「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その6

平成27年度リンアトラス研究所研究報告書(文献参照)には、「農林水産省の『畜産環境をめぐる情勢』(平成27年)によれば、『家畜排せつ物法』が施行された2004年の段階で、家畜排せつ物の約90%は堆肥または液肥として利用されている。もしこれが事実であれば、わが国における家畜排せつ物の大半はすでに有効利用されているものと考えられる」とある。

たしかに、家畜排せつ物法の施行とその実施は、近年の農水省の仕事では、すこぶる成果がでた仕事のひとつであろう。昔は私の家でも馬、牛、豚、ヤギ、鶏を飼っていたし、近所の和牛の肥育農家のところで、糞出しの手伝いをよくやっていた。はじめのころは、牛糞を猫でそのまま川に捨てていた。さすがにそれでは川どころか、河口の近くの海水浴場まで糞だらけになり、何年かして禁止になった。山村なので田んぼは棚田で機械が入らないため、農地に還元するのも難しい。それで畜産農家は、牛舎横の田んぼにしばらく野積みしてから、焼却炉で焼いたりして、相当に苦労していた。

日本の畜産経営では、北海道など一部の地域や経営体をのぞいて、放牧地や牧草地をほとんどもたない(世界中そうだが)。飼育頭数が少ないうちは問題ないが、数が多くなると、家畜糞尿の処理に大きなコストがかかる。じっさいには、家畜糞尿の循環利用には、まだまだ課題が残されていると思う。

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表は、2009年の「家畜排せつ物処理状況調査結果」の報告書だ(文献参照)。数字を一見して気がつくのは、ブロイラーの鶏糞は30%も焼却されていることだ。鶏糞を焼いたあとの灰には、20~25%ものリン酸が含まれているが、鶏糞を高温で焼くとリンが難溶化して、肥料として使えないという問題があった。最近は焼成温度を低くしたり酸で処理するなど、肥料化の技術が開発されているので、循環できるリンの量は増えると思われる。それにしても、窒素は大気中に放出されてしまうので、もったいない話ではあるが、生の鶏糞を遠方まで運べば、コストとエネルギーが高くつくのでしょうがない面はある。

また、表からは、乳牛と豚の尿処理の難しさがうかがえる(肉用牛は95%が糞尿混合処理)。豚の尿の大半は、浄化処理して環境に放出されているが、浄化処理はコストが高い。

乳牛の尿の多くは、貯留されたあとに田畑に還元されるが、あまり脱臭されていないと悪臭の原因になる。理屈では、牛の尿も豚の尿も、よい液肥になるはずだが、悪臭や衛生面のために、なかなか利用がすすまない。牧草地や畑地がない地域では、水田に施用するのが一番合理的なのだが…。

以前から、乳牛の尿処理で実績があるのは千葉県だ(文献参照)。千葉県では、内水護博士が提唱したBMW方式がかなり普及していて、尿の循環利用がうまくいっている県のひとつだろう。

内水博士は、もともとは火山学の研究者らしい。昔、内水博士の著書(『土と水の自然学』、『土の心土の文化』)を読もうとしたが、どうしても入手できす、国会図書館に行って全部コピーをとったことがある(さっき部屋中探したが見つからない)。内水博士の土壌生成論は、土壌学者からは無視(証拠がないので評価できない)されており、農業関係でもほとんど知られていない。しかし、たとえ内水博士の理論が、科学的に証明できるものでないとしても、実際の畜産経営の場面では、実績をあげているという事実については誰も否定できない。

BMWの理論では、「土壌微生物は…好気条件では有機物を低分子化し、嫌気条件では有機物を腐植化する。…成分はベンゼン環などの芳香族環を骨格とするフェノール化合物で、一般に腐植質(humus)という。そこで土壌微生物が腐植質を生成するように順養されれば…廃水中の有機物を好気条件でも長期間、腐植質を産出する。すなわち有機物に腐植質を添加すると、急速に結合、粒子化、凝集、縮合、重合…する。さらに、…石英(SiO2)を多量に含む花崗岩を添加すれば、腐植化のための有機物の重縮合反応が促進され…」ということらしい(引用:農地還元を目的とした豚尿汚染の液肥化)。

これは、腐植生成という現象についての、ひとつの解釈だが、腐植物質(腐植酸、フルボ酸、ヒューミン)は、リグニンに由来すると多くの土壌学者は考えている。なので、嫌気条件で腐植物質ができるのは、白色腐朽菌が活動できず、リグニンが残るからだ。地球上で、リグニンを分解できる生物は、白色腐朽菌だけとされている。セルロールも分解は難しいが、牛のルーメン細菌のように、嫌気条件でセルロースを分解できる生物はたくさんいる。

牛や豚の排泄物には、消化されなかったタンパク質、セルロース、リグニンがたくさん含まれているが、タンパク質やセルロースは、微生物によって、最終的にはCO2N2H2O、金属イオンなどに分解されてしまう。いつまでたっても分解されないのはリグニンで、廃水中には、豚や牛に噛み砕かれたり、微生物がセルロースだけ分解して、粉々に砕けた微小リグニンが浮遊している。

リグニンを小さく砕くと、リグニンを構成する、芳香族のコニフェリルアルコール、シナピルアルコール、p-クマリルアルコールらがむき出しになるはずだ。これらの芳香族化合物のOH基のHが外れると、マイナスに帯電する。

岩石を構成するケイ酸塩鉱物(SiO4)も、マイナスに帯電しているので、ケイ酸塩鉱物と芳香族化合物はそのままでは縮合しないはずだ。これらが縮合するには陽イオン(金属イオン)の存在が不可欠である。先述の論文ではホタテの貝殻を入れてカルシウムイオンCa2を供給すると、効果が増すとしている。すなわち、Ca2を介在して、ケイ酸塩鉱物とリグニン由来の芳香族化合物が縮合すると考えるとうまく説明がつく。(話がかなりリンから脱線した)

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文献参照、引用文献
早稲田大学リンアトラス研究所
http://www.waseda.jp/prj-p-atlas/
家畜排せつ物処理状況調査結果
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/pdf/syori-joukyou.pdf
家畜ふん尿の処理対策(尿をどう利用していくか)
https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/network/h18-fukyuu/kachiku.html
農地還元を目的とした豚尿汚染の液肥化
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitaikogaku/16/2/16_2_113/_pdf

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズ(農文協)など

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