「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その5

前回のバーチャルのリンフローでは、じっさいにどれくらいのリンが動いているのかよくわからないので、もう少し調べてみる。最新データはリンアトラス研究所の2015年概要報告(文献参照)のようだが、これには全部の流れが書かれていない。しょうがないので自分で作ってみることにした。

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リン鉱石の輸入量(23万トン)、排出(理論値)の一部、鉄鉱石中のリン(12万トン)については、報告書から引用しているので、そちらを読んでほしい。輸入されている食料、飼料中のリンの値は、「国際貿易に伴う世界および日本のリンフロー」の値を、リンの含有量で計算しなおした(17万トン)。水産物の値は、平成27年度水産白書の水産物消費量の値(796万トン)に、リン含有量1%として計算した(8万トン)。

排出のほうで、報告書以外に思い浮かぶ項目としては、人間、ペットなどがある。人間は死ぬとすべて埋められるので、計算できる(0.1万トン)。日本にはペットとして飼われている犬が1億匹、猫が1億匹くらいいて、その寿命は14~15年という(2013年統計)。犬の体重を10キロ、猫を4キロ、リン含有率1%で計算すると、年間に発生する遺体には0.1万トンくらいのリンが含まれることになる。しかし、遺体のリンの行き先や、ペットのエサや糞尿の流れはよくわからない。

あと、リンフローとしてかなり大きいのは、屠畜の際にでる骨・内臓・皮・血液などである(3万トン)。ブタの年間屠畜数は1,694万頭、ウシは118万頭(2014年)、ニワトリは6.5億羽(2013年)となっている。昔は、これらは飼料や肥料として利用されていたが、BSE問題以降、焼却・埋立てられるようになった。近年は騒ぎが収まってきたので、一部は肥料や飼料(養殖魚など)として利用されているはずであるが、統計が公表されていないため不明である。

家畜糞尿と農産廃棄物の多くは、堆厩肥として農地や草地に還元されているが、還元循環分はこのフローではとりあえず無視する。合計すると、日本で年間に流れているリンは、60万トンほど(循環分は無視)ということになる。排出の中には、土壌蓄積・埋立・流亡・不明が約17.2万トンあるが、表では循環分を無視しているので、この値に循環分を加えなければならない(後述)。このうちもっとも大きいのは土壌蓄積分と思われる。あと多いと思われるのは、流亡分、工業の不明分であろう。(なお、私は研究者ではないので、上の表は参考資料です)

以下、再利用できそうな分野について、一瞥してみる。
鉄鉱石には、リンが多く含まれている。鉄とリンは、ともに重くて水に溶けにくい金属なので、生成の過程で混入しやすい。古代より、製鉄では、リンを取り除くことが大きな技術的な課題であった。鉄は、リンが混じると、錆びにくいがもろくなる(デリーの鉄柱が有名)。直接製鉄法では、鍛錬してリンなどの不純物を取り除いていた。間接製鉄法ではリンを取り除くのは難しく、効率よくリンを除去できるようになったのは、1879年のトーマス転炉まで待たなければならない。トーマス転炉によって、リン含有量が高い鉄鉱石の製鉄が可能になり、ヨーロッパでは鉄と同時に大量のリン酸肥料が製造されるようになった(トーマス燐肥)。日本では、トーマス転炉はほとんど普及せず、LD転炉(酸素上吹転炉)が中心であるため、リンは回収されていない。日本でも、スラグからリンを回収する技術が研究されてはいるが、いまだ実用化されていない。製鉄のスラグに含まれるリンは、年間に排出される家畜糞尿のリンよりも多く、早急に解決すべき課題である。

下水については、昔から下水汚泥を肥料に利用しようという試みはあるのだが、下水汚泥に含まれる重金属の除去が困難なため、利用されていない。なお、集落排水については、重金属が混入しにくいため、発生する汚泥の約50%は農地や緑地に還元されているようだ。以前から、私は、重金属の除去が困難ならば、いっそのこと下水汚泥を、プランクトンが大量に発生する比較的浅い海域に投入すればいいのではないかと思っていた。リンを栄養素にしてプランクトンが増え、それを食べる魚類が増えれば海洋資源の維持につながるのではないだろうか。生物は不要な金属元素を体外に排出するので、生物に浄化をまかせればよい。漁業で魚介類を捕獲すれば、上質のリン資源として何度でも回収できる。

ところが、近年、岐阜大学の研究者たちが、微生物燃料電池の開発の過程で、リン酸マグネシウムアンモニウムの結晶を廃水から析出できることを発見して、大きな話題になった(文献参照)。電気とリンを同時に回収できるので、実用化できる可能性が高く、有望である。有機物の汚水処理やリンの再利用は、日本だけでなく、世界中の国々の課題であるので、日本でうまく事業化できればビジネスとしても成功を収める可能性がある。資本と人員を集中して投入すべきである。(肝心の家畜糞尿については次回)

訂正
表のデータを一部訂正(生ごみ、屠畜)

参考文献
平成27年度リンアトラス研究所研究報告書
http://www.waseda.jp/prj-p-atlas/PDF/%EF%BC%A827%E6%88%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%E6%A6%82%E8%A6%81%E7%89%88.pdf
国際貿易に伴う世界および日本のリンフロー、2012
http://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9008/9008_tokushu_2.pdf
平成27年度水産白書第3節
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/H27/pdf/27suisan1-2-3.pdf
食品リサイクル法の施行状況
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokusan/recycle/h24_01/pdf/doc2_rev.pdf
微生物燃料電池による廃水からのリン回収に廃水中有機物濃度および外部抵抗が与える影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jswe/37/4/37_163/_article/-char/ja/

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投稿者: jcmswordp

著述、企画、編集。農家が教えるシリーズなど

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