堆肥と土壌の作り方―身近な有機物を利用する

篤農家が何十年もかかって作りあげた圃場では、毎年安定して作物を収穫することができる。経験豊かな農家であれば、堆肥などによる土づくりが重要であることを誰でも知っている(水耕栽培をのぞく)。排水が悪く、保水力、保肥力のない圃場や、腐植が少なく団粒構造も未発達な圃場は、緩衝機能が弱い。緩衝機能が弱い土壌でも、天候が順調であれば、土づくりをしてきた圃場と遜色のない収穫が得られる。

ところが、農産物の市場では、天候が順調で豊作の年は価格が低下する。農産物は保存が難しく、消費量はほぼ一定であるため、少しでも供給が需要を上回ると価格が暴落する。生産者も小売も、腐らせるくらいなら半額でも売ろうとする。逆に、不作の年には、価格は高騰する。経済学でいうと、農産物は、需要の弾力性も供給の弾力性もきわめて小さい。

すなわち、不作の年に天候に恵まれた地域とか、周囲の農家が長雨や旱魃で収穫できないときでも出荷できるような圃場や技術を持つ農家だけが儲かる。

価格の安定には、契約栽培、直接販売、農産物加工などが有効だが、契約栽培であっても、植物工場でない限り、気象変動による豊凶から逃れることはできない。また、契約価格や直売価格も、市場価格に左右される。遠回りのように見えるが、環境の変化に強い圃場を作ることが、経営の安定にとっては不可欠だ。

目次
1、土と土壌

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2、土の組成
3相分布
固相と土粒子
気相と気体
液相と土壌溶液のイオン
3、土の鉱物と性質
固相の1次鉱物
固相の二次鉱物
1:1型層状ケイ酸塩鉱物
2:1 型層状ケイ酸塩鉱物
2:1 型層状ケイ酸塩鉱物の種類

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アロフェン、イモゴライト
ケイ酸塩鉱物のCEC
4、腐植の生成と機能
土壌有機物の組成
腐植物質の組成と生成
腐植の蓄積

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溶存腐植酸、溶存フルボ酸
土壌団粒の形成
腐植物質のCECへの寄与
腐植の機能
5、有機物の種類と性質
タンパク質とアミノ酸
糖類
デンプン
脂質
ペクチン
ヘミセルロース
セルロース
植物の細胞壁
リグニン
木質
6、有機物の分解者
セルラーゼ(セルロース分解酵素)
哺乳類
ミミズ
ヒメミミズ
ダニ
トビムシ
シロアリ
センチュウ
7、菌類
子嚢菌門
その他の菌類
担子菌門
リグニン分解酵素
褐色腐朽菌
白色腐朽菌
8、真正細菌
アクチノバクテリア門(放線菌など)
ファーミキューテス門(納豆菌、乳酸菌など)
シアノバクテリア門(ラン藻)
プロテオバクテリア門(酢酸菌、光合成細菌、大腸菌など)
バクテロイデス門(ルーメン細菌など)
サーモデスルフォバクテリア門(好熱偏性嫌気性菌)
デイノコッカス・サーマス門(好熱性)
クロロフレクサス門(緑色非硫黄細菌など)
クロロビウム門(緑色硫黄細菌)
フィブロバクター門(ルーメン細菌)
9、古細菌
メタン生成菌
(超)好熱菌
高度好酸性菌
高度好塩菌
10、その他の微生物分類
菌根菌
亜硝酸菌
硝酸菌
脱窒菌
硫酸塩還元細菌
微生物と生育温度
11、土壌改良(物理性)の方法
踏圧耕盤の問題
改良方法
12、土壌改良(化学性)の方法
土壌pH

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EC(電気伝導度)
リン酸吸収係数
CEC(陽イオン交換容量)
ゼオライト(沸石)
廃白土
塩基飽和度
13、土壌改良(生物性)の方法
土壌病害抑止土壌
土壌還元消毒
14、堆肥化の目的
有機物施用の目的
堆肥化の目的
慣行農業と有機農業
15、堆肥つくりのポイント
堆肥化の過程
熱量
生物の種類とC/N比
易分解性有機物と難分解性有機物
水分含有率
酸素供給
種菌
堆積の高さ
分解温度
堆肥化の期間
悪臭対策
堆肥化施設
組み合わせ堆肥
16、素材の性質と利用法
牛糞尿
豚糞尿
家畜尿のリン酸処理
鶏糞
わら
籾がら
米ぬか
山野草
落ち葉
オガクズ
廃菌床
バーク(樹皮)
せん定枝葉

大豆稈
コーヒー粕
茶粕
果汁粕
オカラ
ビール粕
焼酎粕
廃食用油
17、堆肥施用の問題点
家畜糞堆肥の現状と課題
窒素の発現パターン
有機態窒素を吸収する作物、吸収しない作物
有機物施用の問題点
18、データ・有機物の成分
家畜糞尿
家畜糞堆肥
メタン発酵消化液
緑肥
作物残渣穀物
作物残渣野菜など
作物
刈り草など
落ち葉
樹木
樹木の葉
樹木の剪定枝
食品産業副産物
食品産業副産物堆肥
生ごみ
食品加工クズ
食品産業排水汚泥
廃棄食品など
下水汚泥
19、資料・土壌の基準
イネ(水稲)
ムギ
ダイズ
施設トマト
施設ナス
施設イチゴ
葉茎菜、果菜類
根菜類
リンゴ
ナシ
ブドウ
ウメ
露地花き
施設キク
施設バラ
シクラメン
参考文献・引用文献

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
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価格支持と直接支払い-驚異的な米価安値

農業政策は、一般の人にはわかりにくく、価格支持とか直接支払いなど基本的なことでも、なんのことだか理解不能と思う。直接支払いは、直接に農家に助成金を支給する制度というくらいにしか思われないだろうが、本質はそういうことではない。

農作物は、気象変動などによって、豊作と凶作が交互にやってくる。また、農家は価格をみながら、有利な作目へと作付け量を変動させる。さらに、農産物は競争市場であるため、農家の所得は「限界」まで減少し、生産性の低い農家は次第に淘汰される。これらの理由で、食料の供給量と価格はきわめて変動しやすい。食料は人間の生存に不可欠なので、食料不足は社会不安に直結する。

古代より、食料の安定供給は、為政者にとって最重要の課題であった。食料の供給量と価格は、バネが弾むように振動するので、これを人為的にコントロールする必要がある。豊作の年は価格が暴落して農家は営農困難に陥るので、政府が高く買い取り、巨大な倉庫を建てて備蓄しておく(価格支持)。弥生時代には、高床式倉庫がもっとも重要な建造物であったし、中世の巨大なお城には米が備蓄されていた。凶作の年には価格が暴騰するので、備蓄食料を供給して価格上昇を抑え、消費者の生活を守る。為政者がこのコントロールに失敗すると、飢餓、暴動など社会動乱がおきる。

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国家の財政基盤が強固なときは、十分な財政支出が可能なので、食料の買い入れ価格を高くできる。高い買い入れ価格は、すべての農家の経営を安定させるが、農産物は生産過剰になり財政赤字が膨らむ。国家の財政基盤が弱くなると、価格支持政策は次第に重荷になってくる。

直接支払いというのは、この価格支持をやめることである。価格支持をやめると、農産物価格が下落して、農家の経営が悪化するが、このとき若年農家や法人農家にだけ、一律に助成金を直接支払う。高齢の零細農家には廃業してもらい(年金を払う)、その分の農地が流動化する。若年農家や法人農家は規模拡大できるようになるので、機械化によって労働生産性が高くなる。すなわち、直接支払いは、歴史的に固定化した農地の所有権(耕作権)や社会的権益を流動化させ、再編成するねらいがある。

政府は、直接支払いによって農家の経営をコントロールしやすくなる。支払い額を徐々に減らして経営体同士を激しく競争させ、さらに生産性向上を促す。生産性の低い経営体は淘汰されて、生産性がより高い経営体だけが残る。生産性が高い経営体ばかりになるので、財政支出の総額を少なくしていくことができる。零細農家はいなくなるわけではなく、直売など主要流通外の多様な販売形態(ニッチ)で生き残る。

直接支払いは、財政赤字と生産過剰(買い取り価格が高いため)に苦しむEUで、1985年に提案された(マクシャリー提案、レイ・マクシャリーはアイルランドの政治家、欧州委員)。EUでは1992年から導入が始まり、穀物価格は30%下落した。何度か修正を加えながら現在に至っている。アメリカでも、1996年から直接支払いが始まったが、財政が悪化したため2014年に廃止され、価格不足補償、農業リスク補償、農業保険(収入保険)に移行した。

日本では、国は公式にアナウンスしていないが、実質的には直接支払いに移行している。与党の選挙対策のため、官僚たちがわざとわかりにくくしている。日本はEUに比べると、農業者に占める高齢者の割合が高い。また、農業者年金が小額なので、高齢者の不満が高まる。フランスでは国民年金より高額の農業者の退職年金(国庫支出)を新設して、耕作権を放棄させた。

じっさいには、米価は、ここ20年で40%も下落し、規模拡大と機械化が進められた。H26年の国産米の価格は、アメリカの短粒米と同じ水準にまで下がっており、驚異的な安値である(文献参照)。

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1995年の食管廃止のあと、米価は13000円(60kg)くらいで下げ止まるだろうといわれていた。米の価格がここまで下落し、それでも営農を継続することが可能とは、誰も予測していなかったのではないだろうか。農家をはじめ、農機メーカー、メンテナンス、関連業界など、日本人はほんとうに働き者でびっくりだ。小麦や大豆では、政府買い入れも残っているが、全体からみればたいした量ではない。日本の農政は、1985年以降のEU農政を手本しており、今後もEUの実験を眺めながら推移していくであろう。

追記
いつも、農水のお役人はマスコミにいじめられるので、気の毒に思って、良く書きすぎた。お役人が直接支払いを明確にしないのは、ほんとうは自分たちのためでもある。農家に現金を渡さないで、事業化して最新の機械や設備を供与する。事業化すると、自分たちの仕事が確保できるし、メーカーは販売計画が立てられるので、安心して開発や設備投資ができる。その見返りに天下りなどの便宜を図る。日本の資本主義は、官の主導で始まったので、明治の太政官政治以来、官、学、産の多くの組織にこうした構造が浸透している。

こうして、お互いの信頼度が高く、効率がよく、清潔で、安全で安定した社会を作りあげることに成功したが、あらゆる業界で閉じた系(いわゆるタコツボ)を作りやすい。世界で競争に勝つための開発ではなく、コスト意識が薄く国内で差別化することだけが目的になるので、他国からみると余計な機能が山ほど付いた高価なものしか作れなくなる(ガラパゴス化)。米価のように部門ごとの統計だけみると効率が高いように見える(大本営発表)のだが、社会全体では財政支出が大きくなり、生産性を下げる大きな原因になっている。

為政者はわかってはいるのだが、自分たちの重要な既得権益であるために、政治家も官僚も学者もマスコミも、構造の本質には、口をつぐんでいる(小賢しいので、ゴルバチョフが現れない)。口下手な農協を悪者にして、見当ちがいのパフォーマンスをやるのが関の山だ。利口な人間ほど、「短期的な最適化」から逃れることができない。農業改革で一番簡単で効果が高いのは、お役人からお金を取り上げて、若い農家に直接配ることだ。すでにEUの実験で証明されている。

参考文献
是永東彦、福士正博、津谷好人、ECの農政改革に学ぶ-苦悩する先進国農政、農文協、1994
EUの新共通農業政策(CAP)改革(2014-2020年)について
http://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/project/pdf/cr25_2_1_eu.pdf
アメリカ2014年農業法の概要について
http://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/project/pdf/cr25_3_1_usa.pdf
農林水産物品目別参考資料(2015)
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/tpp/block/pdf/sankou1_1.pdf

大豆の多収栽培-秋まさりの生育で反収600kg

ダイズは、野生のツルマメから栽培化されたと考えられている。野性のツルマメは、中国東北部、日本列島、中国南部など、東アジアに広く分布している。ソ連の遺伝学者のニコライ・ヴァヴィロフ(1887-1943)は、「栽培植物の発祥中心地」(1926)および、「ダーウィン以後における栽培植物の発祥に関する学説」(1940)において、ダイズの起源地を東アジア地域としている。

ダイズは、根に着生する根粒菌によって窒素が供給されるので、一般的には窒素肥料をあまり必要としないとされている。たとえば、標準的なダイズの施肥基準は、10a当り窒素1~3kg、リン酸8~10kg、カリ8~10kgである。東アジアはダイズの原産地にもかかわらず、日本のダイズの平均収量は10a当たり200 kgほどで、アメリカの平均反収の6割しかない。

10年くらい前に豆の本を作ったとき、東アジアはダイズの原産地なのに、どうしてアメリカよりも反収が低いのだろうと思っていた。もちろん、十数年前には、転作ダイズが捨て作りされている圃場がそこらじゅうにあったので、「平均の反収」が低い理由は知っていた(最近の様子は知らない)。しかし、なかにはダイズを本気で栽培している農家もおり、そういう本気農家の目標反収が300kgくらいだった。

だいぶ昔に、数年間、庭の畑でダイズを試験栽培したことがある。毎年、10株ほど種を播いても、ほとんどまともに生育しなかった。実もわずかしか着かない。最初の年は無肥料でやってみてダメだったので、翌年は鶏糞を少し施用してみたが、やはりダメだった。施肥を変えてもまったく生育しない理由は、今までダイズを植えたことがない畑のために、土の中にダイズの根粒菌がまったくいないと考えるほかなかった。同じ畑なのに、ソラマメやインゲンは旺盛に生育する。それは、ソラマメに共生する根粒菌と、ダイズに共生する根粒菌の種類が違うためである。

それで、生産現場でも、ダイズの品種に適した根粒菌の接種が、多収栽培のポイントのひとつに違いないと思っていた。当時、積極的に根粒菌接種を奨励していたのは北海道の産地だけだった。

2000年代に紹介されていた反収400kgレベルの農家の技術は、密植とうね間潅水だった。しかし、この技術では、トップレベルの農家でも反収400kgにしかならない。昔にくらべて完全にレベルダウンだ。30年くらい前の1980年代の山形県には、反収600kgを達成する篤農家がすでに存在していた。

当時の多収栽培の技術を文献で調べてみたが、指導機関や書いている記者たちもなぜ多収できるのかの理由をよくわかっておらず、要領を得ない。ただし、当時の篤農家の言葉として、「多収ダイズは秋まさりの生育をする」と書いてある。

「秋まさりの生育」というのは、初期の生育はゆっくりだが、生育中期ごろから旺盛に生育して、生育後半に充実した稔実と十分な登熟を迎えるということであろう。このような生育にするには、もっとも旺盛に生育する生育初期~中期に、同化養分が地上部(葉茎)に集中し過ぎないようにする必要がある。生育前半は、同化養分を、地下部や茎の養分貯蔵部にできるだけ多く蓄えておかなければならない。

簡単な数学の問題だが、貯蔵養分を効率よく蓄えるには、植物体の容積を大きくしなければならない。容積の大きさは、植物体を作る材料の量と形状に左右される。植物の細胞壁は、セルロースやリグニンなどの多糖類で作られており、細胞は小さな箱を積み上げたような形になっている。この箱の中に養分が蓄えられる。細胞壁の材料の量は、光合成による同化量≒乾物重に左右される。つまり、肥料などの条件が同じなら、日照量に左右される。

仮に日照量が平等で材料の量(同化量≒乾物重)が同じなら、もっとも容積を大きくするには、風船のような球体にするのがよい。これを、圃場のダイズで考えてみる。単位面積当たりのダイズの茎数をn本とする。養分は、円柱状のストローに蓄えられると仮定すると、単位面積当たりの乾物重(同化養分)は、円柱の側面の面積の合計に近似できる。

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図のようにダイズの容積は茎数の逆数に比例するので、乾物重が同じなら、茎数が少ないほど、容積が大きくなる。貯蔵養分量を大きくするには、単位面積当たりの根や茎の本数を少なくして、それぞれを太くしなければならない。つまり、適度に疎植にしなければならない。これが二つめのポイントである。

ダイズの根粒菌は、生育初期に土中に窒素(硝酸)が多いと生育が悪くなることがわかっている。また、反収600kgに達するような多収ダイズでは根粒菌からの窒素の供給量だけでは、窒素が不足することもわかっている。

この矛盾を解決するには、生育初期には窒素を与えず、中期以降に窒素を効かせればよい。当時、ダイズの栽培技術を主導していた有原丈二先生は、土壌中の地力窒素を重視して、堆肥の施用を奨励していた。堆肥を入れると増収するのは、地温が低い春先には窒素が効かず、地温上昇とともに微生物によって有機物が分解され、生育中期以降に窒素が効くためだろうと思っていた。また、生育中期にうね間潅水すると増収効果があるのも、水分によって地力窒素が有効化しやくすくなるためだろうと考えていた。

しかし、一般に転作ダイズが多く作付けられていたのは、水田単作地帯である。水田単作なので、減反のための転作に困り、ダイズが栽培される。水田地帯というのは平地なので、必ず住宅地が近くにある。住宅地があるところは、畜産農家がほとんど消滅している。悪臭などの苦情のために、畜産経営ができなくなる。水田地帯には、畜産農家がほとんどいないので、水田に入れる堆肥がない。いくら、ダイズの栽培には堆肥施用が有効だといっても、入れられなければ意味がない。

すなわち、値段が安く入手しやすい化学肥料を使うしかない。値段の安い窒素肥料は、尿素や硫安だが、これらは、速効性なので、中期に効かせるには、途中で追肥しなければならない。しかし、追肥はすでに作物が植わっているので、手間がかかる。転作のダイズ栽培は、広い水田で機械を使って行うのであるから、基肥でやるほうが楽だ。緩効性肥料が一番作業の手間が少なくすむが、これは値段が高い。ただでさえもうからないダイズ栽培に、よけいなお金をかける農家はいない。それならば、安い肥料を基肥時に深層に入れておけば、生育初期にはダイズの根が届かず、根が届く中期以降に効かせられるのではないかと考えた。

以上をまとめると、①品種にあった根粒菌の接種、②疎植、③深層施肥もしくは緩効性肥料の施用。このような観点で、栽培試験している論文がないか、論文データベースや、Web上のサイトを調べまくった。それにぴったりの論文が、新潟大学の大山卓爾先生たちの研究だった。試験では、石灰窒素の深層施肥と根粒菌接種で、反収600kgが可能になるという。私の予測とよく似たやり方で、80年代の反収600kgと同じ収量を実現していた。

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ただし、論文では、大江先生たちは、「疎植」(栽植密度)についてはほとんど注目していない。栽植密度5株/m2のほうが、9株/m2よりもかなり多収にもかかわらず、その理由として栽植密度が関係しているとは考えていないようだ。また、秋まさりの生育=貯蔵養分を生かす栽培法と考えているわけでもない。これらは今後の研究が必要であるが、ダイズの多収栽培の研究など、いまの若い研究者が熱意を持って取り組むであろうか?

理屈からいえば、肥料は石灰窒素や被覆尿素である必要はない。有機栽培や特別栽培で行うなら、窒素成分の高い鶏糞堆肥や豚糞堆肥を基肥にして、深めの溝施用にすればよいのではないだろうか。

文献
ニコライ・ヴァヴィロフ、栽培植物発祥地の研究、八坂書房、1980
ダイズ 2つの問題点をクリアした2つの方法《深層施肥と根粒菌接種》
http://www.cacn.jp/technology/dayori_pdf/141_daizu_ohyama.pdf
大山卓爾・ティワリカウサル・高橋能彦、深層施肥と根粒菌接種、農家直伝豆をトコトン楽しむ、農山漁村文化協会、2009
農家直伝豆をトコトン楽しむ―食べ方・加工から育て方まで

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カナダの若い農家―畑は1haで5万円

ノースダコタのネルソン農場を訪ねたあと、カナダのサチュカチュワン州まで足を伸ばした(2003年)。このときのことは、雑誌などにも書いていない。もう10年以上前のことなので、当時と今の状況はだいぶ変わっているかもしれないが、カナダの若い農家との会話は、とても印象深いものだった。どこかに書いておかないと、完全に忘れてしまうので、とりあえずまとめてみる。

ネルソン農場から、車でハイウェイを北上して、カナダのウィニペグに向かった。500キロ走っても景色は相変わらずで、起伏がない真平らな畑が続く。ウィニペグのマーケットで食料を買いこんで、近くのキャンプ場で一泊した。翌朝、サチュカチュワン州ブルーノに向かう。ブルーノまでは北西にさらに1200キロ走らなければならない。

半日も走ると、人家が見えなくなり、行きかう車もほとんどない。ここらあたりのカナダの農村は、家や作業小屋が林の中にすっぽりと隠れているので、無人の大地を行く感じだ。

サチュカチュワン州ブルーノは、1902年にドイツ系アメリカ移民の17家族が入植してできた町だ。緩やかな起伏のある広大な平原(すべて畑)の中に、ぽつんと集落がある。1905年に鉄道が開通してから町はやや大きくなったが、それでも人口は640人しかない(2003年)。町の周囲に点々と農家が入植し、それらを含めると2000人くらいの人口になるという。

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ブルーノ

カーライルは、ブルーノの30キロほど西にあるフンボルトの生まれで、実家はフンボルトでかなり大きな農場を経営している。1900年ころにカーライルの曽祖父が、オーストリアから入植したという。年齢は24歳で、3年前に農業短大を卒業するとすぐに就農した。

すでに奥さんと子供が1人おり、ブルーノの小さな家で、3人で暮らしている。最初はブルーノの農場で働いていたが、現在は、自分が所有する畑160エーカー(64ha)と借りた畑320エーカー(128ha)で、小麦、エンバク、菜種、イエローマスタードを栽培している。農作業は一人でおこなっている。ブルーノで、もっとも若く、もっとも規模が小さい農家だ。

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カーライルと家族

自分の畑は、64haの原野を4万カナダドル(320万円)で購入したという。原野ではなく畑だと、倍の8万ドルはするそうだ(2003年)。

ブルーノの町から8キロほど西にある、カーライルの畑に連れていってくれた。今日はエンバクの種まきをするという。大型トラックはとても年季がはいっており、走っていると窓がガタガタする。プレートを見ると、62年製のフォードで、クラシックカーといってもおかしくないくらいのやつだ。「年季がはいっていて、かっこいいね」というと、「自分でペンキを塗ったんだ」ととてもうれしそうだ。トラック以外の農業機械は中古を借りている。

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トラックもトラクターも中古

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エンバクの種をトラックから移す

トラックを降りると、蚊の大群が襲いかかってきた。数百匹も体についてくる。今年はカナダ中で蚊が大量発生しており、こんなに蚊が多いのは初めてだという。「地球温暖化で温度が上がっているせいかな?」とカーライルは言っていた。こっちの蚊は刺されても痒くならないので、知らない間にあっというまに血を吸って逃げていく。

日本で原野を開墾するというと、大木の根を引き抜いたりして大変な労力がいる。北米のプレーリーでは降水量が少ないために、広大な草原やブッシュが形成される。「原野」といっても、1mくらいのブッシュなので、すぐに畑に変えることができる。

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カーライルの畑

いつもは、一人で作業しているのに、今日は人がいるせいか、終始にこにこして、とても楽しそうに作業を進める。土はきわめて肥沃な黒色土だ。カーライルは「ここは新しい畑なので、いい収穫があると楽しみにしているんだよ」と言う。

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エンバクの播種作業

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エンバクの種子

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菜種

こんなに農業に恵まれた土地のように思うが、やはりここでも農業に就く若者は少なく、22人の同級生のうち農家になったのはカーライルただ一人だという。ここらあたりでは、農家の数が急速に減って、逆に一戸当たりの経営面積がどんどん大きくなっている。

「友人達は、お金を多く稼ぐために皆都会に行ったよ。自分は農業が好きだから残ったんだ」

カーライルの年間の売上は400万円ほどだ。ネルソン農場のロドニーとカーライルの話を聞いていると、彼らの農業のやり方や考え方がとてもよく似ていると感じた。ノースダコタからカナダのブルーノまで1600キロも離れているのに、栽培している品目、作業、機械、肥料、防除、そして土がとてもよく似ていることに驚く。日本では、町内でも畑によって土が違うし、1枚の畑でも場所によって土が違ったりする。

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北米のプレーリーは消費地から遠く離れており、農産物の販売はすべて企業にゆだねられる。とにかく、収穫した農産物を貯蔵しておく巨大サイロがないと話にならない。そういう彼らにとって、近隣の農家と自分の経営の差異を作り出すことは、とても困難なのであろう。差別化できるのは、生産コストだけなので、生産コストにきわめてシビアになる。生産コストにすぐれた農家だけが生き残れる。ロドニーたちが、自分たちの作物のブランド化、個性化に力を入れている理由は、価格競争には終わりがないからなのだろうと思った。

追記
売上金額についての問い合わせが多いので…。ヴィクトリア大学のイアン・マクファーソン氏によれば、カナダでは「ここ50年間に急激な農業構造の変化を経験し…50年前の農場数は60万でしたが、今は25万弱に激減し、高齢化しています」とのことである。また、「穀物は市場のせいもあって価格が低く、また気象条件、災害により、生産も価格も収入も不安定で…政府の支援は、米国の60%程度」である。今後の見通しとしては、「900~1500ヘクタールほどの穀物農場経営を想定し…3、4人で大型機械を使えば大農場でも運営」できるとしている(2004年、文献参照)。

アメリカが農家に補助金を多く出すということは、それだけ穀物価格が下がるということだ。私がカナダを訪れたころは、アメリカの政府支払いが多いときであった。96年農業法で直接支払いが始まり、アメリカの巨額の補助金に対して、財政基盤が弱い南米などの周辺諸国から非難轟々であった(文献参照)。

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引用文献、参考文献
対談 カナダにおける農業・農村の現状と協同組合・NPOの役割(2004年)
http://www.jacom.or.jp/archive01/document/tokusyu/toku148/toku148w04102607.htm
アメリカ2014年農業法の概要について
http://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/project/pdf/cr25_3_1_usa.pdf

ペルム紀末の大絶滅の理由―ペルオキシターゼ遺伝子による有機炭素の崩壊

Permian–Triassic extinction event, Collapse of organic carbon by peroxidase gene

地球上に生命が登場して以来、生物は順調に繁栄してきたわけではなく、何回かの大絶滅を経験している。そもそも学校で習った、原生代→古生代→中生代→新生代という地質区分は、大絶滅の前後で、生物相が大きく入れ替わった区分を表している。

一般には、大きな絶滅は5回が数えられており、もっともよく知られているのは、白亜紀末(6550万年前)の恐竜の絶滅であろう。このときには、恐竜やアンモナイトなど、生物種の70%が絶滅したとされている。白亜紀末の絶滅については、ユカタン半島付近のチクシュルーブ・クレーターを形成した隕石の衝突が原因という説が支持されている(文献参照)。

大絶滅の中でも最大のものは、ペルム紀末(2億6年千万年前)の大絶滅である。このときは、陸上生物種の70%、海生生物種では96%もの種が絶滅したとされている。ペルム紀末の大絶滅の原因は諸説あるが、まだはっきりと定まっていない。

ペルム紀の地球には、パンゲア大陸とよばれる超大陸が存在していた。地球上の植物は、シダ植物が繁殖し、針葉樹、イチョウ、ソテツなど裸子植物門も増え始めていた。裸子植物は、シダ植物から進化した樹木である。これらの植物のために、古生代の石炭紀からペルム紀の地層には、石炭が埋蔵されている。

地上の動物は、大型の両生類、爬虫類が多く生息していた。また、ゴキブリ目、トンボ目、甲虫目の昆虫をはじめとする節足動物も繁栄していた。なお、樹木を効率的に分解するシロアリはゴキブリ目であり、甲虫目も樹木との関係が深い。大絶滅が始まる前のペルム紀は、植物が繁栄したために、酸素濃度が高かったと考えられている。

海洋の生物としては、魚類、軟体動物、棘皮動物、腕足類などが多く、フズリナ、アメーバのなど原生生物、アンモナイトなど頭足類、三葉虫も生息していた。

ペルム紀末絶滅の特徴として、他の大絶滅に比べて、その後の生命の回復にきわめて長い時間がかかっていることである。回復に要した時間は、1000万年とされている。

絶滅の原因として考えられているのは、大規模な火山活動である。火山灰による低温化、火山ガス中の二酸化炭素の増加、メタンハイドレードの溶解などが原因ではないかとされている。火山からCO2が噴出した場合、CO2量はその後徐々に減少するはずである。しかし、ぺルム紀末には、CO2の増加が長期に続いており、回復に1000万年もかかったことが説明できないという批判がある。

もうひとつの説は、巨大隕石の地球への衝突である。じっさいに、この時期にイリジウムの濃集が確認されており、さらに大規模火災があった痕跡も見つかっている。しかし、隕石説も、ペルム紀末のあまりにも大規模な絶滅と、その後の回復に要した時間の長さをうまく説明できない。

ペルム紀末の特徴として大きいのは、大気中のCO2の増加である。さらに、大気中でも海水中でも、13C/12Cの値が急速に小さくなっていることが報告されている。これは、蓄積されていた有機物中の12Cが、大量に空中に放出したことを示している(植物は光合成の際に、12Cを多く吸収する)。また、海水中の酸素濃度が低下して、2000万年もの長期にわたって海水が酸素欠乏状態にあったことが判明している。

樹木の木質は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから成っている。木質を分解する生物は、担子菌門の木材腐朽菌である。木材腐朽菌は、セルロースとヘミセルロースを分解できる褐色腐朽菌と、リグニンを分解できる白色腐朽菌がある。

古生代の石炭紀の地層に石炭が大量に残存しているのは、地球上に白色腐朽菌が出現しておらず、樹木のリグニンが分解されずに蓄積したためと考えられている。

白色腐朽菌が、リグニンを分解する中心の酵素であるペルオキシダーゼ遺伝子を獲得したのは、2億9千万年前と推定されている。ペルム紀におきた有機炭素貯蔵量の急激な減少は、ペルオキシダーゼ遺伝子の登場が関与していると考えられている(文献参照)。

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じっさいに、ペルム紀の堆積物中には、真菌類の大量増殖の痕跡が確認されている(文献参照)。

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以上のことから考えると、ペルム紀末の大絶滅は、限界まで貯まったダムの水が一気に決壊するように、古生代に地表に蓄積した大量の炭素が、ペルオキシターゼ遺伝子の登場によって大崩壊したというのが、その理由ではないだろうか。そして、この時期の、高CO2・低O2を乗り切った生物たちによって、その後の中生代の生物相がつくられたと思われる。

参考文献、引用文献
The Chicxulub Asteroid Impact and Mass Extinction at the Cretaceous-Paleogene Boundary
http://science.sciencemag.org/content/327/5970/1214
リグニン分解酵素の進化が石炭紀の終焉を引き起こした
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2012/20120702-1.html
The terminal Paleozoic fungal event: evidence of terrestrial ecosystem destabilization and collapse.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC39926/

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コストを誰が負担するのか?「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その8

このテーマもだいぶ長くなってしまったので、そろそろ終わりにしようと思う(本当は、まだまだ書くことがあるのだが…)。

2016.9.2のブログで、国内のリンの「還元循環分はこのフローではとりあえず無視する」と書いた。

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現実には、かなりの量のリンが循環利用されており、かつできるだけ循環分を増やさないと、未来の人類が窮するというのが、本論の目的だ。私も含めて未来のことまで考えていられないというのがふつうだと思う。しかし、ドーキンスによれば、われわれ個々の人間は、「遺伝子の乗り物、すなわち遺伝子機械」にすぎず、遺伝子そのものは自己複製(コピー)して未来に存続していく。たとえ自分に子供がいないとしても、遺伝子は「遺伝子プール」として存在しているので、集団の中で「自分(遺伝子)」の大部分は生きて存続する。たとえば、兄弟姉妹は、自分と遺伝子の近縁度が1/2なので、遺伝的には自分の子供と同じだ。つまり、甥や姪は近縁度1/4で自分の孫と同等の存在である。集団内ではこうした血縁関係が歴史的に複雑にからみあって、遺伝子プールを形成している。

ホモサピエンスという種が登場したのは、20万年ほど前とされているので、私の中の種としての遺伝子は20万歳で、6666回コピーされたことになる(1世代30年として)。生命としてなら40億年コピーされ続けてきた。よほど重大なことがおきないかぎり、あと何万年かは、「私(遺伝子)」は生き続けるであろう。

話がそれた。自己組織化(開放系)における物質のポテンシャルとフローを図示すると、下のようになる。赤は物質がもつエネルギーのポテンシャルと流れをあらわし、黒は物質のエントロピーの状態量と流れをあらわしている。

外部から供給されるリン安、リン鉱石、食料中のリンなどは、純度が高くて濃縮されており、エントロピーが低く、物質のエネルギーは高い。これらが、食品、農業、工業などで利用されると、他の物質と混合され、水で希釈され、低エネルギー、高エントロピーの状態で排出される。これを循環させて再利用するには、エネルギーを使って合成、集中、濃縮し、エントロピーを小さくしなければならない。

系の内部の物質のストックが一定ならば、外部供給量と消尽量は等しくなる。消尽量は、再び利用することが困難な状態になった物質の量である。たとえば、物質が海洋に流れ出てしまったり、焼却灰として地中に埋設されてしまったものである。

系の物質のエネルギー消費量が一定ならば、循環量が大きくなるほど、外部供給量=消尽量は小さくなる。ただし、循環量が大きくなるほど、循環に要するエネルギー量(コスト)が大きくなる。外部供給に要するコストと、循環に要するコストとの比較で、循環量が決まる。外部供給物の単価が循環物の単価より低ければ、循環量は小さくなり、外部供給物が循環物より高ければ、循環量は大きくなる。

注意が必要なのは、系の範囲(空間)である。系の範囲(空間)を「日本の国土」とすると、水産物は外部供給量として扱われる。系の範囲を「日本の国土と漁場」とすると、水産物の半分は国内生産なので、残りの輸入分が外部供給量になる。2016.9.2ブログで下水汚泥からリンを回収するのが難しいなら、海に投入すればいいのではないかと書いたのはこのことである。系の範囲を海にまで拡張して考えれば、水産物はリンの循環利用とみることができる。一般に、漁業は資源収奪型産業といわれているが、ほんとうは、リン資源の循環利用に大きな貢献をしている。

希少資源の場合、コストを決定する大きな要因として、もうひとつの「系の範囲」がある。それは「時間の範囲」である。時間の範囲を短期の未来にとれば、希少資源の外部供給物の単価は安くなる。時間の範囲を長期の未来にとれば、外部供給物単価は高くなる。人の命はそれほど長くないので、個人で見れば、未来を短期に予測して行動するほうが合理的だ。しかし、「私」の根源である遺伝子(自己複製子)からみた場合は、未来を長期に予測して行動するのが合理的だ。短期的時間と長期的時間の差異から生じる価値(価格)の差を埋めるには、希少資源の外部供給物にガソリン税のような物品税を課せばよい。希少資源税によって、外部供給物の単価を高くすれば、循環量を増やすことができる。ただし、リンの経済埋蔵量が100年なのか300年なのかはっきりしないので、このような制度をいつ導入したらいいのかの判断が難しい。

リン資源の枯渇に対して系の利益を大きくする方法としては、①値上がり前に買い占める、②リン鉱山を買い占める(鉱山会社の株は一時急騰した)、③新しい鉱脈を発見する、④リンの効率的利用法を開発する、⑤リンの効率的循環技術を開発する、⑥土壌に蓄積したリンの利用技術を開発するなどがある。

次の問題は、循環に要するコストを誰が負担するかだ。上記のように、リン安やリン鉱石に税を課せば、コストは農産物の価格に転嫁されるので、すべての消費者が公平にコストを負担することができる。しかし、寿命が短い個人にとっては短期の時間の範囲で行動したほうが、自分の利益を大きくできるので、希少資源税の導入を嫌う。また、政治家は選挙民に評判の悪い制度を導入することは自分の利益にならないので、政治的には希少資源税の導入はそれほど簡単ではないかもしれない。

畜産集中地帯では、供給過剰で堆厩肥の買い手や引き取り先を探すのが困難になるので、循環に要するコストが他の地域に比べて高くなる。競争市場である農産物の価格は、もっとも生産コストが小さい産地の生産費で決まるので、畜産集中地域の畜産農家は循環コストを価格に転嫁できない。すなわち、畜産集中地域では、経営の悪化をさけるため、家畜排せつ物の循環をやらなくなる可能性がある(燃やしたり捨てたりする)。これを、放置するのか国家が介入するのかを、国民が決めなければならない。国家が介入するのであれば、畜産集中地域からでる堆厩肥を、堆肥が不足する地域に移動するコストを国民が負担することになる。

方法としては、堆肥センターや輸送システムの構築など、ハード面の施策もある程度必要だが、ハード事業は期限があるため継続性がないし、コストと効率性が劣り、品質の保証がない。そこで、「堆肥運送費バウチャー」のような制度が合理的だ。指定された畜産集中地域から堆肥を購入するときの運送費のバウチャー(クーポン・金券)を、有機農家や特別栽培農家など、堆肥を利用する農家に配ればよい。こうすれば、良質な堆肥を作る畜産農家ほど堆肥が売れるし、バウチャーは運賃の分だけなので距離で決まり、平等に計算しやすい。ただし、お役人はハード事業に比べて予算と手数料を少ししかとれないので、こうした制度を嫌がる傾向がある。(とりあえずおわり)

追記
循環利用分を算入した表を作成しておく。農産廃棄物の100%、家畜糞尿の90%、食品廃棄物、水産廃棄物、屠畜処理物はそれぞれ30%が循環されているとして計算すると、リンの年間の循環量は15.4万トンになる。これを、総供給量と排出量に算入すると、それぞれ75.4万トンになる。外部供給量と消尽量は以前の集計と変わらない。系の範囲を「日本国土」として、水産物はとりあえず外部供給量に入れた。再計算によって、年間の「土壌蓄積・埋立・流亡・不明」は32.6万トンであることがわかる。
農地への土壌蓄積および農地からの流出分を概算してみる。循環分15.4万トンのうち、農地に堆肥や肥料として投入されるリンは、農産廃棄物2.3万トン、家畜糞尿9.9万トン、水産廃棄物と屠畜処理物の半分が肥料に利用されるとする。合計すると、12.8万トンになる。のこりの2.6万トンは、家畜や養殖魚の飼料として利用されている。
年間に農地に投入されるリンの量は、17.0+12.8=29.8万トンになる。食料自給率はカロリーベースで40%なので、輸入農産物のリン17.0万トンの含有率と同じと仮定すると、11.3万トンが、国産農作物として生産される。つまり、年間のリンの農地への土壌蓄積および農地からの流出量は、29.8-11.3=18.5万トンと思われる。(参考資料です)
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文献
リチャード・ドーキンス、1976、『利己的な遺伝子』、紀伊國屋書店、増補新装版、2006
ミルトン・フリードマン、1962、資本主義と自由、日経BP、2008

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