「共生」について―捕食・被食:About “symbiosis” – predation

「延長された表現型」による、物質・エネルギー流速度の定常と進化的な安定
Steady state of material・energy flow velocity and evolutionary stability by extended phenotype

「共生」という言葉は、世の中にあふれているにもかかわらず、定義が定まっていない。一般の人だけでなく、生物学や生態学の研究者でも見解がバラバラだ。これは、日本のみならず、世界中の学者たちを困惑させている(文献参照)。

日本の教科書では、「共生」とは次のような概念とされている。生物学における「共生」とは、異種の生物が「共に生きている」関係をあらわす言葉であり、共生の種類として、以下の関係がある。

[共生(Symbiosis)]
相利(mutualism)     A:+   B:+
片利片害          A:+   B:-
捕食(predation)      A:+   B:-
寄生(parasitism)     A:+   B:-
片利(commensalism)   A:+   B: 0
片害(amensalism)     A:0   B:-
競争(competition)     A:-   B:-
中立(neutralism)      A:0   B:0
*A、Bは異種の生物、+は得、-は損、0は中立

相利共生としては、イソギンチャク=クマノミ、ヤドカリ=イソギンチャク、反芻動物=ルーメン細菌、アリ=アブアムシ、植物=菌根菌、マメ科植物=根粒菌など、非常に多くの例が知られている。ただし、イソギンチャク=クマノミについては、イソギンチャクの利益が小さく、寄生ではないかとの指摘がある。

片利片害の例としては、カッコウが、ヨシキリなどの巣に托卵する行動がある。捕食・被食や寄生も、損得としては片利片害とされる。

共生と寄生・捕食・競争などの概念は、対立概念ではなく、共生は、寄生・捕食・競争などを含む上位概念として位置づけられているようだ。

共生の定義について、よく言われる批判としては、イソギンチャク=クマノミのように、相利と寄生を厳密に区別できないというものがある。利益と損失の割合は、生物間で様々であるが、その変化は連続であって相利なのか寄生なのかの境界を定められない。

そもそも、異種の生物間の関係を、得と損だけで表現するのは無理がある。相利共生の場合は、異種が安定的に共存できることを直感的に予想できるが、捕食・寄生・競争では、共存が安定になる場合と、絶滅する場合がある。ダーウィンは次のように書いている。「死をもたらす原因は、天敵であることもあれば、同じ場所や食物を争う競争相手だったりもする」、「一般に最も厳しい競争相手となるのは、きわめて近縁な種類、すなわち同じ種の変種どうし、同じ属あるいは近縁な属の種どうしである」。じっさいに、古生物学の知見では、地球に生命が誕生して以来、膨大な数の種が絶滅したことが知られている。

捕食・被食

自然界でもっとも普通にみられる、捕食・被食の関係から考えてみる。捕食・被食は、片利片害とされている。たとえば、草食動物を捕食するライオンは、草食動物からもっぱら利益を得て、草食動物はもっぱら損をしているということだ。

草原の、ある系にトムソンガゼル(ウシ科ガゼル属)、ヌー(ウシ科ヌー属)、ライオン(ネコ科)がいるモデルを考える。ライオンは、トムソンガゼル、ヌー、シマウマ、スイギュウなどさまざまな動物を捕食するが、ここでは、2種の動物を食べているとする。この系では、トムソンガゼル、ヌー、ライオンは、安定的に生存(共存)しており、長期的な個体数は一定である。

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どうして捕食・被食関係で個体数が安定になるのかは、ロトカ・ヴォルテラの方程式による簡潔な数理モデルが提案されており(Lotka,1910、Volterra,1925)、じっさいに自然界にはこのような状態がよく見られる(文献参照)。
dx/dt=rx-axy
dy/dt=bxy-cy
x:被食者の個体数、y:捕食者の個体数、他は係数

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これは、被食者が増えると、それを食べる捕食者も増え、被食者が食べられて減ると、それを食べる捕食者も減る、次は被食者が増える・・・を繰りかえすということだ。ただし、人間がドードーやニホンオオカミを絶滅させたように、隠れる場所がなかったり、逃げる能力が低かったり(捕獲能力が高い)、環境収容力が小さい(島など)と絶滅していまう。(トムソンガゼルとヌーの競争については後述)

なお、系が安定する過程は、遺伝子の絶え間ない変異の中から、生存闘争の結果、生き残った遺伝子が、生き残っている(中立説・自然選択説)。一見、安定しているように見えるが、変異は絶え間なく続いている。

草食動物は、草原の植物を食べて生存している。植物の生産量は、時間当たりの太陽エネルギーの量e(エネルギー流速度)と、流動する時間当たりの物質(H2O、CO2、O2、N、P、Kなど)の量mに左右される。この系で、トムソンガゼルとヌーが利用可能な、植物の時間当たりの資源量をR(e, m)とする。物質・エネルギー流速度e・mは、季節的に変動するが、長期的には一定とする。

植物が十分にある時期は、草食動物は子供を産んで個体数が増えるが、植物が少ない時期には、弱い個体が死亡して、もとの個体数にもどる。

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系に存在する、トムソンガゼルの遺伝子の量をg1、ヌーの遺伝子量をg2、ライオンの遺伝子量をg3とする。遺伝子量gは、個体数nに比例し、g∝nとする。また、種内で遺伝子の撹乱(ランダムな交配)が十分に行われていれば、遺伝子量は遺伝子プールの大きさと等しくなる。個体数と同様に、遺伝子量は季節的に変動するが、安定している系では長期的には一定である。

生物(遺伝子)は、資源量が十分にあれば、指数関数的に増加して(マルサス)、資源をめぐって激しく闘争する。もっとも厳しい生存闘争が行われるのは、「同種の個体間」、「同種の変種間」、「同じ属あるいは近縁な属の種どうし」(ダーウィン)である。モデルでは、遺伝子量は、長期的には一定なので、トムソンガゼル、ヌー、ライオンの遺伝子の生存率は同じ(1.0)である。

図のように、トムソンガゼル、ヌー、ライオンの遺伝子の増加速度(自己複製速度)が同じとすると、個体間の闘争コストがもっとも大きいのは、ライオン同士である。次がトムソンガゼル同士、ヌー同士である。同種の個体はいつも近くにいて同じ資源を摂取するので、闘争コストが大きい。その次が、トムソンガゼルvsヌーである。トムソンガゼルとヌーが食べる植物の種類は、まったく同じではないが、同じウシ科の草食動物なので、かなり重複しており、闘争コストが大きくなる。最後が、ライオンvs草食動物である。

図を見れば、ライオンが草食動物を捕食することで、草食動物同士の闘争コストを下げていることがわかる。言葉を変えると、草食動物同士の闘争コストを、ライオンが負担している。

もう少し詳しく、トムソンガゼルとライオンの関係を見てみると下図のようになる。

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R:系の時間当たり利用可能資源量
g1:トムソンガゼルの遺伝子量(遺伝子プールの大きさ)
R1:g1が利用する時間当たりの資源量
ct:トムソンガゼルの闘争コスト
Δg1:g1の時間変化量(g1が自己複製して増加した遺伝子量、dg1/dt)
g2:ヌーの遺伝子量
R2:g2が利用する時間当たりの資源量
Δg2:ヌーの遺伝子量の時間変化量(dg2/dt)
g3:ライオンの遺伝子量
R3:g3が利用する時間当たりの資源量
Δg3:g3の時間変化量(dg3/dt)
cl:ライオンの闘争コスト
Δc1:トムソンガゼル同士の闘争コストの変化量
Δc2:トムソンガゼルvsヌーの闘争コストの変化量
Δc3:トムソンガゼルvsライオンの闘争コストの変化量
Δc4:同上
Δc5:ライオンvsヌーの闘争コストの変化量
Δc6:ライオン同士の闘争コストの変化量

トムソンガゼルg1から見ると、g1が一定(Δg1=dg1/dt=0)であるためには、闘争コストctも一定でなければならない。すなわち、闘争コストの変化量Δct=dct/dt=0である。
Δct=Δc1+Δc2+Δc3=0
もし、なんらかの理由で、
Δct=Δc1+Δc2+Δc3>0
ならば、闘争コストctが大きくなって、g1は小さくなる(Δg1=dg1/dt<0)。つまり、個体数が減少する。g1が減ると時間当たり変異数(変異速度)が減って、進化的には安定になる(自然選択が進む)。
Δct=Δc1+Δc2+Δc3<0
だと、闘争コストctが小さくなって、g1は大きくなる(Δg1=dg1/dt>0)ので、個体数が増加する。g1が増加すると、時間当たり変異数(変異速度)が大きくなるので、進化的に不安定になる。すなわち、多くの変種が生まれる可能性が高くなる。
以上のことから、
Δct=Δc1+Δc2+Δc3≧0:進化的に安定(自然選択が進む)
Δct=Δc1+Δc2+Δc3<0:進化的に不安定
になる。

ここで、伝染病などでライオンg3が減ったとする(Δg3<0)。トムソンガゼルからみて、ライオンとの闘争コストが小さくなるので、Δc3<0になる。しかし、ライオンが減ると、トムソンガゼルとヌーの遺伝子量が増えてΔg1>0、Δg2>0になるので、草食動物同士の闘争コストが増えて、Δc1>0、Δc2>0になる。g1、g2は、Rの大きさに左右され、Rは一定なので、g1、g2も一定となる(ロトカ・ヴォルテラの方程式、g1とg2の競争については後述)。すなわち、Δc1+Δc2+Δc3=0となって安定になる。

これでは、ライオンがいてもいなくても、トムソンガゼルの遺伝子量g1は一定になるので、ライオンの存在は、トムソンガゼルの安定に影響をあたえないかのように見える。しかし、そういうわけではない。

トムソンガゼルg1では、自己複製のたびに遺伝子の変異が起きている(中立)。g1の遺伝子プールの中で、速く逃げる遺伝的変異(ハト派)と、大きな角の遺伝的変異(タカ派)が起きたとする(同種の変種)。速く逃げる遺伝子は、オス同士の闘いでは不利だが、ライオンから逃げるには有利である。大きな角遺伝子は同種のオス同士の闘いでは有利だが、角が大きく重くなると、ライオンから逃げるには不利である。すなわち、ライオンが存在しなければ、トムソンガゼルは、たちまちタカ派の方向に変異して、最後はオオツノジカのような、超タカ派になる可能性が高くなる。ライオンの存在は、トムソンガゼルが超タカ派に向かう変異を抑止し、トムソンガゼルを、進化的に安定させる効果があると考えられる。

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次にライオンから見ると、上と同様に、g3、clは一定で、Δcl=dcl/dt=0なので、
Δcl=Δc3+Δc4+Δc5+Δc6=0
である。
Δcl=Δc3+Δc4+Δc5+Δc6>0
ならば、clは大きく、g3は小さくなり(Δg3=dg3/dt<0)、個体数が減少する。
Δcl=Δc3+Δc4+Δc5+Δc6<0
ならば、clは小さく、g3は大きくなる(Δg3=dg3/dt>0)ので、個体数が増加する。
Δcl=Δc3+Δc4+Δc5+Δc6≧0:進化的に安定(自然選択が進む)
Δcl=Δc3+Δc4+Δc5+Δc6<0:進化的に不安定
になる。

伝染病などで、トムソンガゼルの遺伝子量g1が減少(Δg1<0)したとする。ライオンからみて、トムソンガゼルの捕獲が難しくなるので、Δc3>0、Δc4>0になる。しかし、トムソンガゼルが減ると、ライバルのヌーg2が増えて(Δg2>0)ヌーを捕獲しやすくなるので、Δc5<0になる。g1が減ると、g2が増えるが、Rは一定なので、トムソンガゼルが絶滅しないならば、g1、g2も一定となる。すなわち、Δcl=Δc3+Δc4+Δc5+Δc6=0となって安定になる。

系の時間当たり利用可能資源量Rは、季節で変動しているが、長期的には一定している。Rが一定しているときは、遺伝子量g1、g2、g3も一定となり、進化的に安定する。

ミランコビッチ・サイクルなど地球環境の長期的な変動で、物質・エネルギー流速度e・mが小さくなると(氷河期)、植物が減るのでRは小さくなる。自然選択によって生存できる遺伝子量は小さくなり、遺伝子量が減ると時間当たりの変異(変異速度)が小さくなるので、生き残った種は進化的に安定になる。

大隕石の衝突などで、地球環境が激変し、遺伝子量が大きく減ると、個々の種はどんどん進化的に安定になる。進化的に安定になると、ますます環境変化に対応できなくなるため、異常気象が長く続くと、多数の種が同時に絶滅する大絶滅につながると考えられる。

逆にe・mの変化によってRが大きくなると、遺伝子量が増大して、遺伝子の変異速度も大きくなる。進化的に不安定になって、多くの変種や新種が生まれる。とくに、大絶滅のあとには、物質・エネルギー流速度e・mの大きなニッチが生じるので、多くの変種や新種があらわれる(中立)。環境が安定すると、激しい生存闘争と自然選択を経て、進化的な安定に向かう。

なお、生物がほとんど棲まない砂漠や極地が広く存在するので、地球の空間vは、e・mに比べて十分に大きいと考えられるが、e・mが大きい熱帯雨林では、遺伝子量はvに制限される。

トムソンガゼルとライオンの捕食・被食の関係は、ドーキンスがいう、「延長された表現型」と見ることができる。ドーキンスは、「延長された表現型」の例として、小石を接着して巣をつくるトビゲラの幼虫、樹を倒してダムをつくるビーバー、カニに寄生してカニを去勢するフクロムシ、カッコウの托卵などさまざまな例をあげている。そして、「遺伝子は個体の体壁を通り抜けて、外界の世界にある対象を操作する。対象の一部は生命のないものであり、またあるものは他の生物であり、またあるものははるか遠く離れたところにある。」、「遺伝子の長い腕に、はっきりした境界はない。あらゆる世界には、遠くあるいは近く、遺伝子と表現型効果をつなぐ因果の矢が縦横に入り乱れている。」(文献参照)としている。

「延長された表現型」としてみると、ライオンは、植物が合成した高エネルギーの化合物を草食動物の身体に変換するように操作し、その身体を摂取することで、物質・エネルギーを獲得している。一方、トムソンガゼルは、自分のコピーを含むライバルの草食動物を倒すには、大きなコストがかかるため、そのやっかいな仕事を、ライオンを操作してやらせている。

トムソンガゼル(ウシ目)とライオン(ネコ目)は、ともにローラシア獣上目に分類されている。もとをたどれば、共通の祖先から分かれた同じ遺伝子だ。種の個体としてではなく、遺伝子と「延長された表現型」からみれば、系が安定した状態では、あたかも、全体が一つの有機体(organic whole)であるかのようにも見える(あくまでも中立変異と自然選択の「結果」としてである)。

系に入るエネルギー流を利用して、生成者は、低ポテンシャルの分子(物質m)から、高ポテンシャルの化合物を生成する。化合物(物質m)は分解者によって次々と分解・利用され、再び低ポテンシャルの分子にもどって循環する。エネルギーeは、第一法則によって保存され、熱として系の外に放出される。全体としては、エントロピーsが増大する。遺伝子は、化合物の生成、分解、自己複製を司る「情報」である。

川の水が一定の速さで流れるように、安定した系では、遺伝子量と生物間を流れる物質・エネルギーの速度が一定になる(定常状態)。物質・エネルギーが流れる速さが変化すると、遺伝子の情報や量は変化するが、流速が定常になると遺伝子も定常になろうとする。

捕食・被食関係が安定(共存)した系では、「延長された表現型」によって、異種間の物質・エネルギー流速度が定常であり、かつ進化的に安定している。(つづく)

文献
Current Usage of Symbiosis and Associated Terminology
http://www.ccsenet.org/journal/index.php/ijb/article/view/21139
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
巌佐庸、数理生物学入門、HBJ出版局、1990
The Milankovitch band
https://web.archive.org/web/20080729060933/http://www.agu.org/revgeophys/overpe00/node6.html
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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