「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その7

下の図は、農林水産省がリリースした「畜産環境をめぐる情勢(平成28年8月)」からの引用である。図をみれば一目瞭然だが、耕地面積当たりの家畜排せつ物の量は、地域によって大きな差がある。家畜排せつ物に含まれるリンの循環の問題のひとつは、家畜が列島の北と南の端に集中していることだ。

%e7%b3%9e%e5%b0%bf

北海道は、飼育頭数にくらべて牧草地や畑地が広いので、10a当たりの窒素量は5~10kgとなっている。一方、南九州では、10a当たりのNが25kg以上もあり、地域内の耕地に全部還元するのは無理である。そもそも、牛糞、豚糞、鶏糞を「肥料」としてみた場合、窒素Nの含有率にくらべて、リンP、カリKがかなり多い。すなわち、窒素で25kg以上あるということは、リンとカリは適正量の何倍もあるということだ。

まず、北のほうからもう少し詳しく見てみる。北海道東部は、言わずと知れた日本最大の酪農地帯である。下の図は、家畜排せつ物法が施行される前年(2003年)に、北海道東部の草地について書かれた論文からのデータである(文献参照)。

%e5%88%a5%e6%b5%b7ph

北海道東部の草地の土壌分析をみると、造成20年後の土壌pHは5前後の弱酸性で、リン酸吸収係数が2000もある。日本の土壌でもっともリン吸が高い黒ボク土(火山性土壌)が1500くらいなので、きわめて大きい。また、CECが60以上もある。一般の腐植質黒ボク土のCECは、15~30とされている。すなわち、ここは、腐植率がきわめて高い火山性土壌であることが伺える。火山性土壌の草地で、かつ冷涼なために、腐植が蓄積しやすいのであろう。

CECが高いせいもあるが、置換性のCa、Mg、Kの塩基類は少ない。年間の降水量は1100mm程度なので、降水量がそれほど多いわけではないが、冷涼なため、土壌水の蒸散量が大きくないと思われる(土壌水が下向きになる)。

可給態リン酸は、造成後の施肥や堆厩肥の投入によって改良がすすみ、20年ですでに基準値を大きく上回っている。一方、減り続けているのはCaで、これは造成初期に大量のカルシウムCaを施用したが、その後はCa施用をあまりおこなっていないためであろう。Caが少なくなって土壌pHが下がると、高価なリン酸肥料を施しても難溶化する割合が大きくなるし、飼料の質が下がる。

著者の高山氏は、家畜排せつ物法の施行(2004年)によって、糞尿の野積みが禁止になるため、野積み中のカリKの流亡がなくなり、草地のカリ含有量が高くなるではないかと予測している。

その後の経過はどうなったであろうか?2012年の北海道東部の草地の土壌分析値は以下のとおりである。

%e5%88%a5%e6%b5%b7%e5%9c%9f%e5%a3%8c3

土壌分析の数値しかわからないので、あくまでも予想であるが、北海道東部の草地の一部では、すでに可給態リン酸は、基準の2倍に達していることがわかる。カリKもやや多く、カルシウムCaはやや少ない。予測どおりの経過をたどっているようであるが、Caの施用が進められているようで、2003年より大きく改善している。

リンの資源循環のみで考えれば、北海道東部では施肥と堆肥還元によってリンの含有量はすでに飽和している。今後、肥料によるリン酸施用をゼロにした場合、堆肥の還元だけで、リンの必要量がまかなえるかどうか、経過をみる必要がある。もし、それでもリンが余るようであれば、他地域を含めた堆肥の広域利用を検討する必要がある。

なお、流域を流れる西別川、然内川、清丸別川、ポンヤウシュベツ川、ヤウシュベツ川、風蓮川、当幌川、春別川、床丹川および湖沼の水質調査では、河川・湖沼ともに著しい汚濁の進行はみられていないようである(文献参照)。

南九州について、みてみる。宮崎県では、1991年の国土交通省の水質調査で、宮崎市内を流れる大淀川が、九州の一級河川の中でもっとも汚れていると報告されて、大きな問題になった。その後、県をあげて水質改善に取り組み、2013年の調査では九州内でワースト5というところまで「改善」している。

下の表のように、宮崎県内で発生する家畜排せつ物447万トンのうち、76.7%が堆肥などで農業利用されている。豚の尿はそのままでは農地還元が難しいため、浄化処理されている(18.2%)。また、県内で発生する鶏糞(23万トン)のほぼ全量が、2箇所の焼却施設で焼却されている(2015 年報告、文献参照)。

%e5%ae%ae%e5%b4%8e%e5%a0%86%e8%82%a5

県内の地域別の農地面積に対する堆肥充当率は、北諸県地域が140.9%、南那珂地域が129%、西臼杵地域が53.3%となっており、県内だけでも地域的な格差が存在する。ここでは、堆肥の広域流通が大きな課題となっている。

かつては、家畜排せつ物は、地域内処理(還元)が原則であった。現在は、地域内還元はとうてい不可能であり、できるだけ輸送のコストとエネルギーが少ない方法で、家畜が集中する地域から堆肥が不足する地域へ移動させる必要がある。

九州内であれば、佐賀県と福岡県の水田地帯に還元するか、あるいは船で高知県の園芸地帯などに運ぶのがよいのではないだろうか。イネはきわめて有機態窒素を効率よく吸収する作物で、とくに根の生育がよくなる。窒素利用の面からみれば、堆肥を水田へ還元するのが合理的だ。ただ、リンは水田の還元土壌では溶出しやすいので、水田には鉱物リンを施用し、リンが難溶化しやすい畑地に堆肥の有機態リンを還元したほうが合理的なのかもしれない。最終的には費用対効果で決まるであろうが…

引用文献・参考文献
畜産環境をめぐる情勢(平成28年8月)
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/attach/pdf/index-11.pdf
北海道における草地更新の必要性と留意点(2003年)
https://www.snowseed.co.jp/wp/wp-content/uploads/grass/grass_200311_02.pdf
土壌分析とふん尿成分値測定に基づく適正な施肥管理への取り組み(2012年)
http://www.nemuro.pref.hokkaido.lg.jp/ss/nkc/dayori/no02/betukai.htm
河川環境等水質結果について(2015年)
http://betsukai.jp/blog/0001/index.php?ID=3687
宮崎県における畜産環境対策の現状と取組について(2015 年)
https://www.leio.or.jp/pub_train/publication/tkj/tkj60/tkj60-4.pdf

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 4,317

Kindle Unlimitedのサービスなら、30日間は無料で無制限で読めます。
https://www.amazon.co.jp/gp/kindle/ku/sign-up?ref=snpl_3_1_347975289&qid=1474415220&pf_rd_p=347975289&pf_rd_m=A1VC38T7YXB528&pf_rd_t=301&pf_rd_s=desktop-signpost&pf_rd_r=17EPT2H81ZKRNF720CRX&pf_rd_i=Kindle+Unlimited

広告

ニンジンのカロテンとルテオリンの役割

植物は、地中に深く根を伸ばして、植物の身体を構成するのに有用な元素を集める。植物が死んで遺体が堆積すると、有用元素は地表の近くに集積して濃度が高くなる。動物の糞や遺体も地表に堆積するので、地表面にはどんどん有機物や有機物由来の物質が蓄積する。

地球上の生物が棲息可能な場所は、だんだんと有機物や有機物由来の物質で覆われてくる。微生物によって有機物は無機物に分解されるので、有機物が多ければ、栄養素になる無機物も多い。無機栄養物が豊富なら、進化の後ろのほうで登場した植物は、有機態窒素よりも無機態窒素を吸収したほうが、有利なはずだ。ライバルたちに勝つ方法は、毒物やトゲなど、栄養吸収とは別のアプローチを使う。

つまり、進化の後ろのほうで登場する植物ほど、有機態窒素を吸収しないのではないか…と思って調べてみると、植物の種分化のツリーの後ろのほうに登場するセリ科のニンジンは、きわめてよく有機態窒素を吸収する。ニンジンには、この仮説はあわない。自然はきわめて複雑で多様であり、単純な見方は通用しないようだ…。

ここまでは以前のブログでも書いたが、気になったのでもう少し先を調べてみた。

ニンジンの原産地は、アフガニスタンの冷涼なヒンズークシ山麓と考えられている。ニンジンは、自然の状態では夏~秋に発芽して生長し、冬季には生育が停滞するがそのまま越冬する。冬季の低温に遭遇すると花芽分化して、翌春の長日温暖下で抽台、開花に至る。秋~春の低温期には土壌微生物の活動が弱まるため、有機物はなかなか無機化しない(腐らない)。そこで、ニンジンは、無機化する前の、有機態の窒素を吸収する機構が発達したのであろう。

しかし、有機態窒素を吸収すれば、寄生・病原生物の侵入リスクが高まるはずので、なんらかの防御機構を有しているはずだ。ニンジンに含まれる成分としては、カロテンが有名だ。しかし、カロテンの効果として知られているのは、抗菌作用ではなくて、抗酸化作用だ。

植物は低温にさらされると低温障害で葉っぱが黄色くなる(クロロシス)が、これは日当たりのよい部分ほどおきやすいことが、昔からよく知られていた。どうして日があたって温度が高いはずなのに、低温障害がでやすいのかは、長い間、なぞであった。

「最近になり、低温処理直後に光化学系Iの活性が不可逆的に失活していることが明らかとなった。活性を持たずに光のエネルギーを吸収する光化学系が存在すると、その過剰なエネルギーによって活性酸素が生じ、細胞構成成分のさらなる破壊が進む。これを避けるために、植物は、活性を失った光化学系Iをストレス後に分解し、結果としてクロロフィルが失われ葉が退色していると考えられる。従って、葉の退色の進行は、さらなる傷害を避けるための、植物の積極的な方策なのである」(引用文献:園池、植物の環境ストレス応答)

%e5%85%89%e5%90%88%e6%88%90

このことから、どうしてニンジンにカロテンが多いのかが、予想できる。冷涼なヒンズークシ山麓に棲息するニンジンは、低温下で発生する活性酸素から身を守るために、大量のカロテンを生産するのであろう。つまりカロテンは、抗菌作用を担っているわけではない。

一方、ニンジンには、フラボノイドのルテオリンが多く含まれている。ルテオリンは、ニンジン、セロリ、エゴマ、シソ、ピーマン、ブロッコリー、パセリ、タイム、タンポポ、カモミール、オリーブ、ペパーミント、ローズマリー、ネーブル、オレガノ、アシタバなど、多くの植物に存在するとされている。

%e3%83%ab%e3%83%86%e3%82%aa%e3%83%aa%e3%83%b3

ルテオリンは、近ごろ、やたらと注目されている成分らしく、さまざまな作用が報告されている。列挙すると、ピロリ菌感染予防(ヒト胃ガン細胞)、抗白内障作用(ヒツジ培養水晶体)、糖尿病治療(ラット水晶体)、抗アレルギー(ラット細胞)、抗癌作用(ヒト胃癌、頸部癌、肺癌、膀胱癌)、酸化ストレスからの保護作用(ヒト腸細胞)、アセトアミノフェンの硫酸抱合体とグルクロン酸抱合体の産生を阻害(ラット培養肝細胞)など多岐にわたる。(文献参照)

上の文献にはでていないが、ルテオリンには、黄色ブドウ球菌、大腸菌、セレウス菌、シトロバクター、ラクトバチルスに対する、殺菌および抗菌作用があることが報告されている。(文献参照)

冷涼なヒンズークシ山麓では、病原性の糸状菌はあまり繁殖できないため、病原性細菌に対する防御のほうが重要なのであろう。

参考文献、引用文献
植物の環境ストレス応答
http://www.photosynthesis.jp/PlantResponse.html
ルテオリン:(旭川医科大学)
http://food-db.asahikawa-med.ac.jp/dictionary.php?content=component_dictionary&id=134
The assessment of biological activities associated with the major constituents of the methanol extract of ‘wild carrot’ (Daucus carota L) seeds.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16093236

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 4,405

Kindle Unlimitedのサービスなら、30日間は無料で無制限で読めます。
https://www.amazon.co.jp/gp/kindle/ku/sign-up?ref=snpl_3_1_347975289&qid=1474415220&pf_rd_p=347975289&pf_rd_m=A1VC38T7YXB528&pf_rd_t=301&pf_rd_s=desktop-signpost&pf_rd_r=17EPT2H81ZKRNF720CRX&pf_rd_i=Kindle+Unlimited

「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その6

平成27年度リンアトラス研究所研究報告書(文献参照)には、「農林水産省の『畜産環境をめぐる情勢』(平成27年)によれば、『家畜排せつ物法』が施行された2004年の段階で、家畜排せつ物の約90%は堆肥または液肥として利用されている。もしこれが事実であれば、わが国における家畜排せつ物の大半はすでに有効利用されているものと考えられる」とある。

たしかに、家畜排せつ物法の施行とその実施は、近年の農水省の仕事では、すこぶる成果がでた仕事のひとつであろう。昔は私の家でも馬、牛、豚、ヤギ、鶏を飼っていたし、近所の和牛の肥育農家のところで、糞出しの手伝いをよくやっていた。はじめのころは、牛糞を猫でそのまま川に捨てていた。さすがにそれでは川どころか、河口の近くの海水浴場まで糞だらけになり、何年かして禁止になった。山村なので田んぼは棚田で機械が入らないため、農地に還元するのも難しい。それで畜産農家は、牛舎横の田んぼにしばらく野積みしてから、焼却炉で焼いたりして、相当に苦労していた。

日本の畜産経営では、北海道など一部の地域や経営体をのぞいて、放牧地や牧草地をほとんどもたない(世界中そうだが)。飼育頭数が少ないうちは問題ないが、数が多くなると、家畜糞尿の処理に大きなコストがかかる。じっさいには、家畜糞尿の循環利用には、まだまだ課題が残されていると思う。

%e7%b3%9e%e5%b0%bf%e5%87%a6%e7%90%86

表は、2009年の「家畜排せつ物処理状況調査結果」の報告書だ(文献参照)。数字を一見して気がつくのは、ブロイラーの鶏糞は30%も焼却されていることだ。鶏糞を焼いたあとの灰には、20~25%ものリン酸が含まれているが、鶏糞を高温で焼くとリンが難溶化して、肥料として使えないという問題があった。最近は焼成温度を低くしたり酸で処理するなど、肥料化の技術が開発されているので、循環できるリンの量は増えると思われる。それにしても、窒素は大気中に放出されてしまうので、もったいない話ではあるが、生の鶏糞を遠方まで運べば、コストとエネルギーが高くつくのでしょうがない面はある。

また、表からは、乳牛と豚の尿処理の難しさがうかがえる(肉用牛は95%が糞尿混合処理)。豚の尿の大半は、浄化処理して環境に放出されているが、浄化処理はコストが高い。

乳牛の尿の多くは、貯留されたあとに田畑に還元されるが、あまり脱臭されていないと悪臭の原因になる。理屈では、牛の尿も豚の尿も、よい液肥になるはずだが、悪臭や衛生面のために、なかなか利用がすすまない。牧草地や畑地がない地域では、水田に施用するのが一番合理的なのだが…。

以前から、乳牛の尿処理で実績があるのは千葉県だ(文献参照)。千葉県では、内水護博士が提唱したBMW方式がかなり普及していて、尿の循環利用がうまくいっている県のひとつだろう。

内水博士は、もともとは火山学の研究者らしい。昔、内水博士の著書(『土と水の自然学』、『土の心土の文化』)を読もうとしたが、どうしても入手できす、国会図書館に行って全部コピーをとったことがある(さっき部屋中探したが見つからない)。内水博士の土壌生成論は、土壌学者からは無視(証拠がないので評価できない)されており、農業関係でもほとんど知られていない。しかし、たとえ内水博士の理論が、科学的に証明できるものでないとしても、実際の畜産経営の場面では、実績をあげているという事実については誰も否定できない。

BMWの理論では、「土壌微生物は…好気条件では有機物を低分子化し、嫌気条件では有機物を腐植化する。…成分はベンゼン環などの芳香族環を骨格とするフェノール化合物で、一般に腐植質(humus)という。そこで土壌微生物が腐植質を生成するように順養されれば…廃水中の有機物を好気条件でも長期間、腐植質を産出する。すなわち有機物に腐植質を添加すると、急速に結合、粒子化、凝集、縮合、重合…する。さらに、…石英(SiO2)を多量に含む花崗岩を添加すれば、腐植化のための有機物の重縮合反応が促進され…」ということらしい(引用:農地還元を目的とした豚尿汚染の液肥化)。

これは、腐植生成という現象についての、ひとつの解釈だが、腐植物質(腐植酸、フルボ酸、ヒューミン)は、リグニンに由来すると多くの土壌学者は考えている。なので、嫌気条件で腐植物質ができるのは、白色腐朽菌が活動できず、リグニンが残るからだ。地球上で、リグニンを分解できる生物は、白色腐朽菌だけとされている。セルロールも分解は難しいが、牛のルーメン細菌のように、嫌気条件でセルロースを分解できる生物はたくさんいる。

牛や豚の排泄物には、消化されなかったタンパク質、セルロース、リグニンがたくさん含まれているが、タンパク質やセルロースは、微生物によって、最終的にはCO2N2H2O、金属イオンなどに分解されてしまう。いつまでたっても分解されないのはリグニンで、廃水中には、豚や牛に噛み砕かれたり、微生物がセルロースだけ分解して、粉々に砕けた微小リグニンが浮遊している。

リグニンを小さく砕くと、リグニンを構成する、芳香族のコニフェリルアルコール、シナピルアルコール、p-クマリルアルコールらがむき出しになるはずだ。これらの芳香族化合物のOH基のHが外れると、マイナスに帯電する。

岩石を構成するケイ酸塩鉱物(SiO4)も、マイナスに帯電しているので、ケイ酸塩鉱物と芳香族化合物はそのままでは縮合しないはずだ。これらが縮合するには陽イオン(金属イオン)の存在が不可欠である。先述の論文ではホタテの貝殻を入れてカルシウムイオンCa2を供給すると、効果が増すとしている。すなわち、Ca2を介在して、ケイ酸塩鉱物とリグニン由来の芳香族化合物が縮合すると考えるとうまく説明がつく。(話がかなりリンから脱線した)

追記
「堆肥と土壌の作り方―身近な有機物を利用する」を発行しました。Kindle Unlimitedのサービスなら、30日間は無料で無制限で読めます。
Kindle Unlimited
https://www.amazon.co.jp/gp/kindle/ku/sign-up?ref=snpl_3_1_347975289&qid=1474415220&pf_rd_p=347975289&pf_rd_m=A1VC38T7YXB528&pf_rd_t=301&pf_rd_s=desktop-signpost&pf_rd_r=17EPT2H81ZKRNF720CRX&pf_rd_i=Kindle+Unlimited

文献参照、引用文献
早稲田大学リンアトラス研究所
http://www.waseda.jp/prj-p-atlas/
家畜排せつ物処理状況調査結果
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/pdf/syori-joukyou.pdf
家畜ふん尿の処理対策(尿をどう利用していくか)
https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/network/h18-fukyuu/kachiku.html
農地還元を目的とした豚尿汚染の液肥化
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitaikogaku/16/2/16_2_113/_pdf

堆肥と土壌の作り方: 身近な有機物を利用する
電子園芸BOOK社 (2016-09-19)
売り上げランキング: 6,445

「リンはいくらでもある、しかし循環しなければならない」その5

前回のバーチャルのリンフローでは、じっさいにどれくらいのリンが動いているのかよくわからないので、もう少し調べてみる。最新データはリンアトラス研究所の2015年概要報告(文献参照)のようだが、これには全部の流れが書かれていない。しょうがないので自分で作ってみることにした。

%ef%be%98%ef%be%9d2

リン鉱石の輸入量(23万トン)、排出(理論値)の一部、鉄鉱石中のリン(12万トン)については、報告書から引用しているので、そちらを読んでほしい。輸入されている食料、飼料中のリンの値は、「国際貿易に伴う世界および日本のリンフロー」の値を、リンの含有量で計算しなおした(17万トン)。水産物の値は、平成27年度水産白書の水産物消費量の値(796万トン)に、リン含有量1%として計算した(8万トン)。

排出のほうで、報告書以外に思い浮かぶ項目としては、人間、ペットなどがある。人間は死ぬとすべて埋められるので、計算できる(0.1万トン)。日本にはペットとして飼われている犬が1億匹、猫が1億匹くらいいて、その寿命は14~15年という(2013年統計)。犬の体重を10キロ、猫を4キロ、リン含有率1%で計算すると、年間に発生する遺体には0.1万トンくらいのリンが含まれることになる。しかし、遺体のリンの行き先や、ペットのエサや糞尿の流れはよくわからない。

あと、リンフローとしてかなり大きいのは、屠畜の際にでる骨・内臓・皮・血液などである(3万トン)。ブタの年間屠畜数は1,694万頭、ウシは118万頭(2014年)、ニワトリは6.5億羽(2013年)となっている。昔は、これらは飼料や肥料として利用されていたが、BSE問題以降、焼却・埋立てられるようになった。近年は騒ぎが収まってきたので、一部は肥料や飼料(養殖魚など)として利用されているはずであるが、統計が公表されていないため不明である。

家畜糞尿と農産廃棄物の多くは、堆厩肥として農地や草地に還元されているが、還元循環分はこのフローではとりあえず無視する。合計すると、日本で年間に流れているリンは、60万トンほど(循環分は無視)ということになる。排出の中には、土壌蓄積・埋立・流亡・不明が約17.2万トンあるが、表では循環分を無視しているので、この値に循環分を加えなければならない(後述)。このうちもっとも大きいのは土壌蓄積分と思われる。あと多いと思われるのは、流亡分、工業の不明分であろう。(なお、私は研究者ではないので、上の表は参考資料です)

以下、再利用できそうな分野について、一瞥してみる。
鉄鉱石には、リンが多く含まれている。鉄とリンは、ともに重くて水に溶けにくい金属なので、生成の過程で混入しやすい。古代より、製鉄では、リンを取り除くことが大きな技術的な課題であった。鉄は、リンが混じると、錆びにくいがもろくなる(デリーの鉄柱が有名)。直接製鉄法では、鍛錬してリンなどの不純物を取り除いていた。間接製鉄法ではリンを取り除くのは難しく、効率よくリンを除去できるようになったのは、1879年のトーマス転炉まで待たなければならない。トーマス転炉によって、リン含有量が高い鉄鉱石の製鉄が可能になり、ヨーロッパでは鉄と同時に大量のリン酸肥料が製造されるようになった(トーマス燐肥)。日本では、トーマス転炉はほとんど普及せず、LD転炉(酸素上吹転炉)が中心であるため、リンは回収されていない。日本でも、スラグからリンを回収する技術が研究されてはいるが、いまだ実用化されていない。製鉄のスラグに含まれるリンは、年間に排出される家畜糞尿のリンよりも多く、早急に解決すべき課題である。

下水については、昔から下水汚泥を肥料に利用しようという試みはあるのだが、下水汚泥に含まれる重金属の除去が困難なため、利用されていない。なお、集落排水については、重金属が混入しにくいため、発生する汚泥の約50%は農地や緑地に還元されているようだ。以前から、私は、重金属の除去が困難ならば、いっそのこと下水汚泥を、プランクトンが大量に発生する比較的浅い海域に投入すればいいのではないかと思っていた。リンを栄養素にしてプランクトンが増え、それを食べる魚類が増えれば海洋資源の維持につながるのではないだろうか。生物は不要な金属元素を体外に排出するので、生物に浄化をまかせればよい。漁業で魚介類を捕獲すれば、上質のリン資源として何度でも回収できる。

ところが、近年、岐阜大学の研究者たちが、微生物燃料電池の開発の過程で、リン酸マグネシウムアンモニウムの結晶を廃水から析出できることを発見して、大きな話題になった(文献参照)。電気とリンを同時に回収できるので、実用化できる可能性が高く、有望である。有機物の汚水処理やリンの再利用は、日本だけでなく、世界中の国々の課題であるので、日本でうまく事業化できればビジネスとしても成功を収める可能性がある。資本と人員を集中して投入すべきである。(肝心の家畜糞尿については次回)

訂正
表のデータを一部訂正(生ごみ、屠畜)

参考文献
平成27年度リンアトラス研究所研究報告書
http://www.waseda.jp/prj-p-atlas/PDF/%EF%BC%A827%E6%88%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%E6%A6%82%E8%A6%81%E7%89%88.pdf
国際貿易に伴う世界および日本のリンフロー、2012
http://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9008/9008_tokushu_2.pdf
平成27年度水産白書第3節
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/H27/pdf/27suisan1-2-3.pdf
食品リサイクル法の施行状況
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokusan/recycle/h24_01/pdf/doc2_rev.pdf
微生物燃料電池による廃水からのリン回収に廃水中有機物濃度および外部抵抗が与える影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jswe/37/4/37_163/_article/-char/ja/

あらゆる有機物から肥料を作る方法
電子園芸BOOK社 (2016-07-29)
売り上げランキング: 26,815