社会脳による共倒れ抑止:Deterrence of internecine by social brains

草食動物の超タカ派戦略

肉食動物など食物連鎖の頂点にいる動物が、タカ派戦略をとりやすいことを述べたが、タカ派戦略は、肉食動物でも草食動物でも関係がない。たとえば、アフリカゾウは、子供のゾウがライオンに襲われることがあるが、成長したゾウはライオンにほとんど捕食されない。草食動物であっても、捕食者がいない種では、食物連鎖の頂点にいる種と同じ状態になる。

アフリカゾウは、メスと子供からなる数頭~十数頭の群れを形成する。オスは10歳くらいになると、群れを出され、単独または集団で放浪する。成年オスは、単独で行動し、群れの周辺にいる。メスが発情すると、通常は優位のオスが交尾するが、その座をめぐってオス同士が激しく闘争する。ゾウのオスでは、身体が大型化して、長大な牙を有するタカ派戦略が有利になる(なお、現在では牙の長いゾウを密漁する人間のために、牙が短いハト派戦略が有利になっている)。

このような、草食動物のタカ派戦略の例は、ゾウの他にも、サイの大型化と角の巨大化、ヘラジカの大型化と巨大な角などに見られる。絶滅した超タカ派の動物では、マンモス、マストドン、オオツノジカ、デイノテリウム、パラケラテリウムなどが知られている。

デイノテリウムは中新世中期~100万年前に生息したゾウの仲間で、ゾウ目では最大の種とされる。体長は約5mに達し、下顎には巨大で凶暴な牙が生えている。この姿から、オス同士の生死をかけた壮絶な闘いが想像できる。

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パラケラテリウムは、サイの仲間で3,400万~2,200万年前に生息していた。史上最大の陸生哺乳類とされ、体長8m、体重15~20tに達したと考えられている。上顎と下顎の先端に鋭い牙が生えており、これでオス同士が激しく闘争していたと思われる。

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20世紀の初頭の古生物学者たちは、このような角や牙の巨大化を、「定向進化」(Orthogenesis)と呼んでいた。しかし、生物には進化が「定向」にならない事例が多くあり、その理由を説明できなかったために、この説は消えてしまった。

共倒れ抑止遺伝子

捕食者がいない種は、タカ派戦略をとりやすく、進化的に不安定になりやすい。しかし、それでは、つねに共倒れと絶滅の危機に瀕していることになる。そこで、闘争コストが大きくなる方向に変異することを抑制する、何らかの構造があることが予想されると書いた(2017.1.18ブログ)。

ひとつは、クマやニホンザルの例で示したような、「共倒れ抑止遺伝子」の存在だ(2016.11.11ブログ)。ネズミやクマなどの哺乳動物には、受精卵がすぐに着床しない、着床遅延がある。もともと着床遅延は、交配可能な期間を増やし、子育てに適した時期に出産するための仕組みと考えられている。ところが、クマは、着床遅延の期間中に母体の栄養状態が悪いと、着床せずに流産してしまうことが知られている。ニホンザルも、秋に食物が少ない年には、発情せず、妊娠しても栄養状態が悪いと流産する。また、ライオンのメスは、獲物が少ないときは、子供のライオンに肉を与えないという。これらは、食べ物をめぐって、自分の子供(自分のコピー)との闘争コストを下げる結果をもたらす。闘争コストが高まると、共倒れしてしまうからだ。

社会脳による共倒れ抑止

もうひとつは、「社会性」である。社会性の高い生物としては、アリ、ハチ、シロアリが代表的だが、これらの社会性昆虫は、遺伝子のシステムできわめて高度な社会性を構築しており、構造が複雑だ。そこで、まず哺乳動物で考えてみる。

哺乳動物は、遺伝子システムでなく、脳の情報処理システムを高度化することで、社会性を獲得した。たとえば、ネコ科のライオンには、同じ遺伝子を共有する兄弟のライオンが協力する独特の習性がある。ライオンは、1~3頭の成年オスと、5~6頭のメスからなる、定住性の群れ(プライド)を形成する。20~30頭からなる大きな群れを作ることもある。プライドの成年オスは兄弟2頭が多く、まれに4頭の場合もある。オスたちは、プライドの外側を巡回して、縄張りを他のオスから防衛している。

子供のオスは、2~3歳になると、プライドから追い出されて草原を放浪するが、このとき、兄弟が一緒に行動する。オスが遊動するのは、遺伝子プールを大きくする仕組みであろう。成長した兄弟オスは、プライドのオスに挑戦して、プライドのオスの座を奪う。

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兄弟オスが「協力して闘う」という方法は、超タカ派の遺伝子の出現を抑制する効果がある。1頭では戦闘力が小さいタカ派遺伝子であっても、2~3頭で協力すれば、単独の超タカ派遺伝子に対抗できる。2~3頭の協力タカ派のほうが、単独超タカ派より有利なので、協力タカ派遺伝子は、単独超タカ派遺伝子を駆逐してしまうであろう。超タカ派遺伝子の変異がおきても、これが存続できる可能性は小さい。

集団が協力タカ派だけになると、オスの闘いはつねに複数vs複数になる。複数vs複数の闘いでは、共倒れで全てのオスが死滅する確率が小さくなる。生き残るオスが必ずいるので、協力タカ派は進化的に安定する。「社会脳による共倒れ抑止」(Deterrence of internecine by social brains)である。

ただし、協力タカ派だけの状態で、「協力超タカ派」があらわれる可能性はある。協力超タカ派同士の闘いでも、複数vs複数となり、全滅せずに生き残るオスがいる可能性が高いので、進化的に安定になる可能性はある。しかし、そのような種の事例を自然界で思い浮かべることが難しい。

ここで、さらに記憶力や意思疎通能力が高く、社会性が高い遺伝子があらわれて、兄弟だけでなくイトコのオスも協力するようになったとする。この「超協力タカ派」遺伝子は、多数のオスからなる共同戦線を構築して、他の兄弟オスを圧倒できるはずだ。

しかし、じっさいのライオンのプライドではそうなっていない。多数のオスがいるプライドは、広大な縄張りが必要になる。草食動物などの資源量は、雨季と乾季で大きく変動するので、大量の資源が必要な大きな群れを維持できない。また、多数の成年オスを有するプライドでは、今度は、プライドの内部での遺伝的な違いが大きくなるので、リーダーやメスをめぐって争いがおきる。兄弟の遺伝的近縁度は1/2で親子と同じだが、イトコの遺伝的近縁度は1/8にすぎない。ライオンの場合は、イトコを殺して自分の子供を産んだほうが有利なのであろう。

社会脳による協力度は、系の範囲の大きさ、資源の種類、資源の量などの条件に応じて決まると考えられる。ユーラシアと北米に分布するオオカミは、雌雄を中心にした、数頭の群れで行動する。ユーラシアの森に棲むトラは、群れを作らず単独で行動する。トラのオスは、ライオンのオスよりも、2~3割も身体(体重)が大きく、超タカ派の遺伝子があらわれる確率が高い。

なお、多数のオス同士が縄張りを巡って闘う事例は、類人猿の一部に見られる。(つづく)

文献
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
George B. Schaller, The Serengeti Lion: A Study of Predator-Prey Relations, 1976

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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