為替と賃金:Exchange rate and wage

一部の経済学者のあいだでは、金融緩和ではインフレの効果がないので、財政支出を増やすという議論がある(文献参照)。金融緩和が効かないのは、通貨を増やしても、それが国内消費や国内投資につながらず、価格(物価)に影響を与えないからだ。

国内は人件費が高く、人口が減っているので、貨幣は、アジアなど海外に投資される。また、中国など物価が安い国からの輸入が増えて、円は当該国の通貨に交換されるので、中国やアジアでは貨幣量が増えてインフレ(バブル)になる。

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同じように、財政支出を増やしたところで、インフレにはならないことは近年のデータが示している。財政支出では、道路、港湾などのインフラ整備や社会保障にお金を使うので、その分の需要(交換される貨幣)は増えるが、その後は建設会社や病院や医師の預金口座に貯まるだけで、乗数効果が小さく、インフレにならない。

日本がインフレになるのは、石油や食料など、エネルギーや原材料が値上がりしたときだが、これは供給減によるインフレなので、消費が減って景気を悪くする。(2016.11.17ブログ

政府が財政支出をどんどん増やすと宣言すると、国債金利が上昇してインフレになるとの説があるが、それは市場で円が売られて円安になった場合の話だ。財政支出を増やすと宣言しても、デフォルトにするわけではないので、一時的に為替は混乱するであろうが、長期的な影響がでるとは考えらない。

そもそも為替がどのように決まるのかについて、論理的に書いている文章を見たことがない。経済学の教科書には、名目為替レートは、2つの国の通貨の相対価格である。実質為替レートは、2つの国の財貨の相対価格であり、実質為替レートが低いほど、自国の財は外国の財と比べて割安となり、純輸出需要はより大きくなるなどと書かれている。

あるいは、次のような説明もある。為替相場は、最終的には需要と供給で決まる。日本からアメリカに自動車を輸出すると、その代金はドルで受取り、国内で支払うために、ドルを円に替える。ドルを売って円を買うので、日本からの輸出が増えると、円の需要が増えて円高ドル安に向かう。

しかし、これでは、為替で輸出入が決まり、輸出入で為替が決まると言っているだけで、何も説明していない。

為替と輸出入の関係がでてくる理論のひとつに、マンデル・フレミングモデルがある。これは小国における財政政策、金融政策についての固定相場と変動相場の比較には有効であるが、現代の日本では、モデルとあわないことは、多くの経済学者が指摘している。たとえば、変動相場での金融政策は、為替レートの減価と経常収支の改善によって、国内の国民所得を増加させるなどとされるが、近年の日本ではまったく効果が見られない。実態とあわないことは経済学者が一番よくわかっているのに、あるときは使えないといったり、別のときには、これで説明しようとしたり、思考回路がよくわからない。

為替というのは、「結果」であって、原因ではないはずだ。たとえば、日本のある会社が、自動車エンジンのピストンリングを、1個100円で製造販売しているとする。アメリカの会社は同等の品質のピストンリングを1個2ドルで製造販売している。現在の為替は、1ドル=100円とする。

アメリカの自動車会社からみれば、日本製リングはアメリカ製の半値なので、当然、日本製を買う。ドルで支払うと、日本の会社はドルを円に換えて給料や費用を支払う。ほかの自動車部品も同じ状況とすると、皆がドルを売って円を買うので、市場では円の需要が増えて、円高ドル安になる。1ドル50円まで円高が進めば、アメリカ製も日本製も同じ価格になるので、そこまで円高がすすむかといえば、そうはならない。

なぜなら、1ドル50円になるまで、日本製だけを購入することは、アメリカ製はまったく売れないことを意味するので、アメリカの会社は倒産してしまう。アメリカの会社は、なんとかしてリングの価格を下げようとするであろう。1個1.2ドルまで下げれば、1ドル83.3円のときに日本製とアメリカ製の価格は等しくなり、アメリカのリングも売れるようになる。

つまり、為替を左右しているのは、商品の価格である。では、商品価格はどのように決まるか。

工業製品の価格を大きく左右するのは生産コストであり、コストは、おもには、原材料費、エネルギー費、人件費、技術水準(情報)に左右される。原材料とエネルギーは移転できるので差がでにくい。技術水準(情報)は利益の源泉ではあるが、新しい技術の獲得には、大きな投資と時間を要する。ただし、特許の存続期間は20年なので、進歩が停滞している分野なら移転できるし、日本企業が投資しても移転できる。国境を越えて移転できないのは、人間(労働者)である。すなわち、短期的な価格と企業収益を左右するのは「賃金」である。

ロボット化などの技術革新には大きな投資と時間がかかるので、アメリカの会社はコストを下げるために、賃金の高いアメリカ人を解雇して、賃金の安いメキシコ人労働者を雇うか、工場をメキシコに移すであろう。

NAFTAによって北米の市場規模は日本よりもかなり大きいし、現在の日米の物価はそれほど違わないはずなので、為替へ影響がもっとも大きいのは日本国内の賃金であると考えられる。日本国内の賃金が下がれば、円の需要が増えるので、円高ドル安になるはずだ。そう思って、賃金の推移と為替の推移を比較してみると、やっぱり、連動しているように見える。

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文献
When Does a Central Bank’s Balance Sheet Require Fiscal Support?
https://www.newyorkfed.org/research/staff_reports/sr701.html
平成27年賃金構造基本統計調査 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2015/
Principal Global Indicators

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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