コストを誰が負担するのか?「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その8

このテーマもだいぶ長くなってしまったので、そろそろ終わりにしようと思う(本当は、まだまだ書くことがあるのだが…)。

2016.9.2のブログで、国内のリンの「還元循環分はこのフローではとりあえず無視する」と書いた。

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現実には、かなりの量のリンが循環利用されており、かつできるだけ循環分を増やさないと、未来の人類が窮するというのが、本論の目的だ。私も含めて未来のことまで考えていられないというのがふつうだと思う。しかし、ドーキンスによれば、われわれ個々の人間は、「遺伝子の乗り物、すなわち遺伝子機械」にすぎず、遺伝子そのものは自己複製(コピー)して未来に存続していく。たとえ自分に子供がいないとしても、遺伝子は「遺伝子プール」として存在しているので、集団の中で「自分(遺伝子)」の大部分は生きて存続する。たとえば、兄弟姉妹は、自分と遺伝子の近縁度が1/2なので、遺伝的には自分の子供と同じだ。つまり、甥や姪は近縁度1/4で自分の孫と同等の存在である。集団内ではこうした血縁関係が歴史的に複雑にからみあって、遺伝子プールを形成している。

ホモサピエンスという種が登場したのは、20万年ほど前とされているので、私の中の種としての遺伝子は20万歳で、6666回コピーされたことになる(1世代30年として)。生命としてなら40億年コピーされ続けてきた。よほど重大なことがおきないかぎり、あと何万年かは、「私(遺伝子)」は生き続けるであろう。

話がそれた。自己組織化(開放系)における物質のポテンシャルとフローを図示すると、下のようになる。赤は物質がもつエネルギーのポテンシャルと流れをあらわし、黒は物質のエントロピーの状態量と流れをあらわしている。

外部から供給されるリン安、リン鉱石、食料中のリンなどは、純度が高くて濃縮されており、エントロピーが低く、物質のエネルギーは高い。これらが、食品、農業、工業などで利用されると、他の物質と混合され、水で希釈され、低エネルギー、高エントロピーの状態で排出される。これを循環させて再利用するには、エネルギーを使って合成、集中、濃縮し、エントロピーを小さくしなければならない。

系の内部の物質のストックが一定ならば、外部供給量と消尽量は等しくなる。消尽量は、再び利用することが困難な状態になった物質の量である。たとえば、物質が海洋に流れ出てしまったり、焼却灰として地中に埋設されてしまったものである。

系の物質のエネルギー消費量が一定ならば、循環量が大きくなるほど、外部供給量=消尽量は小さくなる。ただし、循環量が大きくなるほど、循環に要するエネルギー量(コスト)が大きくなる。外部供給に要するコストと、循環に要するコストとの比較で、循環量が決まる。外部供給物の単価が循環物の単価より低ければ、循環量は小さくなり、外部供給物が循環物より高ければ、循環量は大きくなる。

注意が必要なのは、系の範囲(空間)である。系の範囲(空間)を「日本の国土」とすると、水産物は外部供給量として扱われる。系の範囲を「日本の国土と漁場」とすると、水産物の半分は国内生産なので、残りの輸入分が外部供給量になる。2016.9.2ブログで下水汚泥からリンを回収するのが難しいなら、海に投入すればいいのではないかと書いたのはこのことである。系の範囲を海にまで拡張して考えれば、水産物はリンの循環利用とみることができる。一般に、漁業は資源収奪型産業といわれているが、ほんとうは、リン資源の循環利用に大きな貢献をしている。

希少資源の場合、コストを決定する大きな要因として、もうひとつの「系の範囲」がある。それは「時間の範囲」である。時間の範囲を短期の未来にとれば、希少資源の外部供給物の単価は安くなる。時間の範囲を長期の未来にとれば、外部供給物単価は高くなる。人の命はそれほど長くないので、個人で見れば、未来を短期に予測して行動するほうが合理的だ。しかし、「私」の根源である遺伝子(自己複製子)からみた場合は、未来を長期に予測して行動するのが合理的だ。短期的時間と長期的時間の差異から生じる価値(価格)の差を埋めるには、希少資源の外部供給物にガソリン税のような物品税を課せばよい。希少資源税によって、外部供給物の単価を高くすれば、循環量を増やすことができる。ただし、リンの経済埋蔵量が100年なのか300年なのかはっきりしないので、このような制度をいつ導入したらいいのかの判断が難しい。

リン資源の枯渇に対して系の利益を大きくする方法としては、①値上がり前に買い占める、②リン鉱山を買い占める(鉱山会社の株は一時急騰した)、③新しい鉱脈を発見する、④リンの効率的利用法を開発する、⑤リンの効率的循環技術を開発する、⑥土壌に蓄積したリンの利用技術を開発するなどがある。

次の問題は、循環に要するコストを誰が負担するかだ。上記のように、リン安やリン鉱石に税を課せば、コストは農産物の価格に転嫁されるので、すべての消費者が公平にコストを負担することができる。しかし、寿命が短い個人にとっては短期の時間の範囲で行動したほうが、自分の利益を大きくできるので、希少資源税の導入を嫌う。また、政治家は選挙民に評判の悪い制度を導入することは自分の利益にならないので、政治的には希少資源税の導入はそれほど簡単ではないかもしれない。

畜産集中地帯では、供給過剰で堆厩肥の買い手や引き取り先を探すのが困難になるので、循環に要するコストが他の地域に比べて高くなる。競争市場である農産物の価格は、もっとも生産コストが小さい産地の生産費で決まるので、畜産集中地域の畜産農家は循環コストを価格に転嫁できない。すなわち、畜産集中地域では、経営の悪化をさけるため、家畜排せつ物の循環をやらなくなる可能性がある(燃やしたり捨てたりする)。これを、放置するのか国家が介入するのかを、国民が決めなければならない。国家が介入するのであれば、畜産集中地域からでる堆厩肥を、堆肥が不足する地域に移動するコストを国民が負担することになる。

方法としては、堆肥センターや輸送システムの構築など、ハード面の施策もある程度必要だが、ハード事業は期限があるため継続性がないし、コストと効率性が劣り、品質の保証がない。そこで、「堆肥運送費バウチャー」のような制度が合理的だ。指定された畜産集中地域から堆肥を購入するときの運送費のバウチャー(クーポン・金券)を、有機農家や特別栽培農家など、堆肥を利用する農家に配ればよい。こうすれば、良質な堆肥を作る畜産農家ほど堆肥が売れるし、バウチャーは運賃の分だけなので距離で決まり、平等に計算しやすい。ただし、お役人はハード事業に比べて予算と手数料を少ししかとれないので、こうした制度を嫌がる傾向がある。(とりあえずおわり)

追記
循環利用分を算入した表を作成しておく。農産廃棄物の100%、家畜糞尿の90%、食品廃棄物、水産廃棄物、屠畜処理物はそれぞれ30%が循環されているとして計算すると、リンの年間の循環量は15.4万トンになる。これを、総供給量と排出量に算入すると、それぞれ75.4万トンになる。外部供給量と消尽量は以前の集計と変わらない。系の範囲を「日本国土」として、水産物はとりあえず外部供給量に入れた。再計算によって、年間の「土壌蓄積・埋立・流亡・不明」は32.6万トンであることがわかる。
農地への土壌蓄積および農地からの流出分を概算してみる。循環分15.4万トンのうち、農地に堆肥や肥料として投入されるリンは、農産廃棄物2.3万トン、家畜糞尿9.9万トン、水産廃棄物と屠畜処理物の半分が肥料に利用されるとする。合計すると、12.8万トンになる。のこりの2.6万トンは、家畜や養殖魚の飼料として利用されている。
年間に農地に投入されるリンの量は、17.0+12.8=29.8万トンになる。食料自給率はカロリーベースで40%なので、輸入農産物のリン17.0万トンの含有率と同じと仮定すると、11.3万トンが、国産農作物として生産される。つまり、年間のリンの農地への土壌蓄積および農地からの流出量は、29.8-11.3=18.5万トンと思われる。(参考資料です)
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文献
リチャード・ドーキンス、1976、『利己的な遺伝子』、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
ミルトン・フリードマン、1962、資本主義と自由、日経BP、2008

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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