あるいはstruggle for lifeという言い方をしている。生物では、ライバルが死なないことを前提にする状況はまれなので、ここでは、競争を以下のように定義する。

競争(competition):同じ資源を追い求める異種または同種の生物間の、ライバル種または自己の種が絶滅しない状態の生存闘争

ライオンとトムソンガゼルは、生存闘争しながら共存しているが、同じ資源を求めているわけではないので競争ではない。トムソンガゼルとヌーは、同じ資源を求めて闘争しているが、両方とも絶滅していないので、競争している。トムソンガゼル同士も激しく闘争するが、種が絶滅するほどではないので、トムソンガゼル同士も競争している。

ダーウィンに大きな影響を与えたマルサスの『人口論』(1798年)には、次のように書かれている(文献参照)。

人口は、何の抑制もなければ、等比級数的に増加する。生活物資は等差級数的にしか増加しない。(人口論、p30)

必然性、すなわち厳然と全体を支配する自然の法則が、生命の数をあらかじめ定められた範囲内に制限するのである。植物も動物も、この偉大なる制限の法則のもとで縮こまる。そして人間も、理性をいかに働かせようと、この法則から逃れることはできない。(同、p31)

「等比級数的に増加する」というのは、人口100人の町で1年で110人に増えたとすると、1000人の町なら1100人に増えるはずということだ。それぞれの1年当たり増加数は10人と100人なので、時間当たりの増加数(増加速度)Δxは、もとの人口xに比例する。数式では次のようになる。

Δx=dx/dt=mx

mは増加率をあらわし、マルサス係数と呼ばれる。この微分方程式を満たす時間関数x(t)は、以下の式になる。

x(t)=x(0)emt

eは自然対数であり、xは指数関数なので、「指数関数的に増大する」とも表現される。

引用の下段の「生命の数をあらかじめ定められた範囲内に制限する」ということを、数学的に最初に表現したのが、ベルギーの数学者のピエール=フランソワ・フェルフルストである(Verhulst,1838)。(じっさいには、のちに何人もが同様の数理モデルを独自に考案している)

dx/dt=rx(1-x/K)

式を見ればわかるように、人口xが小さいときは増加率が大きいが、xが大きくなるにつれて、増加率は小さくなる。xがKを超えると、xは減少するようになる。rは内的自然増加率、Kは環境収容力と呼ばれる。フェルフルストは、これを、ロジスティック方程式と名づけた。この微分方程式を満たすx(t)は、以下の時間関数で与えられる。

x(t)=K/(1+C・e-rt
C=K/ x(0)-1

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ロジスティック方程式をもとに考え出されたモデルが、ロトカ・ヴォルテラの競争方程式である(Volterra,1926,1931)。

dx/dt=r1x(1-(x+ay)/K1
dy/dt=r2x(1-(bx+y)/K2

上段の式では、種xと種yの個体数が増えると、xの増加率は次第に減少するが、a<1ならライバル種yの影響のほうが小さいので、x同士の種内闘争が激しくなる。a>1ならライバル種yの影響が大きく、種間闘争が激しくなる。

この連立微分方程式をアイソクライン法などで解析すると、両種が共存できる条件は、ab<1のときで、種間闘争が種内闘争よりも小さいときである。種間闘争のコストが小さくなるのは、おもには、xとyの食べ物(利用資源)と棲む場所(空間)が異なるときである。

食べ物(利用資源)や棲む場所(空間)が同じときは、種間闘争が激しくなってどちらかが絶滅するので、「競争排除則」とも呼ばれる。

「競争排除則」によれば、優位な種によって他の種はどんどん絶滅に追いやられ、種数は次第に少なくなるはずである。しかし、じっさいの自然界では、非常に多くの種が保存されている。多数の種が共存できる条件を知るために、連続ニッチモデル、干渉型競争、ロッタリーモデル、時間変動共存、捕食者の存在による共存などさまざまなモデルが考案されている。じっさいには、きわめて複雑な自然の状態を、ひとつの数理モデルで表現するのは困難であり、個別に調べるほかない。

また、一般に数理モデルでは、種の変異を想定しておらず、進化的に安定であることが前提である。生物(遺伝子)はつねに自己複製しているが、複製は常に不完全で、絶えず変異が生じる。変異の数は、個体数が多いほど、あるいは、自己複製のスピードが速いほど、多くなる。資源や空間にニッチがあるときは、個体間の闘争コストが低く、個体数が増える。変異が淘汰されず、変種や新種が増えて進化的に不安定になる。資源や空間が不足すると、闘争が激しくなって個体数が減少する。自然選択によって、生存に不利な変異は死滅する。

アフリカの草原では、シマウマ、ヌー、トムソンガゼルが同じ場所で草を食べながら共存している状態がしばしば観察される。小原秀雄氏は、このような状態を、シマウマは門歯(前歯)で丈の高い草の先端を噛み取り、ヌーは幅の広い葉を食べ、小さいガゼルは残りの柔らかい葉を選んで食べると報告している。これは、「食い分け」とか「棲み分け」(今西、可児)と表現されることが多いが、生物が主体的に棲み分けているわけではなく、遺伝子のランダムな変異と自然選択の結果、ニッチに適応した種(遺伝子)が生き残ったということである(中立説・自然選択説)。

しかし、上記の草食動物の平和的な共存関係は、雨季の植物が豊富な時期には成り立つかもしれないが、生物が生存できる個体数は、もっとも植物が少ない時期の植物の量に左右される。草原の植物がどんどん少なくなり、多くの草食動物が死んでいく状況で、このような、動物同士の平和的な共存が成立するとは思えない。食べ物が少なくなったときに、どうして弱い種が排除(絶滅)されずに生存できるのであろうか。

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アフリカのサバナ草原は、雨が少ないところは乾燥サバナ、多いところは湿潤サバナなどと呼ばれるが、植生の変化は連続的である。降水量が少ないところは樹木がほとんど無い草原になり、降水量が多いほど樹木が増加する。草本は、イネ科植物がもっとも多く、次いでマメ科植物が多い。

イネ科植物は、土壌中の難溶リンを溶解する能力が高く、根は浅い層に集中して伸びる「ひげ根」である。水分蒸散のために、地下から土壌水が上昇する乾燥気候に適応している。また、根の表面には、窒素を固定する細菌(Azospirillum)が生息しており、イネ科植物と共生関係にある。Azospirillumの窒素固定力はそれほど大きくないが、イネ科植物は、窒素が少ないやせた土壌でも単独で群落を形成することができる。イネ科植物は、1~2年生が多く、雨が降らない乾季は、硬い種子で休眠する。休眠種子はきわめて保存性が高く、条件がよければ10年以上も保存が可能である。

イネ科植物は、ウシ科の草食動物と捕食・被食の関係にあるが、相利共生でもある。ダーウィンは、『種の起源』の中で次のように書いている。「ヒースに生えている植物のあいだをよくよく調べたところ、アカマツの実生や低木がたくさん見つかった。ただしそれらには、絶えずウシに食われ続けてきたことを示す跡があった。・・・その木は過去二六年にわたってヒースの植物のあいだから頭を突き出そうと奮闘したものの果たせずに来たことが確認された。」すなわち、草原の植物は、葉を草食動物に食べられることで、日光を遮る樹木の侵入を防いでいる。

昔から、冬に麦を踏むと、種実の稔実がよくなることが知られている。麦が踏まれることは、草食動物の群れの到来のサインであり、養分蓄積から稔実へと生育が転換するスイッチになっていると考えられる。これは、水稲の苗踏みでも、同様の効果が見られる。イネ科植物の種子には野毛があり、動物の身体に付着したり、種子が食べられて、糞と一緒に草原に種子が拡散される。

ウシ亜目の反芻動物は、セルロースを効率よく分解・利用できる数少ない哺乳動物である。ウシやヒツジは、4つの胃を持ち、食物を吐き戻して噛み返す。哺乳動物はセルロース分解酵素(セルラーゼ)を持たないが、反芻動物は、胃の中に共生する微生物がセルロースを分解する。第1胃(ルーメン)に生息する微生物は、細菌、原虫、真菌などであるが、ルーメン発酵をおもに担っているのはルーメン細菌である。ルーメン細菌は、嫌気的な代謝により植物からエネルギーを得ており、その際に、酢酸、プロピオン酸などの揮発性脂肪酸(VFA)が生成する。微生物は有機物分解により得られた栄養素から、タンパク質等を合成しながら増殖する。反芻動物は、発酵産物の揮発性脂肪酸と、微生物遺体由来のタンパク質を吸収利用する。

イネ科植物は、草食動物に葉茎を食べられたほうがよいので、アルカロイドなどの毒を有する種がほとんど存在しない。しかし、毒が無いと昆虫に食害されるので、土壌中のケイ酸を多く吸収して、ケイ酸のガラスで葉、茎、種子を硬くして昆虫の食害を防いでいる。また、イネ科の植物はセルロースの含有量が高いため、反芻動物以外の動物からの食害が少ない。さらに、ウシ科やシカ科は上あごの門歯(前歯)がなく、舌で草を寄せて、ちぎって食べるので、イネ科植物の貯蔵養分がある株元や根が残る。

一方、マメ科植物の根の根粒には、根粒菌(Rhizobia)が共生している。根粒菌は大気中の窒素分子をアンモニア態窒素に変換して宿主に供給する。宿主は光合成産物(エネルギー)を根粒菌に供給する。マメ科植物は、土壌中の窒素が少ないやせ地でも生息できるが、難溶リンを溶解する能力はない。そこで、草原では、イネ科植物とマメ科植物は一緒に生息する。両者は、水や日光をめぐっては競争の関係であるが、リンと窒素を交換して相利共生の関係でもある。

マメ科植物は、実が熟すと鞘がはじけて種子を遠くまで飛ばして拡散する。種子の拡散には、ウシなどの草食動物は不要である(ウシは種子を噛み砕いてしまう)。ただし、ネズミの仲間は植物の種実を地下の巣に貯蔵する性質があるので、ネズミが貯めこんで、食べ残したマメの種子から発芽する可能性はある。マメの種を播くときは、地中に深く植えて水分が多いほうが発芽がよいのは、そのためであろう。穀物の種子にカビ(子嚢菌)が発生すると、毒のマイコトキシンが生成するのは、カビが生えた種子をネズミが食べ残すように、植物とカビが共生関係にあるためと考えられる。

いずれにしても、マメ科植物は、昆虫にも草食動物にも葉茎が食べられないほうが有利なので、アルカロイドなどの毒、苦味、草食動物を不妊にさせるフィトエストロゲンなどの化合物を含有する種が多い。トゲミノウマゴヤシやアカシアのように、鋭い棘を有する種もある。

昆虫は、これらの植物の毒に対抗するために、毒への耐性を強くする。さらに、植物の毒を身体に吸収して、鳥類、爬虫類、両生類、哺乳類から身を守る昆虫が多く存在する。哺乳類でも同様に、植物毒に対する耐性は、種によって差がある。家畜の場合では、アルカロイドに対する耐性は鳥類のニワトリが一番高く、ウマ、ウシ、ブタの順に耐性が高いことが知られている(文献参照)。

ウマ目にはウマ科ウマ属しかなく、ウマ、シマウマ、ロバなど5亜属9種しか生き残っていない。ウマの栄養素は、タンパク質、炭水化物、脂肪であるが、食物繊維のセルロースも利用することができる。ウマは反芻しないが、盲腸や結腸を含めた大腸が大きく発達している。セルロースは、大きな大腸で微生物によって脂肪酸に分解され、吸収・利用される。ただし、反芻してセルロースを十分に砕き、大きなルーメンを持つウシに比べると、セルロースの分解度が低い。

シマウマ亜属には、サバンナシマウマ、ヤマシマウマなどがいる。サバンナシマウマは、樹木がない草原と樹木がある草原の両方で暮らす。1頭のオス、数頭のメス、子馬からなるハレムを形成する。子馬のオスは成長すると集団を離れ、単独またはグループで行動し、やがてハレムのオスに挑戦する。シマウマは、降雨によって生育する植物に依存しているので、降雨を求めて集団で移動する。ヌーなど他の草食動物も同様の行動をとるので、混合して一緒に移動する。シマウマの食べ物は、おもにイネ科およびマメ科の草本だが、草が少ない乾季は、樹木がある草原で、低木、小枝、樹木の葉、樹皮も食べる。

ヌーは、ウシ目ウシ科ヌー属で、オグロヌーとオジロヌーの2種がいる。オジロヌーは野生種が一度絶滅した絶滅危惧種で、集団で長距離移動するのはオグロヌーである。オグロヌーはアフリカ南部および東部の樹木のあまりない草原や乾燥した草原に生息する。

ヌー(オグロヌー)は、植物が多い雨季には、若年オス同士、成年オス同士、メス同士で、それぞれが集団で行動している。集団の大きさは、数頭~数千頭とされる。成年オスは、各々縄張りを作り、縄張りをめぐって他のオスと激しく闘争する。雨季の終わりに繁殖が始まると、オスは自分の縄張りにメスを誘導して交尾する。雨季が終わって乾季が始まると、水と草を求めて、大集団で長距離移動する。食べ物はイネ科植物を中心とする草原の草本であるが、草が不足したときは、低木や木の葉も食べるとされる。

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トムソンガゼルは、ウシ科ガゼル属の体長1mほどの敏捷な草食動物で、時速80~96kmで疾走できる。雨季には、樹木のない草原に生息し、乾季には樹木が多い草原に移動する。草が豊富な雨季には、成年のオスが草原に広がって、それぞれが縄張りを形成する。オス同士は縄張りをめぐって闘争する。メスは集団で草原を移動しながら、オスたちの縄張りに入る。若年のオスは集団で移動するが、成年オスたちの縄張りに入ると追い出される。雨季には、樹木のない草原でイネ科植物を中心に新鮮な草本を食べる。草本が減る乾季には、樹木が多い草原に移動して、低木の新芽や若葉、広葉草本、マメ科植物も食べる。

以上のことから、サバナ草原のシマウマ、ヌー、トムソンガゼルの関係は、次のように考えられる。シマウマは、雨季は、樹木のない草原で、イネ科植物の葉の生長点などセルロースが少なくデンプンが多い部分やマメ科植物を食べる。乾季には、樹木の多い草原に移動して、アルカロイドが多いマメ科植物や低木の芽や葉などを食べで生き延びる。

ヌーは、イネ科植物を中心とする草本に依存している。セルロースが多いイネ科植物と、捕食・被食および相利の関係にある。雨季は樹木のない草原で暮らし、乾季には草を求めて大移動する。

トムソンガゼルは、イネ科植物を中心とする草本に依存しているが、乾季には、樹木のある草原に移動して、マメ科植物や低木の芽や葉も食べる。同じウシ科のヌーよりも、ルーメンが小さいために、セルロースの分解効率は劣るが、アルカロイドなど植物毒に対する耐性がやや高いと考えられる。

トムソンガゼルの最大の優位性は、俊敏性である。いくら、ヌーやシマウマがトムソンガゼルを追い払おうとしても、トムソンガゼルはすばやく逃げて傷を負うことなく植物を食べることができるので、トムソンガゼルを完全に排除することが難しい。

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なお、生物は、自己複製のたびに遺伝子の変異が起きている(中立)。トムソンガゼルの遺伝子プールで、ヌーに闘いを挑む気の荒い変異(タカ派)が起きたとする。タカ派は、同種のオス同士の闘いでは有利だが、ヌーとの闘いでは傷ついたり死ぬ確率が高くなる。このため、ヌーの存在は、トムソンガゼルがタカ派の方向に変異することを抑止して、進化的に安定させる効果があると考えられる。異種の生物間では、優位なタカ派の種が、よりハト派の種を進化的に安定にさせる。

同じ資源を追い求めて競争しても、種が排除されずに多くの種が生存できるのは、地球の空間が複雑で、かつエネルギーが時間的につねに流動しているためだ。流れる川には無数の渦ができるように、地球の環境にも無数のニッチができる。(つづく)

文献
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
マルサス、1798、人口論、光文社、2011
巌佐庸、数理生物学入門、HBJ出版局、1990
牧草・飼料作物および雑草に含まれる有毒物質と家畜中毒、牧草と園芸第53巻第6号、2005

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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