生命の定義と起源 RNA world

個体間の遺伝子の交換は、真核生物、真正細菌、古細菌のすべてで行われているのであるから、有性生殖の起源は、生物が誕生してから間もなく始まったころまでさかのぼると思われる。そこで、生命の定義と起源について、一瞥する。

生命の起源は、誰も見たことがないし、実証が困難なので、ほとんどわかっていない。生命の定義についても、一般には、①自己複製、②内と外の境界、③代謝の存在などがあるが、これも定説というわけではない。

光合成を行わない生物(従属生物)の単純なモデルを作る。たとえば、大腸菌や納豆菌などの真正細菌(バクテリア)は、有機物を摂取してエネルギーと物質を利用し、自分の組織を合成する。真正細菌の場合は、ペプチドグリカンの硬い細胞壁をもっており、殻の外に酵素などの物質を放出して有機物を分解する。さらに、フェロモン様の物質を放出していることも知られている。つまり、実質的な系の範囲は、殻の外側に大きく広がっており、他の生物の系の範囲と重なっている。自分の身体に、生存に必要な量の2倍まで物質とエネルギーを蓄積したら、分裂して2個に増える。

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次に、もっとも単純(分子数が少ない)な生物を考えてみる。もっとも単純な生物をモデル化するには、生物の定義を決めなければならない。ここでは、もっともシンプルにして、「生物は、記録された情報をもとに不完全な自己複製をする化合物」とする。鉱物結晶などでも「自己組織化」はおきるが、生物は複製が不完全なことで、進化(変異)を可能にしている。ウイルスは単独では自己複製できないので、生物ではないという意見があるが、単独でなくても、周辺の環境を利用して自己複製していることには違いないので、ウイルスも生物に入れる。

もっとも単純な生物のモデルを作ってみると、図のようになる。記録された情報とエネルギーを利用して、取り込んだ物質から、自分と同じ化合物を合成(自己複製)することができる。細胞膜や殻はないが、クーロン力(荷電粒子間にはたらく力)など、力の作用がおよぶ範囲が系の範囲である。「記録された情報」というのが意味するのは、生物は歴史的存在であるということだ。

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細菌よりも構造が単純なウイルスは、核酸とタンパク質の「殻」でできている。ウイルス核酸は、DNAとRNAの場合があり、それぞれ、DNAウイルス、RNAウイルスと呼ばれている。後者のほうがより原始的と考えられており、レトロウイルスともいう。ウイルスのDNA やRNAには、逆転写酵素、構造タンパク質、プロテアーゼなどがコードされている。

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ウイルスよりも単純な「不完全な自己複製をする化合物」は、「ウイロイド」である。ウイロイドは、あまり知られていないが、農業では重要である。ウイロイドが初めて発見されたのは1971年で、植物病理学者のセオドール・ディーナーらによって、「ジャガイモやせいもウイロイド」が確認された。これは、トマトなどナス科の植物に感染して、株の矮化や着果不良の症状をおこす。ほかにも、キク矮化ウイロイド、リンゴさび果ウイロイド、リンゴゆず果ウイロイド、カンキツエキソコーティスウイロイドなどが知られている。ウイロイドは、塩基数がわずか200~400しかなく、環状の一本鎖RNAでできている。

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ウイロイドのRNAはタンパク質のコードをもたない。すなわち、ウイルスのような「殻」や、自己複製ための逆転写酵素などを生産できない。ウイロイドが自己複製に利用するのは、宿主植物のRNAポリメラーゼⅡなどで、ローリングサークルによって自己複製すると考えられている。また、ウイロイドの中には、リボザイムを有するものがある。リボザイムは、触媒作用の能力があるRNAで、RNAを切断したり連結することができる。

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タンパク質の合成や自己複製が、DNAもしくはRNA上の情報によって行われていることが明らかになったことで、地球上にあらわれた最初の生命体はRNAであるという仮説が唱えられている。これは、のちに「RNA world」と呼ばれるようになった(Gilbert, 1986)。ウイロイドとリボザイムの発見は、RNAワールド仮説を補強するものである。

ここでは、RNAワールド仮説をもとに考察してみる。RNAワールドが存在したとすると、どのようにして最初のRNAは生まれたのであろうか。

RNAは、ヌクレオチド(リボ核酸)が、リン酸を介して強く共有結合(エステル結合)している。ヌクレオチドは、核酸塩基、リボース、リン酸で構成される。核酸塩基には、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)、ウラシル(U)がある。リボースは糖である。

アデニンC5H5N5
グアニンC5H5N5O
シトシンC4H5N3O
チミンC5H6N2O2
ウラシルC4H4N2O2
リボースC5H10O5
リン酸H3PO4

RNAの生成には、上記の材料が必須であるが、核酸塩基、リボース、アミノ酸などは、原始地球で、海への隕石の衝突、雷の放電、紫外線、熱水噴出孔などによって、無機物から生成することが可能とされている。また、リン酸は地殻に存在する。

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材料を合成するには、エネルギーが不可欠で、RNAのような大きな分子が生成するには、連続的なエネルギー供給が必要である。地球上の連続的なエネルギーとしては太陽があるが、RNAやDNAは、活性酸素で簡単に壊れるので、酸素と太陽光線のあるところでは存在するのが難しい。太陽以外で化合に使えそうなエネルギーとしては、雷、隕石、地熱があるが、連続的にエネルギーを得られるのは、温泉(熱水)である。

真正細菌の系統樹の中心付近には、好熱菌が多く見られるため、最初の生命体は好熱菌であろうという説は以前からあった。最近、熱水噴出孔によって形成されるチムニー(煙突)の近くで、最初の生命が誕生したのではないかというモデルが提出されている(下図、文献参照)。

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このモデルはすばらしいアイデアではあるが、図のように高分子化が進むとはあまり考えられない。自己複製する性質を持つ化合物ができるには、化合、分解、縮合を、気が遠くなるほど、繰り返さなければならないはずだ。5種類の核酸塩基を50個並べる場合の数は、550/2通りある。物資とエネルギーが一方向に流れるような系では、不可能である。

熱水のエネルギーを利用するには、絶え間ない「流れ」がないと、エネルギーを利用できないが、流れがあると、化合物は海水中に拡散してしまって、大きな化合物ができない。「物質の流れがあって、物質が流れない」ような、環境が必要である。

さらに、物質は高温になるほど化合あるいは分離しやすく、低温ほど縮合しやすい。物質が化合、分離、縮合を繰り返すには、周期的な温度の変動が必要である。以上の条件を満たすような環境を考えると、図のようモデルが考えられる。

rnaworld

熱水の噴出によってチムニー(煙突)が形成されるが、チムニーの内側は、流速が速いので水圧が低くなる。チムニーは、熱水に溶けていた金属元素などが、海水で冷やされて沈殿したものなので、隙間だらけであろう。この隙間を通って、外側から冷たい海水が流れ込んでくる。隙間の中には、無数の小さな空間が存在していて、そこを海水が流れると、空間の中で小さな「渦」ができる。この渦こそが、「物質の流れがあって、物質が流れない」場所である。渦の中心には物質が集まってとどまるので、繰り返し、化合、分離、縮合する条件ができる。さらに、化合物はランダムに外に流れ出る。

この微小な「熱水渦」は、場所によって温度や含有元素が異なるため、さまざまな種類の化合物が生成することが可能になる。熱水渦の複合構造が無数に存在し、何十万年ものあいだ、化合、分離、縮合を繰り返すことで、「不完全な自己複製をする化合物」である始原RNAが誕生したのではないだろうか。始原RNAは、「渦の高温域」で化合が行われ、低温~中温域では縮合し、「流れる高温域」で分離して、自己複製を完成させる。

海水中にRNAが増えてくると、リボザイムによって周辺のRNAを切断して、自己複製のための材料を調達する「種」があらわれる。ダーウィン進化論では、伝播(自己複製)、変異、生存闘争、自然淘汰によって進化が進む。「自然淘汰」という言葉は、自然という言葉が入っているために、自然環境に適応できずに淘汰されるというイメージがあるが、正確には、そういうことではない。生物種は、ライバル種との生存闘争に敗れて絶滅する。そして、「一番厳しい闘争が演じられるのは、ほぼ決まって同種の個体間においてである」(ダーウィン)。最大のライバルは「自分自身のコピー」(ドーキンス)である。自然淘汰の本質的な意味は、自分自身のコピーとの生存闘争によって淘汰されるということだ。

遺伝子がもつ情報は「歴史的存在」なのであるから、生物進化の本質は、生物が誕生して以来、とぎれることなく「伝播」しているはずだ。すなわち、RNAがリボザイムを有するようになったのは、他のRNAを切断して、自己の複製に利用できたためと考えられる。(つづく)

文献
Early bioenergetic evolution
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/royptb/368/1622/20130088.full.pdf
チャールズ・ダーウィン、1859、種の起源、光文社、2009
リチャード・ドーキンス、1976、利己的な遺伝子、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
シュレーディンガー、1944、生命とは何か、岩波書店、1951

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有性生殖が存在する理由を考える

共倒れからの考察のつづき。

植物の本などを読んでいると、「栄養生長」や「生殖生長」という言葉がよく出てくる。作物を育てる場合、コマツナ、ルッコラ、京菜のように、栄養生長の初期で収穫するものもあるし、キャベツやハクサイのように、ある程度まで生長させるが、生殖生長が始まって抽苔すると商品にならないものある。逆にブロッコリーや菜花は、抽苔させないと花蕾ができないし、菜種油は種子を収穫する。これららすべて、同じアブラナ科に属する植物だ。もちろん、穀物や果樹では、子実や果実を稔らせる。

植物の繁殖では、挿し木、根茎、根塊などで栄養繁殖させる方法があるが、多くは株同士を交配させる種子繁殖だ。植物の種子繁殖は有性生殖であり、減数分裂によって2倍体の生殖細胞から、1倍体の配偶子が生じる。その際、相同染色体の一部を交換する「組換え」が起きる。植物は、自家交配を防ぐために、雌雄異花、雌雄異熟、自家不和合、雌雄異株など、様々な機構を有している(2016年2月25日ブログ参照)。

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どうして、植物や動物は、こんなに面倒な有性生殖を行うのであろうか?性がオスとメスに分かれていると、交配する相手を探さないといけないので、無性生殖にくらべてコストが高くつく。とくに、雌雄異株(ブドウ科、イチョウなど)の雄木や、動物のオスは、種子や子供を産まないので、2倍以上のコストがかかる(Maynard Smith,1978)。さらに、動物のオスは、メスをめぐる闘いで敗れると遺伝子を存続できないし、ときには命を落とすこともある。自分の遺伝子を残すのなら、無性生殖のほうが断然コストが低いはずだ。

有性生殖の理由については、いくつかの説が唱えられている。

有性生殖では、交配と組換えによって、種の内部の遺伝的多様性が大きくなることで、環境の変化に対応できるという説がある。たとえば、「寒さに耐える遺伝子」や、「乾燥に強い遺伝子」が突然変異でできたとする。これらの遺伝子が、種の中に存在すれば、寒い年や乾燥の年がやってきても、全滅しないので、遺伝的多様性は、個体と種の存続に有利であることは間違いないであろう。ただし、遺伝子の多様性は無性生殖でも同じなので、変異(情報)の交換というところが、有性生殖の有利性である。

有害遺伝子蓄積説もよく知られた説だ。これは、無性生殖では、有害遺伝子が生じても、遺伝子の組換えが起こらないので、有害遺伝子を排除することができないというものだ。しかし、「有害」というのは、生存に有害という意味なのだから、有害遺伝子は自然淘汰によって死滅してしまうはずだ。ダーウィン進化論の基本であり、無性生殖でも有性生殖でも同じことである。

有性生殖の方が、遺伝子の攪拌が行われるので、環境に適応するスピードが速いという説もある。しかし、突然変異は自己複製の際のコピーミスのことなので、突然変異がおこる確率は無性生殖の生物も有性生殖の生物も変わらないはずだ。すなわち、適応スピードは、増殖スピードに左右される。無性生殖の細菌と有性生殖の動物では、細菌のほうがはるかに増殖スピードが速い。なので、これは逆であろう。

真核生物は、ミトコンドリアを獲得したことで、細胞内の活性酸素が増加した。活性酸素によってDNAが傷つきやすくなったため、有性生殖によってこれを修復しているという説もある。しかし、もともとミトコンドリアは好気性細菌のある種が、真核細胞に共生することによって獲得されたと考えられているので、真正細菌が一般に無性生殖であることを説明できない。

もっとも、真正細菌の大腸菌にはオスとメスの性が存在し、オス細菌とメス細菌が接合して、遺伝子を交換していることがわかってきた。ただし大腸菌の組換えが行われるのは、きわめてまれらしい。さらに、古細菌の好熱性菌では、生存条件が悪くなると、細菌同士が融合して、遺伝子の増幅や交換が行われることが知られている。

すなわち、個体間の遺伝子情報の交換は、真核生物、真正細菌、古細菌のすべてで行われていることになる。

有性生殖の理由として、有力なのは、「赤の女王仮説」(Van Valen,1973)だ。生物は、宿主とその寄生者とのあいだで絶え間ない軍拡競争を行っている。一般には、ウイルスや細菌などの寄生者のほうが、宿主よりも適応スピードが速い。そこで、植物や動物などの宿主生物は、有性生殖によって、生存に有利な遺伝子を、集団内で交換して共有したほうが、生存確率が高まる。集団遺伝学でいうところの「遺伝子プール」だ。

ただし、赤の女王仮説だけでは、どうして雌雄異株の雄木や動物のオスが、種子や子供を産まないのかの理由の説明が十分とはいえない。(つづく)

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自然農法とは何か ゆらぎとエントロピー

目次

序、自然農法を書く理由

自然農法について調べ始めたのは、20年くらい前のことだ。一番の理由は、福岡さんが存命のうちに、会って話を聞いておかないと、二度と聞けなくなると思っていたからだ。農業のことを多少でも知っている人なら、福岡さんの主著である『無』を読めば、その先駆的な内容にびっくりするであろう。福岡さんが自然農法に取り組み始めたのは1937~38年であり、『無』が最初に発表されたのは、終戦直後の1947年だ。ハワードの『農業聖典』の発表が1940年なので、ほぼ同時期である。

有機農業や自然農法についての本は山ほど出版されているが、読んでみて、「なるほど」と思える本はほとんど無い。有機農業の理論については、『農業聖典』を超えるテキストはないし、自然農法では『無』以上の本は存在しない。両方とも70年も前の本だ。

福岡さんや川口さんに会って話を聞いたあと、2003年に自然農法の稲作について、短い文章を書いた。しかし、それ以上、自然農法について書く熱意を無くしてしまった。有機農業についても同様で、何十人もの有機農家に会ってきたし、同じころにアメリカの有機農場を何軒も尋ねて短い文章を書いたりした。しかし、やはり有機農業についても、それ以上書く熱意を無くしてしまった(2016年にようやくまとめた)。

有機農業も自然農法もちゃんと理解しようとすれば、大量の歴史書や技術書に目を通さないといけなし、膨大な数の現実の農家に会って、目で見て、きれいごとではない本音を聞き出さないと、文献の信頼性や有用性を見抜けない。それを他の人に伝えるには、さらに何倍ものエネルギーがいる。そんな時間もないし、意味もないのではないだろうか・・・。いつの間にか、十数年もの月日がすぎ、福岡さんも亡くなってしまった。

農業や農家のことを知れば知るほど、根源的なところでは、みなそれほど違わない。アメリカの世界最大の有機農場も、数千ヘクタールの慣行農家も、日本の小さな直売農家でも、まったく同じ農業の言葉が通じる。同じ人間である以上、生きることや生き方には大きな違いがあるわけではないし、ましてや農家は同じ仕事に従事している。

もちろん、農家の生き方には、それぞれの個性がある。個性は農業技術や経営方法にあらわれるが、作物がじっさいに収穫できているということは、そこには科学的な合理性がかならず存在するし、経営が成り立っているということは、かならず経済的な有利性が存在する。

逆に、理論や思想がどんなに立派でも、作物が収穫できなかったり、経営が成り立たなければ何の意味もない。最新の植物工場のように、どんなに最先端の科学技術を駆使して、経営的なノウハウを持った大企業が投資しても、合理性と有利性がなければたちまち潰れてしまう。

その意味では、有機農業だからとか、自然農法だからとか、ことさら取り上げることは、論理的には意味が無い。どのような農法であろうが、どのような経営方法であろうが、法や倫理に反しなければ、すべて自由であり平等だ。ただ、未来の人類のために、環境や資源を残しておくことは、現代に生きる我々の義務であり、我々自身のためでもある。そのことを無視することはできない。

有機農業や自然農法には、宗教の問題もある。おもなところでは、ルドルフ・シュタイナーの人智主義思想や、岡田茂吉を教祖とする世界救世教の農法などが存在する。私は、無神論者なので、宗教的な教義やそれに基づく農法にはまったく関心がない。もっとも宗教や信仰の自由は、世界中で認められており、宗教自体を否定したり批判したりはしないが、肯定することもない・・・・・

1、有機農業の黎明
ルドルフ・シュタイナー
アルバート・ハワード
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F・H・キング
イブ・バルフォア
J・I・ロデイル
ハンス・ミュラーとマリア・ビグラー

2、環境問題とオーガニック市場の成長
レイチェル・カーソン『沈黙の春』の衝撃
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IPM(総合的病害虫管理)の始まり
生物多様性
オーガニック市場の急成長

3、リン資源の枯渇
リン獲得のコスト
リン施用の歴史
リン資源の枯渇

4、福岡正信
自然農法のはじまり
懐疑=「知」のゆらぎ
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宗教
自然農法の四大原則=結果の可能性と可用性
耕耘
肥料
雑草
病害虫

5、クローバー草生米麦連続不耕起直播
作業手順
品種
雑草対策
粘土団子
肥料

6、農業技術者、農業指導者としての福岡正信
現代の農業に与えた影響
二人しかいない福岡さんの弟子
浅野祐一さん
付記

7、川口由一
自然農を開始するまで
自然農の稲作り
草が土を肥沃にする
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赤目自然農塾
付記

8、木村秋則
リンゴの自然栽培
草生栽培と病害虫
草生栽培と栄養素(養分)

9、エネルギーとエントロピー
ハワードの自然観
福岡正信の自然観
現代人が生きる世界

10、補、腐植栄養説と無機栄養説
アルブレヒト・テーア
カール・シュプレンゲル
ユストゥス・フォン・リービヒ
有機態窒素を吸収する作物

11、補、窒素を固定する生物
マメ科作物の利用の歴史
窒素固定菌の種類
根粒菌

12、補、難溶リンを吸収する植物
土壌中のリンの形態
難溶リンを吸収できる植物

あとがき
文献

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ネギのアリシンとフルクタン

なにげなくテレビを見たら、野生のネギが自生する、モンゴルの山岳地帯の風景が出てきて、びっくりした。

昔、ネギ、ニンニク、タマネギなど、ネギ属作物の本を作ろうと思って、下調べしたことがある。ネギ属(Alliumアリウム)の植物は、かつてはユリ科に分類されていたが、近年のAPG体系(2009年)では、ヒガンバナ科ネギ亜科ネギ属に分類されている。単子葉植物では、もっとも発達したグループで、300~800種が含まれるとされている。そのため、作物として利用される種も多く、タマネギ、ネギ、ワケギ、リーキ、ニンニク、ラッキョウ、エシャロット、ニラ、ノビル、ギョウジャニンニク、アサツキ、チャイブなど、多くの作物がある。

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八鍬利郎先生(元北海道大学名誉教授)がまとめられた表(*1)を見ると、タマネギやニンニクは、低温・短日で花芽分化して、地下茎が肥大し、夏季に休眠するので、夏季に乾燥する気候(地中海性気候など)に適応した植物と見ることができる。ネギやリーキは、冬季に休眠する性質があるので、冬季に寒冷で乾燥する気候に適応している。また、ニラ、ラッキョウは花芽分化に低温を必要とせず、長日条件で花芽分化するので、温暖な気候に適応している。

昔から、ネギ(Allium fistulosum)の野生原種は、アリウム・アルタイクム(Allium altaicum )ではないかと考えられていたが、長いあいだ論争があった。近年、遺伝子が分析できるようになって、ようやくはっきりしてきたようだ(*2)。映像では、アルタイクムの自生地は、ウランバートルから600kmほど南方の、アルタイ山脈から続く山岳地帯であった。標高が2200mもあり、冬はマイナス10℃以下で、降水量は日本の10分の1しかない。びっくりしたのは、その荒涼たる周辺の環境である。一般に、栽培植物の起源地は、原種が自生する地域と考えられている。さらに、野生の植物を栽培化するには、きわめて長い時間がかかる。ムギやイネの栽培化には千年以上もの時間がかかったとされている。千年以上もかかるということは、人間が千年以上、同じ場所に定住していたということなので、古代より集落や都市が存在していたということを意味する。

しかし、映像で見えるアルタイクムが自生する場所は、人間の集団が長期間にわたって定住できるような環境ではない。アルタイクムが栽培化された過程を想像すると、アルタイ山脈の周辺で生活していた狩猟採集民もしくは遊牧民が、野生のアルタイクムを採集して食用としていたが、アルタイクムの株が別の場所に住む農耕民に渡って、そこで栽培化されたと考えるほかない。「蔥」(ソウ、ねぎ)という字は、紀元前に書かれた山海経にすでに見られるので、2000年以上の栽培の歴史がある。なお「囱」の字は、天窓の格子の象形とされているので、ネギを葉のところで切った穴の形に由来するのであろう。ネギのように古い栽培植物でも、原生地以外の場所で栽培化されることがあったということに驚いた。ただし、映像は乾季で緑が一番少ない時期のために、あのような風景に見えたのかもしれなし、古代のアルタイ地域は、植物や草食動物がもっと豊富で、長期間、定住できる場所があったのかもしれない。

また、中国では、西方の高原地帯は「葱嶺」と呼ばれており、ネギの原産地は、草原がひろがる高原地帯のような風景を想像していた。ネギ属の植物は、分げつ、側球、珠芽(しゅが)、種子などで繁殖し、群落を作ることが多い。ところが、映像のアルタイクムは完全に孤立して生息していた。これも、想像していたのと全然違っていた。孤立しているということは、遠くから運ばれた種子がばら撒かれたということであり、種子を拡散するなんらかの動物(シベリアアイベックス?鳥?)がいるということである。

ニンニク(Allium sativum)については、西アジアから中東に自生する、A. longicuspis Regelから栽培化されたと考えられている(*3)。タマネギ(Allium cepa)は、エジプトのピラミッドの壁画に描かれており、BC3000年以前に栽培化されていたが、イランとトルクメニスタンの国境地帯に自生するA. vaviloviiがもっとも有力な原種とされている(*4)。

ネギの葉の中に多い成分は、フルクタンで、インフルエンザウイルスを抑える効果があるという。そもそもフルクタンは、フルクトース(果糖)の重合体であり、エネルギーを貯蔵するための多糖類だ。フルクタンは低温でも凍らない性質があるので、光合成で作った糖類をフルクタンにして貯蔵することにより、寒地でも凍死せずに越冬することができる。アスパラガス属やネギ属など、寒冷地に分布する植物に多く含まれる。

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フルクタンの機能性についての報告を見ると、フルクタンは、試験管内では抗インフルエンザウイルス活性は確認されないが、マウスに経口投与すると、ウイルス複製に対する阻害効果を示すという。すなわち、直接ウイルスに作用するわけではなく、宿主の免疫機能を増強する作用があるのでないかと考えられている(*5)。

一方、アリシンは、ネギの地下部に多く含まれていて、動物たちに食害されることを防いでいるという。ニンニクに多く含まれるアリシンは、抗真菌性および抗細菌性があるといわれることが多いが、じっさいには、明確な抗菌効果は立証されていないという報告もある(*6)。

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このことで思い出すのは、以前のブログでも書いた、ニンジンのカロテンである。植物は、低温下で光合成反応が進むと、その過剰なエネルギーによって活性酸素が生じ、細胞が破壊されてしまう(凍害)。ニンジンは、低温下で発生する活性酸素から身を守るために、大量のカロテンを生産すると考えられる。極寒のアルタイ山脈に分布するネギがアリシンを生成するのも、低温下での光合成で発生する活性酸素から身を守るためであろう。じっさい、アリシンとその前駆体のalliinには、抗酸化作用があることが確認されている(*7)。ネギのアリシンは、活性酸素を抑えて、凍害から免れると同時に、動物に対する忌避効果を兼ねている。すばらしく合理的で機能的だ。

さらに興味深いのは、フルクタンは、生育期にもかかわらず地上部に多く、アリシンは休眠期にもかかわらず地下部に多いことである。普通に考えれば、フルクタンは貯蔵糖なので、光合成を行っている地上部に存在する必要はなく、越冬期に地下部にあればよい。アリシンのほうは、光合成によって発生した活性酸素を抑えているので、生育期に地上部にあるのが合理的だ。それが逆になっているのはなぜだろうか。寒冷で乾燥した山岳地帯には、めったに種子拡散者の動物がやってこない。ようやくやって来た動物のために、地上部にエネルギーの多いフルクタンを貯めておいて、種と一緒に食べさせる。食べた動物はエネルギーを獲得できて、しかもウイルスに感染しにくくなるので、種を遠くまで運ぶ可能性が高まる。一方、地下部は翌年まで生き伸びたほうが生存する可能性が高いので、動物に食べられないように、アリシンを休眠期に地下部に多く含んでいる。とてもうまいやり方だ。

アルタイクムは、冬に地上部が枯れて、地下部が越冬するので、「加賀」や「下仁田」などの、夏ねぎの在来品種に、その性質が強く残っていると思われる。

文献
*1)農家が教える家庭菜園 秋冬編、農山漁村文化協会、2006、p114
*2)RAPDs and noncoding chloroplast DNA reveal a single origin of the cultivated Allium fistulosum from A. altaicum
http://www.amjbot.org/content/86/4/554.full
*3)Infraspecific differentiation of garlic (Allium sativum L.) by isozyme and RAPD markers
http://link.springer.com/article/10.1007/BF00220863
*4)Phylogenetic relationships of wild and cultivated species of Allium section Cepa inferred by nuclear rDNA ITS sequence analysis
http://link.springer.com/article/10.1007/s00606-007-0596-0
*5)Anti-influenza A virus effects of fructan from Welsh onion (Allium fistulosum L.).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23442670
*6)Antifungal and antibacterial activities of allicin
https://www.researchgate.net/publication/299799952_Antifungal_and_antibacterial_activities_of_allicin_A_review
*7)The mode of action of allicin: trapping of radicals and interaction with thiol containing proteins
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304416597001049

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