ESSの再検討―闘争コストの共倒れ閾値:Threshold of internecine in struggle cost

アメリカの生物学者のリン・マーギュリスは、真核生物は、アーキアが好気性のバクテリアを取りこんこんだことで成立したという説を唱えた(Margulis,1967)。これは一般に、「細胞内共生説」と呼ばれている。この「共生」という言葉は、そこらじゅうで見られる言葉だが、その根源的な意味や構造を、論理的に説明している文献を読んだことがない。仕方がないので、最初から考えてみる。

ダーウィンは、生存闘争について、以下のように書いている。
「死をもたらす原因は、天敵であることもあれば、同じ場所や食物を争う競争相手だったりもする。」
「一般に最も厳しい競争相手となるのは、きわめて近縁な種類、すなわち同じ種の変種どうし、同じ属あるいは近縁な属の種どうしである。」
「いちばん厳しい競争が演じられるのは、ほぼ決まって同種の個体間においてである。同じ場所にいて、同じ食物を必要とし、同じ危険にさらされているものどうしだからだ。同種の変種間においても、一般にほぼ同じくらい厳しい闘争が演じられる。」

一方、ドーキンスは、こう表現する。
「ESSとは自分自身のコピーに対してうまく対抗できる戦略のことである」

「進化的に安定な戦略」(ESS:evolutionarily stable strategy)は、J・メイナード=スミス、G・R・プライス、G・A・パーカーの共同研究による理論だ。進化的に安定な戦略とは、集団の大部分のメンバーがそれを採用すれば、別の代替戦略によって、とってかわられることのない戦略とされている。(文献参照)

後述するように、ESSの結論自体は正しく、生物は進化的に安定になる構造がある。しかし、メイナード=スミスが示した、タカ派とハト派の戦略のモデルでは、進化的に安定になることを、うまく説明できない。

ハト派・タカ派戦略のモデルでは、次のように説明される。タカ派とハト派は、同種の個体である。お互いに、相手がタカ派なのかハト派なのかをあらかじめ知ることはできない。タカ派は縄張りを巡って激しく闘い、ハト派は闘いをさけて逃げる性質がある。両者が闘争すると、タカ派があきらかに有利なので、集団内にはタカ派の遺伝子が広がる。タカ派遺伝子が広がり、集団がタカ派ばかりになると、闘争でお互いに大ケガを負うようになる。そこで、今度はケガをしないハト派が有利になり、ある比率で安定状態の混合集団に収斂するという。これを数学的に証明するために、いくつものシミュレーションのモデルが提案されている。

しかし、少し考えれば、そんなことがおきるはずはない。集団内がタカ派ばかりになると、タカ派同士で激しく争う状態になるが、仮にここにハト派の突然変異が生じても、ハト派は周囲のタカ派につねに負けるので、縄張りを確保できない。ハト派は存続できず、集団内に広がらない。

タカ派ばかりの集団の中で、勝ち残る可能性があるのは、突然変異で生まれた「超タカ派」だ。超タカ派は、一撃で相手に致命傷を与えることができる。簡単に相手を殺せて、自分は傷を負わない。そして、集団内には、超タカ派遺伝子が広がり、集団は超タカ派だけで占められる。

超タカ派同士の闘いでは、強力な武器のために相打ちになって、共倒れする。一般に動物では、縄張りとメスをめぐって争うのはオスだ。オス同士が出会うたびに共倒れになると、子供が生まれないので、オスもメスも少なくなる。少ないメスをめぐってさらに激しく闘って共倒れするので、次第に集団の個体数が少なくなる。論理的には、最後の2匹のオスが、最後に残ったメスをめぐって共倒れするまで闘うであろう。こうして、集団(種)が占有していた資源(空間、物質、エネルギー)を、他のライバル種にとって代わられてしまう。

これは、以前、メガロドンの例でも述べた(2016.11.11ブログ)。

同じような例に、スミロドンがある。スミロドンは、サーベルタイガーの一種で、250万年~1万年前のアメリカ大陸に生息していた。サーベルタイガーの中では、もっとも遅く登場した属とされる。食物連鎖の頂点に君臨していたが、1万年前に絶滅してしまった。スミロドンを凌駕するような強力なライバル種は確認されておらず、絶滅の理由はいくつかの説はあるが、はっきりしていない。

%e3%82%b9%e3%83%9f%e3%83%ad%e3%83%89%e3%83%b3

同じネコ科のライオンの例を見れば、狩りするのは、おもにメスライオンだ。オスはあまり狩りをしない。オスライオンの武器は、巨大な身体、爪、牙などだが、その武器は、縄張りとメスを獲得するために、他のオスに向けて使われる。

トラの場合は、オスは非常に大きな縄張りをもち、その中に、いくつかのメスの縄張りが存在する。オスは、縄張りをつねに巡回して、縄張りを防衛する。オスのトラの最大のライバルは、オスのトラである。

スミロドンのサーベルも、狩りにも使われるが、もっとも重要なのは、オス同士の闘いであろう。長大なサーベル(遺伝子)をもった個体が登場し、遺伝子が集団の中に広がると、牙の小さな遺伝子は駆逐されてしまう。その後は、オス同士の闘いで共倒れし、衰退したと思われる。生物は、遺伝子プール(血縁集団)が小さくなると、ウイルスやバクテリアなどの寄生生物からの攻撃や、気象変動に対応できなくなる(後述)。病原菌に対抗できなくなり、絶滅してしまう。そして、別の肉食動物が、スミロドンが独占していた資源(空間、物質、エネルギー)を獲得したのであろう。

スミロドンとよく似た動物に、ティラコスミルスがいる。ティラコスミルスは、700万年~300万年前の南米大陸の肉食動物(有袋類)で、長い牙を持っていた。食物連鎖の頂点にいたにもかかわらず、やはり絶滅してしまった。このような長い牙を持った動物は、進化の歴史の過程で、繰り返し出現していたことが知られている。(文献参照)

%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%a9%e3%82%b3%e3%82%b9%e3%83%9f%e3%83%ab%e3%82%b9

メガロドンやスミロドンの例から予想されるのは、以下のことである。生物の遺伝子は、一般には、タカ派(高い闘争コスト)の方向に変異したほうが有利である。変異はランダムにおこるので、闘争コストが大きな超タカ派遺伝子が登場することが、たまにある。闘争コストが、ライバル(自分のコピー)同士が共倒れする大きさ(闘争コストの共倒れ閾値: threshold of internecine in struggle cost)を越えると、共倒れして衰退し、絶滅してしまう。

ただ、この推論では、食物連鎖の頂点にいる(捕食者がいない)生物は、つねに進化的に不安定な状態にあることになる。しかし、メガロドンやスミロドンは、たまにしか地球上に登場していない。つまり、闘争コストが大きくなる方向に変異することを抑制する、何らかの構造があることが予想される(つづく)。

文献
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
Maynard Smith, J.; Price, G.R. (1973). “The logic of animal conflict”. Nature. 246.
サーベルタイガー、アゴの力は弱かった
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8133/

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 40,921
広告

投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中