ニンジンのカロテンとルテオリンの役割

植物は、地中に深く根を伸ばして、植物の身体を構成するのに有用な元素を集める。植物が死んで遺体が堆積すると、有用元素は地表の近くに集積して濃度が高くなる。動物の糞や遺体も地表に堆積するので、地表面にはどんどん有機物や有機物由来の物質が蓄積する。

地球上の生物が棲息可能な場所は、だんだんと有機物や有機物由来の物質で覆われてくる。微生物によって有機物は無機物に分解されるので、有機物が多ければ、栄養素になる無機物も多い。無機栄養物が豊富なら、進化の後ろのほうで登場した植物は、有機態窒素よりも無機態窒素を吸収したほうが、有利なはずだ。ライバルたちに勝つ方法は、毒物やトゲなど、栄養吸収とは別のアプローチを使う。

つまり、進化の後ろのほうで登場する植物ほど、有機態窒素を吸収しないのではないか…と思って調べてみると、植物の種分化のツリーの後ろのほうに登場するセリ科のニンジンは、きわめてよく有機態窒素を吸収する。ニンジンには、この仮説はあわない。自然はきわめて複雑で多様であり、単純な見方は通用しないようだ…。

ここまでは以前のブログでも書いたが、気になったのでもう少し先を調べてみた。

ニンジンの原産地は、アフガニスタンの冷涼なヒンズークシ山麓と考えられている。ニンジンは、自然の状態では夏~秋に発芽して生長し、冬季には生育が停滞するがそのまま越冬する。冬季の低温に遭遇すると花芽分化して、翌春の長日温暖下で抽台、開花に至る。秋~春の低温期には土壌微生物の活動が弱まるため、有機物はなかなか無機化しない(腐らない)。そこで、ニンジンは、無機化する前の、有機態の窒素を吸収する機構が発達したのであろう。

しかし、有機態窒素を吸収すれば、寄生・病原生物の侵入リスクが高まるはずので、なんらかの防御機構を有しているはずだ。ニンジンに含まれる成分としては、カロテンが有名だ。しかし、カロテンの効果として知られているのは、抗菌作用ではなくて、抗酸化作用だ。

植物は低温にさらされると低温障害で葉っぱが黄色くなる(クロロシス)が、これは日当たりのよい部分ほどおきやすいことが、昔からよく知られていた。どうして日があたって温度が高いはずなのに、低温障害がでやすいのかは、長い間、なぞであった。

「最近になり、低温処理直後に光化学系Iの活性が不可逆的に失活していることが明らかとなった。活性を持たずに光のエネルギーを吸収する光化学系が存在すると、その過剰なエネルギーによって活性酸素が生じ、細胞構成成分のさらなる破壊が進む。これを避けるために、植物は、活性を失った光化学系Iをストレス後に分解し、結果としてクロロフィルが失われ葉が退色していると考えられる。従って、葉の退色の進行は、さらなる傷害を避けるための、植物の積極的な方策なのである」(引用文献:園池、植物の環境ストレス応答)

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このことから、どうしてニンジンにカロテンが多いのかが、予想できる。冷涼なヒンズークシ山麓に棲息するニンジンは、低温下で発生する活性酸素から身を守るために、大量のカロテンを生産するのであろう。つまりカロテンは、抗菌作用を担っているわけではない。

一方、ニンジンには、フラボノイドのルテオリンが多く含まれている。ルテオリンは、ニンジン、セロリ、エゴマ、シソ、ピーマン、ブロッコリー、パセリ、タイム、タンポポ、カモミール、オリーブ、ペパーミント、ローズマリー、ネーブル、オレガノ、アシタバなど、多くの植物に存在するとされている。

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ルテオリンは、近ごろ、やたらと注目されている成分らしく、さまざまな作用が報告されている。列挙すると、ピロリ菌感染予防(ヒト胃ガン細胞)、抗白内障作用(ヒツジ培養水晶体)、糖尿病治療(ラット水晶体)、抗アレルギー(ラット細胞)、抗癌作用(ヒト胃癌、頸部癌、肺癌、膀胱癌)、酸化ストレスからの保護作用(ヒト腸細胞)、アセトアミノフェンの硫酸抱合体とグルクロン酸抱合体の産生を阻害(ラット培養肝細胞)など多岐にわたる。(文献参照)

上の文献にはでていないが、ルテオリンには、黄色ブドウ球菌、大腸菌、セレウス菌、シトロバクター、ラクトバチルスに対する、殺菌および抗菌作用があることが報告されている。(文献参照)

冷涼なヒンズークシ山麓では、病原性の糸状菌はあまり繁殖できないため、病原性細菌に対する防御のほうが重要なのであろう。

参考文献、引用文献
植物の環境ストレス応答
http://www.photosynthesis.jp/PlantResponse.html
ルテオリン:(旭川医科大学)
http://food-db.asahikawa-med.ac.jp/dictionary.php?content=component_dictionary&id=134
The assessment of biological activities associated with the major constituents of the methanol extract of ‘wild carrot’ (Daucus carota L) seeds.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16093236

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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