生命の定義と起源 RNA world

個体間の遺伝子の交換は、真核生物、真正細菌、古細菌のすべてで行われているのであるから、有性生殖の起源は、生物が誕生してから間もなく始まったころまでさかのぼると思われる。そこで、生命の定義と起源について、一瞥する。

生命の起源は、誰も見たことがないし、実証が困難なので、ほとんどわかっていない。生命の定義についても、一般には、①自己複製、②内と外の境界、③代謝の存在などがあるが、これも定説というわけではない。

光合成を行わない生物(従属生物)の単純なモデルを作る。たとえば、大腸菌や納豆菌などの真正細菌(バクテリア)は、有機物を摂取してエネルギーと物質を利用し、自分の組織を合成する。真正細菌の場合は、ペプチドグリカンの硬い細胞壁をもっており、殻の外に酵素などの物質を放出して有機物を分解する。さらに、フェロモン様の物質を放出していることも知られている。つまり、実質的な系の範囲は、殻の外側に大きく広がっており、他の生物の系の範囲と重なっている。自分の身体に、生存に必要な量の2倍まで物質とエネルギーを蓄積したら、分裂して2個に増える。

%e7%b4%b0%e8%8f%8c

次に、もっとも単純(分子数が少ない)な生物を考えてみる。もっとも単純な生物をモデル化するには、生物の定義を決めなければならない。ここでは、もっともシンプルにして、「生物は、記録された情報をもとに不完全な自己複製をする化合物」とする。鉱物結晶などでも「自己組織化」はおきるが、生物は複製が不完全なことで、進化(変異)を可能にしている。ウイルスは単独では自己複製できないので、生物ではないという意見があるが、単独でなくても、周辺の環境を利用して自己複製していることには違いないので、ウイルスも生物に入れる。

もっとも単純な生物のモデルを作ってみると、図のようになる。記録された情報とエネルギーを利用して、取り込んだ物質から、自分と同じ化合物を合成(自己複製)することができる。細胞膜や殻はないが、クーロン力(荷電粒子間にはたらく力)など、力の作用がおよぶ範囲が系の範囲である。「記録された情報」というのが意味するのは、生物は歴史的存在であるということだ。

%e5%ae%9a%e7%be%a9

細菌よりも構造が単純なウイルスは、核酸とタンパク質の「殻」でできている。ウイルス核酸は、DNAとRNAの場合があり、それぞれ、DNAウイルス、RNAウイルスと呼ばれている。後者のほうがより原始的と考えられており、レトロウイルスともいう。ウイルスのDNA やRNAには、逆転写酵素、構造タンパク質、プロテアーゼなどがコードされている。

%e7%84%a1%e9%a1%8c

ウイルスよりも単純な「不完全な自己複製をする化合物」は、「ウイロイド」である。ウイロイドは、あまり知られていないが、農業では重要である。ウイロイドが初めて発見されたのは1971年で、植物病理学者のセオドール・ディーナーらによって、「ジャガイモやせいもウイロイド」が確認された。これは、トマトなどナス科の植物に感染して、株の矮化や着果不良の症状をおこす。ほかにも、キク矮化ウイロイド、リンゴさび果ウイロイド、リンゴゆず果ウイロイド、カンキツエキソコーティスウイロイドなどが知られている。ウイロイドは、塩基数がわずか200~400しかなく、環状の一本鎖RNAでできている。

%e3%82%a6%e3%82%a4%e3%83%ad%e3%82%a4%e3%83%89

ウイロイドのRNAはタンパク質のコードをもたない。すなわち、ウイルスのような「殻」や、自己複製ための逆転写酵素などを生産できない。ウイロイドが自己複製に利用するのは、宿主植物のRNAポリメラーゼⅡなどで、ローリングサークルによって自己複製すると考えられている。また、ウイロイドの中には、リボザイムを有するものがある。リボザイムは、触媒作用の能力があるRNAで、RNAを切断したり連結することができる。

%e3%83%aa%e3%83%9c%e3%82%b6%e3%82%a4%e3%83%a0

タンパク質の合成や自己複製が、DNAもしくはRNA上の情報によって行われていることが明らかになったことで、地球上にあらわれた最初の生命体はRNAであるという仮説が唱えられている。これは、のちに「RNA world」と呼ばれるようになった(Gilbert, 1986)。ウイロイドとリボザイムの発見は、RNAワールド仮説を補強するものである。

ここでは、RNAワールド仮説をもとに考察してみる。RNAワールドが存在したとすると、どのようにして最初のRNAは生まれたのであろうか。

RNAは、ヌクレオチド(リボ核酸)が、リン酸を介して強く共有結合(エステル結合)している。ヌクレオチドは、核酸塩基、リボース、リン酸で構成される。核酸塩基には、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)、ウラシル(U)がある。リボースは糖である。

アデニンC5H5N5
グアニンC5H5N5O
シトシンC4H5N3O
チミンC5H6N2O2
ウラシルC4H4N2O2
リボースC5H10O5
リン酸H3PO4

RNAの生成には、上記の材料が必須であるが、核酸塩基、リボース、アミノ酸などは、原始地球で、海への隕石の衝突、雷の放電、紫外線、熱水噴出孔などによって、無機物から生成することが可能とされている。また、リン酸は地殻に存在する。

rna

材料を合成するには、エネルギーが不可欠で、RNAのような大きな分子が生成するには、連続的なエネルギー供給が必要である。地球上の連続的なエネルギーとしては太陽があるが、RNAやDNAは、活性酸素で簡単に壊れるので、酸素と太陽光線のあるところでは存在するのが難しい。太陽以外で化合に使えそうなエネルギーとしては、雷、隕石、地熱があるが、連続的にエネルギーを得られるのは、温泉(熱水)である。

真正細菌の系統樹の中心付近には、好熱菌が多く見られるため、最初の生命体は好熱菌であろうという説は以前からあった。最近、熱水噴出孔によって形成されるチムニー(煙突)の近くで、最初の生命が誕生したのではないかというモデルが提出されている(下図、文献参照)。

%e3%83%81%e3%83%a0%e3%83%8b%e3%83%bc

このモデルはすばらしいアイデアではあるが、図のように高分子化が進むとはあまり考えられない。自己複製する性質を持つ化合物ができるには、化合、分解、縮合を、気が遠くなるほど、繰り返さなければならないはずだ。5種類の核酸塩基を50個並べる場合の数は、550/2通りある。物資とエネルギーが一方向に流れるような系では、不可能である。

熱水のエネルギーを利用するには、絶え間ない「流れ」がないと、エネルギーを利用できないが、流れがあると、化合物は海水中に拡散してしまって、大きな化合物ができない。「物質の流れがあって、物質が流れない」ような、環境が必要である。

さらに、物質は高温になるほど化合あるいは分離しやすく、低温ほど縮合しやすい。物質が化合、分離、縮合を繰り返すには、周期的な温度の変動が必要である。以上の条件を満たすような環境を考えると、図のようモデルが考えられる。

rnaworld

熱水の噴出によってチムニー(煙突)が形成されるが、チムニーの内側は、流速が速いので水圧が低くなる。チムニーは、熱水に溶けていた金属元素などが、海水で冷やされて沈殿したものなので、隙間だらけであろう。この隙間を通って、外側から冷たい海水が流れ込んでくる。隙間の中には、無数の小さな空間が存在していて、そこを海水が流れると、空間の中で小さな「渦」ができる。この渦こそが、「物質の流れがあって、物質が流れない」場所である。渦の中心には物質が集まってとどまるので、繰り返し、化合、分離、縮合する条件ができる。さらに、化合物はランダムに外に流れ出る。

この微小な「熱水渦」は、場所によって温度や含有元素が異なるため、さまざまな種類の化合物が生成することが可能になる。熱水渦の複合構造が無数に存在し、何十万年ものあいだ、化合、分離、縮合を繰り返すことで、「不完全な自己複製をする化合物」である始原RNAが誕生したのではないだろうか。始原RNAは、「渦の高温域」で化合が行われ、低温~中温域では縮合し、「流れる高温域」で分離して、自己複製を完成させる。

海水中にRNAが増えてくると、リボザイムによって周辺のRNAを切断して、自己複製のための材料を調達する「種」があらわれる。ダーウィン進化論では、伝播(自己複製)、変異、生存闘争、自然淘汰によって進化が進む。「自然淘汰」という言葉は、自然という言葉が入っているために、自然環境に適応できずに淘汰されるというイメージがあるが、正確には、そういうことではない。生物種は、ライバル種との生存闘争に敗れて絶滅する。そして、「一番厳しい闘争が演じられるのは、ほぼ決まって同種の個体間においてである」(ダーウィン)。最大のライバルは「自分自身のコピー」(ドーキンス)である。自然淘汰の本質的な意味は、自分自身のコピーとの生存闘争によって淘汰されるということだ。

遺伝子がもつ情報は「歴史的存在」なのであるから、生物進化の本質は、生物が誕生して以来、とぎれることなく「伝播」しているはずだ。すなわち、RNAがリボザイムを有するようになったのは、他のRNAを切断して、自己の複製に利用できたためと考えられる。(つづく)

文献
Early bioenergetic evolution
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/royptb/368/1622/20130088.full.pdf
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
シュレーディンガー、1944、生命とは何か、岩波書店、1951

自然農法とは何か: ゆらぎとエントロピー
電子園芸BOOK社 (2016-12-11)
売り上げランキング: 37,399
広告

投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

“生命の定義と起源 RNA world” への 1 件のフィードバック

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中