「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その7

下の図は、農林水産省がリリースした「畜産環境をめぐる情勢(平成28年8月)」からの引用である。図をみれば一目瞭然だが、耕地面積当たりの家畜排せつ物の量は、地域によって大きな差がある。家畜排せつ物に含まれるリンの循環の問題のひとつは、家畜が列島の北と南の端に集中していることだ。

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北海道は、飼育頭数にくらべて牧草地や畑地が広いので、10a当たりの窒素量は5~10kgとなっている。一方、南九州では、10a当たりのNが25kg以上もあり、地域内の耕地に全部還元するのは無理である。そもそも、牛糞、豚糞、鶏糞を「肥料」としてみた場合、窒素Nの含有率にくらべて、リンP、カリKがかなり多い。すなわち、窒素で25kg以上あるということは、リンとカリは適正量の何倍もあるということだ。

まず、北のほうからもう少し詳しく見てみる。北海道東部は、言わずと知れた日本最大の酪農地帯である。下の図は、家畜排せつ物法が施行される前年(2003年)に、北海道東部の草地について書かれた論文からのデータである(文献参照)。

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北海道東部の草地の土壌分析をみると、造成20年後の土壌pHは5前後の弱酸性で、リン酸吸収係数が2000もある。日本の土壌でもっともリン吸が高い黒ボク土(火山性土壌)が1500くらいなので、きわめて大きい。また、CECが60以上もある。一般の腐植質黒ボク土のCECは、15~30とされている。すなわち、ここは、腐植率がきわめて高い火山性土壌であることが伺える。火山性土壌の草地で、かつ冷涼なために、腐植が蓄積しやすいのであろう。

CECが高いせいもあるが、置換性のCa、Mg、Kの塩基類は少ない。年間の降水量は1100mm程度なので、降水量がそれほど多いわけではないが、冷涼なため、土壌水の蒸散量が大きくないと思われる(土壌水が下向きになる)。

可給態リン酸は、造成後の施肥や堆厩肥の投入によって改良がすすみ、20年ですでに基準値を大きく上回っている。一方、減り続けているのはCaで、これは造成初期に大量のカルシウムCaを施用したが、その後はCa施用をあまりおこなっていないためであろう。Caが少なくなって土壌pHが下がると、高価なリン酸肥料を施しても難溶化する割合が大きくなるし、飼料の質が下がる。

著者の高山氏は、家畜排せつ物法の施行(2004年)によって、糞尿の野積みが禁止になるため、野積み中のカリKの流亡がなくなり、草地のカリ含有量が高くなるではないかと予測している。

その後の経過はどうなったであろうか?2012年の北海道東部の草地の土壌分析値は以下のとおりである。

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土壌分析の数値しかわからないので、あくまでも予想であるが、北海道東部の草地の一部では、すでに可給態リン酸は、基準の2倍に達していることがわかる。カリKもやや多く、カルシウムCaはやや少ない。予測どおりの経過をたどっているようであるが、Caの施用が進められているようで、2003年より大きく改善している。

リンの資源循環のみで考えれば、北海道東部では施肥と堆肥還元によってリンの含有量はすでに飽和している。今後、肥料によるリン酸施用をゼロにした場合、堆肥の還元だけで、リンの必要量がまかなえるかどうか、経過をみる必要がある。もし、それでもリンが余るようであれば、他地域を含めた堆肥の広域利用を検討する必要がある。

なお、流域を流れる西別川、然内川、清丸別川、ポンヤウシュベツ川、ヤウシュベツ川、風蓮川、当幌川、春別川、床丹川および湖沼の水質調査では、河川・湖沼ともに著しい汚濁の進行はみられていないようである(文献参照)。

南九州について、みてみる。宮崎県では、1991年の国土交通省の水質調査で、宮崎市内を流れる大淀川が、九州の一級河川の中でもっとも汚れていると報告されて、大きな問題になった。その後、県をあげて水質改善に取り組み、2013年の調査では九州内でワースト5というところまで「改善」している。

下の表のように、宮崎県内で発生する家畜排せつ物447万トンのうち、76.7%が堆肥などで農業利用されている。豚の尿はそのままでは農地還元が難しいため、浄化処理されている(18.2%)。また、県内で発生する鶏糞(23万トン)のほぼ全量が、2箇所の焼却施設で焼却されている(2015 年報告、文献参照)。

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県内の地域別の農地面積に対する堆肥充当率は、北諸県地域が140.9%、南那珂地域が129%、西臼杵地域が53.3%となっており、県内だけでも地域的な格差が存在する。ここでは、堆肥の広域流通が大きな課題となっている。

かつては、家畜排せつ物は、地域内処理(還元)が原則であった。現在は、地域内還元はとうてい不可能であり、できるだけ輸送のコストとエネルギーが少ない方法で、家畜が集中する地域から堆肥が不足する地域へ移動させる必要がある。

九州内であれば、佐賀県と福岡県の水田地帯に還元するか、あるいは船で高知県の園芸地帯などに運ぶのがよいのではないだろうか。イネはきわめて有機態窒素を効率よく吸収する作物で、とくに根の生育がよくなる。窒素利用の面からみれば、堆肥を水田へ還元するのが合理的だ。ただ、リンは水田の還元土壌では溶出しやすいので、水田には鉱物リンを施用し、リンが難溶化しやすい畑地に堆肥の有機態リンを還元したほうが合理的なのかもしれない。最終的には費用対効果で決まるであろうが…

引用文献・参考文献
畜産環境をめぐる情勢(平成28年8月)
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/attach/pdf/index-11.pdf
北海道における草地更新の必要性と留意点(2003年)
https://www.snowseed.co.jp/wp/wp-content/uploads/grass/grass_200311_02.pdf
土壌分析とふん尿成分値測定に基づく適正な施肥管理への取り組み(2012年)
http://www.nemuro.pref.hokkaido.lg.jp/ss/nkc/dayori/no02/betukai.htm
河川環境等水質結果について(2015年)
http://betsukai.jp/blog/0001/index.php?ID=3687
宮崎県における畜産環境対策の現状と取組について(2015 年)
https://www.leio.or.jp/pub_train/publication/tkj/tkj60/tkj60-4.pdf

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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